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【原発避難者訴訟】これが〝加害当事者〟の態度。全国から駆け付けた原告を徹底排除した経産省、「非公式に御意見聴く」だけの東電。救済されぬ被害者たち

全国で係争中の原発避難者訴訟のうち京都地裁や東京地裁などで判決が言い渡され国や東電の過失責任が認められた事を受け、全国の原告たちが27日、経済産業省や東電と団体交渉を行った。しかし経産省が用意したのは、1人たりとも中に入れまいと張られた規制線。交渉に応じた東電も「非公式に御意見を聴く」と繰り返すばかりで、原告らは怒りの声をあげた。京都、東京両判決とも避難指示区域外の避難の合理性を限定的にしか認めておらず、原告らは控訴する方針。原発事故から7年超。本来なら起こさなくても良いはずの訴訟でも救済されない被害者たちの叫びが響いた。


【法務省の横やり「原告と会うな」】
 集まった原告たちを待ち構えていたのは、3人の警備員と金属製の鎖に加えて、この日のためだけに設置されたカラーコーンだった。
 東京・霞が関の経済産業省。桜田通りに面した入口を完全に封鎖し、同省職員でさえ出入り出来ないようにしていた。原発事故被害者がそんなに怖いのか。受付にさえ案内しようとせずに入館を拒む。まさに〝排除〟だった。
 経産省との交渉窓口となって来た阿部哲二弁護士(原発被害者訴訟原告団全国連絡会)は「京都地裁、東京地裁、福島地裁いわき支部で連続して判決が出るということで、話し合いの場を設けさせて欲しいと経産省に申し入れていた。庁舎内で、40人規模で、1時間程度という方向で担当者とやり取りをしてきた。ところが一週間前、急に経産省から連絡があって『協議の場を設ける事は出来ない』と断って来た。せめて1月にまとめた統一要求書の趣旨説明だけでもさせて欲しいと何度も頼んだが、最終的には統一要求書の受け取りも拒否した。『人数は代表1人、受け取るだけで回答は無し、メディアは一切入れない』という条件まで提示し、『それなら郵送してもらっても同じ事』とまで言って来た。昨日まで交渉を続けてきたが、外に出る事も出来ないということだった」と説明。そして、法務省からの〝横やり〟があったと明かした。
 「『原告と被告として裁判をしている当事者が裁判外で直接、膝を交えて話し合いをするという事は好ましくない』という法務省の意見を踏まえて今回のような対応になったと経産省は説明している」
 福島原発被害首都圏弁護団の共同代表を務める中川素充弁護士がその場で担当者に電話を入れるが、10分以上話しても経産省側の態度は変わらない。結局、「福島原発被害東京訴訟」原告団長の鴨下祐也さんが、「きちんと手順を踏んで経産省と交渉してきたが、私たちが来たら門戸を閉ざすという想像を超える状況になった。さすがにここまでするとは考えていなかった。正面入り口から入れないなんて呆れるほか無い」と述べた上で、新たに作成した世耕弘成経産大臣宛ての申入書を読み上げた。「加害者としての責任と自覚に欠けた言語道断な対応であり、強く抗議します」
 鴨下さんら東京訴訟の原告が16日に言い渡された判決文には、このように明記されている。
 「経済産業大臣の本件各規制権限不行使には違法性があると認められ、それによって本件事故が引き起こされたといえる」






事前に申し入れていたにもかかわらず、集まった原告たちを〝完全シャットアウト〟した経済産業省。「福島原発被害東京訴訟」原告団長の鴨下祐也さんはやむなく、規制線の前で申入書を読み上げた=東京都千代田区霞が関

【「相当因果関係」繰り返す東電】
 一方の東電。本社近くの会議室。前方にずらりと並んだ5人の社員と対峙するように座っている原告や弁護士たち。最後列に座ってやり取りを見守っていた30代の母親(避難指示区域外から避難中)が、もう我慢ならぬといった表情で手を挙げた。
 「先ほどから『(原発事故と)相当な因果関係が…』って何度も何度もおっしゃっていますけれども、『相当な因果関係』があるか無いかは、そちら(東電)が決める事なのでしょうか。私は、原発事故が無ければ避難をしていません。原発事故と『相当な因果関係』があると私は思っています。全国に避難している人たちはそういう気持ちを持っています。私も小さい子どもがいるので、とにかく子どもを守りたい。とにかく子どもの健康だけを一番に考えたい。それだけを想って避難をしています。それは『相当な因果関係がある』と肝に銘じていただきたいです」
 門前払いの経産省と違い、東電は確かに当事者から話を聴く場を用意した。しかし、社員の真ん中に座り、中心的にマイクを握った石田守也氏(原子力・立地本部立地地域部原子力センター所長)は「弊社の事故と相当因果関係が認められる損害については賠償の対象と認識している。引き続き、被害を受けられた方々の個別の事情をごていねいに伺って、中間指針を超えるものも出来るだけきめ細やかな賠償に努めていきたい」と語るばかり。原告からは「やってないじゃないか」との声があがった。石田所長は「当社の事故との相当因果関係が認められるものについては…」と何度も口にした。なぜ加害当事者が区域外避難と原発事故との因果関係を判断するのか。先の母親の怒りはもっともだった。
 しかも、この場は「今日は実際に被害に遭われた方々から忌憚の無い御意見をお聞きする場」であって、「我々のやり取りとしては公式と言う事では無くて、あくまでも非公式の場」だという。出席した弁護士から、訴訟と並行して裁判外紛争解決(ADR)の申し立てをしている原告に対して、東電が訴訟の判決が言い渡されるまで和解案の受け入れを留保している問題(日弁連会長声明)も指摘された。ある原告は、東電社員から「ADRで早く解決したかったら、訴訟を取り下げて来なさい」と言われたという。だが、石田所長は「ADRの細かいところは直接、担当していないので分からない」、「係争中の内容に関しては裁判の中で申し上げるべき」、「御意見として承る」と答えるにとどまった。
 京都訴訟の女性原告は「原発事故前の状態に戻して欲しい。皆さんが勤めている会社がこういう事故を起こしたという事をまず自覚して欲しい。健康問題も含めて、事故によるどのような被害があるのかしっかり把握して、誠実に対応して欲しい」と求めた。しかし、言葉遣いこそていねいだが、とても「誠実」とは言えない対応。
 なお、当初は取材陣は冒頭のみの撮影だったが、出席者から「被害者の声をぜひ報道の方にも聴いていただきたい。聴かれて困るような事は何も無い」、「この場に参加出来なかった原告のためにも全面公開して欲しい」との声があがり、終了まで記者も同席した。






(上)全国で係争中の原発訴訟の原告や代理人弁護士が参加した東電との団体交渉。かみ合わないまま終了した
(中)「当社の事故との相当因果関係」ばかりを繰り返す東電幹部。業を煮やした女性原告がマイクを握った。「私は、原発事故が無ければ避難をしていません。原発事故と『相当な因果関係』があると私は思っています」
(下)東電の石田守也原子力センター所長は「今日は実際に被害に遭われた方々から忌憚の無い御意見をお聞きする非公式の場」と繰り返し、原告の怒りを買った=東京都千代田区内幸町の新幸橋ビルディング

【「京都」「東京」ともに控訴へ】
 東電社員を前に、「加害者サイドで決めた賠償基準はとても不十分だから裁判を起こすしかなかった。本来であれば、裁判なんか起こさなくても賠償をするべきだ」を怒りをぶつけた鴨下さん。団体交渉に先立ち、衆議院会館で開かれた集会でも、駆け付けた立憲民主党の生方幸夫代議士(千葉県松戸市)が「裁判などしないで、黙っていても国と東電が補償をするのは当たり前だ」と語った。
 しかし、現実は厳しい。京都地裁で今月15日に言い渡された判決は、「空間線量が年間20mSvを超える地域からの避難および避難継続のみ相当であるとも言い難い」、「そもそも、避難の相当性の判断は科学的判断そのものではないし(中略)社会通念に従って、低線量被曝の場合であっても、避難者が放射線に対する恐怖や不安を抱き、放射線の影響を避けるために避難し、その避難が当事者のみならず一般人からみてもやむを得ないものであって社会通念上相当と言える場合は、本件事故と当該避難との間には、相当因果関係が認められると解される」としながらも、「避難の相当性を認めるべきであるのは、中間指針追補の定める自主的避難等対象区域に居住しており、かつ2012年4月1日までに避難したこと」などと「避難指示区域外避難の合理性」を狭い範囲でしか認めなかった。
 この傾向は翌16日の東京地裁判決でも同様で、「100mSv未満の線量でも、線量が増加するとそれに直接比例して放射線に起因するガンまたは遺伝性影響の発生確率は増加すると考えるLNTモデルは科学的に有力な見解」、「危険を回避するため避難をするかの選択を迫られることとなったところ、そのような地位に立たされることになること自体が、本件区域外原告らの居住地決定権に対する制約であると解される」とまで踏み込んだものの、やはり「原則として2011年12月まで避難を継続することは合理的であると認められ、それを超えては合理的であるとまでは認められない」、「2011年12月16日の被告東電によるステップ2完了の確認時点で客観的に本件原発は冷温停止状態にあり、居住者の健康に対して客観的または具体的な危険を生じさせるほどの放射性物質を拡散させるおそれは低くなった」などとして、限定的にしか認めなかった。
 東電幹部に直接、怒りをぶつけた母親は、取材に対しこう答えている。
 「(避難の合理性は)もっと全面的に司法の場で認めてもらうべきものだと思っています。母子避難して、ようやく夫とも合流出来ました。でも、家族一緒でなければ避難を続けられないから合流したのであって、今でも避難生活は終わっていないのです。他の地裁判決よりは避難している私たちに寄り添ってくれているとは思いますが、判決に納得はしていません」
 京都や東京の原告たちは控訴する方向という。



(了)
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鈴木博喜

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