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【85カ月目の飯舘村はいま】「父も喜んでいると思う」。福島地裁判決受け東電幹部3人が謝罪。102歳、村最長老の自死から7年。ようやくたむけられた線香

福島県相馬郡飯舘村の最長老・大久保文雄さん(当時102歳)が2011年4月、政府による全村避難方針が示された夜に自ら命を絶ったのは原発事故が原因だとして遺族ら3人に損害賠償の支払いを命じた福島地裁判決(2月21号参照)を受け、被告・東京電力の幹部3人が5日午後、飯舘村宮内の大久保さん宅を訪れ謝罪した。自死から7年、2年半の訴訟を経てようやくの謝罪。遺族は「誠意は伝わった」と謝罪を受け入れたが、謙虚な態度の裏側には「因果関係」という本音も。訴訟で争わなければ線香1本たむけられない姿勢こそ、東電は改めるべきだ。


【「心苦しい」「反省している」】
 謝罪をしたのは、東京電力ホールディングス株式会社執行役員で、福島復興本社副代表兼福島本部副本部長の近藤通隆氏、福島原子力補償相談室長兼ADR・訴訟ユニット長の内田正明氏ら3人。
 花を持参した3人は、出迎えた遺族の大久保美江子さん(65)に頭を下げ、1人ずつ仏壇に線香をたむけて手を合わせた。
 近藤氏は「まずもって、私どもの事故におきまして、100歳を超えてお元気にされていたお父様に非常につらい決断をさせてしまいまして、本当に心苦しく、大変反省しております。7年経って大変遅かったとは思いますけれど、この場を借りて深くお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした」、「ご家族の皆さんにもつらい想いをさせましたし、いまだにいろいろなご不便・ご迷惑をおかけしております事を重ねてお詫び申し上げます」と二度、頭を下げて謝罪。
 最後に「裁判におきましても、2年にわたる長い間いろいろなご負担をおかけしました。今回判決をいただきまして、このような解決に至りました事を…大変遅くなりましたけれども、本当に私どももホッとしているところでございます。東京電力としまして今、廃炉作業にはしばらく時間がかかると思いますけれども、皆様がこちらにお戻りになられて安心して生活して行かれるように出来るだけの事をさせていただきたいと思っています。おそらくお父様もそれを一番望まれていると思います。私どももしばらく福島で活動させていただきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します」と述べて改めて頭を下げた。
 焼香後、100歳のお祝いに村役場から贈られたハナミズキの木の前で、近藤氏は美江子さんに「文雄さんが亡くなった4月12日は私の誕生日でもあり、すごく印象に残っていました。本当にいろいろと申し訳ございませんでした」と再び頭を下げた。美江子さんは「父はハナミズキの花が咲くのをとても楽しみにしていた。今日、来ていただいて線香をあげていただいたので、父もきっと喜んでいると思います」と謝罪を受け入れた。滞在時間は10分ほどだった。








①線香をたむけ手を合わせる東電幹部。大久保文雄さんの自死から7年。ようやく加害当事者が非を認め、頭を下げる日が来た
②「父もきっと喜んでいると思う」と東電幹部の謝罪を受け入れた遺族の大久保美代子さん(左)
③自宅前の庭に植えられているハナミズキ。100歳のお祝いに植えられた木の前で、東電の近藤氏は美江子さんに「文雄さんが亡くなった4月12日は私の誕生日でもあり、すごく印象に残っていました。本当にいろいろと申し訳ございませんでした」と改めて頭を下げた
④謝罪後、囲み取材に応じた近藤氏(左、3人並ぶ男性の真ん中)らは「申し訳ない」と繰り返し、「皆様と笑顔でお話が出来るようになるまで何とか頑張って行きたい」と語った

【「父の無念さ晴らす裁判だった」】
 美江子さんにとっては、まさにこの謝罪のための闘いだった。
 裁判では「自死は原発事故が原因」として損害賠償を求めたが、当然ながらお金の問題では無かった。「亡くなってから7年。裁判で争ったのも2年半。長かったです。途中、和解に応じようかと考えた事もありました。でも、和解では東電の方が来て線香をあげて謝罪するという事は一切無くなってしまう。裁判の目的は、線香の1本でもたむけて欲しいというものでしたから、どうしても和解には応じられませんでした。もちろん、どういう判決になるか分かりませんでしたし、怖かったですが…」。
 匿名では闘えない、と提訴から一貫して顔も名前も隠さずに取材にも応じて来た。おかげで村の内外から心無い言葉を直接間接に浴びた。「私は(文雄さんの)息子の嫁。それはそれは大変でした。でも、私は非難を承知で闘わなければならなかったんです。102歳の父が、薬を入れていたビニール袋を自分でひも状に縒(よ)って、それで首を吊るというむごさ、残酷さをどうしても伝えなければならなかったんです。どうしても許せなかったんです。無念さを晴らしたかったんです。黙って過ごせば楽だったんですが、それは出来なかった。父の無念さを心の片隅に抱いたまま生きて行く事は出来なかったんです」。
 謝罪は当然、加害当事者である東電のパフォーマンスであるとの想いもある。近藤氏は謝罪後の囲み取材でも「申し訳ない」という言葉を何度も口にしたが、一方でなぜ、被害者が2年半も訴訟で争わなければ謝罪ひとつ出来ないのか。その点を問うと、「今回のケースのように原発事故との因果関係が不明なものもある。裁判手続きというのはお互いの主張のぶつけ合いなので言葉がきつくなったりする場面もあるが、そこはご容赦いただきたい。裁判によって事実関係が明らかになり、言い渡された判決に私どもも納得して控訴しないという事なので、そこを御理解いただければと思う」と近藤氏は答えた。「皆様と笑顔でお話が出来るようになるまで何とか頑張って行きたい」。
 それでも、ハナミズキの前で近藤氏が口にした言葉は美江子さんの胸を打ったという。「東京電力という企業そのものには誠意があるとは思えませんが、今日、来てくれた方々からは誠意は伝わってきました。近藤さんが口にしていた『自分の誕生日が来るたびに常に心を痛めていた』という言葉は嘘では無いと思いました。近藤さん個人としては本音で話してくれたんじゃないかな」と振り返った美江子さん。「父は心の広い穏やかな人だったので、1人でもそうやって本心から手を合わせて線香をたむけてくださったのであれば『そんで良いよ』って言っているんじゃないかな。これでようやくひと区切り。これからは前向きに、毎日毎日精一杯、悔いの無いように生きて行こうと思います」。








①大久保さんの自宅は現在改修中。来年にも避難先の南相馬市から飯舘村に戻るという
②自宅の廊下には、30年前に漫画家・富永一朗さんから贈られた漫画が飾られている。「それはそれは大喜びでした」と美江子さん
③自宅からの景色も原発事故で一変した。田畑には除染で生じた汚染物が山のように積み上げられている
④弁護士とともに福島地裁に入る美江子さん。言い渡された判決は、原発事故と自死の因果関係を認めた=2月20日

【「喪失感、財産を失う以上の大きさ」】
 2月20日に言い渡された判決で、福島地裁第一民事部(金澤秀樹裁判長)は、大久保文雄さんの自死について「原発事故との因果関係は無い」との被告・東電の主張を退け、「相当因果関係があると認めるのが相当である」と認定した。
 その理由として①飯舘村が計画的避難区域に指定されることにより村での生活をし得なくなり、不自由な避難生活を余儀なくされた事、本件事故の影響により家族以外の人と話す機会が激減した事などが予期なく短期間に次々と発生した事により、耐え難い精神的負担を受けた②被告・東電は、原子力発電所が一度事故を起こせば放射線の作用による悪影響を避けるため予期しない相当長期間の避難を余儀なくされる者の中には、様々な強いストレスを受け、その結果として自死という決断をする者が出ることがあり得ることも、予見可能であった─を挙げている。
 大久保文雄さんは、福島第一原発の爆発事故を受けて国の全村避難方針が報じられた直後の2011年4月12日午前零時頃、自室で自死した。外出用の服装をしていたという。前日昼のNHKニュースで村全体が計画的避難区域に指定される事を知り、家族に「なんだ、避難しなきゃなんないのか」、「おら行きたくねえなあ」、「やっぱりここに居たいべ」、「ちいと俺は長生きしすぎたな」などと語った。その後、居間で数時間にわたり顔を伏せ、頭を抱えるような格好でじっとしていたという。
 原発事故前までは、週2回は「いいたてホーム」のデイサービスに通い、自宅を訪ねて来た友人と縁側でお茶を飲みながら談笑するなどしていたが、原発事故後にデイサービスは中止。自宅を訪れる人もいなくなった。判決では、地域の祭りには必ず参加して太鼓を叩いていた文雄さんにとって、飯舘村での生活は「100年あまりにわたって積み重ねてきた人生そのものを形成するもの」、「単に生活の本拠であるということにとどまらず、家族との共同生活や地域の住民との交流の場であった」として、「本件自宅やそれを取り巻く環境はかけがえのないものであり、それを自己の意思に反して失うことの喪失感は、多額の財産を失うこと以上に大きいものであった」、「(102歳と高齢だったため)飯舘村へ帰還できずに避難生活を続けたまま最期を迎えてしまう可能性が高かった」などとして、原発事故による強制避難に対する極めて強いストレスがあったとも認定した。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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