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【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】「原発事故さえ無ければ不安も心配も要らなかった」。5人の原告へ本人尋問。東電側弁護士は被曝リスクを全否定

「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人(福島県福島市や郡山市、田村市などに在住)が原発事故で精神的損害を被ったとして、東電を相手に起こした損害賠償請求訴訟の第10回口頭弁論が20日、福島地方裁判所206号法廷(遠藤東路裁判長)で終日、行われた。前回期日に引き続き、5人の女性原告に対する本人尋問。静まり返った法廷、重苦しい空気の中、原告は原発事故さえ無ければ受けることの無かった精神的苦痛をそれぞれの言葉で口にしたが、被告・東電側の代理人弁護士は今回も全否定した。次回期日は6月22日10時45分開廷。


【「何も心配せずに暮らしてみたい」】
 あの頃、福島県の中通りで暮らしていた人ならば、誰もが多かれ少なかれ抱いていたであろう放射性物質に対する恐怖や不安。福島市在住の女性原告は「マンションの一室に子どもと閉じこもり、窓を閉め、換気扇をふさいで、息を止めて、じっと『これからどうなるんだろう』ととても怖くて怖くて…」と語った。裁判で闘うということは、当時の恐怖や不安と再度、向き合わなければならないつらい作業が待っている。「将来に絶望していた事を思い出して陳述書を書き続けるのは難しかったです。何度もやめようと思いました。でも、あの時の恐怖心とか絶望を東電の人たちにも知って欲しいと思って一生懸命(陳述書を)書きました」。
 原発事故直後から、国も行政も被曝リスクや避難の必要性を否定する情報周知に躍起になっていた。「安全です」、「心配ありません」の大合唱の中で不安を抱き、わが子を守ろうと必死になっていた原告たちを、まるで奇異な存在であるかのように被告・東電の代理人弁護士たちは責めたてる。「原発事故前と同じ環境とは到底思えません。少しでも安全な場所で、安全な環境の中でわが子を育てたいと思うのは(母親の)本能だと思います。避難指示や屋内退避指示の有無とか、そういうものと私の心配とは関係ありません。そもそも、原発事故さえ無ければ食品検査も県民健康調査も必要無かったんです」。
 当時から今も続く「選択」の日々。「この道路は歩いて大丈夫だろうか。この木の下に立っていても良いのだろうか。ここは落ち葉が積もっているから避けて通る方が良いんじゃないか。きれいな花の周りは除染しているのだろうか。このホウレンソウはわが子に食べさせて大丈夫なのだろうか。学校の屋外プールでの授業を受けさせても良いのだろうか。毎日毎日、頭から離れません。私の判断の誤りで、取り返しのつかない事になったらどうしよう。いつも不安におびえています」。
 少しでも安全な所へ、と沖縄に保養に出掛けた事もあった。公的制度も確立されず県外避難は叶わない。今も福島市で子育てする事で本当にわが子に健康影響が出ないのか葛藤は続いている。そんな日々は当然、疲れる。「原発事故の無い、遠い遠い所へ逃げ出して、何も心配せずに暮らしてみたいと、いつも感じています」。
 被告・東電の代理人弁護士は、あたかも女性原告に正しい知識が不足していて、抱いている不安や心配は科学的根拠に基づかないものだと質す。水道水や福島産の食材をわが子に与えない事も、甲状腺検査での「A2判定」が将来、悪性化しないかと心配する事も、全て否定してみせる。しかし、「専門家による科学的な情報に接する事で不安が緩和されるという事はありませんか」と問われた原告の女性は明確に答えた。「ありません」。


閉廷後、安堵の表情で本人尋問の感想を述べる原告の1人。「本人尋問を控え、緊張や不安で仕事も手につかなかった」と振り返る原告も。東電を相手に裁判で争うという事は、原告に重い負担を負わせているのだ

【「故郷も孫との日常も畑も奪われた」】
 双葉郡浪江町津島に生まれ育ち、その後長く福島市で生活している70代女性は、原発事故によって故郷を奪われ、穏やかな日常も汚された。故郷にも福島市にも降り注いだ放射性物質。福島市に住み続けて大丈夫なのだろうかと思い悩んだ。「後の世代の人たちには、このような苦しい想いはさせたくない」と原告として名を連ねた。
 葛藤と苦悩の連続だった。原発事故直後、少しでも放射線から逃れようと東京に向かった長女と孫。その朝は「出征兵士を見送るようなな気持ち」だったという。「東京に生かせて大丈夫なのだろうか。避難生活はいつまで続くのだろうかと心配でした。でも今、避難させなければ娘や孫を守れません。そう思って送り出したけれど、胸に空洞が出来たような寂しさで、何も手につきませんでした」。孫は当時、小学5年生。「確かに避難指示は出されなかったけれど、孫をこの地に住まわせる事は出来ませんでした」。
 あれほど元気で活発だった愛犬が原発事故後に心臓疾患や白内障を患って死んだ。自身も、原発事故前は病気らしい病気などしたことも無かったのに白内障の手術を受け、甲状腺にはのう胞が見つかった。夫は肺腺ガンと診断された。それらと原発事故との因果関係を立証する事など出来ない。しかし、全く関係無いとも言い切れるのか。夫とともに畑を〝除染〟した際、大量の放射性微粒子を吸い込まなかったとなぜ言い切れるのか、疑問は残る。「(愛犬の)解剖をお願いして、どのくらい放射性物質を取り込んでいたか調べてもらえば良かったと悔やんでいます」。
 確かに、汚染や被曝リスクを理由に福島市内での家庭菜園は禁じられていない。しかし、原発事故直後、空間線量が1・5μSv/hもあった事、有機肥料で育ててきた土が除染で根こそぎ取り除かれてしまう事などを考え、あきらめることにした。それも、被告・東電の代理人弁護士に言わせれば「大げさ」な判断。それどころか「平常通りに暮らしている人もいるというのはご存じでしょうか」とまで言う。それに対し、原告の女性はこう反論した。
 「平常通りに暮らしているように見えても、心までは見えませんから。皆さんがどういうお気持ちで暮らしているかは分かりません」


野村吉太郎弁護士と今後の日程などについて確認する原告たち。まるで自分たちが悪いかのように責められる裁判が続く。次回期日では7人の原告本人尋問が予定されている=福島市市民会館

【畑の除染巡り家族間で対立】
 家族とともに福島市内で果樹園を営んでいる女性原告は、「原発事故被害を無かった事にはされたくない。子や孫に記録を残したい」と訴訟に臨んだ。桃やリンゴ、サクランボを育て、美味しい果物を消費者に届けてきた。そこに降り注いだ放射性物質。無我夢中で山形県南陽市に避難したが、農作業の遅れを心配した家族の強い希望で帰還。しかも生産・出荷しなければ東電が営農損害を補償しない方針を打ち出したため、本意では無いが自身も農作業を再開した。畑に出たくない。しかし、作らなければ被害が無かった事にされてしまう。葛藤を抱えながら、マスクをして畑に出た。暑さのあまり、脚立から落ちそうになった事もあった。「泣く泣く農作業をしました」。
 友人が近くの山から採って来てくれた山菜コシアブラは、原発事故から3年を経ても2000Bq/kgを上回った。大好きなコシアブラ。少量なら、と食べていたが、今は食べていない。つらい事の連続だった。原発事故前までは剪定した枝を畑で燃やし、薪やワラビの灰汁抜き用の灰として活用していたが、それも出来なくなった。
 畑の除染を巡っては、家族間で意見が対立。言い争う事もあったという。「原発事故が無ければ、家族みんなで『日本一の美味しい果物作り』に頑張っていました。土がいまだに2000Bq/kg以上あるので私は除染して欲しかったけれど、夫や子どもは反対してまとまりませんでした。畑の一角に仮置き場を設けなければならないし、有機肥料で育てた土を失い、除染作業で木の根を傷つけられても補償されないからです。今では畑の汚染や除染を口にする事も出来なくなりました」。さらに「保養」の必要性にも言及した。「福島で生きていかなければならない、福島で仕事をしなければならない不安とストレスを、放射能の無いきれいな土地で思い切り空気を吸って解消するためにも、保養は必要なのです。健康に影響無いと言われても、そこに放射能があるというだけでストレスなのです」。
 別の女性原告も「日々、放射線量を気にしながらの生活。この苦悩はいつまで続くのでしょうか」と訴えた。「福島市が安全ならば、なぜ除染をしたのでしょうか。そもそも正しい知識とは何なのか。原発事故後、私たちに正確な情報を提供してくれなかった。原発の安全性を信じていた私は裏切られました。東電に対しては強い怒りがあります」。
 「出来る事なら今からでも避難した方が良いかなと迷いはある」と述べた女性。そんな想いも被告・東電の代理人弁護士は「過剰な反応」と言わんばかりに一蹴した。
 次回期日でも7人の原告に対する本人尋問が予定されている。なお、前回期日まで担当していた金澤秀樹裁判長が東京高裁に異動。東京地裁から異動してきた遠藤裁判長が引き継いだ。



(了)
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鈴木博喜

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