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【子ども脱被ばく裁判】責任放棄した国・自治体への怒り語った母親。国の弁護士は「全て合理的だった」。山田國廣さんは「初期被曝線量把握しよう」と呼びかけ~第14回口頭弁論

福島県内の子どもたちが安全な地域で教育を受ける権利の確認を求め、原発の爆発事故後、国や福島県などの無策によって無用な被曝を強いられたことへの損害賠償を求める「子ども脱被ばく裁判」の第14回口頭弁論が25日午後、福島県福島市の福島地裁203号法廷(遠藤東路裁判長)で開かれた。前裁判長の異動に伴い、原告、被告・国双方がこれまでの主張や立証内容を陳述する「更新弁論」。女性原告は初動体制の誤りに撚り無用な被曝を強いられた事への怒りを意見陳述した。開廷前に開かれた学習会では、京都精華大学名誉教授の山田國廣さんが講演し、初期被曝線量把握の必要性を訴えた。次回期日は7月9日14時半。


【「被曝を避けさせてくれなかった」】
 「かなり長くなってしまったけれど、それでも原発事故直後に右往左往した経過は話し尽くせなかった」。意見陳述を行った50代の女性原告(福島県福島市在住)は、A4判3ページに綴った想いを法廷で裁判所に訴えた。
 逃げるべきか否か。あの時、女性は決めかねていた。原発や放射性物質の知識など無かった。危篤状態だった父や看病する母の存在も避難をためらわせた。避難を勧める知人もいたが交通網は寸断され、ガソリンも足りなかった。福島市など中通りには避難指示は出されなかった。テレビでは、枝野幸男官房長官(当時)が「直ちに健康に影響を与える数値では無い」と盛んに繰り返していた。実は、地震の起きた直後の2011年3月11日16時半から開かれた福島県災害対策本部の会議では、福島第一原発1~3号機で電源が喪失していると東電から報告されている。同日19時の会議では「危険な状況である」との認識が県幹部の間で共有されていた。それなのに…。「国自らがバスを総動員して子どもを避難させることもせず、子どもたちを福島に閉じ込めて被曝を強要したのです」。
 放射性物質の不安を抱えながら、3月12日から給水の列に並んだ。配られた水は1人3リットルだけ。それでは足りず、やむなくわが子も一緒に並ばせた。15日になってようやく2時間だけ営業したスーパーにも、わが子とともに行列に加わった。「危機を知らされていれば私は、迷わず何とかして子どもを福島から脱出させたでしょう。いいえ、本来ならば国があらゆる交通手段を駆使して避難させるべきだったのです」。
 県外避難を考え、複数の関西の自治体に電話で問い合わせたが、答えはいずれも「避難指示区域でない方には住宅を無償で貸す事は出来ません」だった。避難指示区域外からの避難者であっても公営住宅に入居出来るとの国の方針はしかし、現場の自治体職員には届いていなかった。安定ヨウ素剤は福島県立医科大学内では配られたが、一般県民に服用指示は出されなかった。学校からは空間線量の測定を断られた。「放射線防護の観点からすれば、全てが誤った対応だった」。
 ようやく予約できた高速バスで、3月18日から数日間だけ東京都内に滞在した。重苦しい空気に包まれた車内。東京に着くと誰ともなく拍手が起きた。必死の想いでたどり着いた東京で抱いた違和感。「政治を動かしている人たちは、恐怖にかられ究極の選択を迫られている福島を見ているのだろうか」。湧き上がってくるのは怒りばかりだった。
 「国民に判断材料となる情報を提供せず避難の判断を国民個人に丸投げしたことは、国民の生命・身体の安全を預かる責任を放棄したと言わざるを得ません」と強い口調で訴えた女性。「子どもの健康と命を第一に考えた適正な判断を望みます」と裁判所に訴えた。




(上)法廷で意見陳述をした原告の女性。「国民に判断材料となる情報を提供せず避難の判断を国民個人に丸投げしたことは、国民の生命・身体の安全を預かる責任を放棄したと言わざるを得ません」と強い口調で訴えた
(下)女性原告の意見陳述の一部。A4判3枚にわたるが、当時の想いはそれでも話し尽くせなかったという

【「国の判断は全て合理的だった」】
 更新弁論では、原告側が5人の代理人弁護士が、被告側は国の代理人弁護士1人がこれまでの主張を陳述した。
 際立ったのは、国の主張を陳述した女性弁護士。原告側弁護団長の井戸謙一弁護士は閉廷後「想定通りの内容だった」と振り返ったが、傍聴者がこの訴訟で国側の主張を直接、耳にするのは初めての機会だっただけに、国の原発事故後の対応を「全て合理的」とする主張に傍聴席は何度もざわついた。
 特に低線量被曝による健康影響に関して「国際的にコンセンサスを得られている科学的知見に基づいて判断されるべき事柄であり、そのような点からすると、放射線に被曝すれば線量の多寡にかかわらずすべからく健康に悪影響が生じるとの考え方は現在の国際的なコンセンサスにそぐわない考え方となります」というくだりでは、傍聴者から「えー」、「嘘だ」との大きな声があがった。
 3月16日に言い渡された「東京訴訟」の地裁判決では、「放射線の被曝線量と健康影響との間には、しきい値が無い」とする「LNTモデル」を採用。「科学的に証明された事実であるとまで認めることはできない」としながらも「科学的に有力な見解であり、100mSv以下の低線量被曝においてもLNTモデルに従った確立での低いがん死リスクの増大につながる可能性がある」、「国際的には、放射線防護の観点からLNTモデルに従った運用が多く採用されていると認められる」、「一般通常人としては、LNTモデルが科学的に真実であると考えることは合理的であると認められる」として避難の合理性を後押ししている。
 国の不作為に関する原告の訴えに対しても「『無用な被曝をさせられた』と言うばかりで、いかなる時点における、いかなる公務員が、いかなる法令に基づく、いかなる職務義務に違反したと主張しているのか判然としない点が多く、請求の原因を欠いてると言わざるを得ない。主張自体が失当だ」と反論。SPEEDIの情報などが隠匿されたと主張している点も「風向きや風速などで毎時の予測結果は異なり、原告の言う『避難すべき方向』は特定されない。次々に異なる方向への避難情報がもたらされる事で、かえって住民の避難に混乱が生じたであろう」と一蹴。子どもたちに安定ヨウ素剤を服用させなかった事については「安定ヨウ素剤の服用よりも実効性が見込める避難を優先し、可能な限り適切な措置を講じようとした原子力災害対策本部長などの判断は不合理なものでは無かった」と述べた。
 2011年4月19日付の文科省通知(いわゆる年20mSv通知)についても「暫定的な目安を示したにすぎず、法的拘束力を持たない非権力的関与であって、従うか否かは、あくまで福島県の判断に委ねられていた。内容も不合理と言えない」として、子どもたちへの「被曝の強要」を否定した。
 果たして、あの頃の国の対応は全て合理的で適切だったと多くの国民は認めているだろうか。




(上)開廷前の学習会で講演した山田國廣さん。「自分たちがどれだけ被曝したのかをきちん把握して、子どもたちの健康ケアをしていく必要があると思う」と初期被曝線量把握の必要性を訴えた
(下)弁護団長の井戸弁護士は、更新弁論で改めて「子どもたちはモルモットでも〝炭鉱のカナリア〟でも無く、一人一人がかけがえのない存在」と訴えた

【「子どもは〝炭鉱のカナリア〟じゃない」】
 原告側代理人の井戸弁護士は、更新弁論で「放射性微粒子による内部被曝の影響に関する研究は始まったばかり。今でも福島第一原発から放射性物質が放出され続けている。その中には、不溶性の放射性微粒子が含まれている可能性は十分にある。土壌に沈着している不溶性放射性微粒子が車などで巻き上げられ、大気中に再浮遊し、子どもたちが吸い込む危険がある。提出した河野益近氏、郷地秀夫氏の意見書をぜひ熟読して欲しい」と求めた。
 「不溶性放射性微粒子の接触被曝や内部被曝による健康リスクは正確には分かっていない。しかし、分からないから対策を講じる必要が無いとか、分かってから対策を講じれば良いという判断はしないでいただきたい。なぜなら、子どもたちはモルモットでも〝炭鉱のカナリア〟でも無く、一人一人がかけがえのない存在であるからです」
 柳原敏夫弁護士は「山下俊一発言問題」と「甲状腺検査の経過観察問題」について陳述。長崎大学の山下俊一氏が福島に出向いた理由は「福島県内の妊婦や子どもを避難させた方が良いのではないかという声を封じ込めるため」と指摘。福島県立医科大学の理事長から「福島医科大学がパニックだ。すぐに来て欲しい」と要請され、自衛隊のヘリで長崎から福島入りし、〝安全講演会〟を繰り広げていく様子が生々しく語られた(詳細は準備書面5を参照)。「100mSvまで安全。どうぞ胸を張って歩いて下さい」、「ニコニコ笑っている人には放射線の影響は来ません」などと講演会で語り、福島県民がすっかり安心して放射線被曝に対する警戒心を解いてしまったと批判。放射線の健康リスクを正しく伝えなかった違法性を訴えた。
 開廷前に福島市市民会館で行われた学習会では、「初期被曝の衝撃」の著者である京都精華大学名誉教授の山田國廣さんが講演。「個人行動記録を使って内部被曝も含めた初期被曝は算定出来るソフトを開発した」、「国や行政を批判するだけでは裁判には勝てない。真実の被曝線量を示す必要がある」と語った。
 山田さんは「甲状腺ガン患者がどれくらい被曝したのか、というような被曝データを基に健康影響とつなげている議論がほとんどない」と指摘。初期被曝はもちろん「現在も原発事故前よりも空間線量は高い」として「微量とはいえ、福島で暮らすという事は初期被曝に今後も足されていく。許容値の問題になっているが、少ないけれどもプラスされてDNAが損傷される。空間線量が低いから大丈夫、では無い。福島で暮らす以上、安全だと思いたい気持ちは分かる。でも、自分たちがどれだけ被曝したのかをきちん把握して、子どもたちの健康ケアをしていく必要があると思う。真実を知って、それでも安全だと言うのは仕方ない」と語った。「飯舘村みたいに村内で学校を再開して来るまで子どもたちを通わせるなんて馬鹿げている」。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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