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【自主避難者から住まいを奪うな】追い詰められる避難者を救え。動き出した〝駆け込み寺〟~電話相談など担う「避難の協同センター」設立

電話相談などで原発事故避難者を支援する「避難の協同センター」が12日、設立された。福島県は、2017年3月末での自主避難者向け住宅の無償提供打ち切りを決めており、追い詰められる避難者の〝駆け込み寺〟の役割を担う。退去促進策として既に始まっている戸別訪問を受けて、体調を崩して入院した避難者もいるという。生活困窮に陥る母子避難家庭も。世間から「公的支援を受けながら避難を続けるのはわがままだ」などと非難されることも少なくない自主避難者だが、福島県内には依然として被曝のリスクが存在するのも事実。住宅支援打ち切りまで8カ月。避難者を支える動きも活発化している。


【「健康に生きる権利を守る」】
 原発事故による避難者が健康に生きる権利を守る─。センターの設立趣意書には、こううたわれている。政府の線引きに関係なく放射線や被曝リスクから逃れるために避難した人々は、政府の避難指示が出ていない地域から避難したとして国や東電から「自主避難者」と呼ばれ、避難指示が出ている地域の住民と区別されている。強制避難者と異なり、月々10万円の精神的損害への賠償金も無い。「みなし仮設住宅」としての住宅の無償提供は「唯一の公的支援」(センター世話人・満田夏花さん)だったが、福島県は2017年3月末での無償提供打ち切りを決定。国も追認している。これまでに住宅支援の継続を求める交渉が何度も持たれたが、国も福島県も方針撤回を拒んでいる。
 しかも、住宅支援を受けられているのは、2011年12月28日までに手続きを済ませた避難者のみ。それ以降にようやく避難出来た人は、住宅支援すら受けられていないのが実情。原発事故で被曝のリスクを背負わされた人々が避難先で生活困窮に陥ることまで「自己責任」で片づけて良いのか。センターは、世間の誤解と偏見の中で不安や困難を抱える避難者の〝駆け込み寺〟の役割を果たすことになる。
 当事者、避難者支援団体だけでなく、弁護士や貧困問題に取り組んでいる団体も参加。当面は住宅問題が中心となるが、就労や子育て、健康の相談にも応じる。避難者専用ダイヤル(070-3185-0311)を設け、必要に応じて行政や関係団体への橋渡しをする。「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」(SAFLAN)の一員でもある弁護士の熊澤美帆さんは、「こんな事まで相談して良いのかな、なんて思わずに遠慮せず相談して欲しい」と呼びかけた。福島県郡山市から娘と神奈川県川崎市に〝自主避難〟中の松本徳子さんは、加山久夫明治学院大名誉教授と共に代表世話人を務める。「住宅は命綱。避難者同士助け合って、声をあげられない人ともつながりたい」と語った。


センターの「設立趣意書」を読み上げる松本徳子さん。自身も娘を連れて福島県郡山市から神奈川県川崎市に〝自主避難〟を続けている。左は熊澤弁護士=参議院会館

【まずは避難者の把握から】
 センター設立に奔走してきた一人、瀬戸大作さん(パルシステム生活協同組合連合会)は「避難者の交流相談会も企画していきたいが、どこに避難者がいるのか分からない。情報を届けるのが難しい」と語った。そもそも国も福島県も、正確な避難者の実態を把握していない。調べようともしない。受け入れ自治体によってはある程度、避難者を把握しているケースもあるが、個人情報保護を理由に情報提供を拒まれてしまう。
 「20棟もあるような公営住宅を足を使って巡り、ポスティングをする。アナログな手法で避難者の存在を把握するしかない。民間借り上げ住宅の場合は、もっと把握が難しい」と苦悩を明かす。汗を流してつながった避難者からは、母子家庭を中心に「仕事を失ってしまった」、「生活保護を受けたい」、「来週から食べるものが無い」という相談を受けることもある。そこに追い打ちをかけるような住宅支援打ち切り。例えば東京都は200世帯分の都営住宅への優先入居枠を設けたが、実際の避難世帯の3分の1ほどにすぎず、しかも抽選。一方で福島県による戸別訪問が5月から始まり「都営住宅からの退去を求められている」(瀬戸さん)。中には、ショックで体調を崩し、40日間も入院することになった避難者もいるという。
 実際に戸別訪問に立ち会った熊澤弁護士も「度肝を抜かれた。あまりの酷さに怒って帰りそうになった」と語るほどだ。異動してきたばかりで避難者の実態を理解しないまま戸別訪問をしている福島県職員が、避難者からの質問に的確に答えられるはずがない。「優先入居枠から漏れた避難者は救う必要がない」と避難者を前に言い切る関係者もいたという。新しい都営住宅への入居が決まった場合は住民票を移す必要があるが、福島県民でなくなると18歳以下の医療費無料措置を受けられなくなるなど、デメリットも生じる。その説明も無いという。福島県庁は「避難者に寄り添う」、「ていねいに戸別訪問する」、「追い出しではない」とうたっているが、実態はあまりにもかけ離れている。そもそも、戸別訪問は住宅支援打ち切りが前提だ。福島県は今後も戸別訪問を続けていく方針のため、センターを利用すれば「隣にいてサポート出来る」と熊澤弁護士は語る。


福島市から都内に避難中の岡田めぐみさんは、子どもを連れて設立集会に参加した。子育てや仕事の都合で声をあげられない母親の気持ちは良く分かっている

【「わがまま」ではない避難継続】
 「行政から寄せられる情報は、『帰還』や『もう大丈夫』というアピールばかり。その中で、原発事故当時の怒りが悶々としたまま、あきらめてしまっている避難者もいる」
 福島県福島市から避難し、都営住宅に暮らす岡田めぐみさんは語る。4児の母。世間に訴えたいことは山ほどあるが、子育てをしながらでは難しい。この日も2人の子どもを連れて参議院会館まで駆け付けた。生活のために働いていて、参加できなかった避難者も少なくない。「歩く風評被害」などと露骨に揶揄されることもある避難者が怒りや苦悩を吐き出す場としての役割も、センターに期待しているという。
 住宅支援の打ち切りは、2020年東京五輪を見据えた避難者減らしの一環。福島県内で相次ぐ避難指示解除とも連動する。福島県田村市から都内に避難している熊本美彌子さんは「本来、福島に帰る帰らないは避難者が自主的に考えて決める事だ」と訴えるが、住まいを奪うことで帰還を促進する狙いが福島県にはある。だからこそ、「実家に避難している人、避難先で中古住宅を購入した人も含めて、みんな均一に支援して欲しい」と求める鈴木直子さん(福島県いわき市から埼玉県川越市に避難中)も、センター設立には「命がつながったようで感謝している」と期待を寄せる。
 福島県大玉村から神奈川県相模原市に避難中の鹿目久美さんは、避難者の心情を「震災以降、非常時を生き続けている」と語った。避難を続けているのには理由がある。汚染が解消されていないからだ。被曝リスクが無くなっていないからだ。年20mSvを下回った事を理由に「もはや避難する状況にない」と言われて誰が納得出来ようか。この国では年1mSvが「常識」なのだから。
 避難をやめるも続けるも、個々人の自由だ。避難するだけの理由があり避難を継続したいという意思がある以上は、国も行政も支援を続ける必要がある。「わがまま」だと一蹴して良いはずがない。追い詰められる避難者の〝駆け込み寺〟が、動き出す。


(了)
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鈴木博喜

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