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【86カ月目の飯舘村はいま】実証実験で再確認された「野焼きでセシウム飛ぶ」。約1割が飛散、灰の中には8000Bq/kg超も。村役場「来年度も自粛へ」

原発事故による避難指示が昨年3月末に部分解除された福島県相馬郡飯舘村で、今年度も田畑での「野焼き自粛」が農家に伝えられた。農林水産省所管の国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)による村内雑草の燃焼実験で、約1割の放射性セシウムが飛散する事、燃え残った灰の一部に8000Bq/kgを超えるものが確認された事による判断。飯舘村では避難指示解除以降、240人が村内での作付けを再開している。村役場は「安全」への取り組みを強調するが、依然として放射能汚染が解消されていない現実が改めて浮き彫りになった格好だ。


【主灰への濃縮度は平均8倍】
 原発事故以降、農研機構から村役場に「専門員」として派遣されている万福裕造氏によると、実証実験に使った雑草のサンプルは2017年5月から6月にかけて、飯舘村内の帰還困難区域を除く行政区ごとに17地点で採取した。水田の畦畔(けいはん=あぜ)を2メートル四方に区切って1~3キログラムの雑草を刈り取り、乾燥させた後に同年8月から茨城県つくば市内にある農研機構「農業環境変動研究センター」内の研究機関で室内燃焼実験を、飯舘村内のクリアセンター(小宮字沼平のごみ焼却施設)では室外での燃焼実験を開始した。
 採取したサンプルの放射性セシウム濃度は、燃やす前の乾燥した状態で56~1181Bq/kgだったが、採取した地点の土壌は1125~1万7809Bq/kg(乾燥)。雑草と土壌の放射性セシウム濃度に相関関係は無かったという。つまり、土壌の放射性セシウム濃度が低かったとしても、その地点の雑草の放射性セシウム濃度も同じように低いとは言えないという事だった。雑草を採取した畦畔は、法面が崩落する危険もあることから根も含めた土壌の剥ぎ取りはしていない。
 その結果、室内で無風の状態で雑草を燃やした場合(数百グラムを複数回燃焼)、雑草中の放射性セシウムのうち約1割が大気中に飛散する事を確認。室外での燃焼実験を含めて、燃え残った灰への放射性セシウムの濃縮度は3~13倍(平均すると約8倍)になり、中には8000Bq/kgを超える灰も確認された。また、燃え残った灰(1万4860Bq/kg)を混ぜた土壌を使ってイネやコマツナ、ソバをポット栽培したところ、「放射性セシウムは全く移行しなかった」という。
 「実験では、あくまで室内で、無風の状態で燃やした場合に上昇気流に乗って飛散する『飛灰』中の放射性セシウムが確認出来ただけの話。屋外では通常、そよ風だと思っても風速は5メートルくらいはある。風速が強ければ、地面に燃え残る『主灰』も『飛灰』になってしまう。雑草を燃やした場合、焼却灰(飛灰)となってどこにどのくらい飛んで行くか分からないし制御出来ない。現状ではもろ手をあげて野焼きを推奨するに値しないという判断に至った」と万福氏。
 実験結果は今年3月5日に農水省の鈴木良典審議官から菅野典雄村長に伝えられ、その後、村議会全員協議会、行政区長会でも報告された。飯舘村復興対策課の中川喜昭課長によると、村民からは依然として〝野焼き解禁〟を求める声はあるという。「現状では、村内外の農作物から放射性セシウムが検出された場合に責任を持てない、避難解除に向けて実証栽培も行ってきた中で、今は野焼きをしない方が良いと判断した」と中川課長は話す。村としては来年度も自粛の方向で考えているという。




飯舘村議会全員協議会や区長会で配られた資料。村民からは依然として〝野焼き解禁〟を求める声はあるが、村役場は来年度も自粛する方向で考えているという

【代替策は「ラウンドアップ」】
 「野焼き」は本来、山林火災防止の観点からも原則として禁じられている。
 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃掃法)は、第十六条の二で「何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない」と定めている。一方で例外規定も設けられており、「農業、林業又は漁業を営むためにやむを得ないものとして行われる廃棄物の焼却」については「公益上若しくは社会の慣習上やむを得ない廃棄物の焼却又は周辺地域の生活環境に与える影響が軽微である廃棄物の焼却」として政令で認められている。飯舘村でも、カメムシなどの害虫駆除や肥料としての灰の活用、農地保全のための雑草一掃(ヨシ、ススキ)などを理由に、野焼きが行われてきた。
 帰還困難区域を除いて避難指示が解除された後の昨年4月に開かれた住民懇談会では、村民から「昨年6月に意見を受けて 1 年も調査も何もしていなかったのか。行政区長会でもだいぶ意見が出た。いつから調査を行って、いつ答えが出るのか」と〝野焼き解禁〟を求める声があがり、内閣府側が実証実験の結果で野焼きの可否を判断する旨を回答。菅野典雄村長も「野焼きをしたいと国にずっと要望している。1 年経って今朝実証の話を聞き、実験室で大丈夫でもまだ翌年に実地で調査をするとなれば時間がかかる。刈った雑草は今のところ現場で保管してもらうしかなく、害虫やイノシシが出ることになるが、相手が放射能なので何とも出来ない。ご理解いただきたい」と話していた。
 野焼き自粛を受け、農地保全のための雑草対策として、村は除草剤「ラウンドアップ・マックスロード」を活用する。購入費用は最終的には農水省の予算が充てられる。全面散布はせず、専用のノズルを使って泡状にし、ピンポイントで特定の雑草だけを枯らす。除草剤散布についても既に実験済みだという。ちなみに、野焼きに関する実証実験は当初は2年計画で、今年度は村内で実際に野焼きを〝再現〟する事になっていた。しかし「8000Bq/kgを超えるであろう灰を人為的に作って良いのか。実際に野焼きをしたとして、煙や灰を制御する事も観測する事も出来ない」(万福氏)として1年で打ち切られた。



飯舘村内の農地にうっそうと伸びる雑草。農地保全のために野焼きを希望する農家も少なくないが、放射性セシウムの飛散を今年も自粛。代わりに除草剤をピンポイントで散布する

【「『山火事で飛散無し』はあり得ない」】
 ここで問題となるのが、ちょうど1年前に福島県双葉郡浪江町の帰還困難区域で発生した十万山の火災だ。福島県庁は昨年4月29日の発生以来、一貫して「周辺環境に影響は出ていない」と広報。鎮火後の調査結果からも放射性セシウムの飛散は確認出来なかったとして事実上の〝安全宣言〟を出している。地元紙も追随し、飛散を懸念するネット上の書き込みを「デマ」として批判する記事を掲載したほどだ。当然、飯舘村民からは「なぜ山火事では問題無くて野焼きは駄目なのか」、「野焼きがいけないのなら、実は山火事でも放射性セシウムが飛散していたのではないか」との疑念の声があがっている。
 万福氏は「山火事で放射性セシウムが全く飛んでいないというのはあり得ない。ただし、空間線量を上昇させたり、降下物として確認が出来るような事にまではならなかったという事。県は『飛散はしたがモニタリングポストに影響が出るほどでは無かった』とていねいに発表するべきだった。ものすごい量の放射性物質が降り注がなければ、モニタリングポストの数値は変動しない」と話す。そもそも、福島県が山林火災による放射性物質の飛散や影響の有無を空間線量だけで論じた事へは批判もあった。
 「仮に野焼きを解禁して何か影響が出た場合に、検出された放射性セシウムがどこから飛んで来たか何が原因か、特定など出来ない。今回(飯舘村内での野焼きの自粛)はリスクを避けさせていただいた」と万福氏。復興対策課の中川課長も「何かあってはいけないので」と繰り返した。「原発事故からの復興」を前面に押し出し、避難指示解除やハコもの乱立、村内学校再開にまい進してきた飯舘村は、野焼きに関しても〝解禁〟を国に要望し続けてきた。しかし、さすがに予防原則に立った対応をとらざるを得なかった。一定の飛散と濃縮が確認出来た以上、野焼きを認める訳にはいかないというのが最終的な国の結論。それはつまり、原発事故から7年以上が経過してもなお、不幸にして汚染が継続している事を意味する。
 中川課長は「昨年度、村内では70軒が営農を再開。その他に170軒が〝生きがい農業〟としての作付けを再開している。検査をして安全性を確認して、道の駅でも販売している。村としては放射性物質の影響は無いとは認識していないし、村内90カ所に独自のモニタリングポストを設置したり、土壌調査をしたりもしている。放射性物質があるから作付けが出来ない、というのでは無くて、どういう対策をしていけば営農再開出来るのだろうかという考えで取り組んでいる。そこも理解して欲しい」と話す。
 いまだ村内に残存する放射性物質と、村に戻って作付けを再開したいという村民の想い。原発事故さえ無ければ直視しなくても良かった現実が、ここにもあった。



(了)
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鈴木博喜

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