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【86カ月目の福島はいま】〝TOKIO騒動〟で考える。「福島県産を食べない」は風評加害か?「避ける自由」封じられた学校給食。「実害」言い続ける農家も

原発事故後の〝風評〟を払拭しようと、「ふくしまプライド農林水産物販売力強化事業」の一環で、2012年からCMやポスターなどで「福島の野菜はうまい!」とPRしてきたアイドルグループTOKIO。刑事事件(不起訴処分)で1人が脱退したが、福島県知事の〝即決〟で継続起用が決まった。一連の〝TOKIO騒動〟で再び連呼された〝風評〟。果たして福島県産の農林水産物を買わない、食べない選択は風評加害なのか。改めて考えてみたい。本来は食べるも食べないも自由。被曝リスクを心配する人もしない人も同様に尊重されるべきだが、現実の社会はそうなっているだろうか。


【〝風評払拭〟に使われた学校給食】
 「風評?まだまだあるよ。福島の食べ物は検査をしているから本来、日本で一番安全なはずなんだ。しかも基準値(100Bq/kg)を下回ったものしか市場に流通しない。それなのに『福島産』というだけで買ってもらえないのは、やっぱり〝風評被害〟だよ」
 福島駅西口の「コラッセふくしま」1階にある「福島県観光物産館」。定期的に出店して果物や加工品を販売している福島市内の小売店主はきっぱりと答えた。福島県外のデパートなどで開かれる物産展に参加すると、今でも「福島のものは買わない」と言われる事があるという。「『美味しい』と試食しても、福島産だと聞いた途端に『要らない』と言う。検査結果など見てくれない。産地だけで判断されてしまう。だからこそ、TOKIOによるPRは大事なんだ」。
 福島県内では、原発事故直後から〝風評払拭〟が大きなテーマとなった。その1つとして着目されたのが学校給食。子どもたちが食べるのが最大のアピール─というのが〝推進派〟の論理だった。
 2012年6月18日の福島市議会では、尾形武市議が「地元農産物を食べていただいていないのは、非常に残念」として「地元農産物の安全安心をきちんと保護者の皆さんにお知らせをされ理解されるよう努め、まずは福島市民の皆様から安心して食べていただくようにされないと、なかなか風評被害の払拭にはつながらない」と市当局に迫っている。
 同市議会では、地元産米の使用に反対する保護者を「騒ぐ人」と表現した市議に対し、別の市議が抗議する場面もあった。「家庭で大人が消費しますから子ども(学校給食)には避けて欲しい」という保護者の声を代弁した市議もいたが、大きな波には抗えなかった。陳情「学校給食用米穀に福島市産を使わないことを求めることについて」は2012年12月議会で賛成少数で不採択となっている。
 2012年6月25日の郡山市議会でも、佐藤政喜市議が「地元でこういう風に学校給食で安全性を確認しながら使っているんだという事。これが(首都圏で)一番効果があったと(JAの関係者に)聞いております。学校給食はそういう意味でも風評被害を軽くするということにつながる」と〝地産地消〟を市当局に求めた。
 今も、ある相双地区の自治体職員は「福島県外にセールスに行くと『自分たちで食べていないものをこっちに来て売るな』と言われてしまう。だから地産地消は大事なんだ」と語る。「せめて米だけでも」と自宅で炊いたご飯を持参させた保護者もいたが、1学年に1人か2人。自分を責める保護者もいた。本来なら全ての選択肢が尊重されるはずだ。だが〝風評払拭〟の大合唱は、それを許さなかった(2013年01月15日参照)。








①②メンバーの刑事事件で〝お蔵入り〟となったTOKIOのPRポスター。本来、事件と原発事故は関係ない。福島県産の桃や米が「うまい」という事と「放射性物質を含有しているかもしれない」という心配も、本来は別問題のはずだ。しかし、現実には〝風評払拭〟の名の下、これらが混同して語られる。
③〝風評払拭〟に力を入れる福島県の内堀雅雄知事(左)。東京五輪での一部福島開催が決定した女子ソフトボールの選手に地元産のサクランボを贈るのも〝風評払拭〟の一環だ=2017年6月14日、福島市の十六沼公園
④安倍晋三首相も〝風評払拭〟に注力する。総選挙の〝第一声〟では、地元米「吾妻の輝き」で握ったおにぎりやナシを食べるパフォーマンスで「福島の農産品は安全で美味しいんですよ」とアピールする場面も=2017年10月10日、福島市佐原

【「廃炉作業終わるまで無理」と農家】
 「検査をしていたとしても食べたくない」という心情に理解を示す生産者もいる。福島県須賀川市でキュウリや米を作っている農家で、映画「大地を受け継ぐ」に出演した樽川和也さんもその1人だ。2016年10月29日に須賀川市内で開かれた上映会で「汚染は風評じゃない。現実だ。福島産を買いたくないのは当然の心情」と語っていたが、その想いは2年経った今でも変わっていない。
 「放射性物質に汚染された土で野菜を作ってるんだ。世間からすれば、検査をしているとか基準値以下だとかは関係ないのは仕方ないと思う。俺だってもし福島県外に住んでいて、福島県産と他県産のキュウリが店に並んでいたら、きっと他県産のキュウリを選ぶだろう。検査しているのはセシウムだけ。将来、本当に身体に害が無いのかなんて分からないからね」
 今年3月11日に放映されたフジテレビ系列の震災特番「FNN3・11報道特番 その避難は正解か!?」に出演した。「福島の現実を隠したくない」と線量計を手に自身のビニールハウスの周辺を歩いた。ビニールハウスに降り注いだ放射性物質が雨などで流れ落ちる事もあり、線量計の数値は0・6~0・7μSv/hを示した。「福島の現実を隠したくない」という想いからだったが普段、毒舌で知られる坂上忍さんの口数は少なかった。
 「結局、福島出身の有名人を含めて、多くの芸能人が原発事故と距離を置いてかかわらないようにしている。その意味でTOKIOは勇気があると思うし、彼らはすごいと思う。今回、こういう事になって、彼らを応援しようという気持ちに福島県民がなったのも当然だと思う」と樽川さん。現実を全てオープンにし、買うか買わないかは消費者の判断─。そんな想いで田植えの準備を進めている。
 フジテレビのホームページには、同番組の趣旨が次のように記されている。
 「福島県産の野菜を7年たった今も避ける人たちがいるなど、今なお続く〝福島差別〟ともいわれる現象の実態も追います」
 福島県産の農林水産物を避けるのは〝差別〟では無いはずだ。樽川さんは言う。「いくらTOKIOが『安全だ』と言ったって難しいんじゃないかな。だって、事故を起こした原発の廃炉に30年も40年もかかるわけでしょ。廃炉作業が終わるまでは無理だと思うよ」。








①福島県やJAふくしま、県漁連などで構成される「ふくしまの恵み安全対策協議会」。規約第3条には「福島第一原子力発電所事故に伴い、本県の農産物は出荷制限や風評被害など深刻な被害を受けており、今後、農林水産物の安全性の確保が最大の課題となっている」と記されている
②幸福実現党は長く「風評被害をなくそう」と書かれた大きな看板を、福島県庁近くの幹線道路沿いに設置していた(現在は撤去)。「福島安全宣言」の中で「多くの日本人、そして世界の人は知りませんが、『福島の食べ物は世界で一番安全』なのです」と書いている
③福島市内では、小学生が作った「安全安心PRパンフレット」も配られている。一方で福島県内では、原発事故直後から「〝風評払拭〟のために学校給食に地元産米を使おう」という動きが起きていた
④原発事故後の福島県産農水産物を「買わない」、「食べない」は本当に〝風評加害〟なのか。冷静に考える必要がある

【福島県幹部は「自由」口にするが…】
 厚生労働省のまとめでは、2017年度に実施された食品中の放射性物質検査で、国の定めた100Bq/kgを上回った農林水産物は76件で、全検査件数3万4349件の0・22%にあたる。他に宮城県(49件)、群馬県(36件)、栃木県(8件)などでも基準値を上回る書品があった。今年度の速報値(5月11日現在)では、福島県では3389件のうち16件が100Bq/kgを超えた。
 福島県農産物流通課の幹部は「消費者には選択の自由があるし、買いたくない、食べたくないという気持ちは否定しない。ただ、こちらとしては安全性を確認して流通させている。正しい情報を発信しているので、少しでも多くの人に届けられるよう、ていねいに伝えていく」と話す。「福島イコール危険、というような間違った事実の流布は言語道断だ」とも。桃が旬を迎える7月中旬を目標に、TOKIOによる新たなCMやポスター作りに着手するという。
 しかし、「選択の自由」と言いながら実際には、原発事故による汚染や被曝リスクに対する懸念は封じられてきた。今回、福島県の内堀雅雄知事は5月3日にはTOKIOの継続起用をジャニーズ事務所に伝える「スピード判断」で決着を図った。県庁に寄せられた400通を超えるメールも判断を後押しした。5月7日の定例会見では「東日本大震災以降、TOKIOの皆さんが福島を全力で応援していただいた」などと知事の想いの強さを口にした。
 一方で、避難指示が出されていない区域から福島県外に避難した〝自主避難者〟向け住宅の無償提供打ち切り問題では、2年近くにわたる交渉や8万筆を超える署名、全国の地方議会からの意見書、避難者による直訴状も全て〝無視〟して2017年3月末で打ち切った。〝復興〟や〝風評払拭〟につながる個人や団体とは時間を割いて面会するが、〝自主避難者〟が何度頼んでも、最後まで「多忙で時間が無い」、「担当課が対応する」と会おうともしなかった。これが現実の姿だ。モニタリングポスト撤去問題でも、原子力規制庁は理由の1つに「海外からの観光客に『福島はまだ危ない』と思われてしまう」事を挙げている。福島市の木幡浩市長は「モニタリングポストの存在が風評の源になっている」と明言している。
 「放射能はうつる」、「〝自主避難者〟も多額の賠償金を得ている」という誤解こそ、根も葉もない〝風評〟だ。いわゆる〝原発避難者いじめ〟は、それらの誤解が招いた。しかし、国も福島県も芸能人を起用して、それらの〝風評〟を払拭しようとはして来なかった。経済原理が優先され、被曝リスクを口にする人は肩身の狭い想いをする。原発事故後の一面が如実に表れた「TOKIO騒動」だった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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