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【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】「私たちは何も悪い事はしていない」。28歳女性が意見陳述で流した悔し涙~第14回口頭弁論。9月に現地検証を2日間実施へ

原発事故で帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島地区の住民たちが国や東電に原状回復と完全賠償を求める「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第14回口頭弁論が20日午後、福島地裁郡山支部303号法廷(佐々木健二裁判長)で開かれた。2人の原告が意見陳述。88歳の男性は自ら切り開いた土地を汚された悔しさを陳述。28歳の女性は「どうか私たちの声を聞いてください。津島をきれいにしてください」と涙を流しながら訴えた。次回期日は11月30日14時。9月27、28の両日には、いよいよ裁判官が実際に津島を訪れ、汚染の実態を目の当たりにする。


【「お金いっぱいもらったんでしょ?」】
 拭っても拭ってもあふれる涙。スーツ姿で意見陳述に臨んだ三瓶早弓さん(28)は、崩れ落ちそうになりながらも声を絞り出した。あとどれほどの涙を流せば伝わるのか。佐々木裁判長は背筋を伸ばして聴き入っていた。
 「私たちは、いつまでこんな生活を続けなければいけないのでしょうか。だからお願いします。どうか私たちの声を聞いてください。津島をきれいにしてください。あの子たちを守ってください。お願いします」
 あふれる涙にこめられた悔しさや哀しみ。生まれ育った津島。幼い頃、じいじと一緒に川遊びをし、カブトムシを捕まえ、蛍の大群に感嘆した津島。成人式から2カ月後の原発事故で汚され、今や「帰還困難区域」などと呼ばれるようになった。「津島から離れたいなんて思いませんでした」。避難をした時も、すぐに津島に戻れると考えていた。しかし、現実には先の見えない避難生活が7年も続いている。避難後、4カ月も生理が止まってしまった。産婦人科医からは「ストレスや精神的な不安が原因」と診断された。
 忘れたくても忘れられない出来事がある。仕事の都合で、家族と離れて郡山市内で独り暮らしをしていた時の事。友人の誘いで同年代の食事会に参加した。出身地を尋ねられ「津島」と答えると、初対面の参加者から「避難民なの?」、「お金(賠償金)いっぱいもらったんでしょ?」などの言葉が矢継ぎ早に飛んで来た。他の人も、好奇の視線を露骨に浴びせて来た。以来、大好きなはずの「ふるさと津島」を口にする事は無くなった。封印しようと決めた。
 自ら口にしなくても、車に「いわきナンバー」がつけられているから、双葉郡から避難している事は容易に察しがつく。運転中に後続車からあおられ、怖い想いをした事もあった。駐車場に停めている間に、硬貨のようなもので車体を傷付けられた事もあった。それだけではない。深夜に自宅のインターホンが鳴った事もあった。布団にくるまり、耳をふさぎながら夜が明けるのを待った。ふるさとを追われた被害者がなぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのか。
 あの時、激しい揺れに泣き叫んだ甥っ子は中学生。しかし、同級生に津島出身である事を明かしていない。いじめや差別を避けるため、車のナンバープレートを「いわき」から中通りのものに替えた。「大好きな津島を隠さなきゃいけない現実が悲しくてやりきれません」。
 「結婚もしたいし子どもも欲しい。でも、なかなか踏み出せません」と語った三瓶さん。たとえ結婚相手が意に介さなくても、家族や親戚が被曝や子どもへの影響を心配して結婚に反対するような気がしてならないという。
 「私たちは津島を出たくて出て来たわけじゃ無い。何も悪い事をしていないのに、悪者みたいに差別される。私だって普通の恋愛をしたい。結婚するときは皆に祝福されたい。津島で生まれ育った私には、こんな事も揺るされないのでしょうか」






(上)法廷で意見陳述した三瓶早弓さん(中央)。「私たちは、いつまでこんな生活を続けなければいけないのでしょうか。だからお願いします。どうか私たちの声を聞いてください。津島をきれいにしてください。あの子たちを守ってください。お願いします」と涙ながらに訴えた
(中)(下)35℃を超える酷暑の中、福島地裁郡山支部までをデモ行進した原告たち。被害を訴え正当な賠償を求めるのも命がけだ

【亡き妻と開拓した赤宇木よ再び】
 「原発事故さえなかったなら、今のような苦しい生活などでずに済んだと思うにつけ、無念でなりません。何としても、赤宇木へ妻・フクヨと一緒に帰りたい。私たちは、ここを追い出されるような悪いことをしたことはない」
 武藤宗雄さん(88)は、白の真新しい半袖シャツを着て法廷に立った。安達郡戸沢(現在の二本松市)のリンゴ農家に生まれた武藤さんは戦後間もない1951年、21歳で津島に入植。フクヨさんと二人三脚での開墾。のこぎりと鉈(なた)で立木を伐り、唐鍬8とうくわ)で土を耕して畑を拡げた。「明日を見ながら農作業に励みました」。葉タバコや繁殖和牛にも挑戦し、徐々に農業を軌道に乗せて行った。
 雑木林だった土地は、原発事故前には水田80アール、葉タバコ1ヘクタール、リンゴ園1・3ヘクタール、野菜などの畑20アールという規模になっていた。「妻と私と長男とで拓き、担って来た、武藤家の宝物でした。自然豊かな津島で農業一筋に生きて来られた事に大きな幸せを感じておりました。周囲と自然の恵みを分け合う生活に、本当に心安らぐ日々が続いておりました」。約25km離れた原発が爆発事故を起こし、大量の放射性物質が大地に降り注ぐまでは。
 「別世界に住んでいるようだった」と振り返る避難生活。2年前、南相馬市内に住まいを確保したが、フクヨさんと切り開いた土地は汚されたまま。山の幸を再び享受出来るようになるまでに、あとどれくらいの歳月を要するのか。2008年、ガンで先立ったフクヨさん(享年79)は原発事故を知らない。土地を奪われ、自然の恵みを奪われた夫・宗雄さんを、天国からどんな想いで見守っているだろうか。
 「私にとって津島は、戦後の食糧難の時代に妻と苦労して自然の大地を開拓した忘れがたいふるさとです」と語った武藤さん。願いはだたひとつ。大切に育んできた土地が1日も早く元の姿に戻る事だ。






(上)(中)原告たちは、口頭弁論期日には必ず郡山駅前でビラを配り、マイクを握る。いまだ原発事故による被害が終わっていない事を1人でも多くの人に知って欲しいからだ
(下)報告集会はがんばろー三唱で締めくくられる。本来は、原発事故被害者が拳を振り上げなくとも救済される社会でなければいけない

【汚染土仮置きと中学校廃校計画】
 ここに来て原告たちは、裁判とは別に新たな問題にも直面している。
 一つは除染で生じた汚染土壌の仮置き問題。もう一つは、浪江中学校の廃校問題だ。
 浪江町は「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を取りまとめ、依然として帰還困難区域に指定されている室原地区、末森・大堀地区、津島地区で除染を開始。「大堀地区の『陶芸の杜おおぼり』の周辺等の一部で空間線量が年20mSvを上回る地域が存在するが、自然減衰等により年5mSv以下まで空間線量が低下している地区もあり、区域内のほとんどのエリアが空間線量年20mSvを下回っている」として、2023年(原発事故から12年後)から住民の帰還・居住が始まる事を目標としている。その際、帰還困難区域の除染で生じた汚染土壌を全て、津島地区内に搬入して仮置きしようという計画が示されたという。
 原告の1人が怒りをあらわにして話す。
 「土地はたくさんあるのになぜ、私たちの所に汚染土壌を運ばなければならないのか。国と行政の結託ではないか。こんな事をしていては、いつまで経っても住民は分断されてしまう。除染で生じた汚染土壌はその行政区内で保管するという大原則はどうなんたんだ。誰だって自分の行政区には置きたくないから、他の行政区の人々は何も言わずに黙っている。間もなく、三瓶宝次さん(元町議会議長)を中心に反対運動を始めるよ」
 浪江中学校は原発事故後、福島県二本松市針道に校舎を移して授業を続けている。今年度の生徒数は男子4人。うち3人が3年生だから、来春には在校生が1人になってしまう。福島県二本松市下川崎の校舎では浪江小学校・津島小学校の子どもたちが学んでいるが、4年生、5年生、6年生が1人ずつ。来春卒業する6年生が浪江中学校に進学しても在校生は2人。「そんな人数のために多くの教職員を確保するのは難しい、と町役場の職員に言われました。浪江中学校は廃校にするから避難先の中学校に通わせろ、と。『最後まで面倒を見る』と言っていたのは何だったのでしょうか」と保護者は話す。今春、開校した町立なみえ創成小学校・中学校(小学生8人、中学生2人)に一本化させたい町役場の思惑が見え隠れする。
 原発事故に翻弄され続ける住民たち。9月27、28の両日に実施される現地検証(現地進行協議)に寄せる期待は大きい。「これら新たな問題も含めて『津島』の置かれた現状を全て裁判官に見て欲しい」。弁護団は「せっかく裁判官に見せようと思っても倒木などで当日、現場にたどり着けないような事があってはいけない」と、8月から3回にわたるリハーサルを実施して本番に臨む。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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