【モニタリングポスト撤去】「撤去反対」「むしろ増設を」相次ぐ。福島市で2日間の住民説明会。「廃炉完了まで継続を」。開催時期や周知方法への不満も
- 2018/09/03
- 06:55
「リアルタイム線量測定システム」と呼ばれるモニタリングポスト(MP)の撤去計画問題で、原子力規制庁は8月30日夜と今月2日午後の2回、福島県福島市内で住民説明会を開いた。6月25日に福島県南会津郡只見町で始まった住民説明会は、福島市で8市町村目。参加者は計80人と少なかったが、反対意見が大勢を占めた。原子力規制庁は現段階では撤去方針を撤回せず、今後も住民説明会を続けていく構え。参加者からは開催時期や周知方法に対する不満の声も聞かれた。次の住民説明会は今月26日夜、安達郡大玉村で開かれる。
【「東京の人が勝手に決めないで」】
「アクティブシニアセンター・アオウゼ」で8月30日夜、「ホテル福島グリーンパレス」で今月2日午後に開かれた住民説明会でも、これまでの市町村と同様に撤去に反対する意見が相次いだ。2日間合わせて約40人が意見を述べたが、撤去に賛意を示したのは男性1人のみ。大半の福島市民が除染で生じた汚染度の搬出が終わるまで、もしくは福島第一原発の廃炉作業が完了するまで、MPの設置を継続するよう求めた。「むしろ増やして欲しいくらいだ」という意見も複数あった。
全ての住民説明会に出席している原子力規制庁監視情報課の武山松次課長はそのたびに、「撤去方針は一つの〝案〟であって、皆様の御意見は尊重する」、「出された意見は、原子力規制委員会にきちんと報告して再検討してもらう」と繰り返す。しかし「2021年3月末までに2400台を撤去・再配置する」という基本方針は撤回しない。いつまでに住民説明会を終え、どの時点での原子力規制委員会会合で結論を出すのかのスケジュールも示されない。今後どれだけの反対意見を伝えたら撤去方針が撤回されるのか、と住民たちがいら立つのも当然だ。
初日に参加した女性は「廃炉作業の途中で何らかの事故が起きたら、福島市でも空間線量が上がる可能性があるのではないか。廃炉作業が終わるまでは撤去しないで欲しい」と求めた。武山課長は「放射性物質が飛散する可能性はゼロでは無い。ただ、須賀川市での住民説明会でも申し上げたが、2011年3月の原発事故当時のような放射性物質の大量放出とまでは行かないのではないか」と答え、会場がざわつく場面もあった。
果物も生産している農家の女性は「確かにMPの数値だけを見れば低くなったかもしれないが、ほとんどの果樹農家は木々への悪影響を懸念して土の入れ替えをしていない。空間線量0・4μSv/hなどは当たり前。きちんと測れば線量の高い場所はたくさんある。田畑が高いというのは皆さんご存知なのだろうが公表されていない。そのような現実がきちんと公表されないままにMPが撤去されるのには反対です」と述べた。そして、原子力規制庁の官僚たちにこうぶつけた。
「MPというのは何かあった時の安心の拠り所。生活する者の目安なんです。東京に居る方が勝手に決めないで欲しいです」
こんな男性もいた。
「ホテル代払ってやっから、泊まって福島市の状況を見てくれ。現場の声を聞いて仕事をしてくださいよ」




①②8月30日夜に開かれた住民説明会の1回目。撤去に賛成する意見は皆無だった=アクティブシニアセンター・アオウゼ
③④9月2日午後に開かれた住民説明会の2回目は空席も目立った。会場確保など準備に追われた福島市職員は「市内で一番大きな会場を用意したが…」と肩を落とした。秋の運動会シーズンでもあり、参加者からは日程の決め方や周知方法の改善を要望する声もあった=ホテル福島グリーンパレス
【「税金で維持せず東電に求償して」】
原子力規制庁側は、MPの維持管理費を「年1回の校正(メンテナンス)やインターネット通信、24時間体制での監視などで1台当たり年間20~30万円。合計で約6億円かかっている」と説明。「国の復興予算で賄っており、皆様の税金。常に合理性が求められる」として、「空間線量が低く安定している現状では、財務当局に予算確保のための説明が困難」との認識を示している。しかし、財源を撤去の理由に挙げている事に、市民からは「たった6億円のために撤去するのか」、「結局は金の問題なのか」などと疑問の声が上がった。
福島市御山の男性は「被災地であるにもかかわらず、我々も2012年から復興特別所得税を徴収されている。復興特別法人税の徴収は既に終了しているが、個人の復興特別所得税(基準所得税額×2・1%)は2037年まで続く。庶民からそれだけ吸い上げておいて、6億の金が出せないはずが無い」と述べた。
また、2日間ともに「そもそも私たちの税金で維持しているのがおかしい。原発事故の加害者である東電に請求出来ないのか」という声があった。これには、武山課長が初日は「請求できるのか否か私も仕組みが分からない」と答えたが、2日目には「除染費用は東電に求償出来ると法律に明記されているが、MPの維持管理費は法律に書かれていない。東電への求償の必要があれば国会で決めてもらう事になる」と回答した。
福島市南矢野目の男性は「一番高い時で23・88μSv/hが計測された時も、私たち住民には何の連絡も無かった。自宅近くの公園に設置されているMPの数値をずっと手がかりにしてきた。廃炉作業が終わるまでは撤去に反対します」。5人の孫がいるという女性は「原発事故の受け止め方が根本的に違う。偉い方々の考え方は私たちとは全く違う、とずっと感じています。私たちは目に見えないものの中で暮らしているんです。当事者に想いを馳せるという想像力が欠落していると思います。私たちがどんな想いで暮らしているのかを考えたら、撤去にはならないと思います」と涙ながらに訴えた。
別の女性は「むしろ増やして欲しい。MPが無くなったら何を手立てに暮らしていくのか。どこまでも福島の人を愚弄している」と怒りをぶつけた。福島市鳥谷野の男性は「そもそも『大丈夫だ』と言って来た原発で事故が起きた。誰が起こした事故なのか。なぜ、いちいち役所で線量計を借りて自分たちで測らなければいけないのか。撤去には大反対です。農地一筆ごとに設置して欲しい」と語気を強めた。
孫が2人いるという女性も「早く撤去した方が復興のためになると考えるのかもしれないが、命を抱える女性はそういう風には考えられない。人命を軽視している」と反対意見を述べた。



①②弁天山公園に設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)。これも撤去対象となっている=福島市渡利字弁天山
③汚染の度合いは場所によって変動する。弁天山公園でも、手元の線量計が0・3μSv/hを上回る地点があった。住民説明会では「撤去どころか増設して欲しいくらいだ」との意見を口にする市民が複数いた
【参加者は計80人と低迷】
MP撤去計画を巡る住民説明会では初めての複数日開催(いわき市は10月12、13、14の3日間)。だが、「1人でも多くの方が参加出来るよう平日の夜と日曜日の昼間に設定し、市内で一番広い会場を確保した」という福島市職員の想いに反し、参加者は42人、38人の計80人にとどまった。2日目の「ホテル福島グリーンパレス 瑞光の間」は400人収容出来るが、事前申し込みが少なかったため急きょ、半分に仕切った。武山課長は閉会後の囲み取材で「参加人数が少ないからと言って福島市民の関心が低いとは思わない」と語ったが、撤去の〝追い風〟になるのは間違いない。
参加者の1人は「あの頃は、子育て世代は放射線防護を何よりも優先したが、7年経ってカッコ付きの〝日常生活〟を送っている中で優先順位が下がっているのだろう」と話す。別の女性は「確かに日曜参観もあるようだが、子どもの部活動や学校行事を〝言い訳〟にしている面は否めない。発言しなくても良いから参加して欲しかったけれど…」と語っている。関心が高まっていないのも事実だろう。
一方で、参加者からは日程の設定や周知方法に対する意見も出された。
「2回では不十分。学区単位で説明会を開いて欲しい」、「事前申し込みはハードルが高い」、「市の広報紙を読まない人も多い。学校を通じて周知して欲しい」、「地域の運動会が開かれていて参加出来なかった人もいる」
これに対し、武山課長は「市の広報紙は全戸配布されると聞いている。我々としては最大限、精一杯の周知をした。学区単位での説明会はマンパワーの問題もあり難しい。フリーダイヤル(0120-988-359)も用意しているのでご意見がある方はそちらに寄せて欲しい」と答えるにとどまった。事前申し込みを必要としない市町村もあるが「市町村の判断。事前に人数を把握したい市町村が事前申込制にしているようだ」(原子力規制庁)。事前申し込みの煩わしさが参加者の低迷につながっているとの指摘もある。「回覧板で伝えて欲しかった」という声もあった。
「こんな短時間で語り尽くせるものでは無い。原発事故は現在進行形であり、MP撤去などあり得ない」と語った男性。別の女性は「国や行政の発表を信用して良いものかというトラウマが今でもあるが、それでもせめて学校や学習センターのMPは残すべきだ」と求めた。「MPの存在が風評被害を拡大させる」という声は無かった。
住民説明会は今後、安達郡大玉村、西白河郡中島村、白河市、いわき市と続く。来年になっても、市町村から求められれば原子力規制庁は住民説明会の開催に応じるという。
(了)
【「東京の人が勝手に決めないで」】
「アクティブシニアセンター・アオウゼ」で8月30日夜、「ホテル福島グリーンパレス」で今月2日午後に開かれた住民説明会でも、これまでの市町村と同様に撤去に反対する意見が相次いだ。2日間合わせて約40人が意見を述べたが、撤去に賛意を示したのは男性1人のみ。大半の福島市民が除染で生じた汚染度の搬出が終わるまで、もしくは福島第一原発の廃炉作業が完了するまで、MPの設置を継続するよう求めた。「むしろ増やして欲しいくらいだ」という意見も複数あった。
全ての住民説明会に出席している原子力規制庁監視情報課の武山松次課長はそのたびに、「撤去方針は一つの〝案〟であって、皆様の御意見は尊重する」、「出された意見は、原子力規制委員会にきちんと報告して再検討してもらう」と繰り返す。しかし「2021年3月末までに2400台を撤去・再配置する」という基本方針は撤回しない。いつまでに住民説明会を終え、どの時点での原子力規制委員会会合で結論を出すのかのスケジュールも示されない。今後どれだけの反対意見を伝えたら撤去方針が撤回されるのか、と住民たちがいら立つのも当然だ。
初日に参加した女性は「廃炉作業の途中で何らかの事故が起きたら、福島市でも空間線量が上がる可能性があるのではないか。廃炉作業が終わるまでは撤去しないで欲しい」と求めた。武山課長は「放射性物質が飛散する可能性はゼロでは無い。ただ、須賀川市での住民説明会でも申し上げたが、2011年3月の原発事故当時のような放射性物質の大量放出とまでは行かないのではないか」と答え、会場がざわつく場面もあった。
果物も生産している農家の女性は「確かにMPの数値だけを見れば低くなったかもしれないが、ほとんどの果樹農家は木々への悪影響を懸念して土の入れ替えをしていない。空間線量0・4μSv/hなどは当たり前。きちんと測れば線量の高い場所はたくさんある。田畑が高いというのは皆さんご存知なのだろうが公表されていない。そのような現実がきちんと公表されないままにMPが撤去されるのには反対です」と述べた。そして、原子力規制庁の官僚たちにこうぶつけた。
「MPというのは何かあった時の安心の拠り所。生活する者の目安なんです。東京に居る方が勝手に決めないで欲しいです」
こんな男性もいた。
「ホテル代払ってやっから、泊まって福島市の状況を見てくれ。現場の声を聞いて仕事をしてくださいよ」




①②8月30日夜に開かれた住民説明会の1回目。撤去に賛成する意見は皆無だった=アクティブシニアセンター・アオウゼ
③④9月2日午後に開かれた住民説明会の2回目は空席も目立った。会場確保など準備に追われた福島市職員は「市内で一番大きな会場を用意したが…」と肩を落とした。秋の運動会シーズンでもあり、参加者からは日程の決め方や周知方法の改善を要望する声もあった=ホテル福島グリーンパレス
【「税金で維持せず東電に求償して」】
原子力規制庁側は、MPの維持管理費を「年1回の校正(メンテナンス)やインターネット通信、24時間体制での監視などで1台当たり年間20~30万円。合計で約6億円かかっている」と説明。「国の復興予算で賄っており、皆様の税金。常に合理性が求められる」として、「空間線量が低く安定している現状では、財務当局に予算確保のための説明が困難」との認識を示している。しかし、財源を撤去の理由に挙げている事に、市民からは「たった6億円のために撤去するのか」、「結局は金の問題なのか」などと疑問の声が上がった。
福島市御山の男性は「被災地であるにもかかわらず、我々も2012年から復興特別所得税を徴収されている。復興特別法人税の徴収は既に終了しているが、個人の復興特別所得税(基準所得税額×2・1%)は2037年まで続く。庶民からそれだけ吸い上げておいて、6億の金が出せないはずが無い」と述べた。
また、2日間ともに「そもそも私たちの税金で維持しているのがおかしい。原発事故の加害者である東電に請求出来ないのか」という声があった。これには、武山課長が初日は「請求できるのか否か私も仕組みが分からない」と答えたが、2日目には「除染費用は東電に求償出来ると法律に明記されているが、MPの維持管理費は法律に書かれていない。東電への求償の必要があれば国会で決めてもらう事になる」と回答した。
福島市南矢野目の男性は「一番高い時で23・88μSv/hが計測された時も、私たち住民には何の連絡も無かった。自宅近くの公園に設置されているMPの数値をずっと手がかりにしてきた。廃炉作業が終わるまでは撤去に反対します」。5人の孫がいるという女性は「原発事故の受け止め方が根本的に違う。偉い方々の考え方は私たちとは全く違う、とずっと感じています。私たちは目に見えないものの中で暮らしているんです。当事者に想いを馳せるという想像力が欠落していると思います。私たちがどんな想いで暮らしているのかを考えたら、撤去にはならないと思います」と涙ながらに訴えた。
別の女性は「むしろ増やして欲しい。MPが無くなったら何を手立てに暮らしていくのか。どこまでも福島の人を愚弄している」と怒りをぶつけた。福島市鳥谷野の男性は「そもそも『大丈夫だ』と言って来た原発で事故が起きた。誰が起こした事故なのか。なぜ、いちいち役所で線量計を借りて自分たちで測らなければいけないのか。撤去には大反対です。農地一筆ごとに設置して欲しい」と語気を強めた。
孫が2人いるという女性も「早く撤去した方が復興のためになると考えるのかもしれないが、命を抱える女性はそういう風には考えられない。人命を軽視している」と反対意見を述べた。



①②弁天山公園に設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)。これも撤去対象となっている=福島市渡利字弁天山
③汚染の度合いは場所によって変動する。弁天山公園でも、手元の線量計が0・3μSv/hを上回る地点があった。住民説明会では「撤去どころか増設して欲しいくらいだ」との意見を口にする市民が複数いた
【参加者は計80人と低迷】
MP撤去計画を巡る住民説明会では初めての複数日開催(いわき市は10月12、13、14の3日間)。だが、「1人でも多くの方が参加出来るよう平日の夜と日曜日の昼間に設定し、市内で一番広い会場を確保した」という福島市職員の想いに反し、参加者は42人、38人の計80人にとどまった。2日目の「ホテル福島グリーンパレス 瑞光の間」は400人収容出来るが、事前申し込みが少なかったため急きょ、半分に仕切った。武山課長は閉会後の囲み取材で「参加人数が少ないからと言って福島市民の関心が低いとは思わない」と語ったが、撤去の〝追い風〟になるのは間違いない。
参加者の1人は「あの頃は、子育て世代は放射線防護を何よりも優先したが、7年経ってカッコ付きの〝日常生活〟を送っている中で優先順位が下がっているのだろう」と話す。別の女性は「確かに日曜参観もあるようだが、子どもの部活動や学校行事を〝言い訳〟にしている面は否めない。発言しなくても良いから参加して欲しかったけれど…」と語っている。関心が高まっていないのも事実だろう。
一方で、参加者からは日程の設定や周知方法に対する意見も出された。
「2回では不十分。学区単位で説明会を開いて欲しい」、「事前申し込みはハードルが高い」、「市の広報紙を読まない人も多い。学校を通じて周知して欲しい」、「地域の運動会が開かれていて参加出来なかった人もいる」
これに対し、武山課長は「市の広報紙は全戸配布されると聞いている。我々としては最大限、精一杯の周知をした。学区単位での説明会はマンパワーの問題もあり難しい。フリーダイヤル(0120-988-359)も用意しているのでご意見がある方はそちらに寄せて欲しい」と答えるにとどまった。事前申し込みを必要としない市町村もあるが「市町村の判断。事前に人数を把握したい市町村が事前申込制にしているようだ」(原子力規制庁)。事前申し込みの煩わしさが参加者の低迷につながっているとの指摘もある。「回覧板で伝えて欲しかった」という声もあった。
「こんな短時間で語り尽くせるものでは無い。原発事故は現在進行形であり、MP撤去などあり得ない」と語った男性。別の女性は「国や行政の発表を信用して良いものかというトラウマが今でもあるが、それでもせめて学校や学習センターのMPは残すべきだ」と求めた。「MPの存在が風評被害を拡大させる」という声は無かった。
住民説明会は今後、安達郡大玉村、西白河郡中島村、白河市、いわき市と続く。来年になっても、市町村から求められれば原子力規制庁は住民説明会の開催に応じるという。
(了)
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