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【中通りに生きる会・損害賠償請求訴訟】4回目の原告本人尋問。甲状腺ガン、婚約解消…。「原発事故さえ無ければ」を東電側は全否定~第12回口頭弁論

「中通りに生きる会」(平井ふみ子代表)の男女52人(福島県福島市や郡山市、田村市などに在住)が福島第一原発の事故で精神的損害を被ったとして、東電を相手に起こした損害賠償請求訴訟の第12回口頭弁論が10日、福島地方裁判所206号法廷(遠藤東路裁判長)で終日、行われた。今回も7人の女性原告に対する本人尋問。自分を犠牲にしてでも守りたい子や孫への想い、原発事故さえ無ければ味わわずに済んだ不安や確執、そして、福島県外に暮らす娘の甲状腺ガン…。7人7様の怒りや哀しみ、悔しさが法廷に響いた。「東電は私たち福島県民を全く理解していない」。


【たった1人でガン告知受けた娘】
 昼休み。勤務先で開いたメールは哀しい知らせだった。
 原発事故以前から埼玉県川口市で独り暮らしをしていた娘(34)。昨夏から喉の不調を訴え、埼玉県内の大きな病院で細胞診を受けた。8月24日に医師から告げられた病名は「甲状腺ガン」だった。50代の母親(福島市)は、主尋問で「一瞬で地獄に落とされました。1人で告知を受けた娘を想うと胸が張り裂けそうです」と語った。後日、裁判所に診断書を提出する。
 「原発事故後の体調不良は、どこかで他人事でした。事故当時18歳未満で無かったので定期的な甲状腺検査も受けていなかったですし。まさか自分の家族がこういう事になるとは…」
 すぐに紹介状を書いてもらい、今月に入り改めて福島県立医大で検査を受けた。結果は変わらなかった。全摘出手術を受ける事になりそうだが。手術は早くても12月になると言われた。「進行の遅いガンだと言うけれど、やはり心配です。技術や設備が整っている病院ならば、福島県立医大にこだわらず、すぐにでも手術を受けさせたいです」。母親として当然の願いを口にした。
 反対尋問で被告東電の代理人弁護士は「本件事故による甲状腺ガンだという診断書はあるのか」などと質した。もちろん、娘の甲状腺ガンが福島第一原発から放出された放射性物質に起因していると決めつけているわけでは無い。しかし、放射性物質が福島県内だけにとどまったわけでは無い事もまた、事実だ。
 「個人差があるので、原発事故当時18歳以上だったとか、福島に住んでいなかったとかは判断基準にならないと思います。娘は酒も飲まず、タバコもほとんど吸わない。近親者に甲状腺ガンになった者はいません。そう考えると、原発事故の影響ではないかと私は考えています」
 自身の身体も悲鳴を上げている。高齢の母親は原発事故後に庭いじりや散歩をしなくなった事から急速に身体が弱り、寝たきりになった。現在要介護4。介護によるストレスで不整脈になった。「原発事故さえ無ければ、母はずっと元気でいられたのに」。母親が手入れをしていた庭の一角には、除染で生じた汚染土壌が今なお埋められている。






①②閉廷後の〝反省会〟で、本人尋問を終えた原告たちは緊張から解放され、ようやく安堵の表情を見せた=福島市市民会館
③主尋問では、撤去が決まった巨大モニュメント「サン・チャイルド」も取り上げられた。原告の女性は「私たちの苦労や苦悩を表現出来るものでは無い」と語った

【「嫁にもらえぬ」と結婚破談に】
 原発事故がもたらしたのは、身体的影響だけでは無かった。
 別の50代女性(福島市)は娘の結婚が破談になった。宮城県の男性と7年間交際。2010年の年末に婚約し、2011年春には結婚式を挙げる予定になっていた。しかし、交際相手の親から告げられたのは、「福島に住んでいる娘さんは放射能の影響の心配がある。嫁にする事は出来ません」という言葉。何度も話し合った。だが、「息子は長男。孫も含めてずっと被曝リスクへの不安をしなければならない結婚には賛成出来ない。反対します。嫁にはもらえません」と何度も繰り返された。「まるで悪い事をしたかのように相手方から強く言われた事で、娘は絶望しました。ふさぎ込んで、何も話さなくなりました」。
 反対尋問で、被告東電の代理人弁護士が「話し合いでは、何と言って説得を試みたのか」と質した。母親は「私は説得出来ませんでした。だから破談になってしまったのです」と苦しい胸の内を明かした。「原発事故の話になると、うまく説明出来ません。向こうの親御さんは『長男だから子孫を残したい』と強く言っていました。うちの娘が被曝して、健康で丈夫な子どもは産めないだろうというというのが話の前提でした」。自身も被曝リスクへの不安を抱きながら生活している。原発事故さえ無ければ娘の笑顔は続き、自身も板挟みの苦しみでもがく事も無かったのだ。
 60代女性(福島市)は、原発事故後に山形県内に避難すると、勤務先から「もう来なくて良いよ」と告げられ、退職を余儀なくされた。幼いころから大好きだった福島。「心の土台でした。でも、原発事故のせいで全て壊されてしまいました」。
 「原発事故さえ無ければ、避難を巡って家族間で確執が生じる事もありませんでした」。そう語ったのは40代女性(福島市)。〝専門家〟がいくら「安全安心」を口にしても被曝に対する不安は解消されるものでは無い。低線量被曝への不安を抱きながらの7年間。主尋問では、撤去が決まった巨大モニュメント「サン・チャイルド」について「大変哀しく、悔しい気持ちになりました。そして傷つきました。私たちの苦労や苦悩を表現出来るものでは無いと考えたからです」と語った。学校長に除染を求めると「あなたのように不安を抱いていたら、子どもたちが不安になりますよ」と言われ傷ついた事もあった。
 50代女性(福島市)は「原発事故は人災です。穏やかな生活を奪った東電を許せません」と怒りを口にした。「食べ物がきちんと検査されて店頭に並んでいる事は知っています。でも、原発事故前は『汚染無し』でした。今でも子や孫には福島県外産の物を食べさせています」。
 これが、公的避難制度が無い中で被曝リスクを避けながら中通りで生活し続けている人々の「日常」なのだ。










被告東電の代理人弁護士が提出した準備書面(14)。100ページ超の書面でこれまでの主張を繰り返し、原告たちが主張する「精神的損害」や「今なお抱いている不安」を全面的に否定している

【「私たちのつらさや苦しみ理解して」】
 勤務先の空間線量が40~60μSv/hにまで達していた事、家庭菜園を断念した事、子どもたちが福島に戻らなくなり、家族の団らんを奪われた事。60代女性(福島市)も、緊張感漂う法廷で様々な〝被害〟を訴えた。しかし、被告東電の代理人弁護士は意に介せず、これまでと同様の主張を反対尋問で繰り返した。
 「『ふくしま市政だより』や地元紙は当時から、健康に影響は無い、外遊びや洗濯物の室外干しも問題無い、という専門家の意見を掲載している」
 「自然放射線による被曝線量の世界平均が年間約1・5mSvである事とか、インドやブラジル、イラン、イタリアには自然放射線量が高い地域がある事を知っているか」
 「専門家は『現在の状況では、健康リスクが出ると言われる100mSvまで累積される可能性はありません』と言っている」
 原発事故の〝加害者〟からの上から目線の主張に、敢然と反論したのが40代女性(福島市)だった。
 「私たち福島県民を全く理解していないと感じます。私の自宅の庭で言えば、原発事故前の約5倍の放射線量。その中でずっと、普通の生活を心がけて我慢しつつ生きているんです。その事を全く理解してくれていない。誰がどんな〝安全基準〟を持って来ようとも、決して解消されない、つらくて苦しい毎日なんです。その事を分かってもらいたいと強く、強く思います」
 原告の代理人を務める野村吉太郎弁護士も閉廷後、「東電の反対尋問は、無意味な主張の繰り返し。〝安全安心神話〟を押し付けるばかりで全く心に響いて来ない。いかに虚しいものか。皆さんの大切な家族に現実に被害が及んでいる、あるいは皆さん自身の健康が害されている。それは事実。それらに正面から向き合わないで新聞記事や市政だよりを出されても、何の関係があるのか」と原告たちの前で語った。
 次回口頭弁論期日は11月15日午前10時45分。2019年3月まで、原告本人尋問が続く。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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