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【自主避難者から住まいを奪うな】井戸謙一弁護士が意見陳述。「避難を継続する必要がある限り、住宅の確保は国や福島県の責務だ」~〝米沢追い出し訴訟〟第5回口頭弁論

原発事故による〝自主避難者〟が被告となった異例の〝米沢追い出し訴訟〟(雇用促進住宅明け渡し訴訟)の第5回口頭弁論が18日夕、山形県山形市の山形地裁3号法廷(貝原信之裁判長)で開かれた。この日の弁論は15分足らずで終了。被告側弁護団から井戸謙一弁護士が準備書面(3)について補足説明の形で意見陳述し、避難の必要性は今なお継続している事、国や福島県には避難者の住宅を保障する責務がある事などを改めて主張した。避難継続の合理性については今後、土壌汚染濃度などを用いて立証していく方針。次回口頭弁論は11月20日16時から行われる。


【「住宅明け渡せ、は権利の濫用だ」】
 意見陳述で、井戸弁護士は「被告(避難者)と福島県との間で2012年4月1日に使用貸借契約が成立したが、期間が問題。当初は2年間とされ、その後1年ごとに更新されてきた。これは内閣府告示第228号に基づくが、この告示中、期間に関する部分は福島原発事故被災者に適用する限りにおいて、災害救助法の委任の趣旨を逸脱して違法であり無効。借り上げ型仮設住宅の供与によって成立した福島県と被告らとの使用貸借契約は期間の定めの無いものであって、避難の必要という『目的』が継続する限り、使用貸借契約も継続していると解釈するべき」と主張した。
 「災害救助法に基づく『救助』は、必要性がある限り継続されなければならない。放射能被害は自然災害による被害と異なり極めて長期間に及ぶ。救助の必要性も長期間に及ぶ。国には規制権限不行使により原発事故を招いたという不法行為上の責任、避難指示区域外避難者に対する住宅確保を定めた『子ども被災者支援法』上の責任も有している。避難を継続する必要性がある限り、避難者の住宅を確保する事は国の責務であり、救助の主体である福島県の責務である」
 準備書面ではさらに、権利濫用についても抗弁している。
 井戸弁護士は「原告や参加人(ファースト信託株式会社)が被告らに対して本件住宅の明け渡しを求めるのは権力の濫用だ。災害救助の責任が国にあり、福島県は国の責務を代行する構造だが、国には〝加害者〟としての責任、『子ども被災者支援法』上の責任に加え、国連人権委員会に提出された専門家文書である『国内強制移動に関する指導原則』に対する国際法上の義務がある。原告は極めて公共性の高い独立行政法人であり、災害救助に関しては国と一体となって責任を負う立場だ」と主張。「被告らは現在においても避難を継続する必要性がある。原告が被告らの使用借権を否定して住宅の明け渡しを求める事は権利の濫用として許されない」。
 住宅の無償提供継続を求める争いは、避難継続の合理性をいかに立証していくかが核となる。弁護団は今後、土壌汚染濃度が低下していない事など、今なお放射線被曝による健康被害のリスクが否定できない点について立証していく方針。








①山形地裁へ向かう被告や支援者。前列左から2番目が武田徹さん。報告集会では望んで避難した人はいない。安倍晋三首相は、全国の避難者を訪ねて声を聴くべきだ」と語った
②法廷で意見陳述した井戸謙一弁護士。「避難を継続する必要がある限り避難者の住宅を確保する事は国や福島県の責務」などと、改めて使用借権を主張した
③今回の口頭弁論期日にも、山形県内外から多くの支援者が集まった。27の一般傍聴席に対し、47人が傍聴を希望して抽選が行われた
④「かながわ訴訟」原告団長の村田弘さんも傍聴。報告集会では「『避難の権利』の基本は住宅。避難指示区域の住宅提供も打ち切られることになり国内難民が難民テントを奪われる事態になる」と語った

【「安倍首相は避難者の声を聴け」】
 閉廷後の報告集会で、被告の1人である武田徹さん(福島県福島市から山形県米沢市への避難を継続中)は「一人一人が出来る事をやっていく」と改めて力を込めた。
 この日の夕方には、自民党総裁選挙中の安倍晋三首相が福島県を訪問。福島市内のホテルで亀岡偉民衆院議員の講演会に出席してあいさつしたほか、福島県選出の国会議員や県議会議員らと会食をした。武田さんは「国民あっての国。悩み、苦しんでいる国民を助けるのが政府だ。原発事故で望んで避難した人は1人もいない。この重みを受け止めて、助ける施策を講じるべきだ。住宅の無償提供は打ち切らずに継続して欲しい。山形であげた声が全国に広がって欲しい。全国の避難者を訪ねて、意見を聴いた上で支援策を講じる。それが本来の安倍晋三首相の仕事だと思う」と語った。
 7月に結審、来年2月20日の判決言い渡しを待つ「福島原発かながわ訴訟」原告団長の村田弘さん(福島県南相馬市から神奈川県横浜市への避難を継続中)も駆け付け、傍聴した。
 村田さんは、報告集会で「福島県の内堀雅雄知事は先月、今度は避難指示区域の人たちの住宅提供も打ち切ると平気で発表した。『避難の権利』の基本は住宅。国内難民が難民テントを奪われる事態になる。避難指示区域外避難者への住宅無償提供は昨年3月末で打ち切られたが、追い詰められた方は路頭に迷い、中には自ら命を絶たなければいけなくなった人もいる。悲惨な事態が進行している。それらには一切目をつむり、2020年の東京五輪までに避難者をゼロにする、というとんでも無いビジョンに向かってしゃにむに進んでいる。それが国と福島県の姿だ。山形の皆さんと一緒に闘って壁を破っていきたい」とあいさつした。
 井戸弁護士の意見陳述にあたっては、貝原裁判長が「準備書面(3)の概要についてとおっしゃいましたが書面は既に読んでいる。何か補足があるんですか?」、「簡潔にお願いします」と発言。難色を示す場面があった。閉廷後の報告集会で、弁護団の佐藤欣哉弁護士(山形県山形市)は「書面を読んでいるから陳述なんか要らないと言わんばかりの対応だった。あの裁判官は、こちら側に目を向けていない。被害者の立場を分かっているのであれば、時間なんか十分にあるのだから。提出した準備書面を口頭で説明するのには、ああいう裁判官の目をこちら側に向けさせる意味もある」と批判した。




(上)被告側が9月14日付で提出した準備書面(3)では、原発事故による避難の合理性が今なお継続している事、放射能災害は他の自然災害とは異なる事、国や福島県には国際法上も住宅を保障する義務がある事などを主張している
(下)山形県が今年7月に実施した避難者アンケートでは、40・5%が「住まいに関する不安」を挙げ、73・5%が「もうしばらく山形県で生活したい」「山形県に定住したい」と答えている

【7割超が「山形への避難続けたい」】
 山形県の「広域支援対策本部避難者支援班」は今年7月、山形県内に避難している702世帯を対象にした郵送でのアンケート調査を実施。200世帯から回答を得たが、「今の生活で困っていること、不安なこと」で「住まい」を挙げたのは40・5%だった。2年前の52・6%より減ってはいるが、依然として住宅に関する困難さが表れている。「今後の予定について」では、「もうしばらく山形県で生活したい」、「山形県に定住したい」が合計73・5%に上り、「避難元の県に戻って生活したい」は7・5%にとどまった。2年前の調査では、「避難元の県に戻って生活したい」が13・5%だった。
 「もうしばらく山形県で生活したい」、「山形県に定住したい」と回答した人のうち、理由に「放射線の心配が少ないため」を挙げた人は46・3%。「子どもが就学したため」は40・1%だった。自由記入欄には「家賃補助を延長してほしい。借上げ住宅にかわる支援をしてほしい」、「甲状腺検査をどこでも受けられるようなシステムにしてほしい」、「放射性物質の検査を継続し、引き続き公表してほしい」、「高速道路の無料化を延長してほしい」、「原発はまだまだ収束していない。県内外問わず支援を続けてほしい」、「避難者の現状を理解してほしい」などの意見が寄せられた。本来、このような調査を実施するべき福島県はしかし、避難者の実態調査について今後も行わないとの姿勢を貫いている。 
 2020年7月24日の東京五輪開会式に向けて加速する避難者切り捨て。7月22日には、開会式に先立ち、ソフトボールの試合が福島県福島市で始まる。同年3月26日には、聖火リレーが福島県から始まる。「復興五輪」の大合唱の中、被曝リスクを理由に福島に戻らない避難者は「ごく一部の神経質な人」、「福島が依然として危険であるかのように誤解を招く」などとして消される。来月の福島県知事選挙で再選が確実視されている内堀雅雄知事は、風評払拭に利するような団体や個人とは積極的に面会するが、避難者との直接対話は避け続けている。
 消されてたまるか、と声をあげているのが山形県米沢市内の雇用促進住宅に入居する〝自主避難者〟8世帯。本来ならしなくていい闘いは、さらに避難生活を疲弊させる。「平穏な生活を返して!」という避難者の願いに、国も福島県も真摯に向き合う必要がある。そして、一日も早い訴訟取り下げが求められる。



(了)
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鈴木博喜

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