【モニタリングポスト撤去】白河市で住民説明会。「まだ『平常時』で無い」「合理性ばかり求めるな」。相次ぐ反対。「廃炉作業が完了するまで継続を」
- 2018/10/01
- 07:17
「リアルタイム線量測定システム」と呼ばれるモニタリングポスト(MP)の撤去計画問題で、原子力規制庁は9月30日午前、福島県白河市内で住民説明会を開いた。6月25日に福島県南会津郡只見町で始まった住民説明会は、今回で11市町村目。雨も影響したか参加者は29人と少なかったが、全ての意見が「反対」。白河市民も「福島第一原発の廃炉作業が完全に終わるまで設置を継続して欲しい」と求めた。原子力規制庁は現段階では2021年3月末までの撤去方針を撤回せず、来年度も含めて住民説明会を続けていく構え。しかし現実には、もはや「2021年3月末までの撤去」は困難になった。次の説明会は10月12日から3日間、いわき市で開かれ、11月の二本松市、伊達郡国見町と続く。
【『平常』に噴出した市民の怒り】
撤去に賛成する意見は無かった。むしろ、増設を望む声すらあった。会場に集まったのは29人で、空席の方が圧倒的に多いほど。しかし、空間線量が低下して平常値になった、という理由で霞が関の官僚たちに原発事故を無かった事にされてたまるか、という想いがあふれていた。象徴的だったのが、男性が口にした次のような意見だった。
「規制庁は『空間線量が下がってきているから平常時のモニタリング体制に戻す』と言っているが、ここで言う『平常時』とは何の事を言っているのか。よく分からない。廃炉作業が行われていて、いつ、再び放射性物質が放出されるか分からないのだから、明らかに『平時』では無いと思う。なぜ、このタイミングでMPを撤去するという話になるのか。そもそもMPは誰のためにあるのか。平常時だからと言って外すのは、もう安全だと言うためなのか。果たして安全だと言えるのだろうか。『線量が下がったから撤去する』というのは、理屈に合っているようで合っていないのではないか」
これに対し、原子力規制庁監視情報課の武山松次課長は「空間線量の低下」と「合理化」を挙げた。
「空間線量が昔は高い状況にあった。だんだん低くなってきて全国平均レベルになってきている。という事はMPを置く必要は無いのではないか、ということで見直しをしている。低くなっているからこそ合理化出来る。MPの維持管理は復興特別会計で賄っている。これは2021年3月で今の法律上は切れてしまう。そういう事もあるので、今のうちから合理化出来るかどうかという事について検討しなきゃいけない。『原子力緊急事態宣言』がまだ解除されていないので、まだ緊急事態が続いていると考えている。ただ、事故が起きた時に比べたら放射線量は下がってきている。モニタリングもそれに相応しい形に変えていく必要がある。『平常時』というのは『原発事故じゃ無い時』という事だ」
別の男性も「平常」という国の認識に怒りをぶつけた。
「私は表郷という農村地帯に住んでいる。確かに自宅は除染してもらったが、周囲はスギ林。山林は除染されていない。先ほどから『平常時に戻って来ている』と言っているが、私にとっては自宅の周りは高い所だらけ。平常の場所では無いという事です。我々の生活空間は完全には除染されていない。『平常』になるには何十年もかかると考えている。MPだけを持って、白河市が『平常』だなんて言わないで欲しい。山林の入り口や中にもMPを設置して欲しいくらいだ」




①住民説明会で配られた資料を手に反対意見を述べる女性。意見を述べた全員が撤去に反対した=白河信用金庫新白信ビル
②空席が目立った住民説明会。台風24号の接近も影響してか、参加者は29人にとどまった。参加者からは「これしか集まらなくて残念」、「あきらめムードに入っている」との指摘もあった
③④JR白河駅近くの公園に設置されているリアルタイム線量測定システム。説明会では「廃炉作業が完了するまでの継続設置」を求める声が相次いだ
【「無関心の背景に不信感、あきらめ」】
会場となった白河信用金庫のホールは、最大で約200人を収容出来る。しかし、台風24号が接近した事も影響したのか、説明会に集まったのはわずか29人にとどまった。空席の方が圧倒的に多くなった状況に、参加した市民からは「こんな大事な時に、これしか集まらない。残念だ。まだまだ無関心層が多いのだろう。そもそも、どのようにして地域住民に知らせたのか。説明会がある事そのものを知らない市民もいる中で、住民説明会は終わったから方針通りに進める、という段取りになるのだろう」、「なぜこれしか来ないのか。市民の無関心、もうあきらめムードに入っている。あきらめの原因を考えると、原発を建設した時から国と東電は嘘しかついていない。本当の事を言っていない。今でも疑心暗鬼です」との声も出た。
普段から、MPの数値を確認しているという女性は「空間線量が下がっていると言うが、平均だから高い所と低い所がある。MPの数値を見て、ある程度安心感が得られる。自分自身で目で見て安心のバロメータを少しでも欲しい。撤去には反対です。7年半が過ぎたが、常に不安を持って暮らしている」と語った。
別の男性は「(MPが存在する事で)風評被害が心配だという声もあるようだが、一時的に訪れる観光客に配慮するよりも、原発事故の影響下で不安な毎日を過ごしている福島県民を優先するべきだ。MPが撤去されれば、観光客や外国の方々が『福島県ではもう原発事故は終わった』と認識して、その認識の下で福島県民は切り捨てられるのではないかという不安がある。また、原発事故を起こしたのは国と東電。事故を起こした〝加害者〟が経費がかかる事を理由にするのは無責任だと思う」と述べた。
「いまだに山菜は危なくて食べられない状況なのに、合理性ばかりを求めないで欲しい。自分の目で確かめられるのはとても大切だ」と語ったのは農家の男性。別の60代男性は「撤去する事自体がナンセンス。話にならん。放射性物質は土地に浸みこんでしまっているからどうしようもない。廃炉作業が完了してから撤去を提案するのが筋だ」と激しい口調で話した。
「経費がかかると言うが、東電に求償するべきだ」、「トリチウム汚染水を東京湾に流したらどうか。福島の電力を使っているのは東京じゃないか」、「維持管理費を今後、福島の市町村に負担させるのか心配」という声もあった。説明会は予定通り、正午で終了した。


(上)原子力規制庁が会場で配っている資料ではまず、住民説明会について「皆様と一緒に考える会」と表現している。原子力規制庁監視情報課の武山松次課長は、この日も「あくまで1つの案」、「皆さんの意見は原子力規制委員会にきちんと報告する」と述べた
(下)「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が福島県議会の各会派に送った公開質問状の一部。5つの質問にまともに答えたのは共産党だけだった
【鈴木市長は継続設置を国に要望】
白河市内で撤去対象となっているのは93台。このうち、城山公園に設置されていた1台が今年9月に撤去されたので現状では92台だが、これは施設の増築工事に伴う一時的な撤去。白河市環境保全課の担当者によると「移設場所に関する文化庁との協議が終わり次第、敷地内に再設置する予定になっている」という。
鈴木和夫市長は9月7日の市議会本会議で、大竹功一市議の一般質問に対し「モニタリングポストは、身近な場所に設置されている事によって、自分の目で数値を確認出来る事で日常生活の安心につながっている事から撤去する事に反対の声があり、市民団体からも継続設置を求める要請を受けている。市ではMP以外にも月2回、市内373カ所で空間線量を測って公表して不安解消に努めている。一方で、空間線量が下がりMPの存在自体が風評につながっているとの意見もある。しかしながら、小さいお子さんを持つ保護者をはじめ撤去に不安を感じている方々の心情をくみ取り、現状のまま維持する事を国に対し要望する考えだ」と答弁。既に市長名で国に要望書を提出したという。
この日も地元メディアの取材は少なく、閉会後の囲み取材は筆者のみ。取材に応じた武山課長は「今の方針を見直すかどうかも含めて、規制委員会にきちんと出された意見を報告しなければいけない。撤去方針を決めるのは私では無く委員会。私自身に決定権は無い。委員会に報告し、結果として撤回されるかもしれない」と答えた。一方で「今すぐ全部を撤去するというわけでは無いから。そもそも数年かけて撤去するという計画」と述べ、段階的な撤去は否定しなかった。東電への経費求償については「御意見は報告するが、検討するかどうかも含めて委員会で検討する事になるかもしれない」と答えるにとどまった。
MPの継続設置を願う住民の間には、説明会への参加人数が少ない事がマイナスに働くのではないかとの不安感がある。これには、武山課長は「難しいところ。参加人数が少ないからと言って関心が低いとは断言出来ないと思う。事実として参加人数を報告するだけ。評価は加えられない」と述べた。周知方法への批判的な意見がこの日も出たが、「行政の広報紙は全戸配布されており、そこで周知するのが一番良い。これ以上の事が出来るかというと難しい」。今後の流れについては「住民説明会が開かれない市町村は状況を見ているだけかもしれない。初めから撤去反対で固まっているから説明会は不要と考えているのかもしれない。賛成している市町村も確かにある。そこは何とも言えない。オファーがあったら開くだけ。来年度も市町村からの希望があれば開く」と答えた。
(了)
【『平常』に噴出した市民の怒り】
撤去に賛成する意見は無かった。むしろ、増設を望む声すらあった。会場に集まったのは29人で、空席の方が圧倒的に多いほど。しかし、空間線量が低下して平常値になった、という理由で霞が関の官僚たちに原発事故を無かった事にされてたまるか、という想いがあふれていた。象徴的だったのが、男性が口にした次のような意見だった。
「規制庁は『空間線量が下がってきているから平常時のモニタリング体制に戻す』と言っているが、ここで言う『平常時』とは何の事を言っているのか。よく分からない。廃炉作業が行われていて、いつ、再び放射性物質が放出されるか分からないのだから、明らかに『平時』では無いと思う。なぜ、このタイミングでMPを撤去するという話になるのか。そもそもMPは誰のためにあるのか。平常時だからと言って外すのは、もう安全だと言うためなのか。果たして安全だと言えるのだろうか。『線量が下がったから撤去する』というのは、理屈に合っているようで合っていないのではないか」
これに対し、原子力規制庁監視情報課の武山松次課長は「空間線量の低下」と「合理化」を挙げた。
「空間線量が昔は高い状況にあった。だんだん低くなってきて全国平均レベルになってきている。という事はMPを置く必要は無いのではないか、ということで見直しをしている。低くなっているからこそ合理化出来る。MPの維持管理は復興特別会計で賄っている。これは2021年3月で今の法律上は切れてしまう。そういう事もあるので、今のうちから合理化出来るかどうかという事について検討しなきゃいけない。『原子力緊急事態宣言』がまだ解除されていないので、まだ緊急事態が続いていると考えている。ただ、事故が起きた時に比べたら放射線量は下がってきている。モニタリングもそれに相応しい形に変えていく必要がある。『平常時』というのは『原発事故じゃ無い時』という事だ」
別の男性も「平常」という国の認識に怒りをぶつけた。
「私は表郷という農村地帯に住んでいる。確かに自宅は除染してもらったが、周囲はスギ林。山林は除染されていない。先ほどから『平常時に戻って来ている』と言っているが、私にとっては自宅の周りは高い所だらけ。平常の場所では無いという事です。我々の生活空間は完全には除染されていない。『平常』になるには何十年もかかると考えている。MPだけを持って、白河市が『平常』だなんて言わないで欲しい。山林の入り口や中にもMPを設置して欲しいくらいだ」




①住民説明会で配られた資料を手に反対意見を述べる女性。意見を述べた全員が撤去に反対した=白河信用金庫新白信ビル
②空席が目立った住民説明会。台風24号の接近も影響してか、参加者は29人にとどまった。参加者からは「これしか集まらなくて残念」、「あきらめムードに入っている」との指摘もあった
③④JR白河駅近くの公園に設置されているリアルタイム線量測定システム。説明会では「廃炉作業が完了するまでの継続設置」を求める声が相次いだ
【「無関心の背景に不信感、あきらめ」】
会場となった白河信用金庫のホールは、最大で約200人を収容出来る。しかし、台風24号が接近した事も影響したのか、説明会に集まったのはわずか29人にとどまった。空席の方が圧倒的に多くなった状況に、参加した市民からは「こんな大事な時に、これしか集まらない。残念だ。まだまだ無関心層が多いのだろう。そもそも、どのようにして地域住民に知らせたのか。説明会がある事そのものを知らない市民もいる中で、住民説明会は終わったから方針通りに進める、という段取りになるのだろう」、「なぜこれしか来ないのか。市民の無関心、もうあきらめムードに入っている。あきらめの原因を考えると、原発を建設した時から国と東電は嘘しかついていない。本当の事を言っていない。今でも疑心暗鬼です」との声も出た。
普段から、MPの数値を確認しているという女性は「空間線量が下がっていると言うが、平均だから高い所と低い所がある。MPの数値を見て、ある程度安心感が得られる。自分自身で目で見て安心のバロメータを少しでも欲しい。撤去には反対です。7年半が過ぎたが、常に不安を持って暮らしている」と語った。
別の男性は「(MPが存在する事で)風評被害が心配だという声もあるようだが、一時的に訪れる観光客に配慮するよりも、原発事故の影響下で不安な毎日を過ごしている福島県民を優先するべきだ。MPが撤去されれば、観光客や外国の方々が『福島県ではもう原発事故は終わった』と認識して、その認識の下で福島県民は切り捨てられるのではないかという不安がある。また、原発事故を起こしたのは国と東電。事故を起こした〝加害者〟が経費がかかる事を理由にするのは無責任だと思う」と述べた。
「いまだに山菜は危なくて食べられない状況なのに、合理性ばかりを求めないで欲しい。自分の目で確かめられるのはとても大切だ」と語ったのは農家の男性。別の60代男性は「撤去する事自体がナンセンス。話にならん。放射性物質は土地に浸みこんでしまっているからどうしようもない。廃炉作業が完了してから撤去を提案するのが筋だ」と激しい口調で話した。
「経費がかかると言うが、東電に求償するべきだ」、「トリチウム汚染水を東京湾に流したらどうか。福島の電力を使っているのは東京じゃないか」、「維持管理費を今後、福島の市町村に負担させるのか心配」という声もあった。説明会は予定通り、正午で終了した。


(上)原子力規制庁が会場で配っている資料ではまず、住民説明会について「皆様と一緒に考える会」と表現している。原子力規制庁監視情報課の武山松次課長は、この日も「あくまで1つの案」、「皆さんの意見は原子力規制委員会にきちんと報告する」と述べた
(下)「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が福島県議会の各会派に送った公開質問状の一部。5つの質問にまともに答えたのは共産党だけだった
【鈴木市長は継続設置を国に要望】
白河市内で撤去対象となっているのは93台。このうち、城山公園に設置されていた1台が今年9月に撤去されたので現状では92台だが、これは施設の増築工事に伴う一時的な撤去。白河市環境保全課の担当者によると「移設場所に関する文化庁との協議が終わり次第、敷地内に再設置する予定になっている」という。
鈴木和夫市長は9月7日の市議会本会議で、大竹功一市議の一般質問に対し「モニタリングポストは、身近な場所に設置されている事によって、自分の目で数値を確認出来る事で日常生活の安心につながっている事から撤去する事に反対の声があり、市民団体からも継続設置を求める要請を受けている。市ではMP以外にも月2回、市内373カ所で空間線量を測って公表して不安解消に努めている。一方で、空間線量が下がりMPの存在自体が風評につながっているとの意見もある。しかしながら、小さいお子さんを持つ保護者をはじめ撤去に不安を感じている方々の心情をくみ取り、現状のまま維持する事を国に対し要望する考えだ」と答弁。既に市長名で国に要望書を提出したという。
この日も地元メディアの取材は少なく、閉会後の囲み取材は筆者のみ。取材に応じた武山課長は「今の方針を見直すかどうかも含めて、規制委員会にきちんと出された意見を報告しなければいけない。撤去方針を決めるのは私では無く委員会。私自身に決定権は無い。委員会に報告し、結果として撤回されるかもしれない」と答えた。一方で「今すぐ全部を撤去するというわけでは無いから。そもそも数年かけて撤去するという計画」と述べ、段階的な撤去は否定しなかった。東電への経費求償については「御意見は報告するが、検討するかどうかも含めて委員会で検討する事になるかもしれない」と答えるにとどまった。
MPの継続設置を願う住民の間には、説明会への参加人数が少ない事がマイナスに働くのではないかとの不安感がある。これには、武山課長は「難しいところ。参加人数が少ないからと言って関心が低いとは断言出来ないと思う。事実として参加人数を報告するだけ。評価は加えられない」と述べた。周知方法への批判的な意見がこの日も出たが、「行政の広報紙は全戸配布されており、そこで周知するのが一番良い。これ以上の事が出来るかというと難しい」。今後の流れについては「住民説明会が開かれない市町村は状況を見ているだけかもしれない。初めから撤去反対で固まっているから説明会は不要と考えているのかもしれない。賛成している市町村も確かにある。そこは何とも言えない。オファーがあったら開くだけ。来年度も市町村からの希望があれば開く」と答えた。
(了)
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