【92カ月目の福島市はいま】渡利地区の汚泥は3万5000Bq/kg超! 「安全」ではなかった住民自身による側溝「土砂上げ」。岡部地区でも1万3000Bq/kg上回る
- 2018/11/18
- 09:55
福島県福島市が、原発事故以来となる住民自身による側溝「土砂上げ」を再開した問題で、11月6日号で取り上げた渡利地区の側溝から出た汚泥の放射能濃度が、3万5000Bq/kgを超えていた事が分かった。10月31日号で取り上げた岡部地区の汚泥も1万3000Bq/kg超。共産市議は12月市議会で市当局の姿勢を質す構えだが、これだけの数値が出てもなお、市側は「問題無い」との考えを貫いている。原発事故以降、行政は放射線による被曝リスクから住民を守らない。被曝回避に消極的な姿勢が改めて浮き彫りになった。
【市「8000Bq/kg超との報告無い」】
本紙は住民の許可を得て、福島市渡利舘ノ前地区(作業日=11月4日)と福島市岡部大旦地区(作業日=10月28日)の側溝土砂上げで生じた汚泥の一部を採取。NPO法人「ふくしま30年プロジェクト」(福島市飯坂町一本松)に放射能濃度の測定を依頼した。
その結果、渡利舘ノ前地区の汚泥は実に3万5930Bq/kgに達した。この問題を6月の市議会で取り上げた小熊省三市議(日本共産党福島市議会議員団)は作業日当日、市役所から借り受けた線量計で渡利地区の21カ所で空間線量(汚泥の入った麻袋からの距離は10センチ)を測った。今回、3万5930Bq/kgに達した汚泥の空間線量は1・4μSv/hを超えていた。汚泥は、花見山ふもとの茶屋が見える閑静な住宅街で、住民の男性が側溝から取り除いたものだった。
また、岡部大旦地区の汚泥も1万3410Bq/kgと高い値となった。新聞店などがあり、路線バスが通る車道沿いの側溝から地域の男性たちが取り除いた汚泥。町会長を務める鴫原久さんが、やはり市役所から借りた線量計を近付けて空間線量を測ったが、0・7μSv/hを上回っていた。岡部大旦地区に関しては、別の側溝から取り除かれた汚泥の測定も依頼したが、こちらは4466Bq/kgだった。
福島市環境部清掃管理課ごみ減量推進係によると、土砂上げで側溝から取り除かれた汚泥は麻袋に入れられ現場保管。数日後に回収され、同市飯坂町の産業廃棄物処分業者「クリーンテック社」に持ち込まれる。
清掃管理課ごみ減量推進係の担当者は、本紙の取材に対し「搬入する際に測るので、仮に8000Bq/kgを超える汚泥が見つかった場合には、こちらに報告をいただくようになっています。その場合は指定廃棄物となりクリーンテック社では受け入れられないので、市と環境省とで協議をして処分することになります」と答えていたが、今月16日現在、同社からは8000Bq/kgを超える汚泥が見つかったとの報告は無いという。



原発事故後、7年ぶりに再開された、住民自身の手による側溝「土砂上げ」。渡利地区でも複数の町会が実施したが、渡利舘ノ前地区の汚泥は3万5000Bq/kgを上回った。小熊市議測定による空間線量も1・4μSv/h超。しかし、福島市は事前の測定も事後の測定も行わず「市放射能対策アドバイザーの石井慶造先生(東北大学教授)からは『健康に影響無いですよ』という話を電話でいただいている」としてゴーサインを出した
【「連続してその場に居ないと影響ない」】
今回、本紙の調査で8000Bq/kgを超えている事が分かった検体(汚泥)は、処分方法に困った住民が福島市環境課に相談した結果、市職員が回収した。現在、市の「放射線モニタリングセンター」(福島市桜木町)で遮蔽保管されているという。環境課によると、これから処分方法について福島県も交えて環境省と協議するという。
しかし、今回はたまたま、汚泥の放射能濃度が8000Bq/kgを超えている事が分かったが、この汚泥を含む全ての汚泥は「クリーンテック社からの報告が無い以上、安全に運用されているというのが福島市の認識」(清掃管理課ごみ減量推進係)。そのため、遮蔽保管される事無く、一般廃棄物として処分される。市は作業前も後も、空間線量も汚泥の放射能濃度も測定しない方針を貫いているため、町内会や住民が自主的に測らない限り、数値は表面化しない。環境課環境衛生係の担当者が取材に対し、こう答えている。
「土砂上げをするのはせいぜい1時間程度ですよね。仮に汚泥の線量が高かったとしても、24時間側溝脇に居るわけではありません。市放射能対策アドバイザーの石井慶造先生(東北大学教授)からは『健康に影響無いですよ』という話を電話でいただいています。再除染は終了していますし、そもそも土砂上げは再除染とは関係ありません。作業前後の空間線量を測定するような指示も特に出しておりません」
大旦町会長の鴫原久さんによると、市職員は空間線量の測定結果を報告した鴫原さんに対し、やはり「この数値では、連続してその場に居ないと人体に影響が出るものでは無い」と同じような内容の言葉で「問題無し」と伝えたという。原発事故から7年半が経過しても、行政は放射線被曝のリスクから住民を積極的に守ろうとしない。
作業日当日に渡利地区を巡って調べた小熊市議は「側溝の汚泥が8000Bq/kgを超えるものだった事は、今回の『土砂上げ』が各町会で自主的に実施した(市が強制的に住民にやらせたのでは無い)とはいえ、事前の情報提示が不適切です。市民の安全を守るべき市は、事前に側溝の空間線量(μSv/h)や汚泥の放射能濃度(Bq/kg)を測定し結果を示した上で、市内の各町会と実施箇所などを相談するべきでした」と市の姿勢を批判する。
「8000Bq/kgを超えるものは速やかに中間貯蔵施設へ運び出すべきです。さらに、市内で実施された側溝土砂上げで生じた汚泥の放射能濃度を公表することが市には求められます」
小熊市議は今回の測定結果もふまえて、12月7日から始める予定の市議会一般質問で取り上げる構えだ。



岡部大旦地区の側溝から取り除かれた汚泥からも、1万3000Bq/kgを上回る高い値が検出された。町会長の鴫原久さんは「高い値に驚きました。私が計測した空間線量は市に報告済みですが、市は再除染など特に動く事は無いようです。来年も今年のように実施すると言っていました」と話した
【専門家「とても安全とは言えない」】
「『放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律』は、放射性同位元素の使用や保管、移動、廃棄について規定・規制しています。同法は第一条で『放射性同位元素又は放射性汚染物の廃棄その他の取扱いを規制することにより、これらによる放射線障害を防止し、公共の安全を確保する』と目的をうたっていますが、3万5000Bq/kgという放射能濃度は、とても安全とは言えないと思います。そこにある放射性物質が『法的な意味での放射性同位元素である』ということです」
そう語るのは、京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻の元教務職員・河野益近さん。
河野さんは、さらに「原子力災害対策特別措置法が言うところの、原子力緊急事態宣言下の『対策区域』(緊急事態応急対策を実施すべき区域)以外の汚染したビニールシートや屋根瓦などは、汚染のレベルに関わらず産業廃棄物として広域処理されているはずです。これは福島だけの問題ではありません。解体家屋の汚染された木材は、バイオマス発電の燃料に使われる可能性も考えられます」と汚染廃棄物の問題点を重ねて指摘している。
大旦町会長の鴫原さんは「数値が高くて驚きました。しかし、市は再除染など特別何かをするという事は無く、今のところ来年も市民による土砂上げを行う予定とのことでした」と話した。鴫原さんは自身で測定した空間線量も含め、側溝の土砂上げで明らかになった数値を比較的冷静に受け止めている。生活上の必要性もあり、来年も土砂上げを行う意向を持っている。
市民自身による側溝土砂上げ再開にあたっては、市はあまりにも安全論に立ち過ぎた。クリーンテック社がどのような方法で持ち込まれた汚泥を測定しているのかについても、詳細に把握していない。
汚泥の測定方法や市に報告する数値基準について同社に電話で問い合わせたが、責任者という男性が「守秘義務もあり、こちらからは答えられない。市に伝えるので市職員に尋ねて欲しい」と繰り返すばかりだった。一方、市清掃管理課ごみ減量推進係の担当者は「クリーンテック社では、計量所と運搬車両から降ろした場所で空間線量を測定している。8000Bq/kgを超えた場合、同社から報告が来る事になっている」とメールで答えた。だが、この市の説明には空間線量と放射能濃度が混同されており、答えになっていない。その点を再度、メールで質したが、返信は無かった。
(了)
【市「8000Bq/kg超との報告無い」】
本紙は住民の許可を得て、福島市渡利舘ノ前地区(作業日=11月4日)と福島市岡部大旦地区(作業日=10月28日)の側溝土砂上げで生じた汚泥の一部を採取。NPO法人「ふくしま30年プロジェクト」(福島市飯坂町一本松)に放射能濃度の測定を依頼した。
その結果、渡利舘ノ前地区の汚泥は実に3万5930Bq/kgに達した。この問題を6月の市議会で取り上げた小熊省三市議(日本共産党福島市議会議員団)は作業日当日、市役所から借り受けた線量計で渡利地区の21カ所で空間線量(汚泥の入った麻袋からの距離は10センチ)を測った。今回、3万5930Bq/kgに達した汚泥の空間線量は1・4μSv/hを超えていた。汚泥は、花見山ふもとの茶屋が見える閑静な住宅街で、住民の男性が側溝から取り除いたものだった。
また、岡部大旦地区の汚泥も1万3410Bq/kgと高い値となった。新聞店などがあり、路線バスが通る車道沿いの側溝から地域の男性たちが取り除いた汚泥。町会長を務める鴫原久さんが、やはり市役所から借りた線量計を近付けて空間線量を測ったが、0・7μSv/hを上回っていた。岡部大旦地区に関しては、別の側溝から取り除かれた汚泥の測定も依頼したが、こちらは4466Bq/kgだった。
福島市環境部清掃管理課ごみ減量推進係によると、土砂上げで側溝から取り除かれた汚泥は麻袋に入れられ現場保管。数日後に回収され、同市飯坂町の産業廃棄物処分業者「クリーンテック社」に持ち込まれる。
清掃管理課ごみ減量推進係の担当者は、本紙の取材に対し「搬入する際に測るので、仮に8000Bq/kgを超える汚泥が見つかった場合には、こちらに報告をいただくようになっています。その場合は指定廃棄物となりクリーンテック社では受け入れられないので、市と環境省とで協議をして処分することになります」と答えていたが、今月16日現在、同社からは8000Bq/kgを超える汚泥が見つかったとの報告は無いという。



原発事故後、7年ぶりに再開された、住民自身の手による側溝「土砂上げ」。渡利地区でも複数の町会が実施したが、渡利舘ノ前地区の汚泥は3万5000Bq/kgを上回った。小熊市議測定による空間線量も1・4μSv/h超。しかし、福島市は事前の測定も事後の測定も行わず「市放射能対策アドバイザーの石井慶造先生(東北大学教授)からは『健康に影響無いですよ』という話を電話でいただいている」としてゴーサインを出した
【「連続してその場に居ないと影響ない」】
今回、本紙の調査で8000Bq/kgを超えている事が分かった検体(汚泥)は、処分方法に困った住民が福島市環境課に相談した結果、市職員が回収した。現在、市の「放射線モニタリングセンター」(福島市桜木町)で遮蔽保管されているという。環境課によると、これから処分方法について福島県も交えて環境省と協議するという。
しかし、今回はたまたま、汚泥の放射能濃度が8000Bq/kgを超えている事が分かったが、この汚泥を含む全ての汚泥は「クリーンテック社からの報告が無い以上、安全に運用されているというのが福島市の認識」(清掃管理課ごみ減量推進係)。そのため、遮蔽保管される事無く、一般廃棄物として処分される。市は作業前も後も、空間線量も汚泥の放射能濃度も測定しない方針を貫いているため、町内会や住民が自主的に測らない限り、数値は表面化しない。環境課環境衛生係の担当者が取材に対し、こう答えている。
「土砂上げをするのはせいぜい1時間程度ですよね。仮に汚泥の線量が高かったとしても、24時間側溝脇に居るわけではありません。市放射能対策アドバイザーの石井慶造先生(東北大学教授)からは『健康に影響無いですよ』という話を電話でいただいています。再除染は終了していますし、そもそも土砂上げは再除染とは関係ありません。作業前後の空間線量を測定するような指示も特に出しておりません」
大旦町会長の鴫原久さんによると、市職員は空間線量の測定結果を報告した鴫原さんに対し、やはり「この数値では、連続してその場に居ないと人体に影響が出るものでは無い」と同じような内容の言葉で「問題無し」と伝えたという。原発事故から7年半が経過しても、行政は放射線被曝のリスクから住民を積極的に守ろうとしない。
作業日当日に渡利地区を巡って調べた小熊市議は「側溝の汚泥が8000Bq/kgを超えるものだった事は、今回の『土砂上げ』が各町会で自主的に実施した(市が強制的に住民にやらせたのでは無い)とはいえ、事前の情報提示が不適切です。市民の安全を守るべき市は、事前に側溝の空間線量(μSv/h)や汚泥の放射能濃度(Bq/kg)を測定し結果を示した上で、市内の各町会と実施箇所などを相談するべきでした」と市の姿勢を批判する。
「8000Bq/kgを超えるものは速やかに中間貯蔵施設へ運び出すべきです。さらに、市内で実施された側溝土砂上げで生じた汚泥の放射能濃度を公表することが市には求められます」
小熊市議は今回の測定結果もふまえて、12月7日から始める予定の市議会一般質問で取り上げる構えだ。



岡部大旦地区の側溝から取り除かれた汚泥からも、1万3000Bq/kgを上回る高い値が検出された。町会長の鴫原久さんは「高い値に驚きました。私が計測した空間線量は市に報告済みですが、市は再除染など特に動く事は無いようです。来年も今年のように実施すると言っていました」と話した
【専門家「とても安全とは言えない」】
「『放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律』は、放射性同位元素の使用や保管、移動、廃棄について規定・規制しています。同法は第一条で『放射性同位元素又は放射性汚染物の廃棄その他の取扱いを規制することにより、これらによる放射線障害を防止し、公共の安全を確保する』と目的をうたっていますが、3万5000Bq/kgという放射能濃度は、とても安全とは言えないと思います。そこにある放射性物質が『法的な意味での放射性同位元素である』ということです」
そう語るのは、京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻の元教務職員・河野益近さん。
河野さんは、さらに「原子力災害対策特別措置法が言うところの、原子力緊急事態宣言下の『対策区域』(緊急事態応急対策を実施すべき区域)以外の汚染したビニールシートや屋根瓦などは、汚染のレベルに関わらず産業廃棄物として広域処理されているはずです。これは福島だけの問題ではありません。解体家屋の汚染された木材は、バイオマス発電の燃料に使われる可能性も考えられます」と汚染廃棄物の問題点を重ねて指摘している。
大旦町会長の鴫原さんは「数値が高くて驚きました。しかし、市は再除染など特別何かをするという事は無く、今のところ来年も市民による土砂上げを行う予定とのことでした」と話した。鴫原さんは自身で測定した空間線量も含め、側溝の土砂上げで明らかになった数値を比較的冷静に受け止めている。生活上の必要性もあり、来年も土砂上げを行う意向を持っている。
市民自身による側溝土砂上げ再開にあたっては、市はあまりにも安全論に立ち過ぎた。クリーンテック社がどのような方法で持ち込まれた汚泥を測定しているのかについても、詳細に把握していない。
汚泥の測定方法や市に報告する数値基準について同社に電話で問い合わせたが、責任者という男性が「守秘義務もあり、こちらからは答えられない。市に伝えるので市職員に尋ねて欲しい」と繰り返すばかりだった。一方、市清掃管理課ごみ減量推進係の担当者は「クリーンテック社では、計量所と運搬車両から降ろした場所で空間線量を測定している。8000Bq/kgを超えた場合、同社から報告が来る事になっている」とメールで答えた。だが、この市の説明には空間線量と放射能濃度が混同されており、答えになっていない。その点を再度、メールで質したが、返信は無かった。
(了)
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