【92カ月目の福島市はいま】同じ側溝汚泥なのに…。行政の「撤去」は、事前に放射能濃度測って非公表の除染推進室、住民による「土砂上げ」では、そもそも測りもしない環境課
- 2018/11/25
- 09:30
福島県福島市が、原発事故以来となる住民自身による側溝「土砂上げ」を再開した問題で、同じように市内の側溝から取り除かれた汚泥にもかかわらず、担当部署によって扱いに差が生じている事が分かった。住民の手による「土砂上げ」では担当課は事前も事後も空間線量や汚泥の放射能濃度を測定しないが、市が除染事業の代替措置として3年間実施した「道路側溝堆積物撤去事業」では、事前に汚泥の放射能濃度を測定。8000Bq/kgを超えた場合は直接、仮置き場に搬入していた。本紙は、「土砂上げ」で8000Bq/kgを上回る汚泥が存在していた事を既に報じているが、果たして「住民を護る」という観点から、行政の〝二重基準〟は適切なのだろうか。
【立ちはだかった0・23μSv/hの壁】
除染を担当する福島市除染推進室除染企画課によると、福島市内では2016年度から今年度にかけて、空間線量が0・23μSv/hに達しない地区の側溝汚泥を取り除く「道路等側溝堆積物撤去事業」を進めて来た。空間線量が0・23μSv/hを上回る地区は環境省の言う「道路除染」(今年2月に終了)の中で側溝汚泥も取り除けたが、西、飯坂、吉井田、土湯温泉町、杉妻、北信、信夫、吾妻の8地区は空間線量が0・23μSv/hに達しなかったため「道路除染」の枠内では側溝除染は出来なかったという。
「8地区については、環境省の『道路除染』ではなく復興庁の事業として側溝の土砂だけを取り除きました。福島市としては、本当は全て『道路除染』でやりたかったです。除染実施計画を作った当初は、市内全ての地区で空間線量が0・23μSv/h以上ありましたので全て除染としてやるつもりでしたが、年数が経つにつれて自然減衰などで空間線量は下がりました。それで、全ての地区を『除染』の枠内で行う事が出来なくなってしまった。それでは中途半端になってしまうし、市内の側溝は全て土砂上げをしないといけないので、復興庁の事業に切り替えて行ったわけです。今年10月末で終了しました」
除染企画課の担当者はそう解説する。除染を行うには、汚染土壌を搬入する仮置き場の確保が要る。しかし、住民からすれば自分の住まいの近くに仮置き場など作って欲しくないと考えるのは当然だ。仮置き場の確保に難航している間に、市内の空間線量は少しずつ下がっていった。いざ除染作業を始めようとすると、空間線量が0・23μSv/hを下回る地区が続出した。それは市民にとっては朗報だが、除染の実施には〝壁〟となった。そこで、伊達市や二本松市などと連携して8市町村連名で国(環境省、復興庁)に予算措置を要望。2016年度から3年間、除染とは別事業の形で側溝の汚泥が取り除かれた。作業が実施された側溝は、距離にして550kmに達した。これが「行政による側溝の汚泥除去」の経緯だ。


(上)今年9月に発行された福島市の「放射線対策ニュース」。道路等側溝大佐器物撤去事業が取り上げられている。10月末までに事業は終了したが、今なお放射能濃度の高い汚泥が市内には存在している
(下)2016年、福島市などが国に〝側溝除染〟の予算措置を要望した際に提出した資料。空間線量と汚泥の放射能濃度は比例しない。0・23μSv/hに達しなくても8000Bq/kgを超えている事が良く分かる
【8000Bq/kg超は仮置き場へ】
問題は、側溝から取り除いた汚泥の処理方法だ。
今秋、2011年3月の福島第一原発爆発事故以来、7年ぶりに再開された住民による側溝土砂上げ。しかし、担当する福島市環境課環境衛生係も福島市清掃管理課ごみ減量推進係も、住民が実際に作業する側溝の空間線量も汚泥の放射能濃度も測定しなかった。汚泥は全て、同市飯坂町の産業廃棄物処分業者「クリーンテック」に持ち込まれた。同社の測定で8000Bq/kgを上回った場合に市に報告が入るが、これまでに連絡は無いという。
一方、福島市が除染の代替策として実施した「道路等側溝堆積物撤去事業」では、作業前に地区内10カ所以上の汚泥を採取して放射能濃度を測定。8000Bq/kgを超えた場合は作業で取り除いた汚泥を仮置き場へ搬入。8000Bq/kgを下回る汚泥だけを「クリーンテック社」に持ち込んだという。その結果、6地区の汚泥が8000Bq/kgを上回った。クリーンテック社に汚泥が持ち込まれたのは西、土湯温泉町の2地区だけだった。しかし、具体的な数値は全く公表されていない。「風評を招く」、「撤去作業前の数値を汚泥撤去後に出す意味合いが無い」というのが理由だ。さらに、福島市では被曝リスクの評価には空間線量だけを用いており、土壌や汚泥の放射能濃度は指標としていないという。
「シーベルトとベクレルと2つの単位がありますが、人の被曝線量という意味ではシーベルトですよね。除染も0・23μSv/hという空間線量で行ってきました。『道路等側溝堆積物撤去事業』で作業前に汚泥の放射能濃度を測定したのは、あくまでも、取り除いた汚泥を仮置き場に搬入するかクリーンテック社に持ち込むかを区別するためだけの事です。公表する事を目的に測っているわけではありません。そもそも、空間線量が0・23μSv/h以下であれば人体に与える影響は低い、無いわけですから」(福島市除染推進室除染企画課)
除染企画課の担当者は「もはや市内に年間追加被曝線量が1mSvに達する場所は無いですから」とも言った。基本的に〝安全論〟に立っているという意味では、どの部署も同じだ。測定結果を公表しない理由も理解に苦しむ。しかし、住民の土砂上げでは事前の測定すらされていない。それでは住民は被曝リスクを判断しようが無い。


小熊市議の測定で空間線量が1・4μSv/hを上回った側溝汚泥は3万5930Bq/kgに達した。それでも福島市は「24時間側溝に居るわけでは無いので問題無い」との姿勢を貫いている
【「空間線量下がれば問題無い」】
本紙が住民の許可・協力を得て住民自身が側溝から取り除いた汚泥の放射能濃度測定を「NPO法人ふくしま30年プロジェクト」に依頼したところ、福島市渡利舘ノ前地区(作業日=11月4日)の汚泥が3万5930Bq/kg、福島市岡部大旦地区(作業日=10月28日)の汚泥は1万3410Bq/kgに達し、8000Bq/kgを大きく上回った(11月18日号参照)。もちろん、全ての側溝汚泥が高濃度だとは言えないが、空間線量が面的に低減した事を根拠に汚泥の放射能濃度が〝安全〟であるとする福島市の姿勢には疑問が生じる。
「市放射能対策アドバイザー(石井慶造・東北大学教授)からは、土砂上げ作業の安全性の観点から、まずは屋外での活動において放射線が人体に与える影響を最も正しく評価できるのは空間放射線量であること、また除染が完了し、これだけ生活空間の放射線量の数値が下がっていれば、除染後に堆積した側溝土砂そのものの放射性物質濃度については問題ないとの見解をいただいておりますことから、側溝土砂の放射性物質濃度につきましては測定をしておりません」
これは今年6月の市議会本会議での、小熊省三市議(日本共産党福島市議会議員団)の質問に対する遊佐吉典環境部長の答弁だ。小熊市議は事前に汚泥の放射能濃度測定をして結果を示した上で側溝土砂上げを再開するべきだと質したが、市側は全面的に拒んだ。そして、汚泥の放射能濃度が確認されないまま、市内全ての町内会では無いが、住民たちは原発事故後初めての側溝土砂上げを実施した。
同じ「側溝汚泥」にもかかわらず、担当する部署や事業形態によって扱いが異なる。そもそも、この7年間で全ての側溝汚泥が撤去されているはずなのに、それでもいまだに8000Bq/kgを上回る汚泥が存在するという現実がある。しかし行政は「8000Bq/kgを上回ったとしても人体には影響を与えない」との姿勢を変えない。それ以前に空間線量至上主義だ。〝復興〟がPRされ、2年後には福島市内で〝復興五輪〟として野球とソフトボールの試合が開催される福島市。被曝リスクは軽視されたまま、住民の要望の下に側溝土砂上げは再開されたのだった。
(了)
【立ちはだかった0・23μSv/hの壁】
除染を担当する福島市除染推進室除染企画課によると、福島市内では2016年度から今年度にかけて、空間線量が0・23μSv/hに達しない地区の側溝汚泥を取り除く「道路等側溝堆積物撤去事業」を進めて来た。空間線量が0・23μSv/hを上回る地区は環境省の言う「道路除染」(今年2月に終了)の中で側溝汚泥も取り除けたが、西、飯坂、吉井田、土湯温泉町、杉妻、北信、信夫、吾妻の8地区は空間線量が0・23μSv/hに達しなかったため「道路除染」の枠内では側溝除染は出来なかったという。
「8地区については、環境省の『道路除染』ではなく復興庁の事業として側溝の土砂だけを取り除きました。福島市としては、本当は全て『道路除染』でやりたかったです。除染実施計画を作った当初は、市内全ての地区で空間線量が0・23μSv/h以上ありましたので全て除染としてやるつもりでしたが、年数が経つにつれて自然減衰などで空間線量は下がりました。それで、全ての地区を『除染』の枠内で行う事が出来なくなってしまった。それでは中途半端になってしまうし、市内の側溝は全て土砂上げをしないといけないので、復興庁の事業に切り替えて行ったわけです。今年10月末で終了しました」
除染企画課の担当者はそう解説する。除染を行うには、汚染土壌を搬入する仮置き場の確保が要る。しかし、住民からすれば自分の住まいの近くに仮置き場など作って欲しくないと考えるのは当然だ。仮置き場の確保に難航している間に、市内の空間線量は少しずつ下がっていった。いざ除染作業を始めようとすると、空間線量が0・23μSv/hを下回る地区が続出した。それは市民にとっては朗報だが、除染の実施には〝壁〟となった。そこで、伊達市や二本松市などと連携して8市町村連名で国(環境省、復興庁)に予算措置を要望。2016年度から3年間、除染とは別事業の形で側溝の汚泥が取り除かれた。作業が実施された側溝は、距離にして550kmに達した。これが「行政による側溝の汚泥除去」の経緯だ。


(上)今年9月に発行された福島市の「放射線対策ニュース」。道路等側溝大佐器物撤去事業が取り上げられている。10月末までに事業は終了したが、今なお放射能濃度の高い汚泥が市内には存在している
(下)2016年、福島市などが国に〝側溝除染〟の予算措置を要望した際に提出した資料。空間線量と汚泥の放射能濃度は比例しない。0・23μSv/hに達しなくても8000Bq/kgを超えている事が良く分かる
【8000Bq/kg超は仮置き場へ】
問題は、側溝から取り除いた汚泥の処理方法だ。
今秋、2011年3月の福島第一原発爆発事故以来、7年ぶりに再開された住民による側溝土砂上げ。しかし、担当する福島市環境課環境衛生係も福島市清掃管理課ごみ減量推進係も、住民が実際に作業する側溝の空間線量も汚泥の放射能濃度も測定しなかった。汚泥は全て、同市飯坂町の産業廃棄物処分業者「クリーンテック」に持ち込まれた。同社の測定で8000Bq/kgを上回った場合に市に報告が入るが、これまでに連絡は無いという。
一方、福島市が除染の代替策として実施した「道路等側溝堆積物撤去事業」では、作業前に地区内10カ所以上の汚泥を採取して放射能濃度を測定。8000Bq/kgを超えた場合は作業で取り除いた汚泥を仮置き場へ搬入。8000Bq/kgを下回る汚泥だけを「クリーンテック社」に持ち込んだという。その結果、6地区の汚泥が8000Bq/kgを上回った。クリーンテック社に汚泥が持ち込まれたのは西、土湯温泉町の2地区だけだった。しかし、具体的な数値は全く公表されていない。「風評を招く」、「撤去作業前の数値を汚泥撤去後に出す意味合いが無い」というのが理由だ。さらに、福島市では被曝リスクの評価には空間線量だけを用いており、土壌や汚泥の放射能濃度は指標としていないという。
「シーベルトとベクレルと2つの単位がありますが、人の被曝線量という意味ではシーベルトですよね。除染も0・23μSv/hという空間線量で行ってきました。『道路等側溝堆積物撤去事業』で作業前に汚泥の放射能濃度を測定したのは、あくまでも、取り除いた汚泥を仮置き場に搬入するかクリーンテック社に持ち込むかを区別するためだけの事です。公表する事を目的に測っているわけではありません。そもそも、空間線量が0・23μSv/h以下であれば人体に与える影響は低い、無いわけですから」(福島市除染推進室除染企画課)
除染企画課の担当者は「もはや市内に年間追加被曝線量が1mSvに達する場所は無いですから」とも言った。基本的に〝安全論〟に立っているという意味では、どの部署も同じだ。測定結果を公表しない理由も理解に苦しむ。しかし、住民の土砂上げでは事前の測定すらされていない。それでは住民は被曝リスクを判断しようが無い。


小熊市議の測定で空間線量が1・4μSv/hを上回った側溝汚泥は3万5930Bq/kgに達した。それでも福島市は「24時間側溝に居るわけでは無いので問題無い」との姿勢を貫いている
【「空間線量下がれば問題無い」】
本紙が住民の許可・協力を得て住民自身が側溝から取り除いた汚泥の放射能濃度測定を「NPO法人ふくしま30年プロジェクト」に依頼したところ、福島市渡利舘ノ前地区(作業日=11月4日)の汚泥が3万5930Bq/kg、福島市岡部大旦地区(作業日=10月28日)の汚泥は1万3410Bq/kgに達し、8000Bq/kgを大きく上回った(11月18日号参照)。もちろん、全ての側溝汚泥が高濃度だとは言えないが、空間線量が面的に低減した事を根拠に汚泥の放射能濃度が〝安全〟であるとする福島市の姿勢には疑問が生じる。
「市放射能対策アドバイザー(石井慶造・東北大学教授)からは、土砂上げ作業の安全性の観点から、まずは屋外での活動において放射線が人体に与える影響を最も正しく評価できるのは空間放射線量であること、また除染が完了し、これだけ生活空間の放射線量の数値が下がっていれば、除染後に堆積した側溝土砂そのものの放射性物質濃度については問題ないとの見解をいただいておりますことから、側溝土砂の放射性物質濃度につきましては測定をしておりません」
これは今年6月の市議会本会議での、小熊省三市議(日本共産党福島市議会議員団)の質問に対する遊佐吉典環境部長の答弁だ。小熊市議は事前に汚泥の放射能濃度測定をして結果を示した上で側溝土砂上げを再開するべきだと質したが、市側は全面的に拒んだ。そして、汚泥の放射能濃度が確認されないまま、市内全ての町内会では無いが、住民たちは原発事故後初めての側溝土砂上げを実施した。
同じ「側溝汚泥」にもかかわらず、担当する部署や事業形態によって扱いが異なる。そもそも、この7年間で全ての側溝汚泥が撤去されているはずなのに、それでもいまだに8000Bq/kgを上回る汚泥が存在するという現実がある。しかし行政は「8000Bq/kgを上回ったとしても人体には影響を与えない」との姿勢を変えない。それ以前に空間線量至上主義だ。〝復興〟がPRされ、2年後には福島市内で〝復興五輪〟として野球とソフトボールの試合が開催される福島市。被曝リスクは軽視されたまま、住民の要望の下に側溝土砂上げは再開されたのだった。
(了)
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