【93カ月目の福島市はいま】行政の「情報」は誰の物?公表されぬ8000Bq/kg超の側溝汚泥データを独自入手。産廃業者は空間線量のみ、放射能濃度測らず~側溝土砂上げ再開問題
- 2018/12/04
- 04:29
福島県福島市が、原発事故以来となる住民自身による側溝「土砂上げ」を再開した問題で、本紙は福島市の情報公開制度を利用して2つの公文書を入手した。どちらも「隠す意図は無いが公表する必要性も無い」、「数字が独り歩きして不安を招く」などと市民には公表されていない。しかし、既に〝除染〟で取り除かれたとはいえ、軒並み1万Bq/kgを超える汚泥が生活空間に存在していた事をなぜ市民に知らせないのか。市民による「土砂上げ」では、産廃業者は空間線量至上主義で、放射能濃度など測定していない実態も分かった。残念ながら7年前の原発事故で放射性物質が降り注いだ福島市。本来は市民の物であるはずの「情報」が覆われたまま、「復興」や「安全」ばかりが強調されている。
【「土砂上げ」0・5μSv/h超のみ測定】
福島市が3日付で開示したのは2種類の公文書。1つは、市民自身による「土砂上げ」で取り除かれた側溝汚泥を産廃業者が空間線量を測定した結果を一覧表にした市への報告書(10月搬入分)=写真上=。10月3日から31日にかけて15回にわたって同市飯坂町の産業廃棄物処分業者「クリーンテック」に持ち込まれた汚泥の重量(計7130kg)、麻袋から1メートルの高さで測った空間線量が記されている。11月分の報告書は今月中にも提出されるという。契約書では、側溝土砂の処分業務委託期間は2018年10月1日から2019年3月29日までで、委託料は1トンあたり3万円。持ち込まれた汚泥は埋め立て処分される。
空間線量が最も高かったのは10月16日に搬入された「東部・北信地区」の汚泥で0・438μSv/hだった。しかし、放射能濃度の測定結果は記載されていない。「参考値」として、最も低かったのが17日に搬入された汚泥で1869Bq/kg、最高が16日分で3549Bq/kgだったと付記されているだけ。これまでの福島市の説明では「放射能濃度が8000Bq/kgを上回る汚泥が見つかったら、クリーンテック社から福島市に連絡が入る」だった。しかし、それには〝からくり〟があった。
「クリーンテック社の自社基準に従って測定されています。まず、持ち込まれた麻袋入りの汚泥(側溝土砂)の空間線量を高さ1メートルで測ります。もし0・5μSv/hを上回ったら、今度は高さ10センチでの空間線量を測ります。そこで1μSv/hを超えたら、そこで初めて放射能濃度を測定するのです。10月分に関しては、高さ1メートルの空間線量がいずれも0・5μSv/hを下回っているので放射能濃度の測定結果はありません」(福島市清掃管理課の宮崎順一課長)
空間線量(μSv/h)と放射能濃度(Bq/kg)が必ずしも比例しない事は福島市除染推進室も認めるところだが、そもそも放射能濃度の測定すらされていなかった。しかも、クリーンテック社が測った空間線量すら市民には伝えられない。10月28日に取材した大旦町会は町会長が自ら空間線量を測って住民に回覧板で測定結果を伝えている。宮崎課長は「この数値であれば、土砂上げは短時間で終わるし、安全だろうと認識している」とした上で、次のように語った。
「クリーンテック社が測定したものですし、市が測った数値では無いので、ホームページなどで公表しません。その必要は無いと考えています」


(上)住民が「土砂上げ」で取り除いた側溝汚泥はクリーンテック社に持ち込まれる。同社は空間線量だけを測定。自社基準を上回らない限り、汚泥の放射能濃度は測られない
(下)除染の代替措置として市が行った「道路側溝堆積物撤去事業」では、側溝の汚泥は軒並み1万Bq/kgを上回った。しかし、除染企画課は「既に当該汚泥は取り除かれているし、数字が独り歩きする」などとして公表していない
【非公表の理由は「数字が独り歩きする」】
もう1つの公文書は「福島市側溝堆積物放射能濃度・数量表」。市は除染作業の代替措置として、2016年から今年10月にかけて3年間「道路側溝堆積物撤去事業」を実施。その際、作業前に市が測った側溝汚泥の放射能濃度(Bq/kg)と量(立法メートル)が作業工区別に記載されている。測定期間は2017年1月から今年7月。
福島市除染推進室除染企画課によると、側溝の10カ所以上で採取した汚泥を混ぜて放射能濃度を平均値として測定。8000Bq/kgを下回った「西地区B工区」と「西Ⅱ工区・土湯温泉町地区」の側溝汚泥計751立方メートルはクリーンテック社に持ち込まれて埋め立て処分された。残りの工区で取り除かれた汚泥4823立方メートルは埋め立て処分せず、仮置き場に搬入された。いずれ中間貯蔵施設に持ち込まれることになる。8000Bq/kgを上回った汚泥はフレコンバッグに換算すると約4800袋に相当する。
最も放射能濃度が高かったのは3万3660Bq/kg、最も低かったのは8058Bq/kg。除染企画課の担当者は「混ぜて平均化したのは環境省のガイドラインがそのように指示しているからです。福島市の勝手な判断ではありません。原発事故直後だったら、場所によっては2ケタに達していたかもしれない。環境省は空間線量が0・23μSv/hを下回る側溝はそのまま残して構わないという考え方だったので、2016年に当時の小林香市長が他市と共同で要望して良かったです。高濃度の汚泥が取り除かれないままだったのですから。市としては8000Bq/kgを下回る汚泥も仮置き場に運びたかったのですが、環境省が了承しませんでした」と振り返る。
しかし、既に取り除かれた汚泥の数値とはいえ、やはりこちらも市民に公表されていない。11月25日号でも触れたように「仮置き場に持ち込むかクリーンテック社に埋め立て処分を依頼するかを分けるのが測定の目的であって、被曝リスクの評価が目的ではありません。国からも公表するよう言われておりません」と除染企画課。しかし、公表しないのにはもう一つの〝本音〟もあった。
「隠す意図など全くありません。しかし、何でもそうですが、必ずしも市民全員がきちんと数値を理解してくれるとは限りません。数字が独り歩きし、要らぬ不安を抱かせる恐れもあります。ですので、数字は慎重に扱わなければいけません」
情報は全てオープンにし、住民が理解するまでていねいな説明を尽くす。それこそが行政の役割ではないのか。「正しく理解されない」と情報を囲い込んでしまっては、誰が主権者か分からない。


(上)福島市除染企画課によると、8000Bq/kgを超える側溝汚泥は市内の仮置き場に運び込まれ、最終的には中間貯蔵施設に搬入するという=福島県福島市下狐塚の「中央東第一地区仮置き場」
(下)「中野不動尊」のさらに奥、山形県に近い福島市飯坂町のクリーンテック社。8000Bq/kg以下の汚染土壌はここで埋め立て処分される
【市議会でも「住民の不安を助長させる」】
行政の「情報公開」を巡っては、福島市議会でこんなやりとりがあった。
今年9月7日の市議会本会議。「支所別のフォローアップ除染実施箇所数」について小熊省三市議(日本共産党福島市議会議員団)が質したのに対し、遊佐吉典環境部長がこう答弁している。
「フォローアップ除染の実施箇所ですが、市全体で48カ所となり、結果的に少ない数字となったところでございます。支所ごとの実施箇所数につきましては、地域除染等対策委員会のほうから該当する地区や地域の特定につながり、さらなる風評被害を生じさせるおそれがあるので、取り扱いには十分留意してほしい旨のご意見もいただいておりますことから、地域の実情に鑑み、公表は差し控えさせていただきますので、ご了承願います」
小熊市議は「私たちの住んでいる地域の放射線量がどんな状態なのか知りたいという、こういう市民の声があるのも事実です。そして、放射線から守るというか、放射線防護の立場からは放射線が高いところはどこにあるのか、そしてそれを取り除いて、そしてそれが難しいなら遮蔽していく、そして汚染箇所から遠ざけていく、そして放射性レベルの高い場所にいる時間を短くする、そういうことをしながら住民みずからが放射線の被曝から身を守っていくということが必要だと思っております。そのためにもやっぱりホットスポットがある地域の数を明らかにしていくということがそのための対策を打っていく上でも必要ではないでしょうか。住民が知らないうちに被曝するという危険を避ける上でも必要だと思います」と続けて質した。
たが、遊佐部長は「先ほども答弁申し上げましたけれども、実施箇所が多い場合、まだ危険な箇所が地域に残っているといった印象を与えることも事実であります。それによってさらに放射線に対する住民の不安を助長させることも想定されていますので、その辺も含めて、先ほど答弁しましたとおり、公表のほうは差し控えさせていただきたいということでございます」と繰り返すにとどまった。
原発事故後、国も自治体も東電も、「数字が独り歩きする」、「無用な不安をあおる」などと言っては情報を隠してきた。後になってそれらが明らかになるたびに住民の不信感は増していった。そもそも行政の「情報」は誰のものなのか。原子力三原則は「民主・自主・公開」ではなかったのか。積極的な情報公開とていねいな説明こそ、住民を放射線から守り、安心させるのではないか。
(了)
【「土砂上げ」0・5μSv/h超のみ測定】
福島市が3日付で開示したのは2種類の公文書。1つは、市民自身による「土砂上げ」で取り除かれた側溝汚泥を産廃業者が空間線量を測定した結果を一覧表にした市への報告書(10月搬入分)=写真上=。10月3日から31日にかけて15回にわたって同市飯坂町の産業廃棄物処分業者「クリーンテック」に持ち込まれた汚泥の重量(計7130kg)、麻袋から1メートルの高さで測った空間線量が記されている。11月分の報告書は今月中にも提出されるという。契約書では、側溝土砂の処分業務委託期間は2018年10月1日から2019年3月29日までで、委託料は1トンあたり3万円。持ち込まれた汚泥は埋め立て処分される。
空間線量が最も高かったのは10月16日に搬入された「東部・北信地区」の汚泥で0・438μSv/hだった。しかし、放射能濃度の測定結果は記載されていない。「参考値」として、最も低かったのが17日に搬入された汚泥で1869Bq/kg、最高が16日分で3549Bq/kgだったと付記されているだけ。これまでの福島市の説明では「放射能濃度が8000Bq/kgを上回る汚泥が見つかったら、クリーンテック社から福島市に連絡が入る」だった。しかし、それには〝からくり〟があった。
「クリーンテック社の自社基準に従って測定されています。まず、持ち込まれた麻袋入りの汚泥(側溝土砂)の空間線量を高さ1メートルで測ります。もし0・5μSv/hを上回ったら、今度は高さ10センチでの空間線量を測ります。そこで1μSv/hを超えたら、そこで初めて放射能濃度を測定するのです。10月分に関しては、高さ1メートルの空間線量がいずれも0・5μSv/hを下回っているので放射能濃度の測定結果はありません」(福島市清掃管理課の宮崎順一課長)
空間線量(μSv/h)と放射能濃度(Bq/kg)が必ずしも比例しない事は福島市除染推進室も認めるところだが、そもそも放射能濃度の測定すらされていなかった。しかも、クリーンテック社が測った空間線量すら市民には伝えられない。10月28日に取材した大旦町会は町会長が自ら空間線量を測って住民に回覧板で測定結果を伝えている。宮崎課長は「この数値であれば、土砂上げは短時間で終わるし、安全だろうと認識している」とした上で、次のように語った。
「クリーンテック社が測定したものですし、市が測った数値では無いので、ホームページなどで公表しません。その必要は無いと考えています」


(上)住民が「土砂上げ」で取り除いた側溝汚泥はクリーンテック社に持ち込まれる。同社は空間線量だけを測定。自社基準を上回らない限り、汚泥の放射能濃度は測られない
(下)除染の代替措置として市が行った「道路側溝堆積物撤去事業」では、側溝の汚泥は軒並み1万Bq/kgを上回った。しかし、除染企画課は「既に当該汚泥は取り除かれているし、数字が独り歩きする」などとして公表していない
【非公表の理由は「数字が独り歩きする」】
もう1つの公文書は「福島市側溝堆積物放射能濃度・数量表」。市は除染作業の代替措置として、2016年から今年10月にかけて3年間「道路側溝堆積物撤去事業」を実施。その際、作業前に市が測った側溝汚泥の放射能濃度(Bq/kg)と量(立法メートル)が作業工区別に記載されている。測定期間は2017年1月から今年7月。
福島市除染推進室除染企画課によると、側溝の10カ所以上で採取した汚泥を混ぜて放射能濃度を平均値として測定。8000Bq/kgを下回った「西地区B工区」と「西Ⅱ工区・土湯温泉町地区」の側溝汚泥計751立方メートルはクリーンテック社に持ち込まれて埋め立て処分された。残りの工区で取り除かれた汚泥4823立方メートルは埋め立て処分せず、仮置き場に搬入された。いずれ中間貯蔵施設に持ち込まれることになる。8000Bq/kgを上回った汚泥はフレコンバッグに換算すると約4800袋に相当する。
最も放射能濃度が高かったのは3万3660Bq/kg、最も低かったのは8058Bq/kg。除染企画課の担当者は「混ぜて平均化したのは環境省のガイドラインがそのように指示しているからです。福島市の勝手な判断ではありません。原発事故直後だったら、場所によっては2ケタに達していたかもしれない。環境省は空間線量が0・23μSv/hを下回る側溝はそのまま残して構わないという考え方だったので、2016年に当時の小林香市長が他市と共同で要望して良かったです。高濃度の汚泥が取り除かれないままだったのですから。市としては8000Bq/kgを下回る汚泥も仮置き場に運びたかったのですが、環境省が了承しませんでした」と振り返る。
しかし、既に取り除かれた汚泥の数値とはいえ、やはりこちらも市民に公表されていない。11月25日号でも触れたように「仮置き場に持ち込むかクリーンテック社に埋め立て処分を依頼するかを分けるのが測定の目的であって、被曝リスクの評価が目的ではありません。国からも公表するよう言われておりません」と除染企画課。しかし、公表しないのにはもう一つの〝本音〟もあった。
「隠す意図など全くありません。しかし、何でもそうですが、必ずしも市民全員がきちんと数値を理解してくれるとは限りません。数字が独り歩きし、要らぬ不安を抱かせる恐れもあります。ですので、数字は慎重に扱わなければいけません」
情報は全てオープンにし、住民が理解するまでていねいな説明を尽くす。それこそが行政の役割ではないのか。「正しく理解されない」と情報を囲い込んでしまっては、誰が主権者か分からない。


(上)福島市除染企画課によると、8000Bq/kgを超える側溝汚泥は市内の仮置き場に運び込まれ、最終的には中間貯蔵施設に搬入するという=福島県福島市下狐塚の「中央東第一地区仮置き場」
(下)「中野不動尊」のさらに奥、山形県に近い福島市飯坂町のクリーンテック社。8000Bq/kg以下の汚染土壌はここで埋め立て処分される
【市議会でも「住民の不安を助長させる」】
行政の「情報公開」を巡っては、福島市議会でこんなやりとりがあった。
今年9月7日の市議会本会議。「支所別のフォローアップ除染実施箇所数」について小熊省三市議(日本共産党福島市議会議員団)が質したのに対し、遊佐吉典環境部長がこう答弁している。
「フォローアップ除染の実施箇所ですが、市全体で48カ所となり、結果的に少ない数字となったところでございます。支所ごとの実施箇所数につきましては、地域除染等対策委員会のほうから該当する地区や地域の特定につながり、さらなる風評被害を生じさせるおそれがあるので、取り扱いには十分留意してほしい旨のご意見もいただいておりますことから、地域の実情に鑑み、公表は差し控えさせていただきますので、ご了承願います」
小熊市議は「私たちの住んでいる地域の放射線量がどんな状態なのか知りたいという、こういう市民の声があるのも事実です。そして、放射線から守るというか、放射線防護の立場からは放射線が高いところはどこにあるのか、そしてそれを取り除いて、そしてそれが難しいなら遮蔽していく、そして汚染箇所から遠ざけていく、そして放射性レベルの高い場所にいる時間を短くする、そういうことをしながら住民みずからが放射線の被曝から身を守っていくということが必要だと思っております。そのためにもやっぱりホットスポットがある地域の数を明らかにしていくということがそのための対策を打っていく上でも必要ではないでしょうか。住民が知らないうちに被曝するという危険を避ける上でも必要だと思います」と続けて質した。
たが、遊佐部長は「先ほども答弁申し上げましたけれども、実施箇所が多い場合、まだ危険な箇所が地域に残っているといった印象を与えることも事実であります。それによってさらに放射線に対する住民の不安を助長させることも想定されていますので、その辺も含めて、先ほど答弁しましたとおり、公表のほうは差し控えさせていただきたいということでございます」と繰り返すにとどまった。
原発事故後、国も自治体も東電も、「数字が独り歩きする」、「無用な不安をあおる」などと言っては情報を隠してきた。後になってそれらが明らかになるたびに住民の不信感は増していった。そもそも行政の「情報」は誰のものなのか。原子力三原則は「民主・自主・公開」ではなかったのか。積極的な情報公開とていねいな説明こそ、住民を放射線から守り、安心させるのではないか。
(了)
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