【原発避難者から住まいを奪うな】進んだのは公共事業重点型の復興?それとも原発避難者の切り捨て? 福島県・内堀知事が選ぶ今年の漢字は「進」~2018年最後の定例会見
- 2018/12/26
- 07:32
福島県の内堀雅雄知事が選んだ今年の漢字は「進」だった。25日午前に開かれた県政記者クラブとの今年最後の定例会見で、内堀知事は「復興と地方創生が着実に前進した1年でありました」と語った。しかし一方で、原発事故による避難者の切り捨ても進んだ1年だった。避難者からの再三の求めにも応じず、来春には〝自主避難者〟向け家賃補助制度が打ち切られる。東京五輪が行われる2020年3月末には帰還困難区域からの避難者に対する住宅提供も終了させる方針で、生活の基盤とも言える住まいを奪われる避難者が生じる。原発事故から間もなく8年。被害者は着実に切り捨てられている。
【「復興と地方創生が着実に前進」】
内堀知事は福島テレビの男性記者の質問に、こう今年を振り返った。
「今年は復興創生を加速する道路網の整備進展や野球、バドミントン、合唱をはじめとする若者・子どもたちのめざましい活躍、県産品の国内外での高い評価、若い世代を中心とした本県への移住や新規就農者の増加など、県内各地を照らす明るいニュースが増えた1年でありました。さらに避難指示が解除された地域においては、病院や学校等が再開をして帰還困難区域における復興拠点の整備が進むと共に『福島イノベーション・コースト構想』が具体化に向けて動き出すなど、本県の復興創生が着実に前進した1年でもありました」
「一方で、未だ4万人を超える方々が避難生活を続けておられ、避難地域の復興再生や被災者の方々の生活再建、廃炉・汚染水対策、県全体の産業振興、風評と風化の問題、急激な人口減少など、福島県は前例の無い困難な課題を抱えています。来年も引き続き、『現場主義』を自分の真ん中に置いて県民の皆さん、福島に想いを寄せてくださる多くの方々と共同しながら、福島県の復興・地方創生のさらなる前進に向けて全身全霊で取り組んで参ります」
そして、毎年恒例となった「今年の漢字」。事前に用意されていた毛筆の「進」を掲げて、こう語った。
「今年の漢字ですが、私は『進』(しん・すすむ)を選んでいます。今年は天皇皇后両陛下のご臨席による全国植樹祭や太平洋・島サミット、世界水族館会議の開催、県産日本酒の史上初となる全国新酒鑑評会金賞受賞数6年連続日本一の快挙の達成、Jヴィレッジの再始動、復興五輪に向けた取り組み、東京電力による福島第二原発の廃炉の方針表明など、進取果敢の姿勢で県民の皆さんや福島に心を寄せて頂ける多くの方々と共に積み重ねてきた挑戦が一つ一つ形になって、復興と地方創生が着実に前進した1年でありました」
「一方で、やはり福島県は原子力災害を含む『複合災害』との闘い、また急激な人口減少との闘いなど、重い課題を抱えています。来年はこれまでの挑戦を進化させて、1人でも多くの県民の皆さんに復興創生が前に進んだなと実感して頂けるよう引き続き全力で取り組んで参ります」
今年最後の知事会見は13分ほどで終了した。原発避難者への支援に関する質問は出なかった。


(上)毛筆の「進」を掲げる内堀雅雄知事。広報課によると知事の直筆では無いという=福島県庁
(下)〝自主避難者〟向け住宅支援策の完全終了が来年3月末に迫り、避難者は支援者と共に支援策の延長を求めて何度も福島県と交渉した。内堀知事が「復興が進んだ」と胸を張る陰で、避難者切り捨ても着実に進んでいる=2018年11月27日撮影
【五輪までに完全終了する住宅支援】
「今年の知事選挙におきまして、県民の皆さんから多くのご支持を頂き、引き続き県政を担わせて頂く事になりました。福島の復興と地方創生をさらに前進させるため、これからも全力で取り組んで参ります。震災と原発事故から7年9カ月が経過する中、避難地域では病院や学校等が再開し、帰還困難区域における復興拠点の整備が動き出しました。県内観光地のにぎわい回復や農産物の輸出拡大など、県民の皆さんと共に積み重ねてきた取り組みが一つ一つ形になり、確かな成果が生まれています」
会見の冒頭、そう語った内堀知事。しかし、共産党系の福島市議は「燃料デブリの取り出しも含めて廃炉作業は遅れているよね。全然進んでいない。それに、いま福島第一原発の事を口にするのは復興を遅らせる事になるというぐらいの話だろう」と語る。別の市議は「帰宅困難区域から避難している人々への住宅提供も終わらせるって言うんだから、そういう事が『進んでいる』って事だよね」と指摘する。「避難者の問題無しに復興が『進む』とは、どっちを向いているんですか?っていう事ですよね」と指摘する市議もいる。
福島県議会では、共産党を除くすべての会派が「与党」として内堀県政を支える。10月の県知事選挙では、内堀知事は91%の得票率で共産党系候補らに圧勝した。
この日の会見で、内堀知事は「未だに4万人を超える皆さんが故郷を離れ、8度目の年末年始を迎えようとしております。引き続き避難されている皆さん御一人御一人の想いを念頭に置き、生活環境の整備や事業・生業の再生はもとより、今後も切れ目なく安心感を持って取り組める体制、財源の確保など復興への取り組みを着実に進めて参ります」とも語ったが、実際に行われている施策は言葉とは真逆だ。
避難指示が出されなかった区域から避難している〝自主避難者〟に対する家賃補助制度(民間賃貸住宅等家賃への支援制度)は、2019年3月末で打ち切り。大熊町・双葉町を除く帰還困難区域からの避難者に対する住宅提供(応急仮設住宅の供与)も2020年3月末に打ち切る方針だ。東京五輪が始まるまでには、避難指示区域内外にかかわらず、原発避難者への住宅支援が無くなる。
宮本しづえ県議(日本共産党福島県議団)は、この日の知事会見を受けて「知事としては、いかに福島の復興が進んでいるかを世界に発信する事が最大の仕事だと考えているんだから、そういう意味で復興は『進んで』いますよと言いたいのでしょう。でも、それは県民の想いとは全くかけ離れたものだよね」と語った。
「むしろ避難者の切り捨てが進んだというのはその通りだと思います。バッサリ出来るという感覚が理解出来ない。結局、安倍政権に対してものを言えないのでしょう。国は『災害救助法の実施主体は福島県だから福島県が打ち切りを決めた』と言うけれど、安倍政権の意向ですよ。福島県は国と一体となって被災県民を切り捨てて来たんです。避難者を受け入れてくれている山形県は、避難者を訪問してお米を配ったと聞いています。実態調査も含めて、本来は福島県がやらなければいけない事ですよね」


(上)知事会見に先立ち開かれた「新生ふくしま復興推進本部会議」の配布資料。「ロボットテストフィールド・研究開発拠点整備事業」だけで27億円が投じられる
(下)再来年に迫った東京五輪では、野球・ソフトボールの試合が福島市で行われる。内堀知事は聖火リレーとあわせて、原発事故からの復興を世界に発信する好機ととらえている
【「断固、蟷螂の斧を振りかざす」】
双葉郡浪江町から中通りに避難中の女性は、「復興が進んでるって、浪江じゃ何も進んじゃいないよ」と苦笑した。2017年3月末に帰還困難区域を除く避難指示が解除されたが、11月末現在、町内で暮らしている町民は573世帯870人にとどまる。これは全町民の4・2%にすぎない。二本松市内で授業を続けている浪江中学校の休校も決まった。
「福島原発かながわ訴訟」の原告団長として2019年2月20日の判決言い渡し(横浜地裁)を待っている村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市への避難を継続中)は、ちょうど1年前、こんなメールを筆者に寄せている。
「ゴマメの歯ぎしりの1年でしたが、まぁ、相手が相手だから…と思っています。断固、蟷螂の斧を振りかざしていこうと目下、部品(眼や歯など)の修理をぼちぼちやっているところです。来年もよろしくお願いします」
「蟷螂」(とうろう)とはカマキリの事。カマキリが前脚を振り上げて大きな車を止めようとした故事から転じて、力の弱い者が強敵に立ち向かう事の比喩として用いられる。村田さんたちは時に怒りの拳を振り上げ、時に悔し涙を流しながら、今年も「避難の権利」と「避難先での平穏な生活」を守ろうと闘ってきた。しかし、そのたびに国や福島県の厚い壁にはね返された。そもそも、内堀知事は村田さんたちとの直接面会に一度も応じていない。「避難されている皆さん御一人御一人の想いを念頭に置く」、「『現場主義』を自分の真ん中に置く」という言葉とはあまりにかけ離れている。
「この1年間、本当に記者クラブの皆さんに県政について格段のご尽力を頂いた事に心から感謝を申し上げます」と頭を下げて会見を締めくくった内堀知事。県民には「日々、寒さが厳しくなって参りました。皆さんにはお身体を大切にし、健やかに新年を迎えられます事をお祈りを申し上げ、年末の御挨拶と致します」と呼びかけた。しかし、住宅提供打ち切りが刻一刻と迫る原発避難者は、新年を祝うどころでは無い。厳しい冬はまだまだ続く。
(了)
【「復興と地方創生が着実に前進」】
内堀知事は福島テレビの男性記者の質問に、こう今年を振り返った。
「今年は復興創生を加速する道路網の整備進展や野球、バドミントン、合唱をはじめとする若者・子どもたちのめざましい活躍、県産品の国内外での高い評価、若い世代を中心とした本県への移住や新規就農者の増加など、県内各地を照らす明るいニュースが増えた1年でありました。さらに避難指示が解除された地域においては、病院や学校等が再開をして帰還困難区域における復興拠点の整備が進むと共に『福島イノベーション・コースト構想』が具体化に向けて動き出すなど、本県の復興創生が着実に前進した1年でもありました」
「一方で、未だ4万人を超える方々が避難生活を続けておられ、避難地域の復興再生や被災者の方々の生活再建、廃炉・汚染水対策、県全体の産業振興、風評と風化の問題、急激な人口減少など、福島県は前例の無い困難な課題を抱えています。来年も引き続き、『現場主義』を自分の真ん中に置いて県民の皆さん、福島に想いを寄せてくださる多くの方々と共同しながら、福島県の復興・地方創生のさらなる前進に向けて全身全霊で取り組んで参ります」
そして、毎年恒例となった「今年の漢字」。事前に用意されていた毛筆の「進」を掲げて、こう語った。
「今年の漢字ですが、私は『進』(しん・すすむ)を選んでいます。今年は天皇皇后両陛下のご臨席による全国植樹祭や太平洋・島サミット、世界水族館会議の開催、県産日本酒の史上初となる全国新酒鑑評会金賞受賞数6年連続日本一の快挙の達成、Jヴィレッジの再始動、復興五輪に向けた取り組み、東京電力による福島第二原発の廃炉の方針表明など、進取果敢の姿勢で県民の皆さんや福島に心を寄せて頂ける多くの方々と共に積み重ねてきた挑戦が一つ一つ形になって、復興と地方創生が着実に前進した1年でありました」
「一方で、やはり福島県は原子力災害を含む『複合災害』との闘い、また急激な人口減少との闘いなど、重い課題を抱えています。来年はこれまでの挑戦を進化させて、1人でも多くの県民の皆さんに復興創生が前に進んだなと実感して頂けるよう引き続き全力で取り組んで参ります」
今年最後の知事会見は13分ほどで終了した。原発避難者への支援に関する質問は出なかった。


(上)毛筆の「進」を掲げる内堀雅雄知事。広報課によると知事の直筆では無いという=福島県庁
(下)〝自主避難者〟向け住宅支援策の完全終了が来年3月末に迫り、避難者は支援者と共に支援策の延長を求めて何度も福島県と交渉した。内堀知事が「復興が進んだ」と胸を張る陰で、避難者切り捨ても着実に進んでいる=2018年11月27日撮影
【五輪までに完全終了する住宅支援】
「今年の知事選挙におきまして、県民の皆さんから多くのご支持を頂き、引き続き県政を担わせて頂く事になりました。福島の復興と地方創生をさらに前進させるため、これからも全力で取り組んで参ります。震災と原発事故から7年9カ月が経過する中、避難地域では病院や学校等が再開し、帰還困難区域における復興拠点の整備が動き出しました。県内観光地のにぎわい回復や農産物の輸出拡大など、県民の皆さんと共に積み重ねてきた取り組みが一つ一つ形になり、確かな成果が生まれています」
会見の冒頭、そう語った内堀知事。しかし、共産党系の福島市議は「燃料デブリの取り出しも含めて廃炉作業は遅れているよね。全然進んでいない。それに、いま福島第一原発の事を口にするのは復興を遅らせる事になるというぐらいの話だろう」と語る。別の市議は「帰宅困難区域から避難している人々への住宅提供も終わらせるって言うんだから、そういう事が『進んでいる』って事だよね」と指摘する。「避難者の問題無しに復興が『進む』とは、どっちを向いているんですか?っていう事ですよね」と指摘する市議もいる。
福島県議会では、共産党を除くすべての会派が「与党」として内堀県政を支える。10月の県知事選挙では、内堀知事は91%の得票率で共産党系候補らに圧勝した。
この日の会見で、内堀知事は「未だに4万人を超える皆さんが故郷を離れ、8度目の年末年始を迎えようとしております。引き続き避難されている皆さん御一人御一人の想いを念頭に置き、生活環境の整備や事業・生業の再生はもとより、今後も切れ目なく安心感を持って取り組める体制、財源の確保など復興への取り組みを着実に進めて参ります」とも語ったが、実際に行われている施策は言葉とは真逆だ。
避難指示が出されなかった区域から避難している〝自主避難者〟に対する家賃補助制度(民間賃貸住宅等家賃への支援制度)は、2019年3月末で打ち切り。大熊町・双葉町を除く帰還困難区域からの避難者に対する住宅提供(応急仮設住宅の供与)も2020年3月末に打ち切る方針だ。東京五輪が始まるまでには、避難指示区域内外にかかわらず、原発避難者への住宅支援が無くなる。
宮本しづえ県議(日本共産党福島県議団)は、この日の知事会見を受けて「知事としては、いかに福島の復興が進んでいるかを世界に発信する事が最大の仕事だと考えているんだから、そういう意味で復興は『進んで』いますよと言いたいのでしょう。でも、それは県民の想いとは全くかけ離れたものだよね」と語った。
「むしろ避難者の切り捨てが進んだというのはその通りだと思います。バッサリ出来るという感覚が理解出来ない。結局、安倍政権に対してものを言えないのでしょう。国は『災害救助法の実施主体は福島県だから福島県が打ち切りを決めた』と言うけれど、安倍政権の意向ですよ。福島県は国と一体となって被災県民を切り捨てて来たんです。避難者を受け入れてくれている山形県は、避難者を訪問してお米を配ったと聞いています。実態調査も含めて、本来は福島県がやらなければいけない事ですよね」


(上)知事会見に先立ち開かれた「新生ふくしま復興推進本部会議」の配布資料。「ロボットテストフィールド・研究開発拠点整備事業」だけで27億円が投じられる
(下)再来年に迫った東京五輪では、野球・ソフトボールの試合が福島市で行われる。内堀知事は聖火リレーとあわせて、原発事故からの復興を世界に発信する好機ととらえている
【「断固、蟷螂の斧を振りかざす」】
双葉郡浪江町から中通りに避難中の女性は、「復興が進んでるって、浪江じゃ何も進んじゃいないよ」と苦笑した。2017年3月末に帰還困難区域を除く避難指示が解除されたが、11月末現在、町内で暮らしている町民は573世帯870人にとどまる。これは全町民の4・2%にすぎない。二本松市内で授業を続けている浪江中学校の休校も決まった。
「福島原発かながわ訴訟」の原告団長として2019年2月20日の判決言い渡し(横浜地裁)を待っている村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市への避難を継続中)は、ちょうど1年前、こんなメールを筆者に寄せている。
「ゴマメの歯ぎしりの1年でしたが、まぁ、相手が相手だから…と思っています。断固、蟷螂の斧を振りかざしていこうと目下、部品(眼や歯など)の修理をぼちぼちやっているところです。来年もよろしくお願いします」
「蟷螂」(とうろう)とはカマキリの事。カマキリが前脚を振り上げて大きな車を止めようとした故事から転じて、力の弱い者が強敵に立ち向かう事の比喩として用いられる。村田さんたちは時に怒りの拳を振り上げ、時に悔し涙を流しながら、今年も「避難の権利」と「避難先での平穏な生活」を守ろうと闘ってきた。しかし、そのたびに国や福島県の厚い壁にはね返された。そもそも、内堀知事は村田さんたちとの直接面会に一度も応じていない。「避難されている皆さん御一人御一人の想いを念頭に置く」、「『現場主義』を自分の真ん中に置く」という言葉とはあまりにかけ離れている。
「この1年間、本当に記者クラブの皆さんに県政について格段のご尽力を頂いた事に心から感謝を申し上げます」と頭を下げて会見を締めくくった内堀知事。県民には「日々、寒さが厳しくなって参りました。皆さんにはお身体を大切にし、健やかに新年を迎えられます事をお祈りを申し上げ、年末の御挨拶と致します」と呼びかけた。しかし、住宅提供打ち切りが刻一刻と迫る原発避難者は、新年を祝うどころでは無い。厳しい冬はまだまだ続く。
(了)
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