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【放射性廃棄物】新野市長が速攻で設置容認。〝出来レース〟だった説明会、無視され続けた反対意見~二本松市・東和の森に仮設焼却炉設置へ

地元住民から反対運動が起きていた放射性廃棄物の仮設焼却炉(7月6日号参照)が、二本松市・東和の森に設置されることが決まった。とにかく燃やして除染廃棄物を減らしたい環境省に対し、二本松市の新野洋市長が仮設焼却炉の設置容認を表明。汚染の再拡散を懸念する住民の反対意見は完全に無視された格好で、市長は住民説明会から1カ月も経たずに受け入れを表明してしまった。安全性の科学的検証も、東和地区が選ばれた明確な理由説明も無し。住民説明会は〝出来レース〟。「復興」の名の下に、放射性物質を含んだ排煙が東和の空を漂うことになる。


【「苦渋の決断」繰り返す市長】
 〝速攻〟だった。
 「懇談会」という名の住民説明会から1カ月も経たない7月29日、廃棄物処理のための「安達地方広域行政組合」を構成する二本松市や本宮市、大玉村の三首長が福島市内のホテルで環境省の井上信治副大臣(当時)らと会談。席上、二本松市の新野洋市長が「苦渋の決断」と焼却炉設置を受け入れると表明した。理由は「二本松と安達地方の迅速な復興を進めるためにやむを得ない」だった。三市村での除染で生じた可燃性の放射性廃棄物10万8000トンを、約3年かけて燃やすことになる。
 なぜ市内での焼却が「やむを得ない」のか。市職員が解説する。
 「生活圏に仮置きされているフレコンバッグを市外に持ち出したいという気持ちは、地元住民の方々も同じでしょう。しかし、浜通りの中間貯蔵施設に運び込むには燃やして減容しなければならないのです。現在も『もとみやクリーンセンター』(本宮市)で少しずつ燃やしていますが、本来が家庭ごみのための焼却炉。一日に燃やせる量には限りがあり、何年かかるか分かりません」
 環境省の「中間貯蔵施設情報サイト」では、放射性物質に汚染された可燃物に関して、たしかに「原則として焼却し、量を減らした上で、焼却灰として貯蔵します」と表記されている。だが、同省水・大気環境局中間貯蔵施設担当参事官室に電話で確認したところ「ガイドライン上は、燃やした方がカサが減るので効率的だしありがたい。しかし、燃やさなければ中間貯蔵施設に搬入出来ないなどというルールは存在しない。仮置き場から、そのままフレコンバッグで運び込むことは可能です」と職員。つまり制度上、汚染の再拡散というリスクを背負ってまで焼却にこだわる理由は無いのだ。それでも燃やす。これが「復興」だというから恐ろしい。


焼却に反対する住民の声を無視し、新野市長は「苦渋の決断」と仮設焼却炉設置を容認した=福島県二本松市針道

【「『焼却ありき』『東和ありき』だ」】
 仮設焼却炉設置を拒む住民とて、手をこまねいていたわけではない。
 住民グループ「夏無沼と東和の環境を考える会」は7月11日、二本松市役所に新野市長を訪ね①新候補地の撤回②新候補地選定理由や他候補地との比較の開示③焼却の是非や焼却炉の設置場所に関する公の場での討議④会が主催する集会への市長の出席、住民の意見の反映─を求める要望書を提出した。筆者も同行したが「事前に聞いていない」との理由で市側に取材を拒否された。出席者によると、新野市長は「皆さんのご理解を得られるように努力していきたい。私としてはお願いをするしかない」、「皆さんとは見解が異なるかもしれないが、安全を確保できる方法はあると考えている」などと述べ、仮設焼却炉設置へ前向きな姿勢を示したという。
 この時点で市長の中で結論は出ていたのだろう。7月27日には、行政区長を集めた「報告会」の席上で仮設焼却炉の設置受け入れを伝えている。「先日の住民説明会で東和地域住民の考えや想いは受け止めたが、安達地方の廃棄物の一刻も早い撤去のため、現実的な判断を下した」と市長は語ったという。焼却以外の方策など、全く視野に無かった様子だ。燃やしたい国に従った二本松市には今後、迷惑施設受け入れの見返りとして国から地域振興費が下りてくる。新野市長は受け入れにあたって早速、仮設焼却炉への搬入路となる県道の拡幅を求めた。これも「復興」の一つなのか。
 新野市長の受け入れ表明を受けて「夏無沼と東和の環境を考える会」は今月3日、「東和地域住民の意思を無視した暴挙であり、断じて許されるものではない」などとする声明を発表した。その中で、考える会は「今回の計画は『焼却ありき』『東和ありき』だ」、「仮設焼却施設が大気や土壌、水質などにどのような影響を与えるかは定かでない」として、改めて計画の撤回を求めている。


7月11日、住民グループは新野洋市長(左)に計画の撤回などを求める要望書を提出。市長からは何ら回答が無いまま、仮設焼却炉受け入れが表明された(「夏無沼と東和の環境を考える会」提供)

【副大臣「とにかく早く処理しなければ」】
 「将来、子どもに万が一の健康被害があった場合、市は何か補償してくれるのか」
 新野市長が仮設焼却炉受け入れを表明したのちの7月31日に開かれた「教育懇談会」では、当然ながら子を持つ保護者から市長の「苦渋の決断」への批判的な声があがった。なぜ東和地区が選ばれたのか不透明。焼却以外の技術検討も無し。行政が好きな「検討委員会」を設置することも無く、およそ「民主的手続き」とはほど遠いプロセスで決められた仮設焼却炉の設置。
 ある農家は「土地はいくらでもある。無理に燃やさなくても、山奥にフレコンバッグを集約して隔離すれば良いじゃないか」と話すが、焼却一辺倒の環境省には届かない。実際、井上副大臣は会談後のブログで「この受け入れ合意によって、おかげさまで、福島県における除染廃棄物や農林業系廃棄物の処理の見通しがほぼ全て立つことができました。福島第一原発事故から5年4カ月以上が経ち、住民の皆さまのためにはとにかく早く処理しなければいけないと考え各地域で協議を重ねてきただけに、本当に良かった」と書いている。
 新野市長は、受け入れにあたってバグフィルターの二重設置を求めている。だが、そこまでして燃やすよりも、住民が言うように生活圏から離れた場所に隔離する方が「現実的な判断」ではないか。しかし、それでは困る〝事情〟が環境省にはあるのだろう。
 「夏無沼と東和の環境を考える会」は、定期的に発行している「ニュース」の最新号を今月11日の新聞に折り込んで二本松市内全域に配布する。「東和の人間だけが苦しめられてきた問題を、広く市内の人に知ってもらいたい」と事務局の服部浩幸さん(47)。計画の撤回は難しくなってしまったが、今後も厳しい目で監視していく方針だ。
 原発の爆発で被曝を強いられた人々が、時を経て今度は「復興推進」の名の下に仮設焼却炉を押し付けられる。そこには民主的な手続きも安全性の科学的検証も無い。これが原発事故の現実。福島第一原発の爆発からもうすぐ65カ月。しかし、原発事故は過去の出来事ではない。


(了)
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鈴木博喜

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