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【95カ月目の浪江町はいま】「帰還困難区域の現状を見てくれ」。帰れない住民たちの叫び。下がらぬ放射線量、朽ち果てたわが家…。〝復興〟の裏にある「もう1つの浪江」

2017年3月末で避難指示が部分解除された福島県双葉郡浪江町。しかし、町面積の8割を占める帰還困難区域は一部除染が始まったものの、多くが手つかずのままだ。町民の協力を得て4日、強風が吹き荒れ砂塵が舞う中、帰還困難区域を巡った。そこには、地元メディアからは伝わって来ない汚染や荒廃の現実が広がっていた。住民は言う。「復興復興とばかり言われるけれど、こういう現状も県外の人には分かって欲しい」。原発事故から来月で丸8年。そして来年夏に開かれる復興五輪。〝復興〟の裏側にある「もう1つの浪江」から、目を逸らしてはいけない。


【朽ち果てたわが家。覆い尽くす雑草】
 「ほらこれ、見てよ。これこそ馬鹿馬鹿しい線引きそのものでしょ」
 男性が指差したその先には、「除染が済んで空間線量が下がり生活環境が整った」として避難指示が解除された小野田行政区と、依然として帰還困難区域の指定が解除されない大堀行政区の違いがくっきりと表れた光景が広がっていた。片や整地され、片や雑草や木々が伸び放題。来夏に開催される〝復興五輪〟では「原発事故から立ち上がった浪江町の姿」も世界に発信されるが、避難指示が解除された行政区と荒廃の進む帰還困難区域が隣接しているのも、浪江町の現実。そして、そこに「戻りましょう、帰りましょう」と国や県、町が促しても、いまだ帰還町民が873人にとどまっている(1月末現在)のもまた、現実だ。
 4日は町役場職員も驚くほどの暴風が吹き荒れ、最大瞬間風速は26・6メートルに達した。カメラを構えていてもよろけてしまうほどの風に、町内のあちらこちらで砂塵が舞い上がる。「除染していない帰還困難区域からの砂塵には放射性物質も含まれています。あれを吸い込んでも内部被曝しないと言うのでしょうか。これが『避難指示が解除され〝復興〟に向かって進んでいる浪江町』の現実ですよ。都会の人々はこういう事を理解していないですよね。国の線引きがいかにおかしいかが良く分かるでしょう。行政区ごとに壁でもあれば話は別ですが…」。取材に協力してくれた住民が険しい表情で言った。
 別の男性は、井手行政区(帰還困難区域)から中通りに避難している。自宅は双葉町との町境に近い場所にある。原発事故前は車道から自宅までの小道も車で入る事が出来たが、今や雑草が覆い尽くして昔の面影は残っていない。
 「2年くらい前までは定期的に一時帰宅して除草剤を散布したり手で刈ったりしていたけど、早くても10年先でないと帰れないって言うからやめたんだよ。片付けたってしょうがないもんね。周囲の人たちもほとんど帰って来てないようだな」
 自宅の様子を見るのは昨年夏以来。古い自宅は手つかずのまま朽ち果て、崩れ落ちている。手元の線量計は5~6μSv/h。古くても愛着のあったわが家。原発事故さえ無ければ、避難先を8カ所も転々とする事も無かった。体育館で寒さに震え、四畳半の狭い仮設住宅で隣室に気を遣ってテレビの音量を下げる必要も無かった。井手行政区は帰還困難区域であるにもかかわらず、モニタリングポストは可搬型が1台、多目的研修センターの設置されているだけ。「置いてくれって役場に頼んだけど駄目だった」。
 原発関連の仕事に長く従事し「原発に食べさせてもらっていた」と話す男性は、複雑な表情で車に戻った。








①大堀相馬焼の展示会館として2002年4月に開館した「陶芸の杜おおぼり」。会館前には末ノ森行政区の除染で生じた除染廃棄物が並べられている
②雑草や木々が伸び放題になっている大堀行政区(帰還困難区域、写真右上)と、除染で整地され避難指示も解除された小野田行政区。当然ながら行政区と行政区の境には壁など無く、強風で放射性物質が飛び交う危険性を抱えている。国の線引きの不合理さが良く分かる
③住民の間で「サブロクセン」と呼ばれる県道35号線。一般車両はほとんど通らず、中通りの仮置き場などから中間貯蔵施設へ除染廃棄物を輸送するダンプカーが猛スピードで走り抜けていく
④帰還困難区域の中でも汚染が酷いとされる小丸行政区では牛が放牧されていた。すぐ近くにある「小丸観音堂」で、手元の線量計は10μSv/hを超えた

【イノシシが荒らす自宅、食べられぬユズ】
 やはり帰還困難区域の大堀行政区から避難している男性は、震災直後に身を寄せていた「浪江町老人憩の家 やすらぎ荘」(有料老人ホーム)で福島第一原発の爆発音を聞いたという。
 「地鳴りのような音でした。場所によっては煙も見えました。爆発から30分くらい経つと、警察官や東電の関係者が防護服の〝フル装備〟で逃げて来たんです。彼らが手にしていた線量計を見せてもらったら、既に3μSv/hを超えていたと記憶しています」
 憩いの空間から「安らぎ」は消え、高濃度の汚染が残ってしまった。男性の自宅は完成してからまだ13年ほどしか経っていないが、住む事は出来ない。果たしていつになったら住む事が出来るのか。そもそも戻る事など出来るのか。見通しさえ立たない。高台にある自宅からは常磐道が見え、眼下には水田が広がるが、もはやそこに水田があった事さえにわかに信じられないほどに雑草で覆われている。
 「気持ちとしてはやっぱり、他の行政区と同じように1回は除染して欲しいよね。帰還困難区域なんて除染したって無駄という意見も分かるけど、除染で少しでも放射線量が下がるのであればね」。男性の胸には複雑な想いが交錯する。母親の「除染が全部終わって解除となれば戻って来たいけど…。でも、周りが誰も帰らない中で自分だけ帰ってもね」と表情を曇らせた。
 玄関前の花壇や家庭菜園は、ミミズを探すイノシシによってすっかり掘り返され、石垣も崩れている。しかし、ここは未除染の帰還困難区域。修繕も出来ない。庭の木には色鮮やかなユズがたくさん実っていた。いくつかを町役場に持ち込んだところ、放射性セシウムが計168Bq/kg検出された(検出限界値は3・3Bq/kg)。原発事故前は「ユズリンゴ」を作って食べていたという。
 双葉町方面に抜ける県道35号線(通称サブロクセン)を、除染廃棄物を積んだダンプカーが走って行く。浪江町は、中通りの仮置き場などから中間貯蔵施設に輸送するルートになっている。
 「今日は少ないけど、多い日には何台も連なるようにして通過して行くよ。しかも、一般車両がほとんど走っていないから飛ばす飛ばす。しかも、今は双葉町との境に検問所があるけど、撤去して自由通行にする計画があるらしい。そうすれば輸送するのに楽なんだろう。でも、ここは帰還困難区域だよ。誰でも自由に通行出来るなんておかしいよ」








①②井手行政区の男性の自宅は、雑草に覆われて朽ち果てていた。「帰れないのに草刈りしてもしょうがない」。男性は寂しそうに言った。手元の線量計は5μSv/hを上回っていた
③帰還困難区域の酒井行政区では、田畑が整地されメガソーラー発電所が完成していた。旧居住制限区域(2017年3月末で避難指示解除)の谷津田行政区でも、除染廃棄物が撤去された仮置き場跡地に大量の太陽光パネルを設置する工事が進められている
④4日は朝から強風が吹き荒れたため、帰還困難区域の砂塵が風で舞い上がった。案内してくれた住民は「これを吸い込んだら内部被曝してしまう。避難指示が解除された区域も安全では無い」と危惧している

【賠償金では埋まらぬ「ふるさと喪失」】
 帰還困難区域では2018年5月から、「浪江町特定復興再生拠点区域復興再生計画」に基づいた除染作業が始まっている。帰還困難区域全域の避難指示解除に先駆けて室原、末ノ森・大堀、津島の3行政区の一部(合計面積約661ヘクタール)を整備。2023年3月の避難指示解除・町民の帰還を目指す。1500人が戻って生活する事を目標に掲げている。
 「復興拠点の面的除染が始まっていて、まずは町道を先行的に除染しています。帰還困難区域でも避難指示解除の条件(空間線量率で推定された年間積算線量が20mSv以下となることが確実であること)を満たさないだろうと考えられる地域は除染対象となっていません。帰還困難区域を除染して生活出来る環境となり得るのかと言われてしまうと身も蓋もありませんが、われわれとしては、復興拠点に認定した遠きは除染をすれば放射線量の低減が見込めると考えています」(浪江町除染環境係)
 小丸行政区では、牛が放牧されていた。近くの観音堂で手元の線量計は10μSv/hを超えた。草を食む牛たちを眺めながら、大堀の男性が言った。
 「賠償金もらえて良いねえって俺も言われたよ。でもね、自分の大切な土地も家も全部置いて避難させられているんだから、いくら賠償金をもらっても喪失は埋まらないよね。世間の人は自宅を新築したという所だけ切り取ってものを言う。インターネットもそう。俺達にとっては二重三重の精神的損害だよ。だいたい、原発事故が無ければ中通りで暮らす必要なんか無かったんだから。そこを考えて欲しいよね。関東や関西の人たちは、こういう帰還困難区域の現状は伝わってないよね、きっと。さっきからずっと線量計の警報音が鳴りっぱなしだけど、こういう状態だからね。復興復興って言うけれど、こういう地域がまだまだあるって事を分かって欲しいよ」
 井手行政区には「美森」と呼ばれる地域がある。しかし、残念ながら美しい森はいまや、高濃度に汚染された森へと変貌してしまった。
 「買い物とか病院とか、原発事故前のような生活環境が整ってようやく復興だと言えるんじゃないかな。でも、汚染はこんな状態だし、うちらの集落に〝復興〟は無いですよ」
 久しぶりに井手行政区の自宅を見に来た男性は、言葉少なに話した。そして、再び中通りの住まいへと車を走らせた。避難所を転々とした影響で、体調が芳しくないという。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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