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【原発避難者から住まいを奪うな】「新元号」「新紙幣」の陰で取り残される避難者たち。福島県知事は一度も面会する事無く粛々と切り捨て。支援続ける避難当事者の想いとは…

結局、福島県の内堀雅雄知事は〝予定通り〟に粛々と原発避難者支援策を打ち切った。3月31日で避難指示区域外からの〝自主避難者〟向け家賃補助制度が終了。国家公務員宿舎から退去しない避難者には、2倍の家賃請求が始まった。既に避難指示が解除された区域からの避難者に対する住宅提供も終わったが、新元号と新紙幣の〝祝賀ムード〟にすっかり隠れてしまった原発避難者の「切り捨て」。元号が変わったら、原発避難は現在進行形では無くなるのか。当事者でありながら支援活動も続けている避難者の想いを軸に、改めて考えたい。なぜ原発避難者支援が必要なのか。


【知事会見で淡々と「今後も支援する」】
 今月1日。午前10時から開かれた県政記者クラブとの定例会見。まず、福島中央テレビの男性記者が「今日、新元号の発表がありますけれども、新しい時代への想いをお聞かせください」と尋ねた。「平成」に替わる新しい元号の発表を控え、記者クラブからの最初の質問もまた、「新元号に対する知事の想い」だった。知事会見までもが改元に伴う空虚な祝賀ムードに包まれた。
 前日には、原発事故による避難指示が出されなかった区域からの避難者(いわゆる〝自主避難者〟)への家賃補助制度や、既に避難指示が解除されている5市町村(南相馬市、川俣町、葛尾村、飯舘村、川内村)からの避難者に対する仮設住宅の供与(みなし仮設住宅としての借り上げ住宅を含む)が打ち切られている。全国12カ所(山形、茨城、埼玉、東京、神奈川、京都)の国家公務員宿舎に身を寄せている避難者は退去を求められ、応じない場合は今月から2倍の家賃を請求される。福島県生活拠点課によると、3月26日時点で2倍の家賃を請求される避難者は約60世帯だという。
 年度が変わり、様々な想いや事情で避難を継続する人は、本当の意味で〝自力避難者〟となる。避難指示区域の内か外かという、放射線防護の点では何ら意味の無い〝線引き〟も無くなる。それでも、原発事故避難者の住宅問題に関して質したのは河北新報一社だけ。内堀知事の回答も、用意したペーパーを読み上げるだけの無機質なものだった。
 「国家公務員宿舎への使用貸付でありますが、2年間の経過措置として実施して来たものであります。経過措置後の例外的な措置として特別な事情のある世帯に限り延長する事としております。いまだ住まいを確保出来ていない世帯については、今後も戸別訪問等を通して一日も早く新たな住まいを確保出来るよう県として支援して参ります」
 河北新報の記者は、引き続き国家公務員宿舎に入居し続ける避難者の数についても質したが、内堀知事は「具体的な部分については、担当部局に直接、聴いていただければと思います」と答えなかった。新元号や〝働き方改革〟に関して雄弁に答えたのとはあまりにも対照的な姿勢だった。東京五輪を軸とした「復興ムード」の中、「原発避難者対策はもう終わった話だ」。そんな想いが透けて見えるようだった。




2日間にわたって都内で実施された電話相談「避難者住宅問題緊急ホットライン」。避難当事者が自ら電話を受けた。これも、本来なら国や福島県、東電がやるべき仕事だ

【原発避難で拡大した、個々の〝弱点〟】
 新元号の次は新紙幣。来夏には東京五輪が開かれ、否応なく原発事故は〝平成末期の災害〟として歴史の彼方に追い遣られていく。しかし、避難当事者も支援者も、決して座して3月末を迎えたわけでは無かった。避難の協同センターが2日間にわたって都内で行った電話相談会「避難者住宅問題緊急ホットライン」では、複数の避難当事者が自ら電話を受けて相談に乗った。
 なぜ原発避難者への支援が必要なのか。「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務める村田弘さん(福島県南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)は、自身の家族を例に挙げながら、次のように語った。
 「僕の場合はね、経済的な問題で言えば年金があります。田舎に居れば年金の中で生活出来ました。南相馬市小高区には2016年7月までまがりなりにも避難指示が出されていたから、避難生活で余分にかかっている分に対しては、十分とは思わないが月額10万円の賠償金が支払われていました(2018年3月末で終了)。でも、困窮というのは経済的な困窮ばかりでは無くて、精神的な困窮もあるわけです。強い人は耐えて来られたし、僕なんか悔しさをバネに何とかやってきましたけれど」
 「僕には新潟県三条市に避難した弟がいてね、彼は30年来の精神疾患を抱えているわけです。新潟では生活保護を受けながら生活していますが、経済的な問題と同時にね、その人が持っている〝弱点〟が原発避難によって拡大されてしまっているわけです。弟は元々〝自立〟は難しかったけど、そこに原発事故が起きた。そこのフォローが出来ていないという事だと思います。家賃補助3万円もらってパートで働いているのになぜ生活が苦しいんだという指摘もあるけれど、それこそ原発避難なんだよね。避難しなければ、みんな十分に生活出来ていたんですよ。『避難』というのが完全に抜け落ちてしまっている。『私たちだって生活が苦しいのに、避難者は3万円余分にもらっているじゃないか』という言い分も一見、分かりやすい論理だけれど、そこには『避難』という事が抜けていると思います。そもそもなぜ避難しなければならなかったのか。その共通認識を持たないと、いつまでも『お前らは勝手に逃げたんだろう』という見方になってしまいます」




今月25日に予定されている東京・永田町での集会。原発避難者を取り巻く状況を年々厳しくなるが、当事者も支援者も声をあげ続ける

【「〝避難者イコール母子避難〟では無い」】
 「避難の協同センター」代表世話人の松本徳子さんは「住宅が無償提供されていた6年間、私なりに貯金をしながら、いずれは借り上げ住宅を退去しなければいけないと考えながらやってきました。大変でしたよ。郡山に残った夫もカツカツでしたし」と8年間を振り返る。避難当事者である松本さんはなぜ、支援する側に居られるのか。
 「私が貧困に陥らなかった要因の1つは、放射線防護という点でパートナーが同じ方向を向いていたという事ですね。夫がもし、『もう、いい加減に避難をやめて戻って来い』、『除染も行われたし、二重生活は大変だ』などと言って経済的援助をしなければ、私はかなり困窮していたと思います。自分が我を押し通す事によって家族がバラバラにもなってしまうのだから、精神的にも病んでしまったかもしれません。でも、私と夫はたまたま同じ方向を向いていたし、下の娘は(鼻血などの)症状が現れたから、『母親の言う事は間違いじゃない』、『なるべく避難した方が良さそうだ』と自分の肌で感じていた。そうやって、周囲に同じ感覚を持っている人が何人もいたわけですよね。私は気が強いから、仕事先でも『被曝を避けるために避難して来ました』って初めから言っちゃってるから、怖いものは何も無いわけですよ。もし、被曝回避や避難を隠しながら装って生活していたら、私もとっくに駄目になっていたでしょうね。私はあからさまに口にしていたけれど、被曝を避けるために避難して来たと言えなかった人がたくさんいますからね」
 熊本美彌子さん(福島県田村市から東京都に避難継続中)は、「4月以降、避難し続ける人たちに対する法的な保護が全然無い。いつ、山形県米沢市の人たちのようにされるか、それを最も心配しています。入居し続ければ〝不法滞在〟という事になってしまう。福島県は『すぐに退去しろとは言いません』とは言うけれど、実際に入居している人々は、4月1日を過ぎたらいつ荷物を運び出されて鍵も取り換えられてしまうのではないかと不安でいっぱいですよね」と表情を曇らせた。
 一方で、瀬戸大作さん(「避難の協同センター」事務局長)の指摘は重い。
 「〝避難者像〟というものがいつのまにか出来上がってしまっていて、〝避難者イコール母子避難〟みたいになってしまっている。でも実際には、この1年間の支援は単身世帯に移行しています。単身での避難者が取り残されてしまっているんです。『福島に帰れば良いじゃないか』って福島県職員も言うけれど、そもそも福島に持ち家が無い人もいる。将来の出産を見越して被曝を避けるために単身避難している女性もいます。そういうところが抜け落ちてしまっている。で、避難先で非正規の仕事に就きながら、一般的な貧困のスパイラルに陥ってしまっている。でも、彼女だって福島で生活をしていればある意味〝通常の生活〟を送れたんですよ」
 「福島ぽかぽかプロジェクト」で長く「保養」に取り組んでいる矢野恵理子さんも「『生きる力』って人それぞれ違うと思っています。福島で生きていれば、そんなに生きる力が強くなくても平和に過ごせた人がポンと福島の外に出て何か大きなものと闘わなければいけない時に、『生きる力』の差は大きくなると思います。その結果、困窮に陥ってしまっている人をなんとか救っていかなければいけないのは、私は社会の責任だと思っています」と語った。
 原発事故で避難している人々を突き放すのか、救うための手を差し伸べるのか。私たちにも突きつけられている。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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