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【97カ月目の福島はいま】「語り部たらん」。詩で綴る奪われたふるさと、表面的な〝復興〟への疑問。双葉町出身の元教師・二階堂晃子さん「語らねば原発事故被害が消えてしまう」

「見えない百の物語」(土曜美術社出版販売)という詩集がある。作者は、福島県双葉郡双葉町出身の元教師・二階堂晃子さん(75)=福島県福島市在住=。大切なふるさとを根こそぎ奪った原発事故への怒り、差別を恐れて「福島から来た」と県外で口に出来ない苦悩、国や福島県が進める〝復興〟への疑問、「語り部としての決意」が伝わってくる作品の数々。その中から3篇を紹介しながら、二階堂さんが詩に込めた想いに迫りたい。元号が替わっても原発事故被害は終わらない。それぞれの被害を語り継ぐ事こそ、新たな原発事故被害を防ぐ。


【母の介護で再認識した「ふるさと」の良さ】
 映画のセットではない
 疫病が流行ったわけではない
 限界集落ではない
 誰もいない
 ぼろぼろの集落

 津波に表れた屋並みは
 南に向いたままドミノ倒しを成し
 潰れた大屋根はすべて無言

 破れた窓に
 ばっさ ばっさと風に舞う
 引きちぎれたカーテン
 海水が家中をかき混ぜて
 形を無くした暮らしの残骸
 復興から忘れ去られたぼろぼろの集落

 ここは原発立地町
 その東端 津波を請け負った集落
 双葉町もろたけ花ノ木
 手を施されない
 復興から見放された原発足元の集落
 
 高速道路は超スピードで開通した
 六号線に沿って見える海辺はきれいに平地と化した
 見た目の「復興」は黙って美しいのに
 他町の除染土は次から次へと
 立地町に積み重ねられ
 ぼろぼろの集落は捨て置かれ
 ススキの原に飲み込まれる

 いっそ歴史的建造物として
 地震と津波と原発犯罪の証言遺産として
 雨風にもてあそばれ
 投げ置かれているぼろぼろの集落を
 吹き荒れる風のまま五年
 誰の声も見えない
 ただたたずむ ふるさと (「風の集落」)

 高校を卒業すると、福島大学に通うために中通りで暮らした。教師としての初任地は、今や帰還困難区域になってしまった相馬郡飯舘村の長泥小学校。最近になり、教え子が牛とともに西白河郡中島村に避難していると知り、涙を流した。浪江町・津島二小や福島市内の小学校で教壇に立った。生まれ育った「ふるさと」双葉町を再認識したのは退職後だという。病に倒れた母親を介護するため5年間、福島市から双葉町まで片道2時間近くかけて通った。そこにあったのは、十代の頃には気付かなかった素晴らしい自然の営みだった。
 「退職してすぐに関東の大学院で児童心理学を学んで、学校心理士という資格を得ました。卒論を書き上げ、修了した直後に母が倒れました。母は施設に入るのを嫌がったので週に2日、5年間実家に通ったのです。不思議な事に、以前には感じられなかった〝ふるさとへの愛着〟が大変深くなったのです。忘れていた〝ふるさと〟が、この5年間でよみがえって来たのです」
 数十年ぶりに再開した隣近所との付き合い、商店での買い物。ふるさとはこんなにもきれいだったのか。父の愛した梅林の香りはこんなにも濃厚だったのか。海から届く波の音。冬でも縁側の戸を開けていられるほどの温暖さ。介護の合い間に素敵な「ふるさと」を再認識したという。大地震と大津波、そして原発事故がふるさとを襲ったのは、母親を見送ってすぐ後の事だった。素晴らしさを再認識したばかりのふるさとは、津波と放射性物質ですっかり変容してしまった。
 「中学生の頃、よく父の田植えを手伝ったものです。当時は牛を使って代かきをしていたんです。その日の作業が終わると、月明かりに照らされながら、父と牛と私とで自宅に帰りました。父は『お前が手伝ってくれたから今年も良い米が収穫出来るなあ。疲れたべ。良くやったなあ』ってほめてくれたんです。でも今、田んぼのあった農師町には一面、ソーラーパネルで埋め尽くされています。牛と歩いた道も無くなっていました。愛着ある『ふるさと』は、全て消されているんです」


時には涙を拭いながら、ふるさと双葉町への想いを語った二階堂晃子(てるこ)さん。「語らなければ消えてしまう」と、今後も「語り部」として伝えていくという=福島県福島市の自宅で

【「危険性認識しつつ、差別は無くしたい」】
 乗り合わせた エレベータの二人
 朝の笑顔が交わされて
 ─どちらから来られました
 ─ …ちょっと遠くから
 ─私は四国からです
 ─ …そうですか
 重い空気 急に流れ
 フレンドリーな旅人に
 うろたえているこちらの旅人
 福島の「ふ」を出せないまま

 声に出したら
 「えっ?」と言われるか
 「大変ですね」と言われるか
 口に手を当て 下りて行かれるか
 裏読みしすぎ 駆け巡る

 福島ナンバーに「帰れ」と書かれた辱め
 避難した旅館で
 食べ物も部屋も風呂も別扱いにされたみじめさ
 間をあけて車を停められた寄る辺なさ
 「避難民」
 「原発ちゃん」
 「放射能ってうつるんでしょ」
 浴びた数々の声色
 あぶり出し絵 浮かび来て

 そんなことはもうない と
 自問自答しているけれど
 「福島」と答えたとたん
 ふっと変わる空気の動き 怖くて
 見つめ直すかすかな視線 怖くて
 ちょっと揺れる体のぶれ 怖くて
 「被災者ね」の気配 怖くて
 福島の「ふ」
 出せないまま うろたえている
 
 重い空気 自ら醸しだしてる
 おくびょうな旅人
 七年が経つというのに  (「おくびょうな旅人」)

 「県外で『福島』と口にした時に、あからさまでは無いんだけど、フッと空気が変わる時があるんですよね。特別視されているような気がするんです。嫌な想いをしたくないから、身を守るために隠すんです。この気持ちは絶対に書かなければいけないと思いました」
 原発事故以降、「事実」と「感情」が激しく交錯する。車のタイヤや靴などと共に放射性物質を持ち込んで欲しくないと他県の人が考えるのは当然だ。二階堂さんも「そこは理解出来る」と話す。
 「放射性物質の危険性に対する問題意識は持っていないといけないと思います。福島県内で行われているように原発事故など何も無かったかのようにするのは大変な問題です。そこに一石を投じたいと常々考えています。危険性がある事は十分認識しながらも、でも、それによって差別される事はやはり絶対に排除したい。そこに尽きますね」
 無くしたいのはいわれの無い差別であって、放射性物質による汚染ではない。しかし、国や福島県が躍起になっているのは表層的な〝復興〟の推進と〝風評被害〟の払拭。2020年の東京五輪は「復興五輪」とされ、聖火リレーや野球・ソフトボールの県内開催で世界中に原発事故からの復興がアピールされる。避難者支援は次々に打ち切られ、原発事故後に避難指示区域外に設置されたリアルタイム線量測定システム(モニタリングポスト)の撤去計画が浮上した。
 「賠償金を巡る浜通りと中通りの〝分断〟も大きいですよね。でも、生業も思い出も歴史も地域のつながりも絆も全部、奪われたんです。有形無形のもの全てです。だから賠償金を受け取るのは当然なのに、軋轢や分断を生じさせる事によって本来の問題を見えなくさせてしまっているんですよね」


二階堂さんの詩集「見えない百の物語」。「悲しみの向こうに 故郷・双葉町を奪われて」、「音たてて幸せがくるように」に続き3冊目だ。女優・金子あいさんの朗読を聴いた時には「私の詩があんなにも化けるものか」と嗚咽を漏らして泣いたという

【原発事故被害を語ると復興の妨げ?】
 古来より人は語り伝えてきた
 人が生きていく思い
 忘れ去られようとする言葉
 消されようとする歴史
 広島を 長崎を 沖縄を
 人々は語り継いできた

 今 語り部たらん
 見えない 匂わない 感じない福島を

 ふるさと追われ 葬られ
 風に運び去られん福島を
 ブルーシートの下に隠された消えない線量
 フレコンバッグピラミッドを横に置いた避難解除を
 裏山除染作業のすぐわきで部活をする高校生を
 地表より一メートルを測量する意味
 人の生殖器官の高さであることを
 廃棄物を積んだトラックと並行している日常を

 今 語り部たらん
 すべての悲しみの源
 決して消えない恐怖
 人災が成せる 未曽有のむごさを
 平穏な息吹 まだ蘇らないままに

 望郷の思い ひとつにして
 手を取り合い 抱き合い
 雄々しく立ち上がる 同胞を

 六年の歳月に刻まれる九万の物語
 自ら命を絶った幾十人の無念さ
 「なんかいも死のうと思った
 でもしんさいでいっぱい死んだから
 つらいけどぼくは生きると決めた」
 少年がギリギリ生きたこの思いを

 今 語り部たらん

 詩集のタイトル「見えない百の物語」。それは、原発事故被害者には百人百様の〝物語〟がある事を改めて教えてくれる。しかし、時間の経過とともに「語り部」は減る一方。語ればつらいし、時に周囲に叩かれる。
 「話は山ほどあるんです。でも、それを語る人がいません。語ろうとすると、復興の妨げになると拒絶されてしまう。でもね、語って行かなければ消えちゃうんですよ。県外では様々なイベントや学習会で原発事故が語られているのに、福島に戻って来ると驚くほど関心が低い。いかに福島県が表面的な〝復興〟に偏って来ているか…。オリンピックで復興を世界にアピールするためには、マイナスの話は持ち出して欲しくないというのが本音なんだと思います」
 最近では講演の講師として招かれる事も増えた。一昨年からは、群馬県の共愛学園前橋国際大学で年1回、学生に特別講義をしている。学生から寄せられた直筆の感想文はファイルされて大切に保管されている。表題作「見えない百の物語」は、学生の反応や教室の様子を綴った作品だ。
 「質疑応答で1人の女子学生が手を挙げました。学内で100人にアンケートをとったんだそうです。原発存続が1割、原発廃絶も1割。どっちでも良いが8割だった。これほどまでに関心が低いのかとがく然とした、という話をしてくれました。そうしたら、別の学生が手を挙げました。そのアンケートで『どっちでも良い』と答えた学生さんでした。二階堂さんの話を聴き、いかに自分が無知であったかを痛切に感じました。今からでも出来る事はありませんか?と言ってくれたんです。本当に感動しました。『福島だけの問題では無い』、『ふるさとを自分の意思で離れる事と奪われる事は全く違う』という発言もありました。伝わったんですね。うれしかったです。どれだけ励まされたか分かりません」
 詩集の問い合わせは土曜美術社出版販売株式会社03(5229)0730まで。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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