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【98カ月目の原発避難者はいま】消される避難者の声。「個人が特定される」。全国の拠点に寄せられた相談内容を黒塗りした福島県。事実上の不開示に避難当事者から疑問の声も

全国で暮らす原発避難者が何に困って、何を求めているか。しかし、福島県の回答は事実上の「不開示」だった─。本紙はこのほど、福島県の情報公開条例に基づき、原発避難者から寄せられた相談内容の開示を請求した。しかし、開示されたのは相談内容など多くが黒塗りされた180枚。県は「名前や避難元、避難先を伏せても個人が特定されるおそれがある」などと理由を説明しているが、相談内容が分からなければ、避難者の〝切り捨て〟を着々と進める内堀県政の施策を検証する事が出来ない。福島県は、避難した県民を本当に守ろうとしているのだろうか。避難当事者からも疑問視する声もあがっている。


【県「適正な遂行に支障を及ぼす」】
 福島県に開示を請求した公文書は「平成28~29年度広域避難者全国相談月別報告書」。
 原発事故後、全国に「生活再建支援拠点」(いわゆる「よろず相談所」、以下拠点)が26カ所設置された。報告書には、各拠点に電話やメールなどで寄せられた原発事故避難者からの相談内容や対応・回答などが1件ずつ記録されている。相談件数は2016年度が1803件、2017年度は福島県外からの避難者も含めて2294件に上った。
 しかし、県は「相談を受けた拠点名」や「民間賃貸住宅家賃補助制度の利用有無」、「避難元の都道府県市町村」、「避難先の都道府県市町村」、「避難元は避難指示区域内か区域外か」、「相談に応じた担当者名」、「相談内容の詳細」、「どのような対応・回答をしたか」、「備考」を黒塗りにして開示した。
 結果的にA3判で180枚の文書が開示されたが、開示された情報は「相談年月日」や「避難者の性別」、「年齢」、「避難者登録の有無」、「相談方法(来所、電話、メール)」、「相談内容の分類(住宅、教育環境など)」、「連絡先の有無」のみ。肝心の相談内容は全く知る事が出来ず、事実上の不開示と言える。
 県から郵送されてきた「公文書一部開示決定通知書」には、黒塗りの理由として①個人に関する情報である②県の実施する避難者の相談業務に関する情報であり、公にすることにより、当該事務の性質上、当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある─と記載されている。
 相談業務を所管する福島県避難者支援課の担当者は、〝黒塗り〟の理由を「避難者個人が特定されるおそれのある情報を黒塗りにした上で相談内容だけでも開示する方法も検討した。しかし、どのように特定されるか判断が難しかった。相談内容を読めば、人によっては誰の相談か分かってしまう可能性もある。そもそも、相談を受けるにあたっては秘密は守るというのが前提。それなのに、個人が特定されない形であっても開示されてしまうと、避難者から『相談すると個人名は伏せているものの何らかの形で外部に出されてしまう』と思われてしまう。そうすると相談を寄せなくなってしまう。拠点に従事している支援者も、外部に出るとなると報告書の書き方が変わってしまう可能性がある」と説明している。




相談内容など、ほとんど〝黒塗り〟で開示された「広域避難者全国相談月別報告書」。福島県避難者支援課の担当者は、黒塗りの理由について「相談業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」としている。しかし、これでは避難者からどのような相談が多いのか、福島県の施策がニーズに沿っているかなどの検証が出来ない

【避難者の声を聴かず切り捨てる内堀知事】
 実は今回の公文書開示を巡っては、事前の避難者支援課とのやり取りの中で「開示はかなり難しいと思う。場合によっては不開示もあり得る」と〝予告〟されていた。それに対し、筆者は「相談者の氏名や避難元、避難先など個人が特定され得る情報以外、特に相談内容に関しては公開するべきだ」と伝えていた。それには次のような理由がある。
 福島県の内堀雅雄知事は、避難者団体からの再三の要求にもかかわらず、原発避難者との直接面会に応じていない。年末に東京国際フォーラムで開かれている「ふくしま避難者交流会」で県外避難者のテーブルを巡る時間は設けられているが、実際に費やされる時間は1つのテーブルにつき10~15分程度。内堀知事は膝をつき、視線を下げながら避難者と向き合うものの、避難者からの住宅支援延長などの求めには、うんうんとうなずくばかり。周囲の職員が「時間が無い」と次のテーブルに異動するよう促してしまうので、「避難者との対話」とは名ばかりだ。それでいて、住宅提供を軸とした避難者支援策が続々と打ち切られている。避難当事者が「施策決定前にわれわれの声に耳を傾けて欲しい」と願うのは当然だ。
 昨年12月の「交流会」では、山形県に避難した男性が「まず避難者と会って現状を聴いて欲しい」と手紙を内堀知事に手渡したが、県職員からは後に「NO」の返事があった。
 原発避難者がどのような事に困り、悩み、どのような支援策を求めているのか。それを知る事で福島県の施策は避難者のニーズに沿っているのか、相談業務は適正に行われているのかを検証する事が出来る。今回、黒塗りで開示された報告書は、全てが内堀知事の元に届けられているのでは無いという。「必要に応じて報告はしていますが、全てを知事が読んでいるわけではありません」と避難者支援課。知事に報告もされず、公開もされない相談内容が避難者支援に活かされているとどうして言えるのか。「避難者一人一人にていねいに対応している」という言葉が真実か、検証も出来ない。
 本紙は昨年、やはり情報公開制度を利用し、福島県から事業委託されている「一般社団法人ふくしま連携復興センター」(れんぷく、福島県福島市)がまとめた「福島県県外避難者への相談・交流・説明会事業報告書」のうち、今年と昨年の各3月末付で発行された「平成28年度版」と「平成29年度版」の2冊を入手した。
 「れんぷく」は、この事業だけで福島県から年約2億円の委託費を受けている。だが、これらの報告書は「相談内容から避難者個人が特定される恐れがある」(福島県避難者支援課)などの理由で福島県や「れんぷく」のホームページで一般には公開されていない。相談内容も、「平成28年度版」に18例だけを抜粋して掲載しているだけ。だからこそ、本当に必要な避難者支援策を検証する上で全ての相談内容が必要だったが、県は開示を拒否したのだった。


昨年、開示された「平成28年度福島県県外避難者への相談・交流・説明会事業報告書」では、18例の相談内容だけが抜粋されて掲載されている。しかし、この報告書も「個人が特定されるおそれがある」などとして公開されていない

【「相談業務が『適切』で無いから黒塗り」】
 相談内容が公開されたら、避難者は本当に困るのだろうか。
 福島県中通りから県外に避難、避難者支援にも携わった事のある女性は「避難者から相談を受ける側でもある身としては、福島県職員の言い分も分からないでは無いです。守秘義務をうたって相談を受けているでしょうから」と福島県の対応に理解を示した。
 その上で「ただ、避難者が福島県の相談業務にどれだけ信頼を寄せているかは、甚だ疑問です。特に避難指示区域外からの避難者を救おうという気持ちなど感じられませんから」とも話す。
 「もちろん個人を特定されないように配慮する必要はありますが、どのような相談が各拠点に寄せられているかは、むしろ福島県側から積極的に情報提供するべきだと思います。このような相談に対してこういう施策を用意しました、このように対応しました、これからこのようにしていきます、という『答え』を添えて発表することが出来ないからこそ、黒塗り開示なのでしょう。相談業務が『適切』で無いからこそ、開示出来ないのでしょうね。」
 やはり避難当事者として相談業務に携わっている別の女性も、「確かに報告書類には具体的な相談内容も書いてあるし、(それを他人が読む事で)『あの人かもしれない』と想像出来るような内容も記載されています。個別に対応したケースについて詳しく書いてあって、対応結果も公開されるとなると、それを辿っていく事で『あの人じゃないか』と特定されてしまう懸念も、理解出来なくも無いです」と県の対応に一定の理解を示す。
 「役所に相談したくなくて支援団体に相談してきたというケースもあります。福島県や国から助成金をもらっていれば、ある程度その相談も報告書類に加えなくてはならない。一方で、避難者がどういう気持ちで私たちに相談してきたかを考えると、プライバシーを守らなくてはいけないというのはもちろんだし、支援団体側にも役所には伝えていない内容もあります。例えばそこを含めて全て公開して欲しいと言われても、とても難しいことではあると思います」
 その上で、こうも指摘した。
 「それでも、ここまで黒塗りだと怪しく感じてしまいますね。具体的にではなく、せめて『こういう相談内容でした』という報告くらいは出来ると思います。個々の相談内容をきちんと解釈して、公開しても良いような形にまとめられていないから、こういう事になるのかもしれませんね」
 〝復興五輪〟を来年に控え、避難者の声はこうやって消されていくのか。内堀県政は何を守ろうとしているのか。少なくとも避難した県民を守ろうとしていない事だけは、明確に分かる文書開示だった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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