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【浪江原発訴訟】「自らの〝誓い〟破った東電、暴挙は許せない」。浪江町集団ADR和解案6回拒否で法廷闘争始まる~福島地裁で第1回口頭弁論。国、東電は全面的に争う構え

福島県双葉郡浪江町の町民が申し立てた集団ADRでの和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題で、浪江町民109人(49世帯)が国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の第1回口頭弁論が20日午後、福島地裁203号法廷(遠藤東路裁判長)で行われた。この日は、2人の原告や原告側代理人弁護士が意見陳述。原告団長の鈴木正一さんは、意見陳述で「『和解案を尊重する』という約束を破り、6回にわたって拒否し続けた東電。許せない暴挙だ」などと怒りをこめて話した。国や東電は全面的に争う構え。加害者意識に乏しく、自ら建てた「誓い」を破り続ける東電の姿勢を司法がどう裁くのか。次回期日は7月18日14時半。


【「国から見棄てられた『核災棄民』」だ】
 「国と東電に対する憤りはおさまりません」
 1987年から5期18年間、浪江町議を務めた鈴木正一さん(68)=浪江町川添から南相馬市に避難中=は、原告団の団長としてまず最初に意見陳述に臨んだ。
 東電は「3つの誓い」の中で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」、「原子力損害賠償紛争解決センターから提示された和解仲介案を尊重するとともに、手続きの迅速化に引き続き取り組む」と〝宣言〟している。しかし、浪江町民が申し立てたADRでは、原子力損害賠償紛争解決センター(以下、ADRセンター)が提示した和解案を実に6回も拒否した。ADRセンターが再三にわたって受諾を勧告しても、東電の姿勢は変わらなかった。加害者意識に乏しいと言わざるを得ない東電の振る舞いは、自らが立てた「誓い」からはほど遠いものだった。
 「国から公的援助を受けるため、ADRにおける和解案の尊重を約束し、誓いました。それにもかかわらず、和解案を6回にわたり拒否し続けました。東電は、自分でした約束・誓いを破ったのです。許せない暴挙です」 
 豊かな自然や地域のコミュニティを一瞬にして奪った原発事故。避難指示の部分解除に向け、自宅の庭は3度にわたって除染された。それでも、3回目の除染後に行われた環境省による測定で、庭の空間線量は1・8μSv/hに達した。
 「放射線管理区域の基準である年5・2mSvを上回るのに、国から『年20mSvが基準だ』と説明されて避難指示が解除された。しかも先日、固定資産税の納税通知書が届きました。放射能に汚染されたままで利用出来ない土地や家屋にも、情け容赦なく課税されていくのです。原発事故被害の実態を見ようともしない、政府の非情な政治判断の一例です。これが『被災者に寄り添う』と言っている者の真の姿です」
 自らを含む原発事故の被害者を「核災棄民」と名付けた。
 「福島第一原発の事故は、巨大な人災です。核の人災です。加えて、浪江町は原発隣接地であるにもかかわらず、町民にはバスなどの避難手段も汚染の情報も国から提供されませんでした。浪江町民は皆、国から見棄てられた『棄民』です」
 静まり返った法廷で、鈴木さんは背筋を伸ばし、正面に座る3人の裁判官に語りかけるように陳述した。
 続いて法廷に立ったのは、南相馬市原町区の復興公営住宅で暮らしている鶴島孝子さん(60)。
 小学校の養護教諭だった鶴島さんは1992年、浪江町刈宿地区に自宅を建て、南相馬市小高区から転居した。しかし、原発事故で、長女夫婦や孫との楽しい生活や、地域の交流は全て奪われた。町民を中心としたよさこいチームにも所属し、全国大会にも出場経験があるが、メンバーは原発避難で離散してしまった。「原発事故は私の生活全てを奪いました。そうやって奪われたものが元に戻ることは、残念ながらありません」。
 涙をこらえながら法廷に立った鶴島さん。こんな言葉で陳述を締めくくった。
 「原発事故の前にも後にも正しい情報を知らされず、だまされ続けてきた庶民の苦しみは、国や東京電力に全く理解されていません。原発事故は人災です。この裁判では、その人災の責任を明らかにしてもらいたい。私たちが失ったものに対する適切な賠償をしてもらいたい。そう考えています」






(上)横断幕を手に福島地裁に向かう原告たち。慰謝料を一律増額する和解案を東電が6回にわたって拒否し続けたためADRは打ち切り。やむなく提訴に踏み切った。最終的に原告団は2000人規模になりそうだという=福島市花園町
(中)閉廷後の報告集会でマイクを握る鈴木正一原告団長。「原発事故に伴う賠償請求権の時効は10年。2021年3月末で東電を無罪放免にして良いのか」と改めて怒りを口にした(左は鶴島孝子さん、右は弁護団事務局長の濱野泰嘉弁護士)。
(下)開廷に先立ち、原告たちはJR福島駅前で道行く人々にチラシを配って理解と支援を訴えた。被害に見合った賠償を求めるために、被害者がここまでしなければならないのもまた、原発事故の一面なのだ

【東電拒否の間に町民864人亡くなる】
 訴状などによると、原告たちは原発事故による損害賠償として「コミュニティ破壊慰謝料」、「避難慰謝料」、「被曝不安慰謝料」を合わせた1100万円、集団ADRの和解案を東電が違法に拒否したことによる精神的損害として110万円の計1210万円を一律に支払うよう請求している。提訴日は2018年11月27日。提訴前の11月18日に設立された原告団には約500人(256世帯)が参加。この日、第2次提訴として52世帯115人分の訴状が提出された。弁護団によると、原告団は最終的に1500~2000人規模になりそうだという。
 訴訟の狙いは①国と東電の原発事故における責任を明らかにする②浪江町民の一律解決③浪江町民の被害の甚大さを広く訴え、慰謝料に反映させる④東電のADR和解案拒否に対する追及─の4点。
 浪江町民は2013年5月29日、精神的損害に関する賠償の増額などを求め、集団ADRを申し立てた。代理人弁護士の意見陳述によると、背景には、2018年6月に亡くなった馬場有(たもつ)前町長の想いもあったという。「馬場町長は、被害者の早期救済を目的とした原発ADRの制度趣旨に期待し、個人では救済を求める事が難しい高齢の町民も含めて一律に救済出来ると考えた。東電が和解案を尊重すると明言していた事も大きな理由の一つだった」(意見陳述より)。
 2014年3月20日にはADRセンターが和解案を提示した。中身は①避難生活の長期化に伴う精神的苦痛(将来への不安等)の増大による慰謝料として、2012年3月11日から2014年2月末日までの間、中間指針等が定める月額10万円ないし12万円に月額5万円を加算する②避難により高齢者(75歳以上)の正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたため生じた日常生活阻害慰謝料として、2011年3月11日から2014年2月末日までの間、中間指針等が定める月額10万円ないし12万円に月額3万円を加算する─だった。
 しかし、同年6月25日と9月17日の2回にわたって東電が受諾を拒否。2015年1月23日には、和解案を受諾するようADRセンターが東電に勧告したが、それでも東電は、2月23日と5月20日の2回にわたって再度拒否。2015年12月17日にはADRセンターが改めて受諾を勧告した。しかし、またもや東電は2016年2月5日に受諾を拒否。2018年3月26日にも東電が受諾を拒否したため、同年4月5日をもって集団ADRは打ち切られた。
 町民側は決して5万円増額という和解案に納得はしていなかったものの、当初から一貫して和解案を受諾すると表明していた。申し立てから10カ月後という短期間で一律慰謝料増額を認めた点を評価したからだった。しかし、東電が受諾を拒否し続けたため、申し立てに加わった町民1万5700人余のうち864人が亡くなった。この864人は、東電が「手続きの迅速化に引き続き取り組む」と誓ったにもかかわらず長年にわたって受諾拒否を貫いた〝裏切り〟の犠牲者なのかもしれない。








①②東電は「和解仲介案の尊重」を約束したものの、浪江町民の集団ADRでは6回にわたって受諾を拒否した(訴状より)
③④被告東電が提出した答弁書では「和解案の受諾をしなかったことは正当な理由に基づくものであり、何ら違法なものではない」などとして、全面的に争う姿勢が示されている

【弁護団「東電の答弁書あまりにも酷い」】
 閉廷後に開かれた報告集会で、弁護団の事務局長を務める濱野泰嘉弁護士は、東電が提出した答弁書について「看過できない内容が並べられている。和解案の拒否について、『全員一律の和解案には応じられないと言って来た。それにもかかわらず全員一律の和解案が示されたので、対応出来ないと回答したにすぎない』と言っている。全員一律の救済には対応出来ないと決めたのは東電。東電が勝手に決めたルールなので、全く正当な理由にはあたらない」と批判した。
 「答弁書では、原発事故による『コミュニティ破壊』について東電は『個々の原告らが平穏な日常生活とその基盤を失ったとしても、それぞれが新たに平穏な日常生活とその基盤を形成する事は可能であり、その意味で必ずしも不可逆的とは言えない』と反論している。原発事故によって長年失われたものは元に戻らない。そういった意味では不可逆的だとこちらは損害を主張しているが、東電はそこを分かっていないし、あまりにも酷い」
 また、東電は浪江町と通報協定を結んでいたにもかかわらず、原発事故後に東電が町に通報して来なかったと原告側が主張している点に対しても、東電は答弁書で「浪江町にもFAX送信を試みたが届いたかどうかは分からない」、「普通電話、災害時優先携帯電話、衛星電話、ホットラインを用いて繰り返し通報を試みたが、通信手段の不調で結果として電話連絡がとれなかった」などと反論しているという。濱野弁護士は「やれる事はやったんです、と言いたいがためにいろいろと言い訳を言っている。相変わらず言い訳じみた主張を繰り返しているという印象だ。町役場の認識と違うところもあるので、きちんと確認していく必要がある」と語った。
 原告団長の鈴木さんは、「傍聴は何度かあるが、法廷に立ったのは初めて。陳述している間、3人の裁判官は私の顔を見てくれなかった。言いたい事はたくさんあったが、想いの一部を述べられてホッとしている」と意見陳述を振り返った。鶴島さんも「緊張した。裁判など初めてでどうなることかと思ったが、なんとか無事に大役を果たす事が出来た。原発事故で私は人生全てが奪われたと訴えたい。ここにいる皆さんもそうだと思う」と話した。
 集団ADRは訴訟に比べればハードルが低く、1万5000人を超える浪江町民が参加したが、今回の訴訟の原告は今のところ224人。弁護団は6月1日以降、福島県内や東京都江東区、宮城県仙台市で説明会を開くが、原発事故から8年が経過し、被害者自身の疲弊は否めない。この点について、鈴木さんは「個別にADRを申し立てた人もいる。訴訟の手続きが大変、などとあきらめている人もいる」と話した。鶴島さんは、復興公営住宅で町民と交流している経験から「やはり裁判となると時間がかかる。お年寄りは『そこまで生きられるかな』、『もう良いかな』という考えになっているのも事実。少ない年金で生活している人は、訴訟費用をねん出するのも難しい。でも、何とか仲間に加わって欲しいと呼びかけている」と語った。
 東電が早々と和解案を受諾していれば、町民が訴訟を起こす必要も無かった。福島駅前で頭を下げながら訴訟のチラシを配る必要も無かった。原発事故の加害当事者は、どこまで被害者を苦しめるのか。浪江町民の闘いが始まった。



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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