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【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】今回から2日間の弁論期日。存続の危機に瀕する郷土芸能。「津島に帰りたい」願いながら逝った息子。「ふるさとは『おふくろ』」~原告3人への本人尋問

原発事故で帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島地区の住民たちが国や東電に原状回復と完全賠償を求める「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第18、19回口頭弁論が23、24の両日、福島地裁郡山支部303号法廷(佐々木健二裁判長)で行われた。今回から弁論期日が2日間になり、男女3人の原告に対する本人尋問が実施されたほか、1月に主尋問が行われた専門家証人・佐藤暁氏に対する被告国、東電からの反対尋問が行われた。「原子力緊急事態宣言」が発令されてから今月28日で3000日。原告たちは原発事故が奪ったふるさと、郷土に根ざした伝統芸能、津島に帰りたい想いを涙ながらに訴えた。次回期日は7月11、12の2日間。


【「『三匹獅子舞』再興したい」】
 尋問の終盤だった。沈黙が続いた。静まり返る法廷。今野正悦さん(70)=福島市に避難中=の唇が細かく震えているのは、傍聴席からも分かった。
 今野さんは泣いていた。原発事故による強制避難から8年超。一時帰宅のたびに、先祖代々受け継いできたわが家が朽ちていく。津島地区は最も汚染の酷い「帰還困難区域」。大好きな山菜採りも叶わない。自宅を何とかしたいが、どうする事も出来ない。朽ちていくわが家をただ眺めるしか無い無念さはいかばかりか。原発事故後、初めて津島の自宅を訪れた孫は、変わり果てた家にショックを受けたのか、どれだけ促しても車を降りようとはしなかった。
 「情けないです」。これ以上、わが家が朽ち果てていく様子を見るのは忍びない。熟慮の末に解体を決めた。築300年。原発事故さえ無ければ引き継がれていった家までも奪った放射能汚染。「せめて、許可なく入れる津島にしてもらいたいと思います」。今野さんの涙声が法廷に響いた。
 原発事故が〝破壊〟したものの一つに、長年にわたって継承されてきた郷土芸能がある。
 今野さんは代々、郷土芸能の「田植踊」や「三匹獅子舞」の庭元として、練習場所の提供や衣装の保管、参加者の食事の面倒まで一切を担ってきた。練習は毎年9月初旬から始まり、津島稲荷神社の例大祭で奉納する10月第一日曜日まで続いた。昨年9月に行われた現地検証(現地進行協議)では、自宅に大切に保管されている獅子舞や鼓、太鼓を箱から出して裁判官に説明した。自宅の壁には、原発事故前年に「三匹獅子舞」を披露した子どもたちの記念写真が飾られている。これが最後の獅子舞になってしまった。
 「若い世代に引き継いで行かなきゃいけないのに、こんな状況ではどうしたものか…。舞い方、踊り方を覚えている人たちがバラバラに避難してしまったからね。伝統芸能の継承が難しくなってしまったのも原発事故の影響だよ」。今野さんは現地検証を控えた昨夏、自宅で言葉少なに語っていた。この日の法廷でも「伝統芸能の継承は大事。再興したい。復活させなければならない。今なら間に合う」と力をこめた。
 佐々木やす子さん(64)=安達郡大玉村に避難中=は、原発事故から5カ月後の2011年8月11日、次男をガンで亡くした。21歳になったばかりだった。この年の2月には夫に先立たれ、哀しみに暮れる間もなく息子が旅立った。「この世に神様はいないのか」。号泣しながら話す姿に、裁判官の1人は顔を真っ赤にしていた。
 原発事故前にガンが見つかった次男は、自衛官を辞め津島に戻る事を楽しみにしていた。マッサージの仕事を始めるべく、闘病中も勉強を欠かさなかった。しかし、津島は放射能汚染で「帰還困難区域」に指定された。「なぜ帰れないんだ」。病床で次男は悔しさを爆発させていたという。
 「どんな事をしてでも、1回くらい津島に連れて行ってあげれば良かった。後悔しています。すごく無念です」と語気を強めた佐々木さん。津島地区内の墓地に埋葬されたが、納骨の際には「放射線量が高い」と住職に読経をしてもらえなかった。当たり前の事が出来なくなった。津島で眠る夫や息子の墓参をするにも許可が要る。国も福島県も「復興は着実に前に進んでいる」と口にするが、これが帰還困難区域の現実だ。「帰って良いと言われれば、私はいつでも津島に帰るつもりです。花づくりをしたい」と話すが、いつになったら除染で放射線量が低減するのか、見通しが立たない。
 「1日も早く、生きているうちに津島に帰して欲しい。お骨では無く…」
 賠償金では償えない「ふるさとはく奪」。その罪はあまりにも重い




庭元・今野正悦さんの自宅で大切に保管されている「三匹獅子舞」の道具や衣装。放射能汚染で、地域に根差した郷土芸能も存続の危機に陥っている。自宅には2010年の記念写真が飾られているが、それが最後になってしまった。今野さんは「今ならまだ間に合う。再興したい」と法廷で語った

【「国や東電は事故の責任果たせ」】
 1987年から町議を務めている馬場績さん(75)=安達郡大玉村に避難中=は、同じく津島地区から選出された元町議の三瓶宝次さんと共に津島の過疎化対策や農業振興に奔走してきた。三瓶さんは自民党、馬場さんは共産党。政治的な立場は異なるが、地域振興では一致。様々な場面で協力し合った。福島県立浪江高校津島校で定員割れが続き存続の危機に陥った時にも、地域住民と「津島分校を考える会」を結成し、署名集めなどで募集停止を免れた。
 チェルノブイリ原発事故から8年後の1994年、現地を訪れた。「身が凍る思いがした。原発事故など絶対に起こしてはならないと思った」と振り返るが、よもや自分自身が原発事故による地域消滅の危機に直面しようとは想像だにしなかった。現地視察から17年後に起きた福島第一原発事故。「津島を消滅させてはならない」。発生直後から避難先を巡り、住民の声に耳を傾けた。
 2012年12月に開かれた避難指示区域再編の住民説明会。「津島に戻れるようになるには、何年くらいかかるんですか?」。率直な質問に、環境省の担当者は「100年はかかりますね」と答えた。「100年もかかるのか、と会場がどよめいた」と馬場さんは振り返る。
 2014年に「津島地区原発事故の完全賠償を求める会」が結成され、312世帯が参加。三瓶さんと共に共同代表に就いた。この会が母体となり、原告団へとつながっていく。「ふるさとにこだわるのは、人間として自然な想いです。どんな事があっても無くしてはならないという住民の素朴な想い、原発事故への怒りの現れでした」。原告は680人にまで増えた。
 帰還困難区域のごく一部を除染して2023年3月をめどに避難指示を解除する「特定復興再生拠点」が津島地区にも設定されたが、「住民の想いとは決して合致していない」と馬場さんは語気を強める。「拠点整備エリアが極めて狭い」と行政区長会として町長に要望書を提出したが、整備エリアに認定されたのは町役場津島支所や「つしま活性化センター」を中心とした153ヘクタール。津島地区全体のわずか1・6%にすぎない。整備エリアに自宅がある原告は「解除されても戻って生活するのは難しい」と話す。しかも、復興再生計画の完了目標は2035年。〝復興〟への道のりは長く険しい。
 「水田に山や月が映る光景が好きだった。思い出しただけでつらい」と馬場さん。「ふるさとは『おふくろ』であり『家族』であり『命の源』です。しかし、すっかり荒れ果ててしまった。どうにかしてください。私たちは何も悪い事はしていません。なぜ、ふるさとを離れなければいけないのでしょうか。私たちに責任はありません。国や東電は原発事故の責任を果たして欲しい」と訴えた。




真夏のような陽射しの下、原告たちは福島地裁郡山支部周辺をデモ行進した。近くに住む女性は原告たちを眺めながら「東電からたくさんお金(賠償金)をもらったんでしょ?裁判なんかしたってしょうがないのに」とつぶやいた。原告たちは「金の問題じゃ無い。ふるさとを返して欲しいんだ」と話す

【「取り調べのような尋問だ」】
 原告側の専門家証人として1月に主尋問を受けた元GE技術者の佐藤暁氏は、国の指定代理人から120分、東電の代理人弁護士から60分の反対尋問を受けた。佐藤氏は2018年7月に提出した意見書「予防と緩和の事前対応が可能だった津波対策、および、回避可能だった福島第一原子力発電所事故」の中で、必要な対策を事前に講じていれば、過酷事故は防げたとの認識を示している。国や東電の代理人は「あなたは津波メカニズムの専門家ではありませんね」、「重要機器の高所配置にはデメリットもあるのではないですか」、「本件事故が起きる前にも津波対策について検討した事はあったのですか」などと質し、切り崩しを図った。「前橋地裁でも尋問を担当させていただいた」という東電の代理人弁護士は、たびたび前橋地裁でのやり取りを挙げながら、いかに佐藤氏の証言が信頼性が低いかをアピールするべく、詳細にわたって質問した。
 閉廷後、本人尋問や佐藤氏への反対尋問を傍聴した原告たちは一様に「まるで犯罪者を取り調べているかのような本人尋問だった」と口にした。特に東電の代理人弁護士は「避難先でも住民の交流や獅子舞の練習は出来るのではないか」、「納骨に住職が立ち会わなかったのは本当に放射能汚染が原因なのか」などと原告を問い詰めた。
 そもそも原発事故という「原因」があっての「結果」であるにもかかわらず、「原因」に対する当事者意識が希薄と思えるような質問が続いた。この東電の姿勢は、集団ADR和解案拒否を受けて始まった「浪江原発訴訟」での答弁書(「原発事故による『コミュニティ破壊』について東電は『個々の原告らが平穏な日常生活とその基盤を失ったとしても、それぞれが新たに平穏な日常生活とその基盤を形成する事は可能であり、その意味で必ずしも不可逆的とは言えない」)と共通する。
 馬場さんは原発事故で農業と畜産業を廃業したが、東電の代理人弁護士は「営業損害賠償を受けているにもかかわらず、大玉村で再開するのは多額の投資が必要で難しいと言っている」と質問。原告側の白井弁護士が「金の問題じゃ無いですよ。あなた方は生業を奪っておいて、再開出来ないのは金が足りないからだと言う。そういう言い方は無いのではないか。あたかも金が欲しいかのように誤導している」と激しく異議申し立てをする場面もあった。
 「原子力緊急事態宣言」が発令されて、今月28日で3000日。被害者たちは疲弊しながらも国や東電と闘っている。そして、闘いはまだまだ続く。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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