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【子ども脱被ばく裁判】「避けられた無用な被曝の責任をとれ」~第6回口頭弁論。井戸弁護士は「コストを理由とした被曝の強要は許されぬ」と国や福島県を批判

福島県内の子どもたちが安全な地域で教育を受ける権利の確認を求め、原発の爆発事故後、国や福島県などの無策によって無用な被曝を強いられたことへの損害賠償を求める「子ども脱被ばく裁判」の第6回口頭弁論が8日午後、福島県福島市の福島地裁203号法廷で開かれた。意見陳述した弁護団長の井戸謙一弁護士は「被曝は少なければ少ない方が良い」、「コストがかかることを理由に被曝を強要することは許されない」などと、住民を守らない国や福島県の姿勢を批判した。次回期日は10月12日午後2時半。


【「被曝は少なければ少ない方が良い」】
 「国際的には、いかに小さい被曝であってもリスクはあるというスタンスだ。年20mSv以下ではリスクが小さいというのは論理的に出てこない」
 弁護団長を務める井戸謙一弁護士は、国の準備書面に対してこう反論した。ICRP(国際放射線防護委員会)は、「緊急時被ばく状況」の参考レベルを年20mSvから100mSv、「現存被曝状況」の参考レベルを年1mSvから20mSvの中で選択するよう勧告。国はこれを採用して年20mSv以下を避難指示解除など〝安全〟の基準としているが、閉廷後の報告集会で、井戸弁護士は「被曝は少なければ少ない方が良い。年1~20mSvは国民の健康を守るための数値ではなく『(社会経済的に)このくらいは我慢させよう』という基準だ。人の健康や生命は何よりも大切にされなければならない。コストがかかるからといって(被曝を強いることは)許されるものではない。そういう価値判断は、これまで日本では許されて来なかったはずだ」と述べた。
 2011年12月22日に発表された国の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」では、「国際的な合意では、放射線による発がんのリスクは、100 ミリシーベルト以下の被ばく線量では、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる」、「低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし、積算量として合計 100 ミリシーベルトを被ばくした場合は、短時間で被ばくした場合より健康影響が小さいと推定されている(これを線量率効果という)。この効果は動物実験においても確認されている」と記されている。
 国の方針はICRPの2007年勧告に完全に沿っているが、この点に関しても井戸弁護士は「イギリスのNGOの意見に過ぎず、日本が従う義務も法律も無い。法的効力が無いものを金科玉条にするのは間違いだ」と批判した。


弁護団長を務める井戸謙一弁護士。法廷で「低線量であっても被曝のリスクはあるというのが国際的な合意だ」と述べ、年20mSv以下では健康リスクが小さいとする国や福島県の姿勢を批判した

【「情報があれば被曝は避けられた」】
 あの時、国は「ただちに影響ない」と繰り返した。そして今、年20mSvを下回ったことを根拠に強制避難者を戻そうとしている。福島県は県民の被曝を防ぐどころか〝専門家〟を招いて講演会などで〝安全〟を強調した。この裁判では「被曝を最小限度にしなかったことへの損害賠償」(光前幸一弁護士)を求めている。請求額は1人10万円。求めているのは金ではない。「きちんと情報が提供されていれば、どれだけ少量であっても避けることが出来た被曝だ。学校が再開するからと県外から福島にやむなく帰ってきたという事例はいくらでもある」と井戸弁護士。「県民に安定ヨウ素剤を服用させなかったというだけで(国や福島県の加害行為は)十分だ」とも報告会で述べた。
 浪江町から避難中の今野寿美雄さんは、夏休み中の息子(11)を伴って原告席に座った。「初めてなので緊張した」と振り返るわが子を笑顔で見守りながら、「悔しさを腹にとどめておかないで罪を問いたい」と表情を引き締めた。
 原発作業員だった今野さんはあの日、女川原発(宮城県、東北電力)に出張していた。子どもたち家族は2011年3月15日まで浪江町の津島地区に他の町民と同じように〝避難〟していた。SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータは活用されず、実は町民が逃げた先こそ汚染のより酷い地域だった。家族と合流できるまでに何日も要した。津島地区で我が子が雪を口にしたこと、寒い中炊き出しをした消防団員の髪の毛から10万ベクレルもの放射性物質が検出されたことを後に知った。「なぜそうなったか。国や福島県が被害(被曝)を拡大させたのです。津波はたしかに天災ですが、これは人災なのです」。報告集会でマイクを握った今野さんは強調した。
 井戸弁護士はまた、「被曝させてしまった国民を守るために、年1mSvを基準とする『日本版チェルノブイリ法』が必要だ」と述べた。「年1mSvというのは、国が事業者に課している規制。現行法では住民の被曝線量がそれを上回ったとしても違法ではない。しかし、年1mSvという規制を設けたのには理由があるはず。国民を守る際の参考にするべきだ」と話す。

小学校5年生の息子と共に原告席に座った今野寿美雄さん。「原発事故は、国と福島県が(被曝という)被害を拡大させた人災だ」と怒りを口にした=福島市市民会館

【「文科省は歴史的不作為」】
 2014年8月に始まった裁判は、福島県内の小中学生たちが原告となり、福島市、川俣町、伊達市、田村市、郡山市、いわき市、福島県を相手取って「年0.3mSv未満となる地域で教育を受ける権利があることの確認」を求める 「子ども裁判」。国や福島県に対し「原発事故により福島県民に発生する可能性のある被害をできる限り防いで県民の福祉を増進する義務を怠った」、「子どもらに対し無用な被ばくをさせた」などとして損害賠償を求める「親子裁判」の二本立てで進む。
 今年5月には、東京大学アイソトープ総合センター長・児玉龍彦氏の意見書が提出された。その中で、児玉氏は「早期予測が対象とする期間として、当日24時間が特に重要であるのはいうまでもない」、「SPEEDIは住民にとって、ほぼ唯一の放射線拡散の予測を知るチャンスだった」、「浪江町で最も放射線量が低い請戸漁港周辺の方々が避難せず、プルームの流れが正確に予測でき、海岸沿いで救助活動を続けていたら、助かっていた津波被災者もいたかもしれません」、「国家の危機の中で、文科省は意図的か、意図せざるかは不明であるが、72時間にわたり歴史的不作為に徹底していた」などと述べている。
 弁護団は今後、原告らに原発が爆発した当時の詳細な生活状況を陳述書にまとめてもらい、国や福島県の「加害行為」によって生じた損害を示していく方針。「陳述書の作成は原告に負担をかける」(田辺保雄弁護士)のため作成には時間を要するが、当事者の詳細な陳述こそ最も説得力がある。
 報告会で、光前弁護士は「国や福島県の加害行為によって生じた損害の立証は非常にハードルが高いが、原告の皆さんの詳細な陳述書によって勝利に結び付けたい」と語った。


(了)
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鈴木博喜

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