【原発避難者から住まいを奪うな】避難者支援で見えた、この国の弱者対応の脆弱さ。避難の協同センター・瀬戸大作さんが川越で講演。「勉強し提案型の運動展開も必要」
- 2019/06/03
- 19:07
「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんが2日午後、埼玉県川越市で講演し、打ち切りが相次ぐ原発避難者への住宅支援について「『事故から8年経ったのだからそろそろ自立してください』と〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない」などと、原発避難者を追い詰める「自立の強制」について批判した。政府の避難指示が出されなかった区域から避難した区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)への住宅支援打ち切りから2カ月余。現在進行形の支援事例も交えながら、瀬戸さんは避難者の現状や今後の課題について語った。避難当事者と支援者とで結成した「原発避難者と歩む@川越」の主催。
【「〝加害者〟自立を強制するな」】
「僕が貧困問題に取り組んでいて、一番嫌いな言葉が『自立』です。8年経ったのだから避難者の人たちもそろそろ自立してください、と自立を強制しています。国家公務員宿舎からの追い出しはまさにその典型です。自立をして出て行けという事です。この事を〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない。福島県の担当者もこの話ばかりします」
瀬戸さんが指摘する原発避難者支援の問題点は、「自立の強制」であり「公平性を盾にした切り捨て」だ。国も福島県も期限を一方的に決めて「自立」を避難者に強制するが、一方で避難者がどこからどこに避難してどのような生活を送っているのか、詳細な実態調査は行われない。瀬戸さんたちは交渉の場が設けられるたびに、実態調査を行うよう福島県に申し入れて来たが、福島県職員の答えは「NO」。支援策の打ち切りを決めてから「意向調査」を行う始末だった。
また、原発避難者の前に立ちはだかるのが「公平性」だ。
「福島県議会の各会派を訪問したが、共産党と立憲民主党の一部を除いて、皆一様に『福島に帰ってくれば良いじゃないか』と言います。ほとんどが避難者支援継続に反対です。避難者と一緒に福島県選出の野党系参院議員にも会いに行きましたが、避難者に向かって『もう帰って良いっぺ』と言うんです。都議会の議員たちにも『福島県の県民感情を考えると、区域外避難者だけを支援するわけにはいかないんです』、『自力で国家公務員宿舎を退去した人たちとの公平性を考えたら駄目です』と言われました」
避難者を受け入れている全国の自治体は公営住宅を提供して来たが、やはり「本来、住宅を必要としている住民との公平性が保てない」と続々と支援打ち切りを決めた。インターネット上には「勝手に放射線を怖がって逃げた人たちを手厚く支援するのは不公平だ」との書き込みが後を絶たない。避難を選択せずに福島県内での暮らしを続けている人々からも「私たちには何の手当も無いじゃないか」との声が聴かれる。それらの声に瀬戸さんは強く反論する。
「そもそも原発事故という原因があって避難した。避難先での困窮を『自己責任』で片づけるのか」


(上)「避難の協同センター」事務局長として原発避難者支援に奔走している瀬戸大作さん。「8年経ったのだから避難者の人たちもそろそろ自立してください、と〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない」などと熱く語った
(下)質疑応答では、避難当事者も発言。「『自立』を果たした避難者の中には『自分の力で自立しろと言われ続けてようやく自立出来たのに、自立出来ない人が不法占拠しているのを応援するとかお金を支給するとかはずるい』と口にする人もいる」=クラッセ川越
【実態把握せず「待つ避難者支援」】
特に〝自主避難者〟については当初から、正確な人数が把握されないまま8年が経過した。瀬戸さんもどこにどれだけの避難者がいるのかつかみ切れていない。
「全国推計で約1万2000世帯というデータがあります。そのうち約半分が民間賃貸住宅に入居。そのさらに3分の1の約2000世帯を対象に、今年3月末まで家賃一部補助制度がありました。国家公務員宿舎からの退去に応じない避難者に対しては、間もなく家賃の2倍請求が始まります。東京・東雲住宅では8割がまだ退去出来る状態にありません」
原発避難者は全員が多額の賠償金を得て悠々自適の生活を送っているとの誤解がいまだに少なくないが、瀬戸さんの周りには常に避難先で必死に生きている避難者の姿があった。
夫の理解を得られぬままダブルワークで2人の子どもを大学に進学させ、自死を選んだ母親がいた。国家公務員宿舎からの退去期限を突きつけられ、何度も都営住宅に応募しても当選せずに肩を落とす避難者がいた。自家用車を所有している事を理由に生活保護申請を却下された避難者、子どもが大学進学を夢見て居酒屋でのアルバイトで月に11万円を得ている事を理由に親の生活保護申請が認められなかった事例もあるという。転居費用を用意できず、避難の協同センターが立て替えているケースもある。
避難先で心の病になった人、派遣切りに遭っても避難元に自宅がある事を理由に生活保護を受けられない人、所持金5円の状態でSOSを送って来た男性…。国も福島県も「全国に相談拠点を設けたから相談して」と強調する。しかし、本紙が情報公開制度で入手した資料では、多くが「傾聴した」で終わっている。来年3月末には避難指示が解除された区域からの避難者に対する仮設住宅の提供が終わる。
「原発避難の問題は本来は貧困問題では無いが、新潟や東京、山形などの実態調査も含めていろいろ分かって来ると、結果として避難者の多くの人たちが生活の困窮状態にあるという事が分かったのです。京都では避難者自ら相談員をしているが、『相談支援では何も解決出来ない。住まいを軸とした経済支援を継続するべき。困窮に陥った避難者は生活保護につなげれば良いというような対応はやめて欲しい』と言っていました。経済支援が無いから心の問題になるんです」
そして、貧困問題も含めた日本の福祉行政の脆弱さを、こんな言葉で批判した。
「避難者の実態把握が出来ていないという事からも分かるように、〝出かける福祉〟になっていない。日本の福祉行政は全部〝待っている〟のです」
「受け身の避難者支援」を続ける福島県は、自死を選んだ母親の苦悩をキャッチ出来ていなかった。しかし、内堀雅雄知事は口を開けば「避難者に寄り添う」と繰り返している。本当に寄り添っているのなら、瀬戸さんたちの活動は不要なはずだ。


(上)福島県の決定を国が追認する形で進められてきた原発避難者切り捨ての問題点=瀬戸さんの講演資料より
(下)「原発避難者と歩む@川越」が交渉を重ねた結果、川越市は2017年に収入要件を設けない2万円の給付金制度を始めたが、これも福島県と連動するように今年3月で打ち切られた
【「他の社会運動とも連携を」】
「避難者問題から見えてくるものは、弱者への対応の弱さです。もっと言えば原発避難者だけの問題では無いのではないか。熊本地震(2016年4月)など被災者全体の問題です。熊本でも、新たな住まいが確保出来ずに仮設住宅から移れない被災者の問題が浮上しています。結局、今の国の制度は原発事故避難者も含めた『被災者』を切り捨てているわけです」
熊本県すまい対策室によると、仮設住宅に入居する世帯は今年3月末現在で7304世帯。うち211世帯が新たな住まいを確保出来ていないという。「地震から3年を迎え、入居延長はしません。入居時期によって期限が異なるので、半年前からどうやって希望に沿う住まいを確保するか支援しています」と担当者。ピーク時には、仮設住宅の入居者は2万世帯を超えていたという。
質疑応答では、避難指示区域外から川越市に避難した当事者がこんな発言をした。
「周囲の避難者からは『ずるい』と言われました。自分の力で自立しろと言われ続けてようやく自立出来たのに、自立出来ない人が不法占拠しているのを応援するとかお金を支給するとかはおかしいと。何年も前から支援打ち切りを予告されていて、収入要件を満たさないと家賃補助も無かったと。そういう〝分断〟が避難者の間でも全国的にあるんです。貧困世帯だけじゃなくて避難者一律の支援制度を確立出来ないものでしょうか。貧困者ばかりに焦点が当たってしまうと、どうしても一枚岩になれない現実もあるんです」
原発事故の被害者が被害者を責める構図。それを利用して切り捨てを進める国や福島県。避難したのは自己責任、避難先で生活困窮に陥ったのも自己責任、では被害者救済の道は険しい。原発避難者に対する国や福島県の対応は、弱者に冷たいこの国の縮図なのかもしれない。その流れにどう抗うか。瀬戸さんはこう言う。
「要求だけし続けても〝勝ち目〟は無い。勉強してカードを多く持って、提案型の運動をしていくことです。他の社会運動との連携も必要です。そうする事で横断的に対応出来ます」
(了)
【「〝加害者〟自立を強制するな」】
「僕が貧困問題に取り組んでいて、一番嫌いな言葉が『自立』です。8年経ったのだから避難者の人たちもそろそろ自立してください、と自立を強制しています。国家公務員宿舎からの追い出しはまさにその典型です。自立をして出て行けという事です。この事を〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない。福島県の担当者もこの話ばかりします」
瀬戸さんが指摘する原発避難者支援の問題点は、「自立の強制」であり「公平性を盾にした切り捨て」だ。国も福島県も期限を一方的に決めて「自立」を避難者に強制するが、一方で避難者がどこからどこに避難してどのような生活を送っているのか、詳細な実態調査は行われない。瀬戸さんたちは交渉の場が設けられるたびに、実態調査を行うよう福島県に申し入れて来たが、福島県職員の答えは「NO」。支援策の打ち切りを決めてから「意向調査」を行う始末だった。
また、原発避難者の前に立ちはだかるのが「公平性」だ。
「福島県議会の各会派を訪問したが、共産党と立憲民主党の一部を除いて、皆一様に『福島に帰ってくれば良いじゃないか』と言います。ほとんどが避難者支援継続に反対です。避難者と一緒に福島県選出の野党系参院議員にも会いに行きましたが、避難者に向かって『もう帰って良いっぺ』と言うんです。都議会の議員たちにも『福島県の県民感情を考えると、区域外避難者だけを支援するわけにはいかないんです』、『自力で国家公務員宿舎を退去した人たちとの公平性を考えたら駄目です』と言われました」
避難者を受け入れている全国の自治体は公営住宅を提供して来たが、やはり「本来、住宅を必要としている住民との公平性が保てない」と続々と支援打ち切りを決めた。インターネット上には「勝手に放射線を怖がって逃げた人たちを手厚く支援するのは不公平だ」との書き込みが後を絶たない。避難を選択せずに福島県内での暮らしを続けている人々からも「私たちには何の手当も無いじゃないか」との声が聴かれる。それらの声に瀬戸さんは強く反論する。
「そもそも原発事故という原因があって避難した。避難先での困窮を『自己責任』で片づけるのか」


(上)「避難の協同センター」事務局長として原発避難者支援に奔走している瀬戸大作さん。「8年経ったのだから避難者の人たちもそろそろ自立してください、と〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない」などと熱く語った
(下)質疑応答では、避難当事者も発言。「『自立』を果たした避難者の中には『自分の力で自立しろと言われ続けてようやく自立出来たのに、自立出来ない人が不法占拠しているのを応援するとかお金を支給するとかはずるい』と口にする人もいる」=クラッセ川越
【実態把握せず「待つ避難者支援」】
特に〝自主避難者〟については当初から、正確な人数が把握されないまま8年が経過した。瀬戸さんもどこにどれだけの避難者がいるのかつかみ切れていない。
「全国推計で約1万2000世帯というデータがあります。そのうち約半分が民間賃貸住宅に入居。そのさらに3分の1の約2000世帯を対象に、今年3月末まで家賃一部補助制度がありました。国家公務員宿舎からの退去に応じない避難者に対しては、間もなく家賃の2倍請求が始まります。東京・東雲住宅では8割がまだ退去出来る状態にありません」
原発避難者は全員が多額の賠償金を得て悠々自適の生活を送っているとの誤解がいまだに少なくないが、瀬戸さんの周りには常に避難先で必死に生きている避難者の姿があった。
夫の理解を得られぬままダブルワークで2人の子どもを大学に進学させ、自死を選んだ母親がいた。国家公務員宿舎からの退去期限を突きつけられ、何度も都営住宅に応募しても当選せずに肩を落とす避難者がいた。自家用車を所有している事を理由に生活保護申請を却下された避難者、子どもが大学進学を夢見て居酒屋でのアルバイトで月に11万円を得ている事を理由に親の生活保護申請が認められなかった事例もあるという。転居費用を用意できず、避難の協同センターが立て替えているケースもある。
避難先で心の病になった人、派遣切りに遭っても避難元に自宅がある事を理由に生活保護を受けられない人、所持金5円の状態でSOSを送って来た男性…。国も福島県も「全国に相談拠点を設けたから相談して」と強調する。しかし、本紙が情報公開制度で入手した資料では、多くが「傾聴した」で終わっている。来年3月末には避難指示が解除された区域からの避難者に対する仮設住宅の提供が終わる。
「原発避難の問題は本来は貧困問題では無いが、新潟や東京、山形などの実態調査も含めていろいろ分かって来ると、結果として避難者の多くの人たちが生活の困窮状態にあるという事が分かったのです。京都では避難者自ら相談員をしているが、『相談支援では何も解決出来ない。住まいを軸とした経済支援を継続するべき。困窮に陥った避難者は生活保護につなげれば良いというような対応はやめて欲しい』と言っていました。経済支援が無いから心の問題になるんです」
そして、貧困問題も含めた日本の福祉行政の脆弱さを、こんな言葉で批判した。
「避難者の実態把握が出来ていないという事からも分かるように、〝出かける福祉〟になっていない。日本の福祉行政は全部〝待っている〟のです」
「受け身の避難者支援」を続ける福島県は、自死を選んだ母親の苦悩をキャッチ出来ていなかった。しかし、内堀雅雄知事は口を開けば「避難者に寄り添う」と繰り返している。本当に寄り添っているのなら、瀬戸さんたちの活動は不要なはずだ。


(上)福島県の決定を国が追認する形で進められてきた原発避難者切り捨ての問題点=瀬戸さんの講演資料より
(下)「原発避難者と歩む@川越」が交渉を重ねた結果、川越市は2017年に収入要件を設けない2万円の給付金制度を始めたが、これも福島県と連動するように今年3月で打ち切られた
【「他の社会運動とも連携を」】
「避難者問題から見えてくるものは、弱者への対応の弱さです。もっと言えば原発避難者だけの問題では無いのではないか。熊本地震(2016年4月)など被災者全体の問題です。熊本でも、新たな住まいが確保出来ずに仮設住宅から移れない被災者の問題が浮上しています。結局、今の国の制度は原発事故避難者も含めた『被災者』を切り捨てているわけです」
熊本県すまい対策室によると、仮設住宅に入居する世帯は今年3月末現在で7304世帯。うち211世帯が新たな住まいを確保出来ていないという。「地震から3年を迎え、入居延長はしません。入居時期によって期限が異なるので、半年前からどうやって希望に沿う住まいを確保するか支援しています」と担当者。ピーク時には、仮設住宅の入居者は2万世帯を超えていたという。
質疑応答では、避難指示区域外から川越市に避難した当事者がこんな発言をした。
「周囲の避難者からは『ずるい』と言われました。自分の力で自立しろと言われ続けてようやく自立出来たのに、自立出来ない人が不法占拠しているのを応援するとかお金を支給するとかはおかしいと。何年も前から支援打ち切りを予告されていて、収入要件を満たさないと家賃補助も無かったと。そういう〝分断〟が避難者の間でも全国的にあるんです。貧困世帯だけじゃなくて避難者一律の支援制度を確立出来ないものでしょうか。貧困者ばかりに焦点が当たってしまうと、どうしても一枚岩になれない現実もあるんです」
原発事故の被害者が被害者を責める構図。それを利用して切り捨てを進める国や福島県。避難したのは自己責任、避難先で生活困窮に陥ったのも自己責任、では被害者救済の道は険しい。原発避難者に対する国や福島県の対応は、弱者に冷たいこの国の縮図なのかもしれない。その流れにどう抗うか。瀬戸さんはこう言う。
「要求だけし続けても〝勝ち目〟は無い。勉強してカードを多く持って、提案型の運動をしていくことです。他の社会運動との連携も必要です。そうする事で横断的に対応出来ます」
(了)
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