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【99カ月目の福島はいま】「せめて夏休みくらいはわが子を放射線から遠ざけたい」「ニーズがある限り受け皿を用意する」~二本松市で開かれた保養相談会に89組の親子

今月9日、福島県二本松市内で保養相談会が開かれ、中通りなどから昨年と同数の89組が訪れた。子どもを参加させる保護者たちの被曝リスクに対する考え方は様々だが、各団体のスタッフは資金難やスタッフの高齢化などの課題に直面しつつも「子どもたちの累積被曝線量低減につながってくれれば良い」と口を揃える。保養に参加した事で出会いや気づきの多さに驚いたという母親。子どもを被曝リスクから少しでも守ろうと毎年、参加している母親も。民間団体の努力でなんとか成り立っている保養プログラム。保養先を探している母親、全国各地で受け入れている団体に想いを聴いた。


【保養先で得た「出会い」「気付き」】
 二本松市在住の女性(40)は、4人の子どもの母親。これまでは、どちらかと言えば原発事故や被曝リスクには関心が低かった。それが昨年、初めて保養に参加して意識が変わったという。
 「参加して本当に良かったと思います。保養先でいろんな人と出逢って、私は何て無知だったんだろうとも思いました。保養で帰って来てからは、子どもたちの食べ物を地元のスーパーでは買わないとか、いろいろと気を付けるようになりました。二本松に住んでいる以上は一定の被曝リスクは仕方ない部分もあるので、免疫力が上がるようにも意識するようになりました。保養に行くと学びが多いです。やっぱり気を付けた方が良いと思いますよ。今こそ線量計が欲しいくらいです」
 保養先で受けた検査で、子どもの尿から放射性セシウムが検出された事も大きな転機となった。「驚くような数値で無かったとしても、やっぱりわが子の尿に含まれているセシウムが数値で突きつけられると考えざるを得ないですよね」。とはいえ、直接的に「被曝」や「保養」を口にすれば、周囲のママ友から神経質な人だと思われてしまう。だから「旅行感覚でどお?と友人を誘っています」。
 別の女性は、飯舘村から中通りに避難。2012年から首都圏での保養プログラムに毎年、参加している。保養先で原発事故後、初めて砂遊びをした分か後の姿が印象に残っているという。現在の住まいは中通りだが、子どもは村内の学校にバスで1時間かけて通っている。当然ながら、被曝のリスクが付きまとう。せめて夏休みだけでも…との思いで参加してきた。
 「村の学校に通わせる事には抵抗はありますが、子どもに『友達と離れたくない』と言われてしまったら仕方ないですよね。だから余計に保養に行きたいんです。〝皆勤賞〟ですから、親戚のおばさんに会いに行く感覚ですね」
 周囲の〝雑音〟は耳には入るが気にしないという。きっぱりとこう言った。
 「自分の子を守って何が悪いんですか?」




北海道から沖縄まで、全国で子どもたちを受け入れようと多くの団体が保養プログラムを続けている。資金難、スタッフの高齢化など課題は尽きないが、どの団体も「単なる旅行でも構わない。ニーズがある限り続けるし、結果として子どもたちの累積被曝線量が減ればそれで良い」と意欲的に取り組んでいる

【「バカンス気分の旅行でも良い」】
 もちろん、保養に参加する保護者が全員、放射線や被曝リスクについて高い意識を持っているわけでは無い。
 この日の相談会は開場前に長い列が出来たが、その中にいた二本松市の母親は「放射線ですか?全然気にしていません。まあ、こういうものに参加する事で、今後の子どもの人生のために良い経験になるかなあと思って来てみました」と話した。夫婦共働きのため「夏休みにどこも連れて行ってあげられないから、ちょうど良い」と話す保護者もいた。郡山市在住の女性は「子どもが自閉症なので自然豊かなところで伸び伸びと遊ばせたいんですよね。もちろん、放射線から遠ざけたいという想いもゼロでは無いですが…」と話した。
 そもそも「保養」とは何か。大阪や兵庫、京都などの受け入れ団体でつくる「保養をすすめる関西ネットワーク」は、「原発事故で放射性物質による影響を受けた地域に住む人々や、暮らしの中で放射能の不安を抱えることになってしまった人々などが、休日などを利用して居住地から受け入れ地へ出かけて、放射能に関する不安から一時はなれて心身の疲れを癒そうとすること」と定義している。
 「夏休みの旅行」は本来の目的にはそぐわないが、多くの受け入れ団体が「入り口は何でも良い。保養に参加する事に意味がある」と受け止めている。宮崎県への保養受け入れなどに取り組んでいるNPO法人「アースウォーカーズ」代表理事の小玉直也さんは「放射線への意識が高い人に参加して欲しい(意識が低い人には参加して欲しくない)というのは、僕としては『無し』ですね」と語った。
 「バカンス気分の旅行でも良いんです。『福島はかなり安全だけど参加させたい』という親が居ても良いんです。そういう人たちも含めて、福島の子どもたちの累積被曝線量が減るという事がすごく大事なんです」
 小玉さんは熊本やバグダッドでの支援活動の経験もある。そのうえで「現地の人々の意識によって、自分の活動のモチベーションにしてはいけないと思う。ニーズがあるならそれに応える。例えば炊き出しをして、食事を受け取って何の礼も言わずに去っていく人がいても良いという事です。要は何のために団体をつくって何のために寄付を集めているか、ですよ」




約4時間の相談会だったが、二本松市や郡山市、福島市などから89組が訪れた。栃木県矢板市からの参加者も。受け入れ団体のスタッフは、一様に「原発事故から8年経っても保養のニーズはある。本来であれば国や福島県が責任をもって取り組むべきだ」と話した=福島県二本松市・福島県男女共生センター

【「公的な保養制度確立を」】
 保養を受け入れている団体は、多くが助成金や寄付で得た資金で運営しているが、原発事故から年数が経つにつれてどちらも減っている。また、ボランティアスタッフの高齢化、次世代への継承も課題になっているという。「子どもたちが走り回るキャンプでは、やっぱり大学生のような若い子にいて欲しい。おじさんおばさんではつらいです」と関東のある団体スタッフは話した。別の団体は比較的若いスタッフが多いが、高校や大学を卒業して就職するとボランティアスタッフとしての活動がどうしても難しくなる。「新しいスタッフをどうやって開拓していくかが課題です」。
 本来は国や福島県、東電が責任をもって実施するべきだが、むしろ逆の声の方が大きくなってしまった。福島県内で送り出す側の団体スタッフは「保養を続ける事は復興の妨げになる、という声があるのは知っています。でも、今日も大勢の親子が来場したように、原発事故から8年経ってもまだまだ保養へのニーズがあるんです。初めて来たという人もいました。ニーズがある限り、受け皿を用意するのが私たちの役割だと思っています」と話した。
 保養相談会は、原発事故による被曝リスクを避けるために保養や移住受け入れに取り組んでいる団体のネットワーク「311受入全国協議会」の主催。協議会には全国61の団体が加わっている。
 2017年6月に都内で開かれた集会「『子ども・被災者支援法』制定から5年~実効性ある被害者救済に向けて」では、受け入れ団体のスタッフが「経済的な理由で自力での保養が難しかったり、子どもの部活動や周囲の視線から保養プログラムに参加出来ないなど、状況は多様化している。一方で保養へのニーズは無くなっていない。前年夏の倍率は7倍だった。もっと受け入れたいが資金不足やキャパシティの問題などがあって難しい」と指摘。「子ども被災者支援法に基づいた『ふくしまっ子自然体験・交流活動支援事業』もあるが、福島県内の団体である事、6泊7日以上のプログラムである事などの条件があって活用しにくい」として、公的な保養制度の確立を求めている。



(了)
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鈴木博喜

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