【原発避難者から住まいを奪うな】7世帯がやむなく「家賃2倍」納付。情報公開で判明。福島県「最後の1人が退去するまで続ける」。9月県議会に〝追い出し訴訟〟議案提出へ
- 2019/08/24
- 18:44
原発事故で政府の避難指示が出されなかった区域から福島県外へ避難している人々(いわゆる〝自主避難者〟)のうち、国家公務員宿舎への入居者に対する家賃2倍請求問題で、4月分の納付期限までに7世帯が2倍の家賃を納めていた事が分かった。福島県の情報公開制度で入手した資料で判明した。5月分の納付期限は今月23日で、納付書は送付済み。退去で対象者は減りつつあるものの、県は「最後の1人が退去するまで続ける」と〝追い出し〟の姿勢は変えない。これとは別に、契約自体を拒んで入居している避難者に対して〝追い出し訴訟〟を起こすべく、9月県議会に議案を提出する方針で、避難者への自立強制がさらに強まりそうだ。

【5月分の2倍請求も送付済み】
国家公務員宿舎に入居した〝自主避難者〟に関しては、2017年3月末の住宅無償提供打ち切りと同時に無償提供が終了。その際、激変緩和措置として、新たな住まいを確保するための2年間の猶予期間が設けられた。その際、避難者が福島県と交わした「国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付契約」(有償で2年間の入居を認める契約)の中に、2019年4月以降も退去せず入居を続ける場合には2倍の家賃が「損害金」として発生する旨の一文がある。これが、県が2倍の家賃を請求する唯一の根拠となっている。
今回、入手したのは、7月8日付で福島県避難地域復興局が送付した家賃2倍の通知と納付書(4月分)。7月11日から26日までの避難地域復興局関連の「収入状況一覧表」。氏名や住所、請求金額、振込金額は「個人情報」、「業務遂行に差し障る」などとして黒塗りされた。
それによると、4月分の2倍家賃を請求された避難者は63世帯。そのうち、7月26日の納付期限までに振り込んだのは1割強の7世帯だった。7月11日、17日、18日、22日、23日、25日、26日にそれぞれ1世帯ずつ振り込んでいた。福島県生活拠点課によると「納付期限を過ぎて振り込んだ避難者もゼロでは無い」という。
しかし、これで終わりでは無い。今月5日付で5月分の納付書が既に届けられている。退去で対象世帯は減ったものの45世帯。今月23日が納付期限だった。福島県生活拠点課の担当者は「入居者がゼロになるまで、最後の1人が退去するまで家賃2倍請求は続ける。入居者が少なくなってもやめる理由にはならない」として、9月5日までには6月分の2倍家賃を入居者に請求する。これが国家公務員宿舎への入居者がいなくなるまで続けられる。
国や福島県との交渉を続けている「ひだんれん」の村田弘さん(「福島原発かながわ訴訟」原告団長)は「比較的家賃の安い世帯の場合、2倍の家賃を支払ったとしても民間賃貸住宅に転居するよりコストが低くなる場合もある。初期費用などを検討してやむなく支払ったのだろう。今回7世帯が支払った事をもって、家賃2倍請求が正当化されるものでは無いし、他の支払わない避難者が責められるものでも無い。そもそも、県は支払いに応じた世帯の家計など実態調査をしているのだろうか」と話した。

福島県の情報公開制度で入手した「家賃2倍請求」の納付書。これと「収入状況一覧表」から、7月26日の納付期限までに7世帯がやむなく振り込んだ事が分かった
【「復興は一歩一歩着実に前進」】
国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟を巡っては、新たな動きも出て来た。
今月20日に開かれた福島県議会政務調査審議会(政調会)。県の各部局長が9月県議会の議案要旨を説明する中に、〝追い出し訴訟〟が盛り込まれたのだ。避難地域復興局長のページには、次のように書かれている。
「避難指示区域外から避難されていた方への応急仮設住宅の供与につきましては、平成29年3月末に終了したところですが、その後2年間の経過措置として実施した国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付に関して、契約締結等を求める調停が不成立となったことから、明渡し等を求めて提訴することを検討しております」
生活拠点課によると、東京簡裁での調停を続けて来たが、不調に終わったという。「提訴先が東京地裁になるか福島地裁になるかは、これから検討する。対象世帯数は提訴する事が正式に決まった場合に議案に盛り込む」。
ちなみに、政調会で県議に配られた資料には、避難地域復興局の取り組み状況も記載されている。
「8年4カ月ぶりに富岡漁港が再開したほか、大熊町の栽培施設で生産されたいちごの初出荷が始まるとともに、南相馬市においては北泉海水浴場が再開し、子どもたちの歓声がビーチに戻るなど、賑わいを復活させながら、復興は一歩一歩着実に前に進んでおります」
「避難者支援につきましては、個別化・複雑化した課題の解決に向けて、全国各地の生活再建支援拠点での相談対応や復興支援員等による訪問活動、きめ細かな情報提供、支援団体への活動経費の助成等に取り組んでおります」
〝自主避難者〟の住宅問題を巡っては、福島県から山形県米沢市に避難し、雇用促進住宅に入居した8世帯が退去や家賃支払いを求めて山形地裁に提訴されている。

福島県が県議会に提出した資料。家賃2倍請求とは別に、契約書を交わさずに国家公務員宿舎に入居している避難者を相手取って〝追い出し訴訟〟を起こす意向が明記されている
【「時代に合わない災害救助法」】
「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難継続中)は7月12日、実際に家賃2倍請求を受け取った避難者の言葉を印刷して福島県職員に手渡し、県庁内で開いた記者会見でも代読した。
駐車場代を含み9万円余が請求されている避難者は「約15万円の月給で家賃2倍の支払いなど到底無理な話。先行き真っ暗で不安で仕方ない。国や福島県に見捨てられたと思うしかない」との言葉を託した。別の避難者は「退去しなければならないのなら、せめて被災者が優先的に公営住宅に入居できる道を開いて欲しい」と求めている。「これ以上追い詰めないで下さい。避難生活が長く、経済的には追い詰められています」と訴える避難者もいる。熊本さんの携帯電話にも、夜勤明けの避難者から「家賃2倍請求には絶対に抗議してください」とのメールが寄せられた。
熊本さんは2018年7月11日の参議院「東日本大震災復興特別委員会」に参考人として招致され「住宅支援打ち切り後の実態調査を福島県に対して、被害者の団体、3つの団体が共同して、きちんと調査をするように、実態調査をするようにという要請を何度も何度もしておりますけれども、福島県は一度もそれに応じてくれていません」、「災害救助法が非常に古い法律ですので今の時代に合っていないのではないかと思われることが多々あります」と訴えた。
「私どもは国家公務員宿舎の人たち、今入っている人たちがずっとそこにいさせてくれというわけではなくて、都営住宅に本当に入りたいんだと、入りたいんだけれども、そういった世帯要件でもって応募すらできない状況があるから、だから、2019年の3月末で出ていけと言われるのはとっても困ると。だから、せめてその条件が緩和されて、きちんとみんなが生活ができるような、そういったような施策がきちんとできるまでは入れてくださいということを申し上げています」
日本共産党福島県議会議員団は、今月23日に内堀雅雄知事に提出した9月県議会に関する申し入れの中に「国家公務員宿舎に居住する避難者に対する2倍の損害金の請求は、取りやめること」と盛り込んだ。
だが現実には、避難者の〝追い出し〟は粛々と、力強く続いている。
(了)

【5月分の2倍請求も送付済み】
国家公務員宿舎に入居した〝自主避難者〟に関しては、2017年3月末の住宅無償提供打ち切りと同時に無償提供が終了。その際、激変緩和措置として、新たな住まいを確保するための2年間の猶予期間が設けられた。その際、避難者が福島県と交わした「国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付契約」(有償で2年間の入居を認める契約)の中に、2019年4月以降も退去せず入居を続ける場合には2倍の家賃が「損害金」として発生する旨の一文がある。これが、県が2倍の家賃を請求する唯一の根拠となっている。
今回、入手したのは、7月8日付で福島県避難地域復興局が送付した家賃2倍の通知と納付書(4月分)。7月11日から26日までの避難地域復興局関連の「収入状況一覧表」。氏名や住所、請求金額、振込金額は「個人情報」、「業務遂行に差し障る」などとして黒塗りされた。
それによると、4月分の2倍家賃を請求された避難者は63世帯。そのうち、7月26日の納付期限までに振り込んだのは1割強の7世帯だった。7月11日、17日、18日、22日、23日、25日、26日にそれぞれ1世帯ずつ振り込んでいた。福島県生活拠点課によると「納付期限を過ぎて振り込んだ避難者もゼロでは無い」という。
しかし、これで終わりでは無い。今月5日付で5月分の納付書が既に届けられている。退去で対象世帯は減ったものの45世帯。今月23日が納付期限だった。福島県生活拠点課の担当者は「入居者がゼロになるまで、最後の1人が退去するまで家賃2倍請求は続ける。入居者が少なくなってもやめる理由にはならない」として、9月5日までには6月分の2倍家賃を入居者に請求する。これが国家公務員宿舎への入居者がいなくなるまで続けられる。
国や福島県との交渉を続けている「ひだんれん」の村田弘さん(「福島原発かながわ訴訟」原告団長)は「比較的家賃の安い世帯の場合、2倍の家賃を支払ったとしても民間賃貸住宅に転居するよりコストが低くなる場合もある。初期費用などを検討してやむなく支払ったのだろう。今回7世帯が支払った事をもって、家賃2倍請求が正当化されるものでは無いし、他の支払わない避難者が責められるものでも無い。そもそも、県は支払いに応じた世帯の家計など実態調査をしているのだろうか」と話した。

福島県の情報公開制度で入手した「家賃2倍請求」の納付書。これと「収入状況一覧表」から、7月26日の納付期限までに7世帯がやむなく振り込んだ事が分かった
【「復興は一歩一歩着実に前進」】
国家公務員宿舎に入居する〝自主避難者〟を巡っては、新たな動きも出て来た。
今月20日に開かれた福島県議会政務調査審議会(政調会)。県の各部局長が9月県議会の議案要旨を説明する中に、〝追い出し訴訟〟が盛り込まれたのだ。避難地域復興局長のページには、次のように書かれている。
「避難指示区域外から避難されていた方への応急仮設住宅の供与につきましては、平成29年3月末に終了したところですが、その後2年間の経過措置として実施した国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付に関して、契約締結等を求める調停が不成立となったことから、明渡し等を求めて提訴することを検討しております」
生活拠点課によると、東京簡裁での調停を続けて来たが、不調に終わったという。「提訴先が東京地裁になるか福島地裁になるかは、これから検討する。対象世帯数は提訴する事が正式に決まった場合に議案に盛り込む」。
ちなみに、政調会で県議に配られた資料には、避難地域復興局の取り組み状況も記載されている。
「8年4カ月ぶりに富岡漁港が再開したほか、大熊町の栽培施設で生産されたいちごの初出荷が始まるとともに、南相馬市においては北泉海水浴場が再開し、子どもたちの歓声がビーチに戻るなど、賑わいを復活させながら、復興は一歩一歩着実に前に進んでおります」
「避難者支援につきましては、個別化・複雑化した課題の解決に向けて、全国各地の生活再建支援拠点での相談対応や復興支援員等による訪問活動、きめ細かな情報提供、支援団体への活動経費の助成等に取り組んでおります」
〝自主避難者〟の住宅問題を巡っては、福島県から山形県米沢市に避難し、雇用促進住宅に入居した8世帯が退去や家賃支払いを求めて山形地裁に提訴されている。

福島県が県議会に提出した資料。家賃2倍請求とは別に、契約書を交わさずに国家公務員宿舎に入居している避難者を相手取って〝追い出し訴訟〟を起こす意向が明記されている
【「時代に合わない災害救助法」】
「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難継続中)は7月12日、実際に家賃2倍請求を受け取った避難者の言葉を印刷して福島県職員に手渡し、県庁内で開いた記者会見でも代読した。
駐車場代を含み9万円余が請求されている避難者は「約15万円の月給で家賃2倍の支払いなど到底無理な話。先行き真っ暗で不安で仕方ない。国や福島県に見捨てられたと思うしかない」との言葉を託した。別の避難者は「退去しなければならないのなら、せめて被災者が優先的に公営住宅に入居できる道を開いて欲しい」と求めている。「これ以上追い詰めないで下さい。避難生活が長く、経済的には追い詰められています」と訴える避難者もいる。熊本さんの携帯電話にも、夜勤明けの避難者から「家賃2倍請求には絶対に抗議してください」とのメールが寄せられた。
熊本さんは2018年7月11日の参議院「東日本大震災復興特別委員会」に参考人として招致され「住宅支援打ち切り後の実態調査を福島県に対して、被害者の団体、3つの団体が共同して、きちんと調査をするように、実態調査をするようにという要請を何度も何度もしておりますけれども、福島県は一度もそれに応じてくれていません」、「災害救助法が非常に古い法律ですので今の時代に合っていないのではないかと思われることが多々あります」と訴えた。
「私どもは国家公務員宿舎の人たち、今入っている人たちがずっとそこにいさせてくれというわけではなくて、都営住宅に本当に入りたいんだと、入りたいんだけれども、そういった世帯要件でもって応募すらできない状況があるから、だから、2019年の3月末で出ていけと言われるのはとっても困ると。だから、せめてその条件が緩和されて、きちんとみんなが生活ができるような、そういったような施策がきちんとできるまでは入れてくださいということを申し上げています」
日本共産党福島県議会議員団は、今月23日に内堀雅雄知事に提出した9月県議会に関する申し入れの中に「国家公務員宿舎に居住する避難者に対する2倍の損害金の請求は、取りやめること」と盛り込んだ。
だが現実には、避難者の〝追い出し〟は粛々と、力強く続いている。
(了)
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