福島第二廃炉で失われる〝媚薬〟。「新たな財政措置を」と世耕経産大臣に頭を下げる町長たち~「電源立地地域対策交付金」は原発立地町の財政に欠かせぬ〝原発マネー〟
- 2019/08/08
- 21:48
福島県知事、楢葉町長、富岡町長が揃って経産大臣に頭を下げた。福島第二原発の廃炉で交付金という〝原発マネー〟を失わないために─。8日午後、「原子力災害からの福島復興再生協議会」に出席するため福島県福島市を訪れた世耕弘成経産大臣に対し、内堀雅雄福島県知事らが緊急要望書を提出。その中で「電源立地地域対策交付金に代わる財政措置」を求めた。「電源立地地域対策交付金」は、立地町にとって大きな財源。町長は「町が立ち行かなくなる」とまで訴える。原発事故があっても〝原発マネー〟という媚薬に頼らざるを得ない現実。国に頭を下げる首長たちに、原発立地自治体の悲哀がにじんでいた。
【町財政の25~40%も占める】
協議会に先立ち、別室で世耕弘成経産大臣に手渡された「東京電力福島第二原子力発電所の廃炉に関する緊急要望」では、安全・着実な廃炉作業や使用済み燃料の確実な県外搬出、地域の産業振興に資する廃炉の推進に加え、3項目目に「財政措置」が盛り込まれている。
「福島第二原子力発電所が廃炉に至った経過には、平成23年3月12日に原子力緊急事態宣言が発令され、これに伴い避難指示が出される等の特殊性があることから、地域の復興に支障が生じないよう、電源立地地域対策交付金に代わる財政措置を講じること」
要望書を受け取った世耕大臣は「7月31日に東電が福島第二原発の廃炉を正式決定した。東電が廃炉に向けて大きな、重要な一歩を踏み出せた事を評価したい」としたうえで「地域経済への影響も緩和しなければならない。そのための交付金のお話をいただいているわけだが、これは非常に重要な課題だと思っている。財務当局との調整も重要になってくる。しっかり調整していきたい」と述べた。
福島県エネルギー課によると、「電源立地地域対策交付金」の交付は、廃炉に関する東電の届け出が資源エネルギー庁に受理された年の翌年から減額を開始。10年間かけて廃止される。段階的とはいえ、交付金が無くなると町の財政を直撃するのが実情だ。
福島第二原発が稼働する事による「電源立地地域対策交付金」と固定資産税の合計金額は、立地町である富岡町も楢葉町も計20億円に上る。町の予算に占める割合は富岡町で約25%、楢葉町に至っては40%に達するほどだ(復興予算が投入されていなかった原発事故前の予算規模で計算)。いずれの町役場職員も、電話取材に対し「交付金は公共施設の維持管理費に充ててきた。何らかの財政措置が講じられなければ非常に困ってしまう」と口を揃える。
原発事故後、「福島県内原発の全基廃炉」は与野党を問わない〝合言葉〟になって来たが、いざ廃炉が決まったら決まったで、立地町は「多額の交付金を失う」という死活問題に直面しているのだった。


(上)世耕経産大臣に要望書を提出した福島県の内堀雅雄知事(右から3人目)、楢葉町の松本幸英町長(右から2人目)、富岡町の宮本皓一町長(右端)=ホテル福島グリーンパレス
(下)世耕大臣に提出された要望書。3項目目で「電源立地地域対策交付金」に代わる財政措置を求めている
【「町が立ち行かない」】
福島第二原発を巡っては、7月24日夕に東電の小早川智明社長が福島県庁を訪問。内堀雅雄知事や松本町長、宮本町長に廃炉方針の決定を伝えている。その時点で既に、楢葉、富岡両町の関心は「交付金に代わる新たな財源の確保」だった。
楢葉町の松本町長は、囲み取材でこう答えている。
「正式決定と同時に交付金が無くなります。楢葉町は避難指示解除から3年10カ月が経過しておりまして、進行中であります。町としましては、震災以前よりも住民サービスをしなければ、レベルを上げていかなければいけない。その想いから交付金に代わり得るものを示していただきたいと前々から国には要望しております。今後も県と協議しながら要望していきたい」
富岡町の宮本町長も「交付金は町にとって大きな財源でありましたから、廃炉が決定して(交付金が)無くなってしまうという事では町が立ち行かないという状況であります」と発言。これを受ける形で、内堀知事は「電源交付金のあり方については、楢葉町、富岡町にとって非常に重要な問題であります。県としても両町と連携をしながら、国に対し、交付金のあり方、しっかりと対応していただくよう全面的に支援していきたい」と語っていた。
一方で、東電が福島第二原発の廃炉を決断するまでに原発事故発生から8年という長い時間を要した事への厳しい言葉は無かった。内堀知事は「ここまで来た」と述べるにとどまっていた。松本町長も「知事と同じ」、宮本町長は「遅いとか早いとか、そういう事では無い」とだけ語った。福島県議会の吉田栄光議長は、別れ際に小早川社長と固く握手した。
福島県の浜通りは、大地震や巨大津波、そして原発事故で甚大な被害を受けた。そして、福島第一原発はもちろん、第二原発の廃炉も求めてきた。だが、廃炉が決まった途端に「交付金無しでは町が立ち行かない」では、果たして多くの人々の理解を得られるだろうか。


(上)協議会後、囲み取材に応じた内堀知事。「福島第二原発の廃炉は、通常の原発の廃炉とは異なる環境にある」と国に財政措置を求めた=ホテル福島グリーンパレス
(下)7月24日、東電の小早川社長が福島第二原発の廃炉方針を福島県に伝えた際も、新たな財政措置は既に大きな関心事だった=福島県庁
【内堀知事「通常の廃炉とは異なる」】
廃炉を求めておきながら、交付金を失いたくないという矛盾。だが、福島県エネルギー課の担当者は次のような言葉で両町をかばった。
「原発事故が起きなければ廃炉にはならなかったんです。交付金も、今まで通りに町の歳入として財政に組み込む事が出来ました。富岡町も楢葉町も国の原子力政策に貢献して来たわけで、今回のケースは通常の廃炉作業とは事情が違います。原発事故による全町避難で町がズタズタにされたわけですから。『交付金が無くなるから金をくれ』というような単純な話では無いんです。確かに県外の人には分かりにくいかもしれませんが…」
同じ疑問を、内堀知事にもぶつけた。知事は「福島第二原発の廃炉は、通常の原発の廃炉とは異なる環境にあります。特に立地町である楢葉町、富岡町は、自治体自身の財政を構成して来た重要な財源のあり方について、やはり不安を持っている。彼ら自身が全町避難というものを超えて、いま町の再生を進めている中で町の基幹財源が失われる事についての悩み、不安というものがあります。そういったものを踏まえて、今日の緊急要望を行ったところでございます」と答えたが、答えにはなっていなかった。
朝日新聞の記者も「〝原発マネー〟に頼らざるを得ない、依存せざるを得ない状況に歯がゆさは無いのか」と質したが、内堀知事は「公費金そのものを(存続して欲しい)と申し上げているわけではありません。2011年の原発事故があって、楢葉町、富岡町が全町避難となりました。それぞれのタイミングで避難指示の解除が進んでいますが、楢葉町は5割程度の方が戻っている。富岡町においてはまだ1割余りという状況下と思います。震災前の両町とは全く異なる状況にあり、自治体として今後の存続も含めてまだまだ悩み、新しい課題を抱えているという現実があります。そういう状況下において両町が財源的な担保があってこその様々な施策展開、復興再生をようやく目指す事が出来るという状況にありますので、そういった点をふまえて現在、こういった要望を行っているというのが、私どもの率直な想いであります」と同じような答えを繰り返すにとどまった。
福島県内の「脱原発」は前進した。しかし〝原発マネー〟の確保という新たな課題が浮上した。原発や交付金という「媚薬」はいつまで立地町を翻弄し続けるのか。立地町はいつまで交付金頼みの町政を続けるのか。それでもなお、原発でつくられた電力で生活するのか。これは、私たちにも突きつけられた問題でもある。
(了)
【町財政の25~40%も占める】
協議会に先立ち、別室で世耕弘成経産大臣に手渡された「東京電力福島第二原子力発電所の廃炉に関する緊急要望」では、安全・着実な廃炉作業や使用済み燃料の確実な県外搬出、地域の産業振興に資する廃炉の推進に加え、3項目目に「財政措置」が盛り込まれている。
「福島第二原子力発電所が廃炉に至った経過には、平成23年3月12日に原子力緊急事態宣言が発令され、これに伴い避難指示が出される等の特殊性があることから、地域の復興に支障が生じないよう、電源立地地域対策交付金に代わる財政措置を講じること」
要望書を受け取った世耕大臣は「7月31日に東電が福島第二原発の廃炉を正式決定した。東電が廃炉に向けて大きな、重要な一歩を踏み出せた事を評価したい」としたうえで「地域経済への影響も緩和しなければならない。そのための交付金のお話をいただいているわけだが、これは非常に重要な課題だと思っている。財務当局との調整も重要になってくる。しっかり調整していきたい」と述べた。
福島県エネルギー課によると、「電源立地地域対策交付金」の交付は、廃炉に関する東電の届け出が資源エネルギー庁に受理された年の翌年から減額を開始。10年間かけて廃止される。段階的とはいえ、交付金が無くなると町の財政を直撃するのが実情だ。
福島第二原発が稼働する事による「電源立地地域対策交付金」と固定資産税の合計金額は、立地町である富岡町も楢葉町も計20億円に上る。町の予算に占める割合は富岡町で約25%、楢葉町に至っては40%に達するほどだ(復興予算が投入されていなかった原発事故前の予算規模で計算)。いずれの町役場職員も、電話取材に対し「交付金は公共施設の維持管理費に充ててきた。何らかの財政措置が講じられなければ非常に困ってしまう」と口を揃える。
原発事故後、「福島県内原発の全基廃炉」は与野党を問わない〝合言葉〟になって来たが、いざ廃炉が決まったら決まったで、立地町は「多額の交付金を失う」という死活問題に直面しているのだった。


(上)世耕経産大臣に要望書を提出した福島県の内堀雅雄知事(右から3人目)、楢葉町の松本幸英町長(右から2人目)、富岡町の宮本皓一町長(右端)=ホテル福島グリーンパレス
(下)世耕大臣に提出された要望書。3項目目で「電源立地地域対策交付金」に代わる財政措置を求めている
【「町が立ち行かない」】
福島第二原発を巡っては、7月24日夕に東電の小早川智明社長が福島県庁を訪問。内堀雅雄知事や松本町長、宮本町長に廃炉方針の決定を伝えている。その時点で既に、楢葉、富岡両町の関心は「交付金に代わる新たな財源の確保」だった。
楢葉町の松本町長は、囲み取材でこう答えている。
「正式決定と同時に交付金が無くなります。楢葉町は避難指示解除から3年10カ月が経過しておりまして、進行中であります。町としましては、震災以前よりも住民サービスをしなければ、レベルを上げていかなければいけない。その想いから交付金に代わり得るものを示していただきたいと前々から国には要望しております。今後も県と協議しながら要望していきたい」
富岡町の宮本町長も「交付金は町にとって大きな財源でありましたから、廃炉が決定して(交付金が)無くなってしまうという事では町が立ち行かないという状況であります」と発言。これを受ける形で、内堀知事は「電源交付金のあり方については、楢葉町、富岡町にとって非常に重要な問題であります。県としても両町と連携をしながら、国に対し、交付金のあり方、しっかりと対応していただくよう全面的に支援していきたい」と語っていた。
一方で、東電が福島第二原発の廃炉を決断するまでに原発事故発生から8年という長い時間を要した事への厳しい言葉は無かった。内堀知事は「ここまで来た」と述べるにとどまっていた。松本町長も「知事と同じ」、宮本町長は「遅いとか早いとか、そういう事では無い」とだけ語った。福島県議会の吉田栄光議長は、別れ際に小早川社長と固く握手した。
福島県の浜通りは、大地震や巨大津波、そして原発事故で甚大な被害を受けた。そして、福島第一原発はもちろん、第二原発の廃炉も求めてきた。だが、廃炉が決まった途端に「交付金無しでは町が立ち行かない」では、果たして多くの人々の理解を得られるだろうか。


(上)協議会後、囲み取材に応じた内堀知事。「福島第二原発の廃炉は、通常の原発の廃炉とは異なる環境にある」と国に財政措置を求めた=ホテル福島グリーンパレス
(下)7月24日、東電の小早川社長が福島第二原発の廃炉方針を福島県に伝えた際も、新たな財政措置は既に大きな関心事だった=福島県庁
【内堀知事「通常の廃炉とは異なる」】
廃炉を求めておきながら、交付金を失いたくないという矛盾。だが、福島県エネルギー課の担当者は次のような言葉で両町をかばった。
「原発事故が起きなければ廃炉にはならなかったんです。交付金も、今まで通りに町の歳入として財政に組み込む事が出来ました。富岡町も楢葉町も国の原子力政策に貢献して来たわけで、今回のケースは通常の廃炉作業とは事情が違います。原発事故による全町避難で町がズタズタにされたわけですから。『交付金が無くなるから金をくれ』というような単純な話では無いんです。確かに県外の人には分かりにくいかもしれませんが…」
同じ疑問を、内堀知事にもぶつけた。知事は「福島第二原発の廃炉は、通常の原発の廃炉とは異なる環境にあります。特に立地町である楢葉町、富岡町は、自治体自身の財政を構成して来た重要な財源のあり方について、やはり不安を持っている。彼ら自身が全町避難というものを超えて、いま町の再生を進めている中で町の基幹財源が失われる事についての悩み、不安というものがあります。そういったものを踏まえて、今日の緊急要望を行ったところでございます」と答えたが、答えにはなっていなかった。
朝日新聞の記者も「〝原発マネー〟に頼らざるを得ない、依存せざるを得ない状況に歯がゆさは無いのか」と質したが、内堀知事は「公費金そのものを(存続して欲しい)と申し上げているわけではありません。2011年の原発事故があって、楢葉町、富岡町が全町避難となりました。それぞれのタイミングで避難指示の解除が進んでいますが、楢葉町は5割程度の方が戻っている。富岡町においてはまだ1割余りという状況下と思います。震災前の両町とは全く異なる状況にあり、自治体として今後の存続も含めてまだまだ悩み、新しい課題を抱えているという現実があります。そういう状況下において両町が財源的な担保があってこその様々な施策展開、復興再生をようやく目指す事が出来るという状況にありますので、そういった点をふまえて現在、こういった要望を行っているというのが、私どもの率直な想いであります」と同じような答えを繰り返すにとどまった。
福島県内の「脱原発」は前進した。しかし〝原発マネー〟の確保という新たな課題が浮上した。原発や交付金という「媚薬」はいつまで立地町を翻弄し続けるのか。立地町はいつまで交付金頼みの町政を続けるのか。それでもなお、原発でつくられた電力で生活するのか。これは、私たちにも突きつけられた問題でもある。
(了)
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