【原発事故と集団ADR】浪江町・津島地区でも仲介手続き打ち切り。和解案すら示されず「誰のための紛争解決センターか?」怒る住民。制度上の欠陥や東電の姿勢にも批判続出
- 2019/09/03
- 06:00
原発事故に伴う集団ADR(裁判外紛争解決手続き)で原子力損害賠償紛争解決センターから示された和解案を東電が相次いで拒否している問題で、福島県双葉郡浪江町津島地区の住民が山林や田畑などの賠償増額を求めて申し立てていた集団ADRでも、和解仲介手続きが打ち切られていた事が分かった。仲介委員が和解案すら提示せずに打ち切りを〝宣言〟する事態に、申し立てに加わった津島地区の住民たちからは「センターは誰の立場に立っているのか」などと怒りの声が続出。担当した弁護団も「原発ADRは欠陥のある制度だと改めて分かった」と厳しく批判している。

【「到底、納得出来るものでは無い」】
「原子力損害賠償紛争解決センターは誰の立場に立っているのか。せめて和解案を出して欲しかった。結局は、東電の側に立った〝公的機関〟じゃないか」。8月24日に福島県二本松市内で行われた説明会。集まった住民からは、怒りの声があがった。
弁護団によると、センターが和解仲介手続きの打ち切りを〝宣言〟したのは今年7月4日の第3回進行協議期日の席上。仲介委員が「審理を継続し、和解仲介案を作成する事は極めて困難と言わざるを得ない」と述べたという。これを受け、センターから弁護団の原和良弁護士宛てに「和解仲介手続の終了について」とする書面が7月24日付で送付された。その書面には、和解仲介手続を打ち切る理由として「仲介委員において被申立人に賠償を促す事実上・法律上の根拠が十分得られず、これ以上和解仲介手続を継続することは困難であると判断した」と記載されている。
説明会に出席した原弁護士は、「東電とこちらの主張には雲泥の差があった。実際の被害にふさわしい金額を和解案として提案して東電を説得するのがADR仲介委員の責務」とセンターの〝及び腰〟の姿勢を批判した。
「東電は、集団申し立てで統一基準であれば一切応じない、個別申し立てであれば対応するという立場をとってきた。川俣町山木屋地区の場合、現実に統一基準で、固定資産税評価額以上の金額で解決しているではないか。統一基準や集団申し立てには応じられないなどと言うのは、過去の自分たちの実績を否定している。請求した時期が違うだけで、賠償金をもらえる人ともらえない人が生じてしまうのはおかしい。そのように主張したが、仲介委員の結論は『これ以上進めても解決の見通しが立たないので打ち切る』だった」
「完全賠償を求める会」共同代表の三瓶宝次さん(元町議)は「和解案を出さずに突然、審理打ち切りの通告があった。全国的に集団ADRを東電が拒んでおり、社会問題になっている。到底、納得出来るものでは無い。(原発事故の)被害者として強い憤りを感じている。さらに団結し、闘っていかなければならない」と語った。住民からも「落胆している人が多い」などの声があがった。

和解仲介手続き打ち切りまでの経過を説明する原和良弁護士。「東電が考える、東電の許容範囲の金額で和解する人には応じるが、自分たちが考える賠償金額よりも『もっとよこせ』と言う人については拒否する。上から目線。加害者が賠償額を決めるスタンスでADRに臨んでいる。これが今の問題点だ」と批判した=福島県二本松市の「福島県男女共生センター」
【「加害者が賠償額を決めるスタンス」】
津島地区の集団ADRは、2016年8月から2017年6月にかけて3回申し立て、256人が加わった。畑は1平方メートルあたり1000円、原野は同460円などの統一基準による賠償を求めていた。
宅地以外の山林や田畑について、一般的な土地取引での売買価格を賠償額の算定基準とせず、道路拡幅など公共事業で強制的に収用される場合の賠償価格を基準にするよう求めた。ある住民は、東電が賠償額を算定するにあたっての単価(1平方メートルあたり)は山林が70円、天然林は30円だった。しかし、そもそも原発事故に伴う放射性物質の拡散で汚染を強いられたものであり、そこで育まれた山菜やキノコなどの山の幸を味わう事も出来なくなったのも現実だ。住民側は、原発事故による汚染という「強制性」を考慮するよう主張した。
さらに、川俣町山木屋地区の住民が東電と和解した集団ADRの実例を引用。田畑は2010年固定資産税評価額の12・16~33・33倍、山林や原野、牧場は22倍の金額で東電が和解に応じている事も、増額の根拠とした。
これに対し、東電側は「農地の場合、農地として売買すると1平方メートルあたり640円から840円程度だが、道路や鉄道などの用地としての売買では1平方メートルあたり6万円から11万円にのぼり、段違いの価格差がある」などとして、「公共事業の賠償価格を基準とした賠償基準は適切では無い」と反論していた。
原弁護士は説明会で「2016年春以降、東電がADRの和解案を拒否するよう方針転換した。集団ADRでは和解をごとごとく拒んでいる。これは津島だけでなく、全国の弁護団に共通する課題」と指摘。
「恐らく当初は、無理をしてでもお金を払っておかないと反発を招き、今後の経営に悪影響を及ぼすという事で和解に応じていたのだろう。ところが年月の経過でほとぼりが冷め、原発も再稼働し始めた。そこで『余計なものは払わない』と東電の態度が変わったのではないかと推測される。東電が考える、東電の許容範囲の金額で和解する人には応じるが、自分たちが考える賠償金額よりも『もっとよこせ』と言う人については拒否する。上から目線。加害者が賠償額を決めるスタンスでADRに臨んでいる。これが今の問題点だ」と批判した。
「原発事故の被害者に対してさらに二次的な被害を追わせる東電の対応には憤りを感じる。泣き寝入りは出来ない。力を合わせてはね返していきたい」

浪江町では、今回打ち切られた集団ADRとは別に、町が町民の代理人となって申し立てた集団ADRもあった。しかし、東電が和解案を拒否したため和解仲介手続きが打ち切られ、訴訟に移行。今年5月から福島地裁での口頭弁論期日が始まっている
【「3つの誓い」自ら破る東電】
浪江町では、今回打ち切られたものとは別に、町が代理人となって2013年5月に集団ADRを申し立てている。申し立てに加わった町民は最終的に1万5000人を超えた(現在、福島地裁で係争中)。
紛争解決センターが2014年3月20日、「避難生活の長期化に伴う精神的苦痛(将来への不安等)の増大による慰謝料として、2012年3月11日から2014年2月末日までの間、中間指針等が定める月額10万円ないし12万円に月額5万円を一律加算する」などとする和解案を提示したが、東電は拒否。2018年3月までに6回にわたって東電は拒否を続け、和解仲介手続きは打ち切られた。その間に、申し立てに加わった町民のうち864人が亡くなっている。
東電側の主な拒否理由は「多くの被害者の方々について共通する損害の賠償に関しては、原子力損害賠償紛争審査会での審議を踏まえて策定された中間指針等において類型化され、その賠償の方針が定められております。貴センターが認定された1万5792名の申立人様ら全員に共通するご事情は、中間指針等において類型化されており、被申立人としては、繰り返し申し上げておりますとおり、既に中間指針等において考慮されているものと考えております」だった。
福島県弁護士会は2018年5月10日、「浪江町集団ADRの打ち切りを受けての会長声明」の中で、「東京電力は、センターの提示した和解案について4年もの長期間にわたって受諾拒否を続け、結果としてADRの打ち切りという結果を招いたものであり、かかる東京電力の対応は、ADRの制度趣旨をはきちがえ、その機能を事実上喪失させるに等しいのであって、極めて遺憾と言わざるを得ない」、「東京電力のかかる対応は『3つの誓い』を反故にするものであり、極めて不当である」と批判した上で、次のように指摘している。
「センターによるADRが被害者の迅速かつ実効的な救済という本来の目的を十分に果たすためには、制度的な改善が必要であることをも示している。当会は、2012年2月3日付会長声明において『仲介委員の和解案に片面的拘束力を付与すること』の検討を求め、さらに、2014年1月31日付会長声明等においても、『センターの和解案の提示に加害者側への裁定機能(片面的裁定機能)を法定し、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものとみなすとの立法による手当を行うべきである』との政策提言を繰り返し行っているが、浪江町集団ADRの打ち切りという事態は、こうした立法措置を講じる必要性を、改めて強く浮き彫りにしている」
(了)

【「到底、納得出来るものでは無い」】
「原子力損害賠償紛争解決センターは誰の立場に立っているのか。せめて和解案を出して欲しかった。結局は、東電の側に立った〝公的機関〟じゃないか」。8月24日に福島県二本松市内で行われた説明会。集まった住民からは、怒りの声があがった。
弁護団によると、センターが和解仲介手続きの打ち切りを〝宣言〟したのは今年7月4日の第3回進行協議期日の席上。仲介委員が「審理を継続し、和解仲介案を作成する事は極めて困難と言わざるを得ない」と述べたという。これを受け、センターから弁護団の原和良弁護士宛てに「和解仲介手続の終了について」とする書面が7月24日付で送付された。その書面には、和解仲介手続を打ち切る理由として「仲介委員において被申立人に賠償を促す事実上・法律上の根拠が十分得られず、これ以上和解仲介手続を継続することは困難であると判断した」と記載されている。
説明会に出席した原弁護士は、「東電とこちらの主張には雲泥の差があった。実際の被害にふさわしい金額を和解案として提案して東電を説得するのがADR仲介委員の責務」とセンターの〝及び腰〟の姿勢を批判した。
「東電は、集団申し立てで統一基準であれば一切応じない、個別申し立てであれば対応するという立場をとってきた。川俣町山木屋地区の場合、現実に統一基準で、固定資産税評価額以上の金額で解決しているではないか。統一基準や集団申し立てには応じられないなどと言うのは、過去の自分たちの実績を否定している。請求した時期が違うだけで、賠償金をもらえる人ともらえない人が生じてしまうのはおかしい。そのように主張したが、仲介委員の結論は『これ以上進めても解決の見通しが立たないので打ち切る』だった」
「完全賠償を求める会」共同代表の三瓶宝次さん(元町議)は「和解案を出さずに突然、審理打ち切りの通告があった。全国的に集団ADRを東電が拒んでおり、社会問題になっている。到底、納得出来るものでは無い。(原発事故の)被害者として強い憤りを感じている。さらに団結し、闘っていかなければならない」と語った。住民からも「落胆している人が多い」などの声があがった。

和解仲介手続き打ち切りまでの経過を説明する原和良弁護士。「東電が考える、東電の許容範囲の金額で和解する人には応じるが、自分たちが考える賠償金額よりも『もっとよこせ』と言う人については拒否する。上から目線。加害者が賠償額を決めるスタンスでADRに臨んでいる。これが今の問題点だ」と批判した=福島県二本松市の「福島県男女共生センター」
【「加害者が賠償額を決めるスタンス」】
津島地区の集団ADRは、2016年8月から2017年6月にかけて3回申し立て、256人が加わった。畑は1平方メートルあたり1000円、原野は同460円などの統一基準による賠償を求めていた。
宅地以外の山林や田畑について、一般的な土地取引での売買価格を賠償額の算定基準とせず、道路拡幅など公共事業で強制的に収用される場合の賠償価格を基準にするよう求めた。ある住民は、東電が賠償額を算定するにあたっての単価(1平方メートルあたり)は山林が70円、天然林は30円だった。しかし、そもそも原発事故に伴う放射性物質の拡散で汚染を強いられたものであり、そこで育まれた山菜やキノコなどの山の幸を味わう事も出来なくなったのも現実だ。住民側は、原発事故による汚染という「強制性」を考慮するよう主張した。
さらに、川俣町山木屋地区の住民が東電と和解した集団ADRの実例を引用。田畑は2010年固定資産税評価額の12・16~33・33倍、山林や原野、牧場は22倍の金額で東電が和解に応じている事も、増額の根拠とした。
これに対し、東電側は「農地の場合、農地として売買すると1平方メートルあたり640円から840円程度だが、道路や鉄道などの用地としての売買では1平方メートルあたり6万円から11万円にのぼり、段違いの価格差がある」などとして、「公共事業の賠償価格を基準とした賠償基準は適切では無い」と反論していた。
原弁護士は説明会で「2016年春以降、東電がADRの和解案を拒否するよう方針転換した。集団ADRでは和解をごとごとく拒んでいる。これは津島だけでなく、全国の弁護団に共通する課題」と指摘。
「恐らく当初は、無理をしてでもお金を払っておかないと反発を招き、今後の経営に悪影響を及ぼすという事で和解に応じていたのだろう。ところが年月の経過でほとぼりが冷め、原発も再稼働し始めた。そこで『余計なものは払わない』と東電の態度が変わったのではないかと推測される。東電が考える、東電の許容範囲の金額で和解する人には応じるが、自分たちが考える賠償金額よりも『もっとよこせ』と言う人については拒否する。上から目線。加害者が賠償額を決めるスタンスでADRに臨んでいる。これが今の問題点だ」と批判した。
「原発事故の被害者に対してさらに二次的な被害を追わせる東電の対応には憤りを感じる。泣き寝入りは出来ない。力を合わせてはね返していきたい」

浪江町では、今回打ち切られた集団ADRとは別に、町が町民の代理人となって申し立てた集団ADRもあった。しかし、東電が和解案を拒否したため和解仲介手続きが打ち切られ、訴訟に移行。今年5月から福島地裁での口頭弁論期日が始まっている
【「3つの誓い」自ら破る東電】
浪江町では、今回打ち切られたものとは別に、町が代理人となって2013年5月に集団ADRを申し立てている。申し立てに加わった町民は最終的に1万5000人を超えた(現在、福島地裁で係争中)。
紛争解決センターが2014年3月20日、「避難生活の長期化に伴う精神的苦痛(将来への不安等)の増大による慰謝料として、2012年3月11日から2014年2月末日までの間、中間指針等が定める月額10万円ないし12万円に月額5万円を一律加算する」などとする和解案を提示したが、東電は拒否。2018年3月までに6回にわたって東電は拒否を続け、和解仲介手続きは打ち切られた。その間に、申し立てに加わった町民のうち864人が亡くなっている。
東電側の主な拒否理由は「多くの被害者の方々について共通する損害の賠償に関しては、原子力損害賠償紛争審査会での審議を踏まえて策定された中間指針等において類型化され、その賠償の方針が定められております。貴センターが認定された1万5792名の申立人様ら全員に共通するご事情は、中間指針等において類型化されており、被申立人としては、繰り返し申し上げておりますとおり、既に中間指針等において考慮されているものと考えております」だった。
福島県弁護士会は2018年5月10日、「浪江町集団ADRの打ち切りを受けての会長声明」の中で、「東京電力は、センターの提示した和解案について4年もの長期間にわたって受諾拒否を続け、結果としてADRの打ち切りという結果を招いたものであり、かかる東京電力の対応は、ADRの制度趣旨をはきちがえ、その機能を事実上喪失させるに等しいのであって、極めて遺憾と言わざるを得ない」、「東京電力のかかる対応は『3つの誓い』を反故にするものであり、極めて不当である」と批判した上で、次のように指摘している。
「センターによるADRが被害者の迅速かつ実効的な救済という本来の目的を十分に果たすためには、制度的な改善が必要であることをも示している。当会は、2012年2月3日付会長声明において『仲介委員の和解案に片面的拘束力を付与すること』の検討を求め、さらに、2014年1月31日付会長声明等においても、『センターの和解案の提示に加害者側への裁定機能(片面的裁定機能)を法定し、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものとみなすとの立法による手当を行うべきである』との政策提言を繰り返し行っているが、浪江町集団ADRの打ち切りという事態は、こうした立法措置を講じる必要性を、改めて強く浮き彫りにしている」
(了)
スポンサーサイト