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【自主避難者から住まいを奪うな】「これ以上は見直しません」。福島県が収入要件緩和など「新たな支援策」の〝最終版〟を公表

福島県の「新生ふくしま復興推進本部会議」の第57回会合が17日午前、福島県庁で開かれた。席上、原発事故に伴う〝自主避難者〟への住宅無償提供を2017年3月末で打ち切る方針に関し、既報通り(8月10日号参照)、新たな住まいへの家賃補助の収入要件を15万8000円から21万4000円に緩和すること、2015年12月25日以降の転居者も補助対象とすることなど支援策の見直し版が報告された。福島県の想定では、収入要件の緩和により家賃補助の対象世帯が1200世帯から2000世帯に増える見通し。しかし、県はこれ以上の制度変更は行わない方針で、避難者から繰り返し寄せられている住宅支援継続要求にも応じない構え。支援策が見直されても救済されない原発避難者もおり、制度変更を手放しで歓迎できないのが実情だ。


【家賃補助対象は800世帯増】
 会議に提出された資料によると、主な改正点は①住宅無償提供打ち切り後の家賃補助支給に関する収入要件を、月額所得15万8000円から21万4000円に緩和②新たな住まいに「雇用促進住宅」も追加し、公営住宅以外への転居者に家賃補助を支給③転居は同一都道府県内が原則だが、東京都、神奈川県、埼玉県への避難者に限り、関東一都六県への転居も家賃補助支給の対象とする④家賃補助支給の対象者を、2015年12月25日以降の転居者に拡大⑤家賃補助支給の対象経費に「駐車場代」を追加─の5点。
 また、福島県内での自主避難者(例:福島市から会津若松市への避難)の場合、これまでは「妊婦・子ども世帯」だけが家賃補助の対象となっていたが、新たに「指定難病や障がいのため避難先の特定病院での治療を必要とする世帯」も加えた。主に人工透析を必要とする避難者を想定しているという。
 福島県生活拠点課の沖野浩之課長によると、収入要件の緩和により、家賃補助の対象が1200世帯から2000世帯に増える見込みという。「これまでは公営住宅法の『本来入居者』への収入要件を採用していたが、それを『裁量入居者』(高齢者や障害者など)への収入要件に変更した」(同課)。一都二県のみ関東の他県への転居も家賃補助の対象としたのは「民間賃貸住宅の家賃が突出して高い。他県の場合は郊外に行けば安い物件もある」ため。
 新たな住まいが共益費を含めて家賃5万円、駐車場代が1万円の場合、これまでの福島県の考え方では1年目の補助金額は2万5000円だったが、駐車場代を経費に算入出来るようになったことで計6万円として計算され、補助金額は3万円に増える(2年目は2万円)。


「新生ふくしま復興推進本部会議」に出席した内堀雅雄知事。「各部局が連携して一体となり戸別訪問に取り組んでください」と無機質なコメントを読み上げた

【救済されない公営住宅への転居者】
 ようやく、自主避難者の声がわずかながら取り入れられた格好だが、避難者たちにとっては決してもろ手を挙げて喜べる状況では無い。家賃補助支給の対象期間が昨年12月25日以降の転居者にまで拡大されたのは朗報だが、実際に補助金が支給されるのは、従来通り2017年1月分から2019年3月分まで。つまり、今月中に現在の住まいから新たな住まいに転居した場合でも来年1月分から家賃補助を受け取る事が出来るが、12月までの家賃は全額自己負担となる。
 そもそも家賃補助といっても、福島県が6万円を基準額に設定しているため、避難者が受け取れる補助金額は最大で月額3万円(2年目は2万円)。6万円は、都市部ではワンルームの物件を借りられる程度の金額だ。そのため、福島県は一都二県のみ他県への転居を認めたが、子どものいる世帯では転校を強いられるケースも出てくる。被曝リスクからを避けるための避難者が「自立」の名の下に保護されない状態には変わりない。
 福島県が打ち出している「支援策」は民間賃貸住宅への転居促進策でもある。現在、避難先の公営住宅に暮らしている避難者が公営住宅に転居する場合には支援の対象とならない。東京都は「都営住宅に無償で入居している避難者には一旦、来年3月末で退去していただく」という考え方。都内避難者のために200戸分の都営住宅が用意されたが、転居に伴う費用は自己負担だ。一方、民間賃貸住宅に転居する場合は、収入要件を満たせば一律10万円が福島県から支給される。福島市から避難し、都営住宅で暮らす女性は「エアコンやガス台、テレビなどは都から貸与されているので返却しなければならないし、部屋の修繕費も請求される。引っ越し業者の費用も含めると数十万円に達するケースもあり、動くに動けない人もいる。今の部屋に住み続けられるのが一番良い」と話す。夫婦の所得が収入要件を1万円だけ上回ってしまうために都営住宅への入居資格すら得られない避難者もいるという。
  何より、福島県には来年3月末での住宅無償提供打ち切り方針を見直す意向は無い。「除染が進み放射線量が下がっているため、帰って来ていただくのが基本的な考え方。福島市や郡山市などの〝中通り〟には当初から、政府の避難指示が出ていない」(生活拠点課)というのが理由だ。「新生ふくしま復興推進本部会議」では、避難地域復興局次長が「(避難者からの)ご意見・ご要望をふまえて一部見直した」と報告したが、制度の見直しは今回が最後となりそうだ。実際、生活拠点課の沖野課長は、取材に対し「これ以上、制度を見直すつもりはない」と語っている。今回の見直しでも救済されない避難者には自力で避難生活を継続するよう迫っているのだ。


わずか10分で終了した「新生ふくしま復興推進本部会議」。原発事故に伴う〝自主避難者〟は粛々と切り捨てられていく=福島県庁

【「避難の権利を認めない〝支援策〟」】
 「収入要件緩和は運動の成果」と評価する声もある一方で、都内避難者の支援を続ける男性は「福島県は公営住宅確保の努力が足りない。県として避難者受け入れ自治体にもっと働きかけて欲しい」と話す。これには、福島県は「あくまで受け入れ自治体の判断」として積極的には要請しない考えだ。
 これまで2回、福島県との交渉を行った「原発被害者団体連絡会」(ひだんれん)は、9月の福島県議会に住宅の無償提供継続を求める請願を提出する予定。神奈川や千葉でも、県議会への働きかけが始まっている。福島県議会には2015年12月10日に「原発賠償京都訴訟原告団」などが住宅無償提供継続を求める請願を提出しているが、継続審査となっている。
 「原発事故避難者の住宅支援が『生活困窮者の住宅家賃補助制度』と変わりなくなっている」と語るのは、「避難の協同センター」世話人の瀬戸大作さん(パルシステム生活協同組合連合会)。「自主避難者は生活困窮者ではなく、原発事故の被害者だ。被曝を避けるための避難者。それなのに避難の権利は否定され、国や福島県が責任を持って避難者に対して行っている施策は何も無い。何を勘違いしているのか」と憤る。
 今後も避難者からの電話相談(070-3185-0311)に応じる一方、9月にも都内各地で出張相談会を開き、避難者の声を拾い上げていく予定だ。「これで支援策の見直しが最後というのは問題。粘り強く交渉し、住宅の無償提供を求めていく。あきらめません」と瀬戸さんは話す。
 福島県は、今月29日から再び避難者の戸別訪問を始める。打ち切りまで7カ月。


(了)
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鈴木博喜

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