【燃やされ消される「原発事故対応」】福島県「一律永年保存求めるのは地方分権に逆行」、福島市「今後も特別扱いせず選別して廃棄」~廃棄処分問題、議会で相次いで質問
- 2019/09/12
- 06:38
2011年3月に発生した福島第一原発事故以降の行政文書が保存期限を迎え、福島県や県内市町村で続々と廃棄処分されている問題で、共産党の福島県議と福島市議が9月議会で当局に永年保存を求めた。しかし、福島県も福島市も、原発事故関連文書の一律永年保存には否定的。県は主体的な保存呼びかけに消極的な理由に「地方分権」を挙げ、市町村は廃棄の理由に「保存場所の問題」を挙げる。自主的に文書保存を続ける浜通りと廃棄処分し始めた中通りとの温度差は解消されないまま、今後も原発事故関連文書は燃やされていく。

【県「保存するよう周知している」】
「世界的にも前例の無い原発事故に見舞われた本県は、行政事務でも初めての事業が多くあり、混乱と困難が自治体職員にのしかかりました。総務省は、国の保存すべき原発事故関連書類の保存基準を示していますが、自治体にも求めているわけではありません。自治体によって保存すべき文書の捉え方も異なります。そこで、東日本大震災や原発事故にかかる全ての文書を後世に残し教訓とするため、県も市町村も関連文書を保管すべきです。県の考えを伺います」
11日午後に開かれた福島県議会本会議。代表質問に立った宮本しづえ県議(日本共産党福島県議会議員団)は質した。将来、知事が替わって原発事故対応を検証する事になった時、行政文書が廃棄されてしまっていては検証も出来ない。新潟県のように検証委員会が設置されたら「もう当時の文書はありません」と言うのか─。宮本さんにはそんな想いもあった。
しかし、答弁に立った佐藤宏隆総務部長は「保存期間を延長するよう各部局に周知し、文書の保存に取り組んでいる。また市町村に対しては、県の取り扱いを情報提供している」と述べるにとどまった。
県文書法務課は2014年10月9日、「保存期間が満了した東日本大震災等関連文書の保管・保存等について(依頼)」と題した文書を県の各部局に出した。その中で「保存期間満了後に即時廃棄処分とせず、各所属で保存期間を延長し、当分の間、保管いただくようお願いします」とし、関連文書に該当するものとして、別表で次のように例示している。
・災害対策本部等の設置関係
・原子力災害対策
・審議会等の記録
・重要なメモ
宮本県議は「この文書だけを読めば、当然保存しているものと考えるが、実際はそうなっていないようだ。自治事務だと言うかもしれないが、それは通常業務の話。通常で無い事が起きたのだから、通常で無い対応を考えるべきだろう」と話す。



福島県文書法務課が2014年10月、各部局に出した文書には、即時廃棄しない文書として「原子力災害対策」も挙げられている。しかし、実際には保存場所の問題や意識の違いなどで既に多くの原発事故関連文書が焼却処分されてしまっている
【「県が保存呼びかけるのは越権」】
日本共産党福島県議会議員団は8月23日、自由民主党福島県議会議員会や福島県議会県民連合議員会と同じように9月県議会に先立って「2019年9月定例県議会に関する申し入れ」を行った。
その中で、「原発事故にかかわる各種資料が散逸してしまったり焼却処分されてしまったりしてしまっている」として、「本県で起きた原発事故は世界の教訓にすべきであり、関連する自治体保管の資料は長期保存すること」を県執行部に求めている。
だが福島県文書法務課の担当者は、取材に対し「それぞれの部署でどのような文書を保存し廃棄しているのか。全てを確認する事は難しい。2014年の文書は『将来使うかどうか分からないが極力保存しておいて欲しい』という依頼の意味で出した」と話し、一律永年保存には否定的な見方を示した。
元々、取り扱っている行政文書が膨大なところに加えて、2011年以降は地震や津波、原発事故に関連する文書が飛躍的に増えた。文書法務課としては可能な限りの保存を求めているものの、現実的には、保存場所の確保が難しいなどの理由で既に多くの原発事故関連文書が焼却処分されてしまっている。紙媒体以外での保存も「検討していない事は無いが、費用の問題に加えてリスクも生じる。紙は100年でも残り得るが、サーバーやクラウド上に保存した場合にデータが飛んでしまう恐れもある」という。
しかも、2014年の依頼文書はあくまでも県の組織内の話。県内市町村には出されておらず「問い合わせがあれば、県の取り組みを情報提供する」とのスタンスだ。浜通りの市町村を中心に、「早い段階で県が積極的に主導していれば、全県的に行政文書は保管するという流れになっただろう。しかし、国からも県からも何も指示は無かった」との声が聞かれるが、県文書法務課の担当者は「それは出来ない」と話す。
「昔ならば、ある意味〝上意下達〟だったから可能だったかもしれない。しかし、今は地方分権の時代。公文書は県市町村が規程をつくってそれぞれの判断で保存するもの。県が市町村に特定の文書を保存するよう言う事は出来ない。越権行為になってしまう。行政文書の扱いに限らず、今は市町村への対応は慎重になっている。仮に今回、原発事故関連文書を特例として県が一律永年保存を呼びかけた場合、では別の事態が起きた時にどうするのか。これは良くてあれは駄目となるのか。それは誰が判断するのか。その意味でも県が市町村に原発事故関連文書だけを永年保存するよう求めるのは難しい」
重要な行政文書の焼却処分が止められない「地方分権」とは何なのか。


福島市は2014年3月、それまでの震災対応をまとめた記録誌を発行した。原発関連文書の永年保存には否定的で、2021年度に発行を予定している新たな記録誌に原発事故以降の対応を盛り込む事で「風化を防ぎ、後世に伝えたい」
【福島市「記録誌で後世に伝える」】
福島市議会では、村山国子市議(日本共産党福島市議会議員団)が取り上げた。
9日の代表質問で「未曽有の原発事故は、市の事務においても困難と混乱を極めた。後世に伝え教訓にするためにも原発事故関連文書を保管していくべきである」として、市当局の見解を質した。
しかし、答弁に立った横澤靖総務部長は文書の保存そのものには言及せず、震災・原発事故から10年となる2021年を目途に記録誌を発行。それをもって後世に伝えていく方針であると述べるにとどまった。答弁を作成した市危機管理室の担当者は、取材に対し「確かに今回の答弁では、行政文書の保存について具体的に触れていない。村山議員の質問のニュアンスが、どちらかと言うとアーカイブ的なものをお尋ねになっていたので、除染も全て完了したという事で10年の節目に記念誌をつくりたいと考えているという答弁になった。文書の保存について求めているのでは無いと判断した」と答えた。
福島市は2014年3月、記録誌「東日本大震災の記録 発災から復興に向けた取り組み」を発行した。2011年3月12日から5月21日までに出された「ふくしま市政だより」がそのまま掲載されているほか、3月11日から3月31日までの市災害対策本部会議の「概要」も載っている。市はこれに準じた記録誌を、再来年にも発行する方針という。
3月15日19時からの市災害対策本部会議では「16;00 1・75マイクロシーベルト」、「県からの情報では、1回のX線で受ける数値以下で人体には影響なし」との記述があるが、発言主は不明。瀬戸孝則市長(当時)からは「郡山市では屋内退避を検討しているようだが、県の公表する数値を基に行動すること」などの発言があった事が分かる。3月17日午前の会議には「県知事から連絡網の悪さでお詫びの電話があった」と書かれている。3月18日午後には「飲料水 130~162ベクレル」と報告されていた。
3月20日午後の会議では、翌日に予定されていた福島テルサでの「放射線リスクに関する講演会」に関し、副市長から「長崎市から2人の先生の活用について依頼が来ている」と報告があったとだけ記載されている。確かに生々しい記録ではあるが不十分。これでは当時の行政対応は検証出来ない。だからこそ、行政文書をそのまま保存する必要があるのだ。
しかし、福島市総務課文書係の担当者は「原発事故関連だからといって特別扱いはしていない。2011年度と2012年度に5年保存とされたものは期限を迎えたので、既に存在しない文書も多くあると思う。燃やす前には『市史編纂室』の先生方に保存するべきか否かを判断していただいている。国や県からは、永年保存に関する指示は特に無い」と説明。今後も順次、選別した上で焼却処分していくという。
(了)

【県「保存するよう周知している」】
「世界的にも前例の無い原発事故に見舞われた本県は、行政事務でも初めての事業が多くあり、混乱と困難が自治体職員にのしかかりました。総務省は、国の保存すべき原発事故関連書類の保存基準を示していますが、自治体にも求めているわけではありません。自治体によって保存すべき文書の捉え方も異なります。そこで、東日本大震災や原発事故にかかる全ての文書を後世に残し教訓とするため、県も市町村も関連文書を保管すべきです。県の考えを伺います」
11日午後に開かれた福島県議会本会議。代表質問に立った宮本しづえ県議(日本共産党福島県議会議員団)は質した。将来、知事が替わって原発事故対応を検証する事になった時、行政文書が廃棄されてしまっていては検証も出来ない。新潟県のように検証委員会が設置されたら「もう当時の文書はありません」と言うのか─。宮本さんにはそんな想いもあった。
しかし、答弁に立った佐藤宏隆総務部長は「保存期間を延長するよう各部局に周知し、文書の保存に取り組んでいる。また市町村に対しては、県の取り扱いを情報提供している」と述べるにとどまった。
県文書法務課は2014年10月9日、「保存期間が満了した東日本大震災等関連文書の保管・保存等について(依頼)」と題した文書を県の各部局に出した。その中で「保存期間満了後に即時廃棄処分とせず、各所属で保存期間を延長し、当分の間、保管いただくようお願いします」とし、関連文書に該当するものとして、別表で次のように例示している。
・災害対策本部等の設置関係
・原子力災害対策
・審議会等の記録
・重要なメモ
宮本県議は「この文書だけを読めば、当然保存しているものと考えるが、実際はそうなっていないようだ。自治事務だと言うかもしれないが、それは通常業務の話。通常で無い事が起きたのだから、通常で無い対応を考えるべきだろう」と話す。



福島県文書法務課が2014年10月、各部局に出した文書には、即時廃棄しない文書として「原子力災害対策」も挙げられている。しかし、実際には保存場所の問題や意識の違いなどで既に多くの原発事故関連文書が焼却処分されてしまっている
【「県が保存呼びかけるのは越権」】
日本共産党福島県議会議員団は8月23日、自由民主党福島県議会議員会や福島県議会県民連合議員会と同じように9月県議会に先立って「2019年9月定例県議会に関する申し入れ」を行った。
その中で、「原発事故にかかわる各種資料が散逸してしまったり焼却処分されてしまったりしてしまっている」として、「本県で起きた原発事故は世界の教訓にすべきであり、関連する自治体保管の資料は長期保存すること」を県執行部に求めている。
だが福島県文書法務課の担当者は、取材に対し「それぞれの部署でどのような文書を保存し廃棄しているのか。全てを確認する事は難しい。2014年の文書は『将来使うかどうか分からないが極力保存しておいて欲しい』という依頼の意味で出した」と話し、一律永年保存には否定的な見方を示した。
元々、取り扱っている行政文書が膨大なところに加えて、2011年以降は地震や津波、原発事故に関連する文書が飛躍的に増えた。文書法務課としては可能な限りの保存を求めているものの、現実的には、保存場所の確保が難しいなどの理由で既に多くの原発事故関連文書が焼却処分されてしまっている。紙媒体以外での保存も「検討していない事は無いが、費用の問題に加えてリスクも生じる。紙は100年でも残り得るが、サーバーやクラウド上に保存した場合にデータが飛んでしまう恐れもある」という。
しかも、2014年の依頼文書はあくまでも県の組織内の話。県内市町村には出されておらず「問い合わせがあれば、県の取り組みを情報提供する」とのスタンスだ。浜通りの市町村を中心に、「早い段階で県が積極的に主導していれば、全県的に行政文書は保管するという流れになっただろう。しかし、国からも県からも何も指示は無かった」との声が聞かれるが、県文書法務課の担当者は「それは出来ない」と話す。
「昔ならば、ある意味〝上意下達〟だったから可能だったかもしれない。しかし、今は地方分権の時代。公文書は県市町村が規程をつくってそれぞれの判断で保存するもの。県が市町村に特定の文書を保存するよう言う事は出来ない。越権行為になってしまう。行政文書の扱いに限らず、今は市町村への対応は慎重になっている。仮に今回、原発事故関連文書を特例として県が一律永年保存を呼びかけた場合、では別の事態が起きた時にどうするのか。これは良くてあれは駄目となるのか。それは誰が判断するのか。その意味でも県が市町村に原発事故関連文書だけを永年保存するよう求めるのは難しい」
重要な行政文書の焼却処分が止められない「地方分権」とは何なのか。


福島市は2014年3月、それまでの震災対応をまとめた記録誌を発行した。原発関連文書の永年保存には否定的で、2021年度に発行を予定している新たな記録誌に原発事故以降の対応を盛り込む事で「風化を防ぎ、後世に伝えたい」
【福島市「記録誌で後世に伝える」】
福島市議会では、村山国子市議(日本共産党福島市議会議員団)が取り上げた。
9日の代表質問で「未曽有の原発事故は、市の事務においても困難と混乱を極めた。後世に伝え教訓にするためにも原発事故関連文書を保管していくべきである」として、市当局の見解を質した。
しかし、答弁に立った横澤靖総務部長は文書の保存そのものには言及せず、震災・原発事故から10年となる2021年を目途に記録誌を発行。それをもって後世に伝えていく方針であると述べるにとどまった。答弁を作成した市危機管理室の担当者は、取材に対し「確かに今回の答弁では、行政文書の保存について具体的に触れていない。村山議員の質問のニュアンスが、どちらかと言うとアーカイブ的なものをお尋ねになっていたので、除染も全て完了したという事で10年の節目に記念誌をつくりたいと考えているという答弁になった。文書の保存について求めているのでは無いと判断した」と答えた。
福島市は2014年3月、記録誌「東日本大震災の記録 発災から復興に向けた取り組み」を発行した。2011年3月12日から5月21日までに出された「ふくしま市政だより」がそのまま掲載されているほか、3月11日から3月31日までの市災害対策本部会議の「概要」も載っている。市はこれに準じた記録誌を、再来年にも発行する方針という。
3月15日19時からの市災害対策本部会議では「16;00 1・75マイクロシーベルト」、「県からの情報では、1回のX線で受ける数値以下で人体には影響なし」との記述があるが、発言主は不明。瀬戸孝則市長(当時)からは「郡山市では屋内退避を検討しているようだが、県の公表する数値を基に行動すること」などの発言があった事が分かる。3月17日午前の会議には「県知事から連絡網の悪さでお詫びの電話があった」と書かれている。3月18日午後には「飲料水 130~162ベクレル」と報告されていた。
3月20日午後の会議では、翌日に予定されていた福島テルサでの「放射線リスクに関する講演会」に関し、副市長から「長崎市から2人の先生の活用について依頼が来ている」と報告があったとだけ記載されている。確かに生々しい記録ではあるが不十分。これでは当時の行政対応は検証出来ない。だからこそ、行政文書をそのまま保存する必要があるのだ。
しかし、福島市総務課文書係の担当者は「原発事故関連だからといって特別扱いはしていない。2011年度と2012年度に5年保存とされたものは期限を迎えたので、既に存在しない文書も多くあると思う。燃やす前には『市史編纂室』の先生方に保存するべきか否かを判断していただいている。国や県からは、永年保存に関する指示は特に無い」と説明。今後も順次、選別した上で焼却処分していくという。
(了)
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