【原発事故と内閣改造】田中大臣で大丈夫?8人目の復興大臣は福島県知事表敬でペーパー棒読み、避難者の住宅問題は小声で「これから…」。小泉環境大臣も歯切れ良いが中身ゼロ
- 2019/09/13
- 06:30
映画では総理大臣が「記憶にございません」と叫ぶが、新しい復興大臣は「知識がございません」だった─。内閣改造で復興大臣に就任した田中和徳氏が12日午後、福島県庁を訪れ、内堀雅雄知事と会談した。しかし、会見では避難者の住宅問題など具体的な事には一切答えられず、内堀知事との会談でも官僚のペーパーを棒読みする始末。取材者や県職員からは資質を疑問視する声もあがった。小泉進次郎環境大臣も福島県庁を訪れ、ギャラリーが集まるほどだったが、歯切れの良い言葉の割には中身はゼロ。中間貯蔵施設からの放射性廃棄物県外搬出については「約束は守る」とだけ繰り返した。

【〝追い出し訴訟議案〟答えられず】
「そういう事についてはちょっと私も…」
10分足らずで終了した田中和徳復興大臣の囲み取材。次の訪問地、宮城県庁に急ぐ大臣に筆者は「福島県が福島県民を訴えるなんて事が良いと思いますか?」と尋ねた。
9月県議会に提出されている〝自主避難者追い出し訴訟議案〟(国家公務人宿舎に入居している避難者5世帯が被告になる)の話だ。田中大臣はまだそこまで官僚からレクチャーを受けていないのだろう。とっさに出たのが冒頭の言葉だった。原発事故被災県が原発事故避難者を相手取って訴訟を起こすという前代未聞の事態に、避難当事者や支援団体は、復興庁が主体的に動いて福島県に訴訟をやめさせるよう求めている。8月29日に政府交渉を行ったばかりだ。しかし、田中大臣は同じような言葉を繰り返すばかりだった。
「いや、これはちょっと私も…」
事務方が「新幹線の時間がありますから」と制する中、筆者は「大臣の所管する話ですよ」、「勉強不足ですよ」と続けた。田中大臣は小さな声で「勉強不足って言われても…」とつぶやきながら会見場を後にした。
会見では、筆者より先に河北新報の記者が、やはり〝追い出し訴訟〟に絡めて「自主避難者の住宅問題について復興庁としてどのように取り組むのか?」と質している。そもそも、その答えが酷かった。
「あのー、お話を聞いておる状況でございますので、まああの今後、いろいろと関係される、担当される役所もありますので話を伺って、私なりに対応して参りたいと思います」
言葉に詰まる田中大臣に官僚が慌てて何を耳打ちした。それでようやく絞り出した答えがそれだった。これでは、家賃2倍請求問題も知らないのだろう。大熊町、双葉町以外の帰還困難区域からの避難者に対する住宅供与が来年3月で打ち切られる事もご存知ないのだろう。はじめから「あなた達は『区域外』だから」と言われて切り捨てられてきた〝自主避難者〟の苦悩や闘いなど知る由も無い。それで、どうやって復興の旗振りをするのか。原発事故被害者の救済にあたるのか。疑問符しか浮かばない。


(上)会見中、復興庁の官僚から耳打ちされる田中和徳大臣。原発避難者の住宅問題に関する質問には「ゼロ回答」だった
(下)内堀知事との会談中、必死にメモを取る田中大臣。官僚の作ったペーパーを棒読みする姿に、取材者からため息交じりの苦笑が漏れた=福島県庁
【内堀知事の言葉を必死にメモ】
「大臣なんてそんなものじゃないですか?実務は事務方がやるんだから」
福島県職員が苦笑した。「そんなもの」なのかもしれない。地元メディアの記者も「これまでもこんな大臣ばかりだったのだから、今さら驚きませんよ」と淡々と語った。就任して24時間も経たない新大臣に多くを求めるのは無理なのかもしれない。しかし国務大臣だ。復興大臣だ。「そんなもの」で良いのか。青臭いが、そのくらい、この日の知事表敬は田中大臣の大臣としての資質を疑うような場面の連続だったのだ。
知事室で内堀知事と会談した田中大臣は、官僚が用意したペーパーをひたすら棒読みするばかり。「東日本大震災からの復興は、安倍内閣の最重要課題の1つ」、「現場主義の徹底」、「被災者の心に寄り添う」という言葉は、過去の復興大臣も多用して来た〝常套句〟だ。「年内には復興創生期間後の復興の基本方針を取りまとめて参ります」という言葉も、読み上げているだけだから具体的中身が無い。
内堀知事は、まるで学生に教え諭すように「過去、現在、未来についてお話しします」と切り出した。「8年半の重さを共有してください」、「復興加速を期待している」、「復興庁の後継組織をより良い形にして欲しい」。田中大臣はそれを一字一句聞き逃すまいと必死にメモした。取り囲んだ取材者からため息交じりの苦笑が漏れた。
「野党時代に自民党内にシャドウ・キャビネットが出来て環境大臣に就任し、環境常任委員会の筆頭理事を務めておりました。その時に大震災が起きました。現地に参りまして避難所にも伺いました。除染の現場にも立ち会いました。原発の中にも入らせていただいた。そして、議員立法で提出した『原子力規制委員会設置法案』の責任者でもありました。その後、環境副大臣を務めた経過もありまして、復興大臣としてこのように仕事をさせていただく。そういう事になったのも福島県の皆さんと何か特別なご縁があるのかな。このように思っておるわけでございます」
会見の冒頭、唯一、饒舌だったのが自身と福島との関わりについて話した場面だった。しかし、2021年度で終了する復興創生期間後のビジョンなど答えられない。「福島の皆さん、被災者の皆さんのご意見を第一に考えて参ります」、「地元の声を一番反映出来る組織にしたい」と答えるのが精一杯。
業を煮やした読売新聞記者から「喫緊の課題は何かという質問に答えていない」と問われたが「避難生活を余儀なくされている方々一人一人、出来得れば全員の方が希望に沿える形でお帰りいただく、あるいは生活を回復されてという想いでございます。そのために努力をさせていただきたいと思います」と答えるにとどまった。


(上)田中復興大臣に続き、内堀知事を表敬訪問した小泉進次郎環境大臣。歯切れは良いが中身は無かった
(下)福島県庁には取材者が殺到。広報課が整理券を配る事態になった。県庁の玄関や廊下にはギャラリーも現れ、さながら〝進次郎フェス〟の様相。女性の県職員も「ぜひ進次郎さんを見てみたい」と笑った
【「30年の約束守る」も具体策無し】
田中復興大臣と入れ替わるように、今度は環境大臣に就任した小泉進次郎氏が福島県庁に入った。県庁の女性職員もそわそわ、玄関には〝ギャラリー〟も。田中大臣と異なり、内堀知事や県幹部とも面識があるため歯切れは良い。部長の名を挙げながら、内堀知事と会談した。
しかし、歯切れの良さの割には実は中身は無い。会談後の記者会見でも、情に訴えるような話は熱く語るが、喫緊の課題になると抽象的な言葉を繰り返すばかりだった。
例えば中間貯蔵施設に搬入されている放射性廃棄物。搬入が始まった2015年3月から30年以内(2045年まで)に福島県外への搬出が決まっているが、果たして受け入れる自治体などあるのか。現実的に県外搬出など出来るのか。県外搬出の負担を少しでも減らすために計画されている汚染土壌の再利用についてはどう考えているのか。そこになるとトーンがやや落ちる。
「内堀知事が私に言った県民の皆さんの『苦渋』の想い、そしてこれからの課題解決における『信頼』。この2つの言葉をしっかりと掲げながら環境大臣としての仕事に全力を尽くして行きたい」
「汚染土壌の再利用も中間貯蔵を安全にやっていく事も、30年という福島県民の皆さんとの約束も、地元の方の理解無くして実現無し。その事を一番忘れてはいけない事だと思う」
毎日新聞記者が「汚染土壌を東京五輪や大阪万博の工事で使えば良いじゃないか。なぜ福島ばかりなんだという声もある」と水を向けたが、これに対しても「あらゆる声に耳を傾けて、よく考えていきたい」、「30年の約束を必ず守れるように取り組みを進める」と答えるにとどまった。
小泉大臣は福島県庁を訪れる前に、いわき市の福島県漁業協同組合連合会に立ち寄った。前環境大臣の原田義昭氏が放射能汚染水について「思い切って放出して希釈する以外に、ほかにあまり選択肢がない」と発言した事を詫びたという。
「率直に申し訳ないと。部屋に通していただき、いろいろな話をした。試験操業でノドグロが獲れるんだそうです。じゃあ今度、環境省でそのノドグロを一緒に食べませんか、という話をさせていただいた。前大臣の発言で今まで積み上げてきた信頼が揺らいだところがあったとするならば、全力で立て直して信頼を積み上げていく」
「国が信頼されないのは当然だと思う。(原発は)絶対安全だと言ったのに安全じゃ無かったわけですから。ゼロからのスタートは当然。ゼロから積み上げる。崩れたらまた積み上げる」とも。「理屈じゃ無いですね」とお得意のフレーズも出た。理解不足の復興大臣に威勢の良い環境大臣。福島県庁内ではこんな言葉があちらこちらで聞かれた。
「そういう人を大臣に任命した。それが安倍内閣の意思なのだろう。それが福島に対する認識なんだ」
(了)

【〝追い出し訴訟議案〟答えられず】
「そういう事についてはちょっと私も…」
10分足らずで終了した田中和徳復興大臣の囲み取材。次の訪問地、宮城県庁に急ぐ大臣に筆者は「福島県が福島県民を訴えるなんて事が良いと思いますか?」と尋ねた。
9月県議会に提出されている〝自主避難者追い出し訴訟議案〟(国家公務人宿舎に入居している避難者5世帯が被告になる)の話だ。田中大臣はまだそこまで官僚からレクチャーを受けていないのだろう。とっさに出たのが冒頭の言葉だった。原発事故被災県が原発事故避難者を相手取って訴訟を起こすという前代未聞の事態に、避難当事者や支援団体は、復興庁が主体的に動いて福島県に訴訟をやめさせるよう求めている。8月29日に政府交渉を行ったばかりだ。しかし、田中大臣は同じような言葉を繰り返すばかりだった。
「いや、これはちょっと私も…」
事務方が「新幹線の時間がありますから」と制する中、筆者は「大臣の所管する話ですよ」、「勉強不足ですよ」と続けた。田中大臣は小さな声で「勉強不足って言われても…」とつぶやきながら会見場を後にした。
会見では、筆者より先に河北新報の記者が、やはり〝追い出し訴訟〟に絡めて「自主避難者の住宅問題について復興庁としてどのように取り組むのか?」と質している。そもそも、その答えが酷かった。
「あのー、お話を聞いておる状況でございますので、まああの今後、いろいろと関係される、担当される役所もありますので話を伺って、私なりに対応して参りたいと思います」
言葉に詰まる田中大臣に官僚が慌てて何を耳打ちした。それでようやく絞り出した答えがそれだった。これでは、家賃2倍請求問題も知らないのだろう。大熊町、双葉町以外の帰還困難区域からの避難者に対する住宅供与が来年3月で打ち切られる事もご存知ないのだろう。はじめから「あなた達は『区域外』だから」と言われて切り捨てられてきた〝自主避難者〟の苦悩や闘いなど知る由も無い。それで、どうやって復興の旗振りをするのか。原発事故被害者の救済にあたるのか。疑問符しか浮かばない。


(上)会見中、復興庁の官僚から耳打ちされる田中和徳大臣。原発避難者の住宅問題に関する質問には「ゼロ回答」だった
(下)内堀知事との会談中、必死にメモを取る田中大臣。官僚の作ったペーパーを棒読みする姿に、取材者からため息交じりの苦笑が漏れた=福島県庁
【内堀知事の言葉を必死にメモ】
「大臣なんてそんなものじゃないですか?実務は事務方がやるんだから」
福島県職員が苦笑した。「そんなもの」なのかもしれない。地元メディアの記者も「これまでもこんな大臣ばかりだったのだから、今さら驚きませんよ」と淡々と語った。就任して24時間も経たない新大臣に多くを求めるのは無理なのかもしれない。しかし国務大臣だ。復興大臣だ。「そんなもの」で良いのか。青臭いが、そのくらい、この日の知事表敬は田中大臣の大臣としての資質を疑うような場面の連続だったのだ。
知事室で内堀知事と会談した田中大臣は、官僚が用意したペーパーをひたすら棒読みするばかり。「東日本大震災からの復興は、安倍内閣の最重要課題の1つ」、「現場主義の徹底」、「被災者の心に寄り添う」という言葉は、過去の復興大臣も多用して来た〝常套句〟だ。「年内には復興創生期間後の復興の基本方針を取りまとめて参ります」という言葉も、読み上げているだけだから具体的中身が無い。
内堀知事は、まるで学生に教え諭すように「過去、現在、未来についてお話しします」と切り出した。「8年半の重さを共有してください」、「復興加速を期待している」、「復興庁の後継組織をより良い形にして欲しい」。田中大臣はそれを一字一句聞き逃すまいと必死にメモした。取り囲んだ取材者からため息交じりの苦笑が漏れた。
「野党時代に自民党内にシャドウ・キャビネットが出来て環境大臣に就任し、環境常任委員会の筆頭理事を務めておりました。その時に大震災が起きました。現地に参りまして避難所にも伺いました。除染の現場にも立ち会いました。原発の中にも入らせていただいた。そして、議員立法で提出した『原子力規制委員会設置法案』の責任者でもありました。その後、環境副大臣を務めた経過もありまして、復興大臣としてこのように仕事をさせていただく。そういう事になったのも福島県の皆さんと何か特別なご縁があるのかな。このように思っておるわけでございます」
会見の冒頭、唯一、饒舌だったのが自身と福島との関わりについて話した場面だった。しかし、2021年度で終了する復興創生期間後のビジョンなど答えられない。「福島の皆さん、被災者の皆さんのご意見を第一に考えて参ります」、「地元の声を一番反映出来る組織にしたい」と答えるのが精一杯。
業を煮やした読売新聞記者から「喫緊の課題は何かという質問に答えていない」と問われたが「避難生活を余儀なくされている方々一人一人、出来得れば全員の方が希望に沿える形でお帰りいただく、あるいは生活を回復されてという想いでございます。そのために努力をさせていただきたいと思います」と答えるにとどまった。


(上)田中復興大臣に続き、内堀知事を表敬訪問した小泉進次郎環境大臣。歯切れは良いが中身は無かった
(下)福島県庁には取材者が殺到。広報課が整理券を配る事態になった。県庁の玄関や廊下にはギャラリーも現れ、さながら〝進次郎フェス〟の様相。女性の県職員も「ぜひ進次郎さんを見てみたい」と笑った
【「30年の約束守る」も具体策無し】
田中復興大臣と入れ替わるように、今度は環境大臣に就任した小泉進次郎氏が福島県庁に入った。県庁の女性職員もそわそわ、玄関には〝ギャラリー〟も。田中大臣と異なり、内堀知事や県幹部とも面識があるため歯切れは良い。部長の名を挙げながら、内堀知事と会談した。
しかし、歯切れの良さの割には実は中身は無い。会談後の記者会見でも、情に訴えるような話は熱く語るが、喫緊の課題になると抽象的な言葉を繰り返すばかりだった。
例えば中間貯蔵施設に搬入されている放射性廃棄物。搬入が始まった2015年3月から30年以内(2045年まで)に福島県外への搬出が決まっているが、果たして受け入れる自治体などあるのか。現実的に県外搬出など出来るのか。県外搬出の負担を少しでも減らすために計画されている汚染土壌の再利用についてはどう考えているのか。そこになるとトーンがやや落ちる。
「内堀知事が私に言った県民の皆さんの『苦渋』の想い、そしてこれからの課題解決における『信頼』。この2つの言葉をしっかりと掲げながら環境大臣としての仕事に全力を尽くして行きたい」
「汚染土壌の再利用も中間貯蔵を安全にやっていく事も、30年という福島県民の皆さんとの約束も、地元の方の理解無くして実現無し。その事を一番忘れてはいけない事だと思う」
毎日新聞記者が「汚染土壌を東京五輪や大阪万博の工事で使えば良いじゃないか。なぜ福島ばかりなんだという声もある」と水を向けたが、これに対しても「あらゆる声に耳を傾けて、よく考えていきたい」、「30年の約束を必ず守れるように取り組みを進める」と答えるにとどまった。
小泉大臣は福島県庁を訪れる前に、いわき市の福島県漁業協同組合連合会に立ち寄った。前環境大臣の原田義昭氏が放射能汚染水について「思い切って放出して希釈する以外に、ほかにあまり選択肢がない」と発言した事を詫びたという。
「率直に申し訳ないと。部屋に通していただき、いろいろな話をした。試験操業でノドグロが獲れるんだそうです。じゃあ今度、環境省でそのノドグロを一緒に食べませんか、という話をさせていただいた。前大臣の発言で今まで積み上げてきた信頼が揺らいだところがあったとするならば、全力で立て直して信頼を積み上げていく」
「国が信頼されないのは当然だと思う。(原発は)絶対安全だと言ったのに安全じゃ無かったわけですから。ゼロからのスタートは当然。ゼロから積み上げる。崩れたらまた積み上げる」とも。「理屈じゃ無いですね」とお得意のフレーズも出た。理解不足の復興大臣に威勢の良い環境大臣。福島県庁内ではこんな言葉があちらこちらで聞かれた。
「そういう人を大臣に任命した。それが安倍内閣の意思なのだろう。それが福島に対する認識なんだ」
(了)
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