【原発避難者から住まいを奪うな】被災県が避難県民を裁判で追い出す異常事態。常任委での議論低調、選挙控え口つぐむ〝オール与党〟議会。「追い出し訴訟議案」10月3日可決へ
- 2019/09/21
- 08:14
原発事故後、政府の避難指示が出されなかった区域から福島県外へ避難している人々(いわゆる〝自主避難者〟)のうち、東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲住宅」への入居者5世帯に対する「追い出し訴訟議案」が20日、福島県議会・企画環境常任委員会で審議された。しかし、福島県議会は共産党以外は〝知事与党〟。「人道上問題だ」とする共産党以外に反対意見も討論も無し。県議選を11月に控え、大半の県議が沈黙したまま10月3日の本会議で賛成多数で可決される見通しで、原発避難者の住宅問題はいよいよ、被災県が避難県民を裁判で追い出すという前代未聞の異常事態を迎える。

【「調停不成立、提訴やむを得ない」】
「議案第46号から50号の『訴えの提起について』でありますが、避難指示区域外から避難されている方に対する応急仮設住宅供与終了後の国家公務員宿舎の使用貸し付けについて、契約を求めた調停が不成立となった世帯に対し、明け渡し等を求め、提訴するものであります」
午前11時に始まった常任委員会。安齋浩記避難地域復興局長が〝追い出し訴訟議案〟について簡単に説明した。さらに議案の詳細について住所や氏名も含めて、生活拠点課の大橋雅人課長が説明した。
「これら5件の議案は、避難指示区域外からの避難者、いわゆる〝自主避難者〟に対する平成29年(2017年)3月末の応急仮設住宅の供与終了後、2年間の経過措置として実施した『国家公務員宿舎セーフティネット使用貸し付け』に関するものです。この5件については当初、セーフティネットの申し込みがあったものの、契約いただけないままの入居が続いていたために訪問や連絡を重ね、契約締結をお願いして来ましたが、当事者間での話し合いでは契約が難しい状況の中、何とか話し合いにより解決を図りたいと考え、平成29年12月議会で調停申し立ての議決をいただき、契約締結および賃料相当額の支払いを求める調停を行ってきたところです」
「2018年度、それぞれ1回から5回の調停により話し合いでの解決を目指して来ましたが、裁判官、調停委員2名により構成される調停委員会から『調停不成立』とされ、今後も話し合いによる解決が見込めない状況である事から、明け渡しおよび賃料相当額の支払いを求める訴えの提起もやむを得ないとの判断に至ったものです」
「請求の趣旨は、『被告となるべき者が住宅の明け渡しおよび明け渡しまでに要した賃料相当額を支払う事』、『訴訟費用は被告となるべき者の負担とする事』との判決ならびに仮執行の宣言を求めるものです。鈴木芳喜弁護士を訴訟代理人と定めます」

県議会企画環境常任委員会で〝避難者追い出し訴訟議案〟について説明する福島県生活拠点課の大橋雅人課長。「調停が不成立となり、話し合いでの解決は難しい。提訴もやむを得ないとの判断に至った」と述べた
【「個々の事情把握せず審議出来ぬ」】
質疑で唯一、発言したのは宮本しづえ委員(日本共産党福島県議会議員団)だった。
「5世帯を個々に審議する必要があると思います。それぞれの避難者の状況、避難元がどこの市町村なのか、家族構成や戻る家があるのか無いのか、それぞれの請求額はいくらなのか、それぞれの調停での状況、をまずお聞かせください」
これに対し、大橋課長は「個別の状況につきましては個人情報と言いますか、この場で申し上げるのはなかなか難しいと考えます。家族構成は単身者も家族での方もいらっしゃいます。避難元はいわき市、南相馬市、郡山市です。それぞれ避難指示区域外からの避難者の方です。調停の回数は1回の方もいらっしゃいますし、5回まで話し合った方もいらっしゃいます。調停にも出席していただけなかった方については、1回で調停が不成立となっております。賃料は単身世帯でだいたい1万6000円くらい。家族の世帯、3LDKで約6万円です」
宮本委員は「裁判になれば個人情報が法廷で明らかにされる事も承知の上で、県は提訴しようとしている。その提訴が本当に適切なのかどうかという事を、私たちはここで審議しなければなりません。その時に、個々の事情を分からないで『良いですよ』と言うわけにはいきませんよ。個々の状況がどうであったのかという事を議会としてしっかり把握した上で判断しなければ、責任ある議決は出来ません。個人情報だから言えないという事ならば、必要なら秘密会の開催も含めて審議するのが議会としての責任だと思います」と述べ、鈴木智委員長の意見を求めた。
だが、鈴木委員長は「具体的に何を求めているのですか?」と宮本委員に尋ねるばかり。時間をかけてでもじっくりと審議する意思などまるで無いようなそぶりだ。いったん休憩し、別室で当局と委員長、副委員長で議事進行を協議したが、改めて大橋課長が次のように説明する事で〝決着〟させた。
「5世帯のうち3世帯はなかなか接触が難しい状況でした。2世帯は都営住宅に何度か申し込んでいるが当選しないという事です。これまでも供与終了前から戸別訪問や電話も10回近くしてきましたが、1回しか会えないという事もありました。家族の状況や健康状態を伺うのも難しいというのも実態としてはあります。福祉部門につなぐ機会をいただけない方もいらっしゃる」
「避難元は、いわき市3世帯、南相馬市1世帯、郡山市1世帯です。うち1世帯は避難元に持ち家があります。家族での入居が3世帯、単身者が2世帯。経過措置2年間の損害金は50万円から200万円。合計約600万円です。調停の回数は、1回、2回、3回、4回、5回、それぞれ1世帯ずつ行われました。裁判になったとしても、個人情報が確実に明らかになるわけでは無いと考えております。仮に議決されたとしても、提訴までの間は今後も引き続き新たな住まいの確保に向けての支援は続けていきたいと考えております」

〝原発避難者追い出し訴訟議案〟に反対の立場から委員会で質問した宮本しづえ委員。しかし、共産党以外の委員は沈黙したまま賛成に回る意向で、10月3日の本会議で可決される見通しだ。いよいよ、原発事故被災県が避難県民を裁判で追い出すという異常事態を迎える
【「人道上、大いに問題だ」】
宮本委員は最後まで「審議の前提が整っていない」、「原発事故が起きた中で、福島県が福島県民を訴えるなんて事が適切なのか。個々の状況も分からずに判断のしようが無い」、「調停が不調だと本当に言い切れるのか」、「今回の5世帯は〝見せしめ〟なのか」、「財務省との協議の経過を委員会に開示して欲しい」、「人道上、問題がある」と質したが、他の委員からは賛成意見も含めて発言は一切無かった。
福島県議会は、知事選挙で共産党以外の全ての会派が内堀雅雄知事を支援した「オール与党」。ここで議案に反対すれば、内堀知事や避難せずに県内に住んでいる人からの反発を招く。「いつまでも避難していないで福島に戻れば良い」との本音も抱えている。11月10日には県議選も控えているという事情もある。共産党以外の会派は結局、委員会でも本会議でも一切発言せず、沈黙を貫いて〝原発避難者追い出し訴訟議案〟に賛成する道を選択したのだった。
「未退去の避難者に退去を求める訴訟を行政が起こすのは本県だけ」(大橋課長)という異常事態にも関わらず、議論は低調なまま審議を終えた。10月2日午前の委員会採決を経て、翌3日の本会議で賛成多数で可決される見通しだ。
委員会を傍聴した「ひだんれん」(福島原発事故被害者団体連絡会)の大河原さきさんは「県は提訴ギリギリまで努力すると言っているが、そもそも避難者が求める支援をしていない。住まいも不動産業者を同行させて紹介して終わり。提訴は何としてもやめて欲しい。避難者を送り出している県が避難者を訴えるなんてあり得ない。内堀知事は『最後の1人までていねいに寄り添う』と言っているのに、どうして追い出すのか。人道上、大いに問題だ」と憤った。
大河原さんは今月2日、1人で福島県議会の各会派を訪れて〝追い出し訴訟議案〟に賛成しないよう求めた。全ての会派が書面は受け取ったものの、説明の場を設けたのは共産党だけだった。
当事者の話も支援者の意見も聴かないまま、福島県議会は〝原発避難者追い出し訴訟〟にゴーサインを出す。「復興五輪」を来夏に控え、原発事故被害者の切り捨てがさらに加速する。しかし、田中和徳復興大臣は取材に対し「福島県が一生懸命に対応していただいております事に対しては私たちも一生懸命にサポートしてきておるところでございます。一部の訴訟案件も含めて県議会で議論される、結論を出されると伺っておりまして、この件については申し訳ございませんけれど、ちょっと私の立場からは御発言を差し控えさせていただければと思っておるところでございます」と繰り返し述べるにとどまっており、傍観する構えだ。
(了)

【「調停不成立、提訴やむを得ない」】
「議案第46号から50号の『訴えの提起について』でありますが、避難指示区域外から避難されている方に対する応急仮設住宅供与終了後の国家公務員宿舎の使用貸し付けについて、契約を求めた調停が不成立となった世帯に対し、明け渡し等を求め、提訴するものであります」
午前11時に始まった常任委員会。安齋浩記避難地域復興局長が〝追い出し訴訟議案〟について簡単に説明した。さらに議案の詳細について住所や氏名も含めて、生活拠点課の大橋雅人課長が説明した。
「これら5件の議案は、避難指示区域外からの避難者、いわゆる〝自主避難者〟に対する平成29年(2017年)3月末の応急仮設住宅の供与終了後、2年間の経過措置として実施した『国家公務員宿舎セーフティネット使用貸し付け』に関するものです。この5件については当初、セーフティネットの申し込みがあったものの、契約いただけないままの入居が続いていたために訪問や連絡を重ね、契約締結をお願いして来ましたが、当事者間での話し合いでは契約が難しい状況の中、何とか話し合いにより解決を図りたいと考え、平成29年12月議会で調停申し立ての議決をいただき、契約締結および賃料相当額の支払いを求める調停を行ってきたところです」
「2018年度、それぞれ1回から5回の調停により話し合いでの解決を目指して来ましたが、裁判官、調停委員2名により構成される調停委員会から『調停不成立』とされ、今後も話し合いによる解決が見込めない状況である事から、明け渡しおよび賃料相当額の支払いを求める訴えの提起もやむを得ないとの判断に至ったものです」
「請求の趣旨は、『被告となるべき者が住宅の明け渡しおよび明け渡しまでに要した賃料相当額を支払う事』、『訴訟費用は被告となるべき者の負担とする事』との判決ならびに仮執行の宣言を求めるものです。鈴木芳喜弁護士を訴訟代理人と定めます」

県議会企画環境常任委員会で〝避難者追い出し訴訟議案〟について説明する福島県生活拠点課の大橋雅人課長。「調停が不成立となり、話し合いでの解決は難しい。提訴もやむを得ないとの判断に至った」と述べた
【「個々の事情把握せず審議出来ぬ」】
質疑で唯一、発言したのは宮本しづえ委員(日本共産党福島県議会議員団)だった。
「5世帯を個々に審議する必要があると思います。それぞれの避難者の状況、避難元がどこの市町村なのか、家族構成や戻る家があるのか無いのか、それぞれの請求額はいくらなのか、それぞれの調停での状況、をまずお聞かせください」
これに対し、大橋課長は「個別の状況につきましては個人情報と言いますか、この場で申し上げるのはなかなか難しいと考えます。家族構成は単身者も家族での方もいらっしゃいます。避難元はいわき市、南相馬市、郡山市です。それぞれ避難指示区域外からの避難者の方です。調停の回数は1回の方もいらっしゃいますし、5回まで話し合った方もいらっしゃいます。調停にも出席していただけなかった方については、1回で調停が不成立となっております。賃料は単身世帯でだいたい1万6000円くらい。家族の世帯、3LDKで約6万円です」
宮本委員は「裁判になれば個人情報が法廷で明らかにされる事も承知の上で、県は提訴しようとしている。その提訴が本当に適切なのかどうかという事を、私たちはここで審議しなければなりません。その時に、個々の事情を分からないで『良いですよ』と言うわけにはいきませんよ。個々の状況がどうであったのかという事を議会としてしっかり把握した上で判断しなければ、責任ある議決は出来ません。個人情報だから言えないという事ならば、必要なら秘密会の開催も含めて審議するのが議会としての責任だと思います」と述べ、鈴木智委員長の意見を求めた。
だが、鈴木委員長は「具体的に何を求めているのですか?」と宮本委員に尋ねるばかり。時間をかけてでもじっくりと審議する意思などまるで無いようなそぶりだ。いったん休憩し、別室で当局と委員長、副委員長で議事進行を協議したが、改めて大橋課長が次のように説明する事で〝決着〟させた。
「5世帯のうち3世帯はなかなか接触が難しい状況でした。2世帯は都営住宅に何度か申し込んでいるが当選しないという事です。これまでも供与終了前から戸別訪問や電話も10回近くしてきましたが、1回しか会えないという事もありました。家族の状況や健康状態を伺うのも難しいというのも実態としてはあります。福祉部門につなぐ機会をいただけない方もいらっしゃる」
「避難元は、いわき市3世帯、南相馬市1世帯、郡山市1世帯です。うち1世帯は避難元に持ち家があります。家族での入居が3世帯、単身者が2世帯。経過措置2年間の損害金は50万円から200万円。合計約600万円です。調停の回数は、1回、2回、3回、4回、5回、それぞれ1世帯ずつ行われました。裁判になったとしても、個人情報が確実に明らかになるわけでは無いと考えております。仮に議決されたとしても、提訴までの間は今後も引き続き新たな住まいの確保に向けての支援は続けていきたいと考えております」

〝原発避難者追い出し訴訟議案〟に反対の立場から委員会で質問した宮本しづえ委員。しかし、共産党以外の委員は沈黙したまま賛成に回る意向で、10月3日の本会議で可決される見通しだ。いよいよ、原発事故被災県が避難県民を裁判で追い出すという異常事態を迎える
【「人道上、大いに問題だ」】
宮本委員は最後まで「審議の前提が整っていない」、「原発事故が起きた中で、福島県が福島県民を訴えるなんて事が適切なのか。個々の状況も分からずに判断のしようが無い」、「調停が不調だと本当に言い切れるのか」、「今回の5世帯は〝見せしめ〟なのか」、「財務省との協議の経過を委員会に開示して欲しい」、「人道上、問題がある」と質したが、他の委員からは賛成意見も含めて発言は一切無かった。
福島県議会は、知事選挙で共産党以外の全ての会派が内堀雅雄知事を支援した「オール与党」。ここで議案に反対すれば、内堀知事や避難せずに県内に住んでいる人からの反発を招く。「いつまでも避難していないで福島に戻れば良い」との本音も抱えている。11月10日には県議選も控えているという事情もある。共産党以外の会派は結局、委員会でも本会議でも一切発言せず、沈黙を貫いて〝原発避難者追い出し訴訟議案〟に賛成する道を選択したのだった。
「未退去の避難者に退去を求める訴訟を行政が起こすのは本県だけ」(大橋課長)という異常事態にも関わらず、議論は低調なまま審議を終えた。10月2日午前の委員会採決を経て、翌3日の本会議で賛成多数で可決される見通しだ。
委員会を傍聴した「ひだんれん」(福島原発事故被害者団体連絡会)の大河原さきさんは「県は提訴ギリギリまで努力すると言っているが、そもそも避難者が求める支援をしていない。住まいも不動産業者を同行させて紹介して終わり。提訴は何としてもやめて欲しい。避難者を送り出している県が避難者を訴えるなんてあり得ない。内堀知事は『最後の1人までていねいに寄り添う』と言っているのに、どうして追い出すのか。人道上、大いに問題だ」と憤った。
大河原さんは今月2日、1人で福島県議会の各会派を訪れて〝追い出し訴訟議案〟に賛成しないよう求めた。全ての会派が書面は受け取ったものの、説明の場を設けたのは共産党だけだった。
当事者の話も支援者の意見も聴かないまま、福島県議会は〝原発避難者追い出し訴訟〟にゴーサインを出す。「復興五輪」を来夏に控え、原発事故被害者の切り捨てがさらに加速する。しかし、田中和徳復興大臣は取材に対し「福島県が一生懸命に対応していただいております事に対しては私たちも一生懸命にサポートしてきておるところでございます。一部の訴訟案件も含めて県議会で議論される、結論を出されると伺っておりまして、この件については申し訳ございませんけれど、ちょっと私の立場からは御発言を差し控えさせていただければと思っておるところでございます」と繰り返し述べるにとどまっており、傍観する構えだ。
(了)
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