【原発避難者から住まいを奪うな】これのどこが「活発な議論」? 民主主義など無い福島県議会。〝オール知事与党〟の賛成多数で「自主避難者追い出し訴訟議案」をあっさり可決
- 2019/10/03
- 23:35
避難した県民を住まいから追い出す議案だろうがお構いなしに通る。共産党には反対させておけば良い。何しろ〝オール与党議会〟なのだから─。そんな声が聞こえてきそうだった。福島県議会は3日午後の本会議で〝自主避難者追い出し訴訟議案〟を賛成多数で可決。原発事故後に避難指示区域外から避難した県民を、避難元の県が裁判で住まいから追い出すという異常事態にゴーサインを出した。反対したのは共産党のみ。「活発な議論」はどこへやら。審議を尽くしたとはとても言えず、「避難などもうやめろ」との本音も隠したまま、民主主義無き県議会に避難者はまた切り捨てられる。

【わずか30秒であっさり可決】
吉田栄光議長が粛々と議事を進行していく。
「お諮り致します。知事提出議案第46号から第50号まで。以上の各案を一括採決致してご異議ありませんか」
議場に、議員たちの「無し」という低い声が響いた。
「ご異議無いと認め、一括採決致します」
「議案第46号『訴えの提起について』ほか4件を一括、原案の通り決するにご賛成の各位のご起立を求めます」
「起立多数」
「よって各案は一括、原案の通り可決されました」
この間、わずか30秒。こうして、前代未聞の〝原発避難者追い出し訴訟議案〟は可決された。日本共産党福島県議会議員団の5人だけが起立せず反対。福島県議会県民連合議員会の古市三久県議は退席し、採決に加わらなかった。
採決の前には、吉田英策県議(日本共産党福島県議会議員団)が反対討論を行い、これら5件の議案に関して「原発事故により避難を余儀なくされた被災県民を県が訴えるという事は、あまりにも異常な事で言語道断。協議を継続すべきであり、提訴をするべきでは無い」と訴えた。
「個別の事情を全く考慮しておらず、人道上も許されない。常任委員会での審査でも個別の事情は明らかにされずに終了した。委員会での審査は不十分」
反対討論は共産党のみ。賛成討論は無かった。避難元の福島県が避難県民を裁判で追い出すという議案になぜ賛成出来るのか。どの議員も賛成意見を全く表明しないまま採決だけが行われた。ある県議は「議案には賛成。訴訟もやむなし」とだけ話した。
そして予定通りの「賛成多数」。議会の〝お墨付き〟を得た県当局は、鈴木芳喜弁護士を代理人に具体的な訴訟手続きに着手する。被告となるのは、避難先として東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居し、2017年3月末の住宅無償提供打ち切り後も2年間の「セーフティネット使用貸し付け契約」を結ばず、家賃の支払いも拒んでいる5世帯。「被告となるべき者が住宅の明け渡しおよび明け渡しまでに要した賃料相当額を支払う事」を求める。



(上)日本共産党福島県議会議員団を代表し、討論で反対意見を述べた吉田英策県議。誰一人、賛成意見や理由を表明しないまま、福島県議会は裁判での原発避難者追い出しに〝ゴーサイン〟を出した
(中)退席し採決に加わらなかった古市三久県議。閉会後、「人道上、問題のある議案。個人的には反対だが、会派の一員である以上、議場で反対の姿勢を示す事は出来なかった」と苦しい胸の内を明かした
(下)福島県庁からほど近い自由民主党福島県支部連合会には、「県議選対策本部」の看板が立てられた。原発避難者の住まいより、心は11月の県議選でいっぱいなのだろう
【心は県議選?配布資料も議論せず】
本会議の前日、2日午前の企画環境常任委員会では、宮本しづえ委員(日本共産党福島県議会議員団)がテレビユー福島のスクープを受けて9月20日の委員会で要求した資料が配られた。
配布されたのは2016年8月26日と9月7日に財務省会議室で行われた「国家公務員宿舎に係る打合せ」。出席した財務省や福島県生活拠点課の担当者の発言が、ごく簡単にまとめられている。
財務省の担当者が「期限を決めた方が(避難者を)説得しやすい」と述べ、福島県職員が「期限を決めるのは難しい」としながらも「確かに期限を示すことは効果的な面はある」と応じていた事が分かる。また、8月の打ち合わせを受けて福島県が作った素案に対し、9月の会合で財務省側が「帰還については、1年単位で最長2年まで」と提示。財務省との協議結果がメディアに漏れる事を懸念している財務省に対し、福島県側が「マスコミ対応の予定は無いが、強行に反対している人が宿舎に入居しており、その取材から話が出てくる可能性はある」と答えていた。退去や損害金を求める訴訟が既に視野に入っていた事もうかがえる。復興庁の担当者も出席していたが、発言の中身は記載されていない。
だが、A4判5枚の資料は配布されただけですぐに採決に入り、文書の中身について議論される事は無かった。採決では、8人の委員のうち7人(委員長を除く)が他の議案と一括で「可決すべき」に起立で賛意を示した。宮本委員だけが起立せずに反対した。11時に始まった委員会は、わずか6分ほどで閉会した。
企画環境常任委員の1人で、議案に賛成した佐藤雅裕県議(自由民主党福島県議会議員会)は採決後、取材に応じ「(県当局も)努力を尽くしていますし、今後も引き続いて(支援を)やると言ってるから、それをきちんとやってもらうしか無いんじゃないですか」と答えた。避難元の県が避難県民を訴えるという異例の事態に関しても質したが「ま、そういう事で。はい」と言って会派の控え室に戻った。自由民主党福島県議会議員会は、福島県議会で過半数を占める最大会派。11月10日投開票の県議選でも安泰だと言われている。福島県庁からほど近い自由民主党福島県支部連合会には、「県議選対策本部」の看板が立てられた。〝自主避難者〟の住まいよりも、心はもう選挙なのだろう。



復興庁が取りまとめた「復興加速化への取組」には「きめ細かく対応」とする一方で「福島の復興・再生が本格化」「復興五輪で復興を発信」との言葉も躍る。結局、福島県議会もこの国の意向に追随した格好だ
【苦悩の末、退席選んだ県議】
この日の議会では、期せずして福島県議会の現状とは真逆の言葉が虚しく議場を漂った。
閉会にあたっての挨拶で、吉田栄光議長が「重要な案件につきまして終始、熱心にご審議を賜った」と言えば、内堀雅雄知事も「重要な議案を提出致しましたところ、議員の皆様には終始、熱心にご審議のうえ、ご議決を賜った」と述べた。県外に避難した県民を訴えるという重要な議案がいつ、「熱心に審議」されたのか。
〝追い出し訴訟議案〟の審査を附託された企画環境常任委員会の鈴木智委員長は「関係当局から詳細な説明を聴取し、質疑応答を重ね、各委員から活発な意見が述べられた」と報告したが、9月20日の委員会のどこが「質疑応答を重ね」、「各委員からの活発な意見」だったのか。この議案について質疑をしたのは共産党のみ。県当局は詳細な説明に消極的で、他の委員からは活発な意見など出なかった。ある県議は「自民党がへそを曲げさえしなければ、どんな議案だって通る」と苦笑したが、全てが予定調和。福島県議会には民主主義など無い。
企画環境常任委員会で提訴しないよう質疑を重ねた宮本しづえ県議は「〝追い出し訴訟議案〟に賛成なら賛成の意見をきちんと表明すれば良い。それを『活発な議論』と言うのではないか。空疎な議会、形式主義だ」と、だんまりを決めこむ他の県議を批判した。
古市三久県議(福島県議会県民連合議員会)は閉会後、反対では無く、採決を退席した理由について「うちの会派は皆、議案に賛成している。私個人としては裁判で避難者を追い出すなんていう議案には反対。人道的に問題のある議案に賛成などとても出来ない。かといって、会派の一員である以上は議場で反対を表明するのも難しい。だから退席を選択した」と語った。「福島原発かながわ訴訟」の原告団長で、「ひだんれん」のメンバーとともに国や福島県との交渉を続けている村田弘さんは「孤立の中、彼としては精一杯の抵抗だったのでしょう。翼賛体制の怖さを感じますね」と理解を示した。
約1カ月後には、県議会の新しい顔ぶれが決まる。福島県民は今後も〝オール知事与党〟による低調な、予定調和の議会運営を求めるのか。県政史に残る議案があっさり可決された背景には、有権者の選択がある事もまた、忘れてはならない。
(了)

【わずか30秒であっさり可決】
吉田栄光議長が粛々と議事を進行していく。
「お諮り致します。知事提出議案第46号から第50号まで。以上の各案を一括採決致してご異議ありませんか」
議場に、議員たちの「無し」という低い声が響いた。
「ご異議無いと認め、一括採決致します」
「議案第46号『訴えの提起について』ほか4件を一括、原案の通り決するにご賛成の各位のご起立を求めます」
「起立多数」
「よって各案は一括、原案の通り可決されました」
この間、わずか30秒。こうして、前代未聞の〝原発避難者追い出し訴訟議案〟は可決された。日本共産党福島県議会議員団の5人だけが起立せず反対。福島県議会県民連合議員会の古市三久県議は退席し、採決に加わらなかった。
採決の前には、吉田英策県議(日本共産党福島県議会議員団)が反対討論を行い、これら5件の議案に関して「原発事故により避難を余儀なくされた被災県民を県が訴えるという事は、あまりにも異常な事で言語道断。協議を継続すべきであり、提訴をするべきでは無い」と訴えた。
「個別の事情を全く考慮しておらず、人道上も許されない。常任委員会での審査でも個別の事情は明らかにされずに終了した。委員会での審査は不十分」
反対討論は共産党のみ。賛成討論は無かった。避難元の福島県が避難県民を裁判で追い出すという議案になぜ賛成出来るのか。どの議員も賛成意見を全く表明しないまま採決だけが行われた。ある県議は「議案には賛成。訴訟もやむなし」とだけ話した。
そして予定通りの「賛成多数」。議会の〝お墨付き〟を得た県当局は、鈴木芳喜弁護士を代理人に具体的な訴訟手続きに着手する。被告となるのは、避難先として東京都江東区の国家公務員宿舎「東雲住宅」に入居し、2017年3月末の住宅無償提供打ち切り後も2年間の「セーフティネット使用貸し付け契約」を結ばず、家賃の支払いも拒んでいる5世帯。「被告となるべき者が住宅の明け渡しおよび明け渡しまでに要した賃料相当額を支払う事」を求める。



(上)日本共産党福島県議会議員団を代表し、討論で反対意見を述べた吉田英策県議。誰一人、賛成意見や理由を表明しないまま、福島県議会は裁判での原発避難者追い出しに〝ゴーサイン〟を出した
(中)退席し採決に加わらなかった古市三久県議。閉会後、「人道上、問題のある議案。個人的には反対だが、会派の一員である以上、議場で反対の姿勢を示す事は出来なかった」と苦しい胸の内を明かした
(下)福島県庁からほど近い自由民主党福島県支部連合会には、「県議選対策本部」の看板が立てられた。原発避難者の住まいより、心は11月の県議選でいっぱいなのだろう
【心は県議選?配布資料も議論せず】
本会議の前日、2日午前の企画環境常任委員会では、宮本しづえ委員(日本共産党福島県議会議員団)がテレビユー福島のスクープを受けて9月20日の委員会で要求した資料が配られた。
配布されたのは2016年8月26日と9月7日に財務省会議室で行われた「国家公務員宿舎に係る打合せ」。出席した財務省や福島県生活拠点課の担当者の発言が、ごく簡単にまとめられている。
財務省の担当者が「期限を決めた方が(避難者を)説得しやすい」と述べ、福島県職員が「期限を決めるのは難しい」としながらも「確かに期限を示すことは効果的な面はある」と応じていた事が分かる。また、8月の打ち合わせを受けて福島県が作った素案に対し、9月の会合で財務省側が「帰還については、1年単位で最長2年まで」と提示。財務省との協議結果がメディアに漏れる事を懸念している財務省に対し、福島県側が「マスコミ対応の予定は無いが、強行に反対している人が宿舎に入居しており、その取材から話が出てくる可能性はある」と答えていた。退去や損害金を求める訴訟が既に視野に入っていた事もうかがえる。復興庁の担当者も出席していたが、発言の中身は記載されていない。
だが、A4判5枚の資料は配布されただけですぐに採決に入り、文書の中身について議論される事は無かった。採決では、8人の委員のうち7人(委員長を除く)が他の議案と一括で「可決すべき」に起立で賛意を示した。宮本委員だけが起立せずに反対した。11時に始まった委員会は、わずか6分ほどで閉会した。
企画環境常任委員の1人で、議案に賛成した佐藤雅裕県議(自由民主党福島県議会議員会)は採決後、取材に応じ「(県当局も)努力を尽くしていますし、今後も引き続いて(支援を)やると言ってるから、それをきちんとやってもらうしか無いんじゃないですか」と答えた。避難元の県が避難県民を訴えるという異例の事態に関しても質したが「ま、そういう事で。はい」と言って会派の控え室に戻った。自由民主党福島県議会議員会は、福島県議会で過半数を占める最大会派。11月10日投開票の県議選でも安泰だと言われている。福島県庁からほど近い自由民主党福島県支部連合会には、「県議選対策本部」の看板が立てられた。〝自主避難者〟の住まいよりも、心はもう選挙なのだろう。



復興庁が取りまとめた「復興加速化への取組」には「きめ細かく対応」とする一方で「福島の復興・再生が本格化」「復興五輪で復興を発信」との言葉も躍る。結局、福島県議会もこの国の意向に追随した格好だ
【苦悩の末、退席選んだ県議】
この日の議会では、期せずして福島県議会の現状とは真逆の言葉が虚しく議場を漂った。
閉会にあたっての挨拶で、吉田栄光議長が「重要な案件につきまして終始、熱心にご審議を賜った」と言えば、内堀雅雄知事も「重要な議案を提出致しましたところ、議員の皆様には終始、熱心にご審議のうえ、ご議決を賜った」と述べた。県外に避難した県民を訴えるという重要な議案がいつ、「熱心に審議」されたのか。
〝追い出し訴訟議案〟の審査を附託された企画環境常任委員会の鈴木智委員長は「関係当局から詳細な説明を聴取し、質疑応答を重ね、各委員から活発な意見が述べられた」と報告したが、9月20日の委員会のどこが「質疑応答を重ね」、「各委員からの活発な意見」だったのか。この議案について質疑をしたのは共産党のみ。県当局は詳細な説明に消極的で、他の委員からは活発な意見など出なかった。ある県議は「自民党がへそを曲げさえしなければ、どんな議案だって通る」と苦笑したが、全てが予定調和。福島県議会には民主主義など無い。
企画環境常任委員会で提訴しないよう質疑を重ねた宮本しづえ県議は「〝追い出し訴訟議案〟に賛成なら賛成の意見をきちんと表明すれば良い。それを『活発な議論』と言うのではないか。空疎な議会、形式主義だ」と、だんまりを決めこむ他の県議を批判した。
古市三久県議(福島県議会県民連合議員会)は閉会後、反対では無く、採決を退席した理由について「うちの会派は皆、議案に賛成している。私個人としては裁判で避難者を追い出すなんていう議案には反対。人道的に問題のある議案に賛成などとても出来ない。かといって、会派の一員である以上は議場で反対を表明するのも難しい。だから退席を選択した」と語った。「福島原発かながわ訴訟」の原告団長で、「ひだんれん」のメンバーとともに国や福島県との交渉を続けている村田弘さんは「孤立の中、彼としては精一杯の抵抗だったのでしょう。翼賛体制の怖さを感じますね」と理解を示した。
約1カ月後には、県議会の新しい顔ぶれが決まる。福島県民は今後も〝オール知事与党〟による低調な、予定調和の議会運営を求めるのか。県政史に残る議案があっさり可決された背景には、有権者の選択がある事もまた、忘れてはならない。
(了)
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