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【原発避難者から住まいを奪うな】福島県の〝最後通告〟今日が期限。「国家公務員宿舎から退去しないと〝追い出し訴訟〟起こす。家賃も全額支払え」。支援者は訴訟回避へ奔走

原発事故後、福島県内の避難指示区域外から避難し国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)に入居している5世帯(いわゆる〝自主避難者〟)に対し、福島県が〝追い出し訴訟〟の準備を進めている問題で、福島県の内堀雅雄知事名で送付された〝最後通告〟が今日30日、期限を迎える。県は今日までの退去に加え、家賃一括納付がなされない限り提訴するとの方針を貫いているが、現実的にそれは難しい。肝心の復興庁は静観。〝オール知事与党〟県議会は後押しする中で、いよいよ被災県が自ら避難県民を被告として法廷に立たせる異常事態が現実味を帯びてきた。
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【福島県「分納には応じない」】
 「本請求に応じない場合は、管轄の裁判所に提訴します」
 「明渡し請求書」と題した内堀雅雄知事名の〝最後通告〟。福島県はこれを、10月8日付の内容証明郵便で5世帯に送付した(文書の日付は10月4日)。福島県議会が〝追い出し訴訟議案〟を賛成多数で可決したのが10月3日午後の本会議だから、あらかじめ可決される事を見越して準備していたのだろう。文書には次のように記されている。
 「あなたに提供していた応急仮設住宅については、平成29年3月31日(筆者注:2017年)をもって供与期間が終了しています。
 ついては、後記指定期日までに後記建物及び駐車場を明渡してください。また、あなたが後記建物等を明渡さないことで発生している平成29年4月1日以降の賃料相当損害金についてはあなたの負担となります。
 本請求に応じない場合は、管轄の裁判所に提訴します。
 なお、令和元年10月21日から30日(時間は応相談)までの間、東雲住宅会議室において、明渡しに向けた住まいの意向を伺う機会を設けますので、令和元年10月15日までに希望日時をお知らせ願います。ただし、訴訟に関する内容については、お答えできませんのであらかじめ御了承ください」
 「後記指定期日」は11月30日。つまり、今日までに退去しなければ裁判に訴えるぞ、これ以上は待てないぞ、という事だ。文書には、9月末現在の「賃料相当損害金」も付記されている。金額は世帯によって異なるが、中には180万円を上回る避難者もいるという。だが、福島県生活拠点課の担当者は「退去と損害金の一括納付。この2つが揃わない限り、提訴するとの方針に変わりは無い。分納に応じる考えも無い」と厳しい。
 「これまであらゆる手を尽くして来たのに解決に至っていない。明渡し請求書の送付後も連絡を取るなどして解決を模索している。決して本意では無いが、退去と損害金の一括納付がされない限りは提訴に踏み切る」
 しかし、支援者の1人は「30日までに退去と一括納付は現実的には難しい」と話す。残念ながら避難元による原発避難者追い出し訴訟は避けられそうも無い。

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情報公開制度で入手した福島県の〝最後通告〟には「本請求に応じない場合は、管轄の裁判所に提訴します」と記されている。退去と2017年4月以降の家賃を支払わないと訴訟を起こすぞ、と避難者に迫る文書。期限は今日、11月30日だ

【避難者と共に奔走する支援者の怒り】
 それでも、支援者たちはギリギリまで裁判を回避するべく奔走している。
 「僕らの目指すところは〝追い出し訴訟〟という最悪の事態を回避し、避難者の方々が安心して暮らせる新しい住まいを確保する事です」
 原発避難者の支援を一貫して続けている「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは、NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」など他の支援者の協力も得ながら物件探しを続けている。今週も、冷たい雨が降る中、東雲住宅からの退去を求められている避難者とともに5つの物件を下見した。都内だけでなく埼玉県内にも範囲を広げている。
 「今回見た物件はいずれも非常に部屋がきれいでした。間取りも家族一人一人の独立した空間を確保出来る良質な物件ばかりでした。避難者の方も驚いていました。福島県が紹介してきた物件は職場からも遠く、決して綺麗でない物件ばかりだったそうなのです」
 瀬戸さんは少しだけ安堵した様子で振り返る。別の支援者によると、福島県は民間の不動産業者に住まいの紹介を委託したものの、実際に紹介された物件は酷く汚れていて、とても住めるような状態では無かったという。それだけに、瀬戸さんたちのように本当の意味で避難者に寄り添った支援、住まい探しが重要なのだ。「『避難者に寄り添う』とは何かを考えながら、ただ入居支援で終わるのでなく、その後の生活サポートも大切にしたいと思います」と瀬戸さんは語る。
 「経済的事情や精神的事情などで退去したくても退去出来なかった避難者の皆さんは、精神的に追い詰められています。現場を知らない、関心も無い復興庁職員が『今、残っている避難者の方は会ってもくれなかった』と国会議員に言ったそうです。これは完全に違います」
 瀬戸さんはそう怒り、避難当事者の苦境を代弁した。
 「左手では執拗に退去を迫り、『時期が来たら訴えるぞ』と拳を振り上げ、右手では『個別に相談に応じます。住まい相談に応じます』などと振る舞う福島県に、いったい誰が本音で相談出来るでしょうか。経済的に厳しいと嘆く避難者に容赦なく家賃2倍請求をし、転居費支援も一切しない。住宅相談にしても、不動産業者につないで『あとは直接、業者に相談してください』で終わり。だから新しい住まいが決まらないのですよ。私たちは転居費が不足している避難者への給付金補助、保証人代行もしっかり行っています」

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〝原発避難者追い出し訴訟〟の舞台となってしまった国家公務員宿舎「東雲住宅」。避難元自治体による提訴という事態に、避難者たちは厳しい年末を迎えている=東京都江東区

【復興大臣「これからも寄り添う」】
 10月11日の衆議院・予算委員会でも〝追い出し訴訟問題〟が取り上げられた。
 質問したのは本多平直代議士(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)。まず、「新しく大臣になられて、いろいろ細かい事を聞かれて答えられないという事はあるかもしれないです。しかしですよ、復興大臣が『避難者は私の所感じゃ無い』という事を記者会見でおっしゃったんですよ。これ、間違いですよね。確認します」と苦笑交じりに尋ねた。
 「国家公務員の住宅を出て行けと言われ、厳しい扱いをされているんです。国の責任で起こった原発事故で避難をしている方に対してこういう冷たい施策が取られている。これだけ時間が経ちましたから、多くの方は徐々に退去されたりしているが、残った方は事情があるわけですよ。そこを、役所が冷たい論理で…そこに寄り添うのが復興庁の仕事なんですよ。それを分かってらっしゃいますか?」
 本多議員が怒りをぶつけるように重ねて質すと、田中大臣は次のように語気を強めた。
 「私が常に申し上げておりますのは、復興庁の毎日の仕事は被災者の皆さんの心にも日々の生活にも寄り添っていく。そして、常に現場主義を徹底する。この事を申し上げておりますし、私自身もそのように努めておるところでございます。当然、全ての避難をされた方々に対して徹底して対応していく。この事については、これからも努力をして参りますし、真剣な取り組みをして参りたいと思っております。以上でございます」
 しかし、寄り添うと言いながら、追い出し訴訟をやめるよう進言はしない。
 「福島県の方でも、今まで相談にのっていただいているんではないかというふうに思います。個別具体的には私もこれから確認をさせていただいて十分な対応がされているかどうか調査をさせていただきますけれど、福島県がやっておられる事に対しては、私たちも今までしっかりとサポートをして参りました。人材面でも、また財政面でもさせていただきましたし、生活保護者の皆様方がいらっしゃる場合には、やはりこれについても期限の延期等もさせていただいておるようでございますし、福島県と相談しながら、十分確認をして対応させていただきたい」
 「原発避難者に寄り添う復興庁」はしかし、「福島県は良くやっている」と言ってはばからない。その福島県はいよいよ、避難した県民を被告として法廷に立たせる。



(了)
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鈴木博喜

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