【子ども脱被ばく裁判】吸い込むな危険!法廷で2人の専門家が強調した「不溶性放射性微粒子」による内部被曝のリスク。水害被災地で再浮遊する可能性も指摘
- 2019/11/08
- 13:55
2011年3月の福島第一原発事故後にその存在が注目されている「不溶性放射性微粒子」。今なお福島県内各地に存在し、微粒子を含んだ砂塵が風などで舞い上がり再浮遊。子どもたちが吸い込んで内部被曝してしまう事について、10月1日に福島地裁で開かれた「子ども脱被ばく裁判」の証人尋問で2人の専門家が危険性を指摘した。折しも、福島県内では「10・12水害」で流出した汚泥が乾いて風に舞っている。計4時間近くにわたって行われた河野益近さん、郷地秀夫さんに対する主尋問の一部を紹介しながら、改めて吸入を防ぐ事の重要性を認識したい。郷地さんに対する反対尋問は今月13日、河野さんへの反対尋問は12月19日に行われる予定。

【「内部被曝の評価法定まっていない」】
河野さんは芝浦工大大学院を修了後、東大アイソトープ総合センターを経て京大工学部原子核工学教室で放射線管理業務に従事していた。「放射線管理の専門家」と言える。法廷では、これまでの論文やICRP(国際放射線防護委員会)のレポートなどをスライドで示しながら、不溶性放射性微粒子(ホットパーティクル)を呼吸で取り込む事の危険性を証言した。
被告側は、子どもの放射線感受性について「低線量被曝の健康リスクについては年齢層の違いによる差異を定量化して議論するに至る科学的根拠は無い」と主張している。しかし、これまでの研究で、被曝量が同じ場合、低年齢時に被曝する方が発がん率が高まる事が分かっている。しかも、不溶性放射性微粒子による内部被曝の評価方法はまだ確立されていないという。
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2008年レポートに次のような記述がある。河野さんは法廷で読み上げた。
「ホットパーティクルの肺領域への沈着には長期の滞留時間があり、相当な局所的線量になる可能性がある。アルファ線を放出するホットパーティクルは、肺全体に均一に分布したアルファ線の放射能と同程度の放射性毒性であることが1970年代に実証されたが、ベータ線を放出するホットパーティクルで同様の結論になるかどうかは明確では無い」
つまり、不溶性放射性微粒子の危険性は分かっているが、被曝線量の評価方法は確立されていないのが実情。「原発事故後、不溶性放射性微粒子に関する論文が発表されているが、研究者の間でも被曝線量の評価方法が定まっていない。肺に沈着すると、30年以上にわたって残留し、影響を与える可能性を示唆した論文もある」と河野さん。
「水に溶ける放射性物質の場合、等価線量は吸収線量を臓器全体で平均化し、実効線量は等価線量を身体全体で平均化する。平均化してしまうため、肺の局所に沈着した不溶性放射性微粒子による被曝評価には使えない。ましてや、水に溶ける放射性物質を同じ量だけ摂取した場合であっても、子どもの臓器は小さいから、大人より子どもの吸収線量の方が大きくなる」
福島県はパンフレット「空気中のほこりに含まれる放射性物質について」で、内部被曝は無視しても構わないと言っているとも受け取れるよう示しているが、疑問が残る。10・12水害の被災地では乾いた汚泥が風で舞い上がって住民を苦しめているが、これについて河野さんは、取材に対し「危険であることは間違いありません。一般的に汚染した土壌とは違って、流れてきた土壌ですから粒径は小さいもので、乾燥すればその多くが大気中に再浮遊する可能性があります。行政が行わなければならないのは、水害で流れ込んだ汚染土壌に含まれる放射能の測定と、その結果に基づいて土壌が再飛散しないような対策を講じる事だと思います」と警鐘を鳴らしている。



河野さんは自身の測定を基に、スライドを使いながら子どもたちの内部被曝の危険性について法廷で証言した
【「リスク評価無しに『安全』言えぬ」】
河野さんは2018年5月と7月の2回、福島県内の道路脇の土壌に含まれる放射性セシウムの溶出試験を行った。「採取したのは本来、そこには無いような土。風や車両の通行などで舞い上がり、溜まった可能性のある土」。その結果、98%以上が水に溶けない形で存在する事が分かったという。また、同じ場所で採取した土でも、粒の大きい土(106マイクロメートル以下)と粒の小さい土(25マイクロメートル以下)とでは、粒の小さい土の放射能濃度が2倍以上高かった。例えば、福島県福島市内の国道4号線で2014年7月12日に採取した土の場合、1~2ミリメートルの土は3570Bq/kgだったが、0・1ミリメートル以下の土は2万5000Bq/kgだった(134、137合算)。
河野さんは「同じ場所であっても、目の粗いふるいを使う土壌測定結果よりも肺に達するほど小さい粒子の放射能の方が高くなると推測される。風や車の往来で舞い上がった放射性微粒子の一部が気管支や肺に沈着する可能性があるが、従来の手法では内部被曝の影響は評価出来ない」と警告する。
「子どもたちが生活している場所が『安全だ』と言うためには、どのくらいの被曝量があるからリスクがこの程度だ、というリスク評価が必要。しかし、不溶性放射性微粒子を呼吸で肺に取り込んだ場合の内部被曝の評価方法が確立されていない。少なくとも、子どもたちが住んでいても安全だと結論付ける根拠は無いと思う」
調査の結果、25マイクロメートル以下の土では、全ての箇所で農水省の定めた「土壌改良資材等」の基準値(400Bq/kg)を上回った。一方、福島県内にも、平田村や下郷町、南会津町などのように不溶性放射性微粒子が100Bq/kg以下の市町村もあるとして、河野さんは「子どもたちを安全な環境で教育を受けさせるという事が行政の1つの使命であるならば、他県に協力要請しなくても子どもたちの保養場所を確保する事くらいは出来る」と述べた。
「水に溶けない放射性微粒子による内部被曝評価は検討が始まったばかり。子どもをより安全な場所で学ばせたいと考えるのは親として当然だ。子どもたちをより汚染の少ない場所で過ごさせる事は国や地方自治体の役目だと思う」



郷地秀夫さんが法廷で使ったスライドの一部。不溶性放射性微粒子による内部被曝の危険性について述べた
【内部被曝「死ぬまで被曝続く」】
この日は、内科医で東神戸診療所長・郷地秀夫さんの主尋問も行われた。
1000人を超える原爆被爆者の治療に携わってきた郷地さんは、「福島原発事故の不溶性放射性粒子による内部被曝」というスライドを使いながら、放射線被曝には「内部被曝」(吸入、経口摂取、皮膚から侵入)、「接触被曝」(皮膚や衣服に付着)、「外部被曝」(プルームや地面、木々などから飛んで来る)─の3種類あることから説明を始めた。
「内部被曝は本来、外界の空気が入らないように厚さ20cmの鋼鉄壁の部屋で環境放射線を遮断し、精密なホールボディカウンター(WBC)で10分から30分ほど時間をかけて測定する事でどのくらい吸い込んだかが分かる。しかし、実際に行われているWBC検査はレベルが全然違う。綿棒を使った鼻腔汚染検査も全く行われていない。土壌汚染密度も非常に重要だが、まともな測定が行われていません」。
内部被曝の危険性について「体内に取り込んでしまったら、死ぬまで被曝し続ける。自分では防ぎようが無い」と述べた郷地さん。これまで放射性微粒子は体内に入り込むと血液中に溶け込むと理解されて来たが、福島第一原発事故後、様々な研究で不溶性放射性微粒子の存在が明らかになっている。「不溶性放射性微粒子を体内に取り込むと体内に長期に沈着します。水溶性微粒子と全く違うのです。鼻腔でかなり止まるが、口から取り込んだ場合は肺に入って沈着する可能性が高くなります。不溶性放射性微粒子が舞っている(浮遊している)ような環境で子どもたちが運動をする事は、リスクを増大させます」。
郷地さんは、原発事故後に国会まで巻き込んで起こった「鼻血論争」を「低レベルで本当にくだらない」と批判した。「局所で見れば大量に被曝しているという概念が無い。鼻血くらい出て当たり前です」。被曝線量を平均化しては内部被曝のリスクを正確に評価出来ない、とも指摘した。
福島県から保養で関西を訪れた人と関西に避難・移住した人、計237人に「抗p53抗体検査」(採血でがんの可能性を調べる)を実施し、結果を比較したデータも披露。その結果、20歳未満では福島に在住して保養に訪れた人の陽性率が最も高かったという。しかも、発災から時間が経過するほど割合が高くなっていた。「甲状腺自己抗体検査」の累積陽性率も保養組の方が高かったとして、郷地さんは「福島県内に住み続ける事には危険性があるのではないかと心配している」と述べた。
(了)

【「内部被曝の評価法定まっていない」】
河野さんは芝浦工大大学院を修了後、東大アイソトープ総合センターを経て京大工学部原子核工学教室で放射線管理業務に従事していた。「放射線管理の専門家」と言える。法廷では、これまでの論文やICRP(国際放射線防護委員会)のレポートなどをスライドで示しながら、不溶性放射性微粒子(ホットパーティクル)を呼吸で取り込む事の危険性を証言した。
被告側は、子どもの放射線感受性について「低線量被曝の健康リスクについては年齢層の違いによる差異を定量化して議論するに至る科学的根拠は無い」と主張している。しかし、これまでの研究で、被曝量が同じ場合、低年齢時に被曝する方が発がん率が高まる事が分かっている。しかも、不溶性放射性微粒子による内部被曝の評価方法はまだ確立されていないという。
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の2008年レポートに次のような記述がある。河野さんは法廷で読み上げた。
「ホットパーティクルの肺領域への沈着には長期の滞留時間があり、相当な局所的線量になる可能性がある。アルファ線を放出するホットパーティクルは、肺全体に均一に分布したアルファ線の放射能と同程度の放射性毒性であることが1970年代に実証されたが、ベータ線を放出するホットパーティクルで同様の結論になるかどうかは明確では無い」
つまり、不溶性放射性微粒子の危険性は分かっているが、被曝線量の評価方法は確立されていないのが実情。「原発事故後、不溶性放射性微粒子に関する論文が発表されているが、研究者の間でも被曝線量の評価方法が定まっていない。肺に沈着すると、30年以上にわたって残留し、影響を与える可能性を示唆した論文もある」と河野さん。
「水に溶ける放射性物質の場合、等価線量は吸収線量を臓器全体で平均化し、実効線量は等価線量を身体全体で平均化する。平均化してしまうため、肺の局所に沈着した不溶性放射性微粒子による被曝評価には使えない。ましてや、水に溶ける放射性物質を同じ量だけ摂取した場合であっても、子どもの臓器は小さいから、大人より子どもの吸収線量の方が大きくなる」
福島県はパンフレット「空気中のほこりに含まれる放射性物質について」で、内部被曝は無視しても構わないと言っているとも受け取れるよう示しているが、疑問が残る。10・12水害の被災地では乾いた汚泥が風で舞い上がって住民を苦しめているが、これについて河野さんは、取材に対し「危険であることは間違いありません。一般的に汚染した土壌とは違って、流れてきた土壌ですから粒径は小さいもので、乾燥すればその多くが大気中に再浮遊する可能性があります。行政が行わなければならないのは、水害で流れ込んだ汚染土壌に含まれる放射能の測定と、その結果に基づいて土壌が再飛散しないような対策を講じる事だと思います」と警鐘を鳴らしている。



河野さんは自身の測定を基に、スライドを使いながら子どもたちの内部被曝の危険性について法廷で証言した
【「リスク評価無しに『安全』言えぬ」】
河野さんは2018年5月と7月の2回、福島県内の道路脇の土壌に含まれる放射性セシウムの溶出試験を行った。「採取したのは本来、そこには無いような土。風や車両の通行などで舞い上がり、溜まった可能性のある土」。その結果、98%以上が水に溶けない形で存在する事が分かったという。また、同じ場所で採取した土でも、粒の大きい土(106マイクロメートル以下)と粒の小さい土(25マイクロメートル以下)とでは、粒の小さい土の放射能濃度が2倍以上高かった。例えば、福島県福島市内の国道4号線で2014年7月12日に採取した土の場合、1~2ミリメートルの土は3570Bq/kgだったが、0・1ミリメートル以下の土は2万5000Bq/kgだった(134、137合算)。
河野さんは「同じ場所であっても、目の粗いふるいを使う土壌測定結果よりも肺に達するほど小さい粒子の放射能の方が高くなると推測される。風や車の往来で舞い上がった放射性微粒子の一部が気管支や肺に沈着する可能性があるが、従来の手法では内部被曝の影響は評価出来ない」と警告する。
「子どもたちが生活している場所が『安全だ』と言うためには、どのくらいの被曝量があるからリスクがこの程度だ、というリスク評価が必要。しかし、不溶性放射性微粒子を呼吸で肺に取り込んだ場合の内部被曝の評価方法が確立されていない。少なくとも、子どもたちが住んでいても安全だと結論付ける根拠は無いと思う」
調査の結果、25マイクロメートル以下の土では、全ての箇所で農水省の定めた「土壌改良資材等」の基準値(400Bq/kg)を上回った。一方、福島県内にも、平田村や下郷町、南会津町などのように不溶性放射性微粒子が100Bq/kg以下の市町村もあるとして、河野さんは「子どもたちを安全な環境で教育を受けさせるという事が行政の1つの使命であるならば、他県に協力要請しなくても子どもたちの保養場所を確保する事くらいは出来る」と述べた。
「水に溶けない放射性微粒子による内部被曝評価は検討が始まったばかり。子どもをより安全な場所で学ばせたいと考えるのは親として当然だ。子どもたちをより汚染の少ない場所で過ごさせる事は国や地方自治体の役目だと思う」



郷地秀夫さんが法廷で使ったスライドの一部。不溶性放射性微粒子による内部被曝の危険性について述べた
【内部被曝「死ぬまで被曝続く」】
この日は、内科医で東神戸診療所長・郷地秀夫さんの主尋問も行われた。
1000人を超える原爆被爆者の治療に携わってきた郷地さんは、「福島原発事故の不溶性放射性粒子による内部被曝」というスライドを使いながら、放射線被曝には「内部被曝」(吸入、経口摂取、皮膚から侵入)、「接触被曝」(皮膚や衣服に付着)、「外部被曝」(プルームや地面、木々などから飛んで来る)─の3種類あることから説明を始めた。
「内部被曝は本来、外界の空気が入らないように厚さ20cmの鋼鉄壁の部屋で環境放射線を遮断し、精密なホールボディカウンター(WBC)で10分から30分ほど時間をかけて測定する事でどのくらい吸い込んだかが分かる。しかし、実際に行われているWBC検査はレベルが全然違う。綿棒を使った鼻腔汚染検査も全く行われていない。土壌汚染密度も非常に重要だが、まともな測定が行われていません」。
内部被曝の危険性について「体内に取り込んでしまったら、死ぬまで被曝し続ける。自分では防ぎようが無い」と述べた郷地さん。これまで放射性微粒子は体内に入り込むと血液中に溶け込むと理解されて来たが、福島第一原発事故後、様々な研究で不溶性放射性微粒子の存在が明らかになっている。「不溶性放射性微粒子を体内に取り込むと体内に長期に沈着します。水溶性微粒子と全く違うのです。鼻腔でかなり止まるが、口から取り込んだ場合は肺に入って沈着する可能性が高くなります。不溶性放射性微粒子が舞っている(浮遊している)ような環境で子どもたちが運動をする事は、リスクを増大させます」。
郷地さんは、原発事故後に国会まで巻き込んで起こった「鼻血論争」を「低レベルで本当にくだらない」と批判した。「局所で見れば大量に被曝しているという概念が無い。鼻血くらい出て当たり前です」。被曝線量を平均化しては内部被曝のリスクを正確に評価出来ない、とも指摘した。
福島県から保養で関西を訪れた人と関西に避難・移住した人、計237人に「抗p53抗体検査」(採血でがんの可能性を調べる)を実施し、結果を比較したデータも披露。その結果、20歳未満では福島に在住して保養に訪れた人の陽性率が最も高かったという。しかも、発災から時間が経過するほど割合が高くなっていた。「甲状腺自己抗体検査」の累積陽性率も保養組の方が高かったとして、郷地さんは「福島県内に住み続ける事には危険性があるのではないかと心配している」と述べた。
(了)
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