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【台風19号水害】「選挙どころじゃない!」悲鳴あげる被災地。「延期難しい」と県選管。生活再建に追われる中、予定通り31日告示へ~福島県郡山市ルポ

台風19号による水害から2週間超。復旧に追われる福島県内の被災地からは「選挙どころでは無い」と悲鳴があがっている。任期満了に伴う県議会議員選挙が予定通り31日に告示されるためだ。被災市町村からは「復旧に追われている。延期して欲しい」との声もあがったが、県選管は「準備が進んでしまっており延期は難しい。職員を派遣するなど支援する」と語る。被害が甚大な地域では、生活再建が始まったばかり。住民たちは連日、新たな住まいの確保や公的支援の手続きに追われている。それは職員も同じ。立候補予定者も選挙運動の難しさを抱えながら、選挙戦に突入する。
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【「人手足りない」延期求める声も】
 「いわき市のように県に対して正式に延期を要請する事はしていませんが、うちも『本当にやるんですか?』と何度も県選管に照会したんですよ。それでも県の姿勢は変わらない。予定通りに執行すると言う。ゴーサインが出た以上は、被災した市民が投票の機会を失う事の無いように全力を尽くすしかありません。被災した方にとって『選挙どころでは無い』というのはとても良く分かります。これが市議選なら柔軟な対応も出来たかもしれませんが、今回は県議選なので県が『やる』と言うからにはやらないわけにもいきません…」
 甚大な被害が続いている福島県郡山市の選管担当者はそう話した。28日朝には、投票所入場券(はがき)が郡山市役所で郵便局員に引き渡された。告示に向け順次、有権者に郵送されるが、自宅の損壊などで本人に届けられないケースも考えられるため、避難所などで「入場券を持参しなくても投票出来る」旨の告知をしたり、選挙公報を置いたりして情報提供に努めるという。
 郡山市内でも選挙ポスターの掲示版が設置され始めているが、水門町のように被害が甚大な地域には無い。また、芳賀小学校と赤木地域公民館、小原田地域公民館は避難住民を受け入れているため、赤木保育所、小原田小学校、郡山第四中学校に変更された。期日前投票所は変わらないという。
 いわき市選管は、23日に県議選の延期を求める要請書を県選管に送った。復旧業務や支援手続き業務が多く、正確さを求められる選挙業務に十分な職員を確保出来ないというのが理由だった。しかし、それでも県選管の答えは「ノー」だった。
 「事前に電話連絡しましたが、『11月10日に執行します』という回答でした」と担当者は言葉少なに語った。

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投票所入場券の発想手続きが整い、自民党立候補予定者の選挙事務所には安倍晋三総裁などから贈られた「為書き」も貼られている。郡山市内でも県議選に向けて着々と準備が進んでいるが、しかし、被災した有権者にとっては「選挙どころでは無い」というのが本音だ

【県選管「心苦しいが準備進んでいる」】
 立候補予定者も複雑だ。
 郡山市内にある自民党立候補予定者の選挙事務所には、安倍晋三総裁などの「為書き」が貼られている。室内はすっかり選挙モードだが「こういう時に投票を呼び掛けるのは難しい」と関係者。別の立候補予定者も、演説会を中止するなど対応に追われている。ある現職県議は「こういう時だからこそ、きちんとした動きをする議員を選んでいただきたいが、片付けに追われているところで辻立ちするわけにもいかないし…」と表情を曇らせた。一方、ある政党職員はこう指摘する。
 「被災した有権者と被災しなかった有権者とで情報収集などで差が生じてしまうのは民主主義の権利行使という意味ではおかしいと思います。本来は延期をして、誰もが腰を据えて投票出来るような状況で選挙を行うべきだと思います」
 それでも県選管は31日告示11月10日投開票の日程を変えない。なぜなのか。「これだけ被害がある中で、投票どころでは無いという有権者もかなりの数いると思います…心苦しいです」としたうえで、県選管の担当者が苦しい胸の内を明かした。
 「任期満了が11月19日なので、その30日前までに選挙を行わなければいけません。1週間延期して11月17日投開票という事も出来るのでしょうけれど、ポスター掲示板や入場券の印刷など市町村での準備がかなり進んでいるというのが、延期が難しい最大の理由です。延期すれば全部印刷し直さなければいけませんから。その分、職員の負担も増えてしまいます。被害が少なかった市町村からは反発もあるかもしれません。それに、延期をするとなると総務省に特例を認めてもらうようにお願いしなければいけません。どれだけ延期すれば良いのか。期間に関する意見も様々だと思います。法の改正も必要になるでしょう。被災市町村で人手が足りないという事であれば、県から職員を派遣するという事も考えています。なんとかそれで乗り切って欲しいです。投票に行っていただけるよう、支援に努めます」

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郡山市役所には連日、被災した市民が各種支援の手続きに訪れている。避難所に身を寄せる市民のために全国から届けられた支援物資が配られる。被災地域は泥まみれになってしまった家財道具が山のように積み上げられている。非常事態が続く中、県議選が間もなく告示される

【生活再建始まったばかり】
 民間賃貸借り上げ住宅の相談で郡山市役所を訪れた40代夫婦は「私たちの意見など関係無く、選挙をやる事が決まってしまいましたね…。でも、やる以上は投票には行きます」と語った。12日から避難所に身を寄せているという。十貫河原地区の自宅は1階部分が完全に泥水に浸かった。「高校や小学校に通う子どもがいるので他の地域に転居するのは難しい。すぐ近くに家族5人で暮らせるアパートが見つかったのでしばらくそこで生活しながら、リフォームするしか無いですね。住宅ローンも残っていますから」。
 これまで必要な物と不要な物の分別を進めていて、これからようやく室内の片付けに着手するという。罹災証明はまだ発行されていない。新しいアパートで使う家電製品は自費で購入した。「なるべく国のお世話にならないように、自分たちで出来る事はやろうと。将来、子どもたちの負担が増してはいけないですからね」。生活の立て直しはまだ緒についたばかりなのだ。
 水門町では、自衛隊が出動して家の外に並べられた〝災害ごみ〟の搬出に追われている。仮置き場に運んでいるが、県道沿いの歩道には、今なお多くの家財道具が積み上げられている。
 自衛隊員とともにトラックに泥まみれの家財道具を積んでいた業者は、除染で生じた汚染廃棄物を運搬する業者だった。「汚染廃棄物の運搬はいったん中断して、全ての業者がこちら(災害ごみの運搬)に従事しています」と業者。頼みの災害ボランティアも平日とあって30人に満たないほど。関西から応援に来ている社会福祉協議会の関係者は思わず「報道が少ないせいか長野などと比べると全然少ないです」とボヤいた。「そもそも、復旧作業がボランティア頼みなのがおかしい」との声もある。
 芳賀地域公民館では、依然として60人を超える市民が避難生活を送っている。ようやく段ボールベッドが用意され、プライバシー確保のためのカーテンも設置された。硬く冷たい床で横になる事は無くなったが、応援派遣されている県職員も「まだまだ決して良くなったとは言えません」とつぶやいた。日中は多くの人が仕事や自宅の片付けなどで留守にしているが、片隅で水門町の女性がカップラーメンをすすっていた。自宅は浸水してしまったため、アパートに入居するべく家族と下見をしているという。
 「私は投票に行こうと思うけど、選挙どころじゃ無いよね。まだ先も見えないし。でも、こういう時だからこそ、どういう人が選ばれるのか。そこには注目したいです」



(了)
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鈴木博喜

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