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【台風19号水害】「8・5水害はるかに上回った」。茶色く一変した街、道路陥没、浸水、阿武急運休。住民の苦悩「建て直すか、転居するか…」~福島県伊達市ルポ

台風19号による水害から間もなく20日。宮城県と隣接する福島県伊達市梁川町でも、依然として甚大な被害が続いている。生活の足となっている阿武隈急行(阿武急)は部分運休で再開の見通しが立たず、複数個所で道路は陥没。いまだに水分を含んだ茶色い土砂がアスファルトを覆っている。生活再建に追われている住民は「ここで建て直すか転居するべきか家族で意見が分かれる」と頭を抱えた。暫定的に阿武急の終点となっている富野駅から兜駅、猿跳岩までを徒歩で往復した。そこには、「8・5水害を軽々と上回った」水の勢いで一変した茶色い街並みが広がっていた。
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【「生きている間にまたあるかも…」】
 「この看板のはるか上まで阿武隈川から氾濫した水が来たんですよ。丸くコケが生えている辺りまで水に浸かりました。測定では浸水高は3メートル近かったそうです」
 阿武隈川を左手に見ながら県道104号線を歩き進むと、右側のコンクリート壁に「8・5水害」の浸水高を示す表示が掲示されている。近くに住む40代男性が、そのずっと上に生えている円形のコケを指差した。この辺りはなだらかな下りになっていて一番低い。足元では、いまだに茶色い泥がアスファルトを覆っていて滑って転びそうになる。
 「裏山から阿武急の鉄橋に登って逃げたんですよ」。8年前、結婚を機に妻の実家で暮らしている男性。12日の21時頃には県道が冠水し始め、沢の上流では土砂崩れも起きた。日付が変わる頃には一帯が完全に水没し、自宅1階も玄関から130センチほどの高さまで泥水に浸かった。一時的な住まいが確保出来たが、今後の住まいについては家族間で意見が分かれているという。
 「義父と妻はここで生まれ育った。義母と僕は違う土地からやって来た人間です。2人は当然、ここに思い入れがありますし、特に義父は今の家を建てた本人ですからね。ここでずっと暮らしたいでしょうけど、最近の気候変動を考えると…。保育園に通っている子どももいますしね。この辺りの人々はずっと『8・5水害以上の事は起きない』って言っていたんですよ。それが今回は軽々と大きく上回った。考え方を変えないといけないと思います。生きている間にもう1回起きるかもしれないですからね。僕個人としては、ここでまた暮らし続けるという選択肢は無いかな」
 しばらくすると、義父が自宅に戻ってきた。30代の時に「8・5水害」を経験し、1メートルかさ上げして新築した。外から見る限りでは水害に遭ったとは思えないほどきれいだが、自宅の前には孫のおもちゃや電化製品など泥だらけになった家財道具が「災害ごみ」として並べられている。当然、自身としてはこの土地に愛着があるが「息子は怖いと言っていてね」。この場所で再建するか新たな土地で再スタートするか。家族会議で決める事になる。

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①写真の真ん中辺りにある青い看板が「8・5水害」の浸水高。今回はそれを軽々と上回り、看板上方にある円形のコケの辺りにまで泥水に浸かったという=福島県伊達市梁川町舟生大越
②取材に応じた男性の自宅前には泥だらけの家財道具が積み上げられていた
③大越沢沿いの道路も泥だらけ。もはやアスファルトが見えないほど
④県道104号線沿いでは複数個所でがけ崩れが発生。道路標識も泥をかぶり原形をとどめていない

【「想像以上の水。まるで津波」】
 度重なる水害を受けて転居した事で難を逃れた人もいる。ぬかるんだ畑の様子を見に来た60代の男性はこう言った。
 「ここは元々、俺の家だったんだよ。先祖代々、ここで生活して来たんだ。でも『8・5水害』で45センチほど床上浸水して、かさ上げしたんだけど、また浸水した。それで最終的に富野駅の近くに引っ越したんだ。この辺りからは3軒くらいが引っ越したかな」
 畑の一角にある小屋は、阿武隈川から氾濫した水と裏山からの土石流で傾き、中は泥だらけ。外壁には水の高さを記録するように線状の跡が残っている。「確かに川の水面からは少し離れているし、高さもある。でも、それでもここまで浸水したんだ。考えられないよ」。30代後半で「8・5水害」を経験し、60代後半でそれを上回る水害。「今回は本当にすごいね。すごい。想像以上だ。津波だな」。
 畑ではネギやダイコン、ナガイモ、チンゲンサイなどを育てていたが、すっかり泥だらけになってしまった。「自宅は大丈夫だったから、少しずつやるしかないな」。小屋の天井には、水の高さを示すように、もみ殻や種の袋などがくっついていた。
 ここにきてようやく晴れの日が続いているものの、台風が去った後も雨が断続的に降り続き、復旧を遅らせた。農家の女性は「役所の人が田畑の様子を見に来るはずだったんだけど、また雨が降ってしまって先延ばしになっちゃった。このまま農業を続けられるのか分からないな」と話した。「気を付けてない」、「頑張ってない」という女性の言葉が、優しくもあり哀しかった。
 時折、防災無線を通して、災害ごみの回収や家屋内消毒に関する伊達市の放送が流れるが、作業ははかどっていない。県道104号線や枝道は至る所で陥没し、誤って落ちないように規制されている。アスファルトには多くの茶色い土砂が押し寄せたまま。土のうやブルーシートで応急措置した個所もある。道路標識も泥まみれ。ガードレールに巻き付いた草や倒れた外灯もそのままだ。1台だけ災害派遣中の自衛隊車両とすれ違ったが、人手が大幅に不足している実情が如実に表れていた。

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行き場を失った水はアスファルトをえぐり、川の両岸をつないでいた道もふさいだ。住民は「水の力は恐ろしい」とつぶやいた

【阿武急「再開には何年もかかるかも」】
 伊達市消防防災課によると、市内では幸いにも亡くなった市民はいなかった。行方不明者や重傷者もいないが、けがをした市民は12人。30日までに床上浸水587棟、床下浸水582棟を確認したという。「梁川寿健康センター」、「堰本地区交流館」、「保原中央交流館」の3カ所に引き続き避難所を開設。依然として計164人が身を寄せているという。
 阿武急の被害も深刻。本来は福島駅方面から富野駅を過ぎると9つの駅を経て槻木駅に着く。しかし、富野駅から2つ先の「あぶくま駅」が土砂で流失。複数個所で土砂崩れが起きているため富野駅~槻木駅間を運休している。10月21日からは、丸森駅、角田駅、槻木駅で乗り降りできる「救済バス」を午前6時台に3台、夕方にも3台走らせている。車掌によると、全線開通までの見通しは全く立っていないという。
 「あぶくま駅に至っては駅が完全に無くなってしまっている状態で、復旧のめどは立っていません。年内再開?年内なんてとんでもないです。何年も要するのではないかと聞きました。お客様には大変申し訳ないのですが…」
 それぞれの苦悩を抱えながら、茶色く変わってしまった街並みの中で、住民は3週間目を迎えようとしている。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
(メールは hirokix39@gmail.com まで)
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