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【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】木村真三さんが証人尋問。主尋問で「年20mSvで避難指示解除などとんでもない」「被曝量わずかでも健康影響ある」。反対尋問は来年3月

原発事故で帰還困難区域に指定された福島県双葉郡浪江町津島地区の住民たちが国や東電に原状回復と完全賠償を求めている「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第24回口頭弁論が11日午後、福島地裁郡山支部303号法廷(佐々木健二裁判長)で行われた。獨協医科大学准教授の木村真三さんが専門家証人として出廷。原告側代理人弁護士による主尋問で年20mSvを基準にした避難指示解除の問題点や、低線量被曝による健康影響の可能性などについて見解を述べた。次回期日は2020年1月16、17の両日。反対尋問は3月13日(第29回口頭弁論期日)に予定されている。
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【「年1mSvで避難解除するべき」】
 「福島では、ICRP(国際放射線防護委員会)の言う『緊急時被ばく状況』(年100mSv~年20mSv)の最も厳しい年20mSvを基準にして避難指示を出した、と安倍晋三首相は言っています。逆に避難指示解除、帰還については、ICRPは年1mSv~年20mSvの間で基準を設けるように定めています(『現存被ばく状況』)が、最も緩い年20mSvで『帰って来なさい』と言っています。安倍首相の言っている事はダブルスタンダード(二重基準)なのです。避難は厳しい数値で、帰還は緩い数値で指示しているのですから。一番厳しい数値で避難をさせたのなら、一番厳しい数値(年1mSv)で避難指示を解除するべきであると考えます。職業人は放射線業務に従事する事を生業としているのである程度の被曝はやむを得ないという考え方がありますが、今回の原発事故によって被曝した方々には何のメリットもありません。年20mSvを基準に被曝をしながら帰らされるというのは言語道断だと思います」
 政府が避難指示解除の判断基準とした「年間被曝線量20mSv」について、木村さんは厳しく批判した。
 「国は『年20mSv以下であれば安全だ』と考えているのでしょうけれど、私はとんでもない事だと考えています。わずかな被曝であってもわずかな影響は出てくるという事を積み重ねているのです。広島・長崎における放射線被爆の影響では100mSvを超える辺りからしか健康影響が見えてこないと言われていますが、見えていないだけであって、健康影響が無いわけではありません。分からないだけなのです。20mSvは100mSvの5分の1ですから、5分の1の健康影響が生じてもおかしくないと考えています」
 そもそも、国が依拠しているICRPの数値は合理的なのだろうか。
 「ICRP自身、非常に政治的なかかわりのある組織であり、それだけでは無いが、原子力産業を推進させる役割も担っていると思います。放射線防護のための公正中立な機関、科学的な知見だけを基にして人体への影響を最小限にするだけの機関であるという理解は正しくありません。定められている様々な基準は、科学的な判断に基づいた放射線防護の数値では無いと考えています。人体を守るためでは無くて「経済ありき」であると考えています」

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証人尋問に臨んだ木村真三さん。「「2011年3月12日から15日の間に、いったいどのような初期被曝があったかが全く分かっていないのに『安全だ』、『大丈夫だ』と言っている事自体が非科学的」などと述べた。反対尋問は3月に予定されている

【辞表出し福島へ、津島でも80μSv/h超】
 「私が2011年3月28日に調査をした汚染土壌や松葉などのデータが、恐らく公に認められた最初のものだと思います」
 原発事故後の木村さんがまずぶつかったのが、厚労省の厚い壁だった。
 「2011年3月11日の時点では、私は、厚労省が所管する独立行政法人「労働安全衛生総合研究所」に勤めていました。労働者の被曝問題の専門家として、医療従事者(医師、看護師、診療放射線技師)の被曝管理・低減を研究テーマにしていました。JCOの臨界事故(1999年9月、茨城県東海村)で初動の大切さを学んだので、自分なりに有事の際に出来る事を考えていました。すぐに研究所に駆け付けて福島に向かう準備を始めました。初動、住民対応が何よりも重要だからです。様々な調査が重要なデータとなるからです。指示を出して欲しい、陣頭指揮をさせて欲しいと厚労省にメールをしました。しかし、本省から返信はありませんでした。残念ながら、すぐに原発事故の現場に行けという指示は無かったのです」
 臨界事故から83日目に亡くなった男性社員(享年35)の遺体を引き取りに行ったのが木村さんだった。今回こそ初動を遅らせたくない、初期被曝のデータをきちんと集めたい。しかし、厚労省は木村さんに「待った」をかけた。
 「その代わりに、研究所から『本省や研究所からの指示があるまでは余計な事は一切しないように、勝手な行動は慎むように』というメールが、全研究所員宛てに送られてきました。当時の民主党政権下で、研究所が『事業仕分け』の対象になっていました。それだけに、私の勝手な行動で研究所が潰されてはいけないとも思い、辞表を提出しました。夜中にインターネットで辞表の書き方を調べた事を覚えています」
 NHKの協力を得て3月15日に福島入り。翌16日には津島地区にある「昼曽根トンネル」前で高線量を確認した。双葉町山田地区では、持参した300μSv/hまで測れる線量計の針が振り切れたという。
 「津島地区の赤宇木に行ったのが3月28日です。旧津島第二小学校で80μSv/hを上回っていました。この測定結果をもって原発事故直後の被曝線量を推計する事は難しいが、3月15日はもっと高かったに違いないと考えられます」

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原告の1人、佐々木茂さんは口頭弁論のたびに郡山駅前でマイクを握る。なぜ自分たちが裁判で争っているのか、故郷を奪われた哀しみや怒りがどれほど深く大きいかを道行く人々に訴える

【「分からないから『疑わしきは罰せ』」】
 木村さんの測定とて、原発事故から2週間も経過してしまっている。「津島地区の皆さんが原発事故でどの程度の被曝をしたか。事故直後の汚染や被曝を正確に推計する事は出来ないと思います」。しかし、原発事故による健康被害は否定され、帰還政策が続いている。帰還困難区域の津島地区でもごく一部での除染が始まった。
 「単に住宅地を除染して空間線量を下げたからといって帰れるという事にはならないと思います。津島の方々は山の中で山菜やキノコを採りながら生活をしてきました。住宅を除染しても、自然の中での生活は取り戻せません。山への立ち入りを禁じるような仕切りは無いのですから、仮に戻ったら再び山に入って汚染されたものを食べてしまったり、無益な被曝をしてしまったりする事になります。外部被曝だけでなく、内部被曝も考えなければいけないのです」
 福島県が原発事故後に続けている「県民健康調査」(甲状腺超音波検査)。原告側代理人弁護士から「証人は、福島県内で見つかった小児甲状腺ガンは原発事故とは関連性が無いと考えているのか?」と問われ、「いえ、とんでもないです」と強く否定した。
 「甲状腺検査は2011年10月に始まりましたが、1巡目の甲状腺検査で116人の『悪性ないし悪性疑い』が見つかりました。2年後に、それらの人々を除いた人たちから、2巡目の検査で新たに71人の『悪性ないし悪性疑い』が見つかったのです。そのうち、甲状腺ガンと確定したのが56人。原発事故の影響は肯定も出来ないし否定も出来ない、というのが正直なところだと思います」
 被曝による健康影響を肯定も否定も出来ないのであれば、影響はあると考えて対応するべきだ─。木村さんの考えは一貫している。最後に「裁判官の方々にぜひ考えて頂きたい」として次のように述べた。
 「2011年3月12日から15日の間に、いったいどのような初期被曝があったかが全く分かっていないのに、『安全だ』、『大丈夫だ』と言っている事自体が非科学的です。分からないのであれば『疑わしきは罰せ』です。私が以前、管理していた『労災認定』では、『疑わしきは罰せ』という概念でやっていました。1年以上作業をし、12mSvを超える被曝をした作業員の中でもし白血病患者が見つかったら放射線由来だとする労災認定基準があるんです。労災だけでなく、津島の方々、それ以外の方々にも福島県以外も含めて、多くの被曝をした方々に対して『疑わしきは罰せ』という考え方を適用するべきだと強く訴えたいです」



(了)
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鈴木博喜

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