【台風19号水害】〝待機組〟は1000世帯超、進まぬ「民間借上げ住宅制度」の手続き。そもそも門戸狭く、ハードル高い冷たい制度。市町村職員も疑問視
- 2019/11/26
- 00:26
未曽有の「10・12水害」から6週間超。被災県民のために福島県が支援策として用意した「民間借上げ住宅制度」で、審査手続きを待っている被災者が1000世帯を上回っている事が分かった。物件が見つかっていても、審査が進まない事には入居出来ない。県は「罹災証明書交付の遅れも挽回しているし、必ずしも1000世帯全てが利用するわけでは無い」と話すが、受付開始後の自己契約は対象外とするなど制度そのものの問題点も表面化。2万件を超す罹災証明書を交付するような大規模災害下で県が県民をどのように救済するか。改めて姿勢が問われそうだ。

【手続き終了まで入居出来ぬ「原則」】
福島県借上げ住宅チームのまとめでは、今月22日現在、県全体で1518件の申請(事前相談を含む)を受け付けているものの、審査が終わり、適用決定に至ったのは411件にとどまっているという。県が把握している市町村別の受付数は、いわき市が最も多く1090件。次いで郡山市232件、本宮市137件、伊達市29件の順になっているが、依然として1000世帯を上回る被災者が手続きを待っている状態だ。正式な申請には罹災証明書が必須で、発行の遅れが手続きが滞っている最大の理由だという。
福島県借上げ住宅チームの担当者は「数字上は確かに1518件だが、受け付けた被災者全員が最終的にこの制度を利用するわけではありません。それに、遅れていた罹災証明の交付数もここにきて伸びてきています(21日現在で県全体の交付率は70・4%、最も低い郡山市で58・7%)。県としても、罹災証明書の交付を早めるために市町村に応援職員を派遣するなど努力してきました。ここにきてようやく効果を上げてきています。12月に入る頃には、待機している被災者も減るのではないでしょうか」と話す。
しかし、待っている被災者にとってはこの制度は優しくない。正式に申請して審査が通り、福島県、市町村、被災者、貸主(大家や不動産業者)との間での四者契約が結ばれた後でないと、希望する物件に入居出来ない「原則」があるのだ。審査を待つ被災者は被災後、きちんと仮住まいを確保出来ているのか。避難所に身を寄せているのか親類の家に避難しているのかなど、県も市町村も物理的に把握する事など不可能。多くの被災者がアパートへなど民間賃貸住宅への入居を待っている事には変わりない。気温が日に日に下がる中、制度適用の決定を待つ被災者の住まいはどうなるのか。福島県の担当者は続けた。
「これは、あくまで貸主側の考え方次第ですし被災者と貸主との話し合いが必要ですが、借上げ制度の正式契約前でも該当物件に入居させてもらえるなど柔軟な対応をしてもらえる可能性はあると思います。基本的には罹災証明書が交付され、制度適用の決定がなされないと貸主も対応しにくいかもしれませんが…」
そもそも、この制度の適用を受けるまでにはいくつもの〝壁〟が存在するのだ。

水害で自宅が激しく損壊した被災者にとって、福島県の「民間借上げ住宅制度」は貴重な支援策の1つ。しかし、実際には門戸は狭く、ハードルも高い。決して「優しい支援策」にはなっていない
【「畳全滅」でもあり得る「対象外」】
この制度は、台風第19号で住まいが全壊などの被害を受けた被災者に対し、県が家賃を〝肩代わり〟する形で民間賃貸住宅を応急仮設住宅として借り上げて無償で提供する。家賃が無償になるのは原則として1年間。
①住居の全壊、全焼又は流出により居住する住宅がない②半壊(大規模半壊含む)であっても、水害により流入した土砂や流木等により住宅としての利用ができず、自らの住居に居住できない③自らの資力をもってしては、住居を確保することができない④災害救助法に基づく住宅応急修理制度を利用していない─などの要件を満たせば、県が月額6万円(5人以上の家族いがいる世帯では9万円)を上限に家賃を負担する。福島県外の民間賃貸住宅は対象とならない。
被災者に当面の住まいを確保してもらい、1年をめどに住まいを「再建」してもらうのが狙いだが、そもそも「半壊」以上の認定を受けられないと制度を利用出来ない。
福島県によると、21日現在の罹災証明書交付件数は2万2145件。このうち「半壊」が最も多く49・6%だが、次に多いのが「一部損壊」で26・6%。そして「大規模半壊」15.7%、「全壊」7・7%と続く。つまり、水害で住まいが浸水・損壊被害を受けた被災者の4分の1が対象から外れてしまう事になる。
しかも、罹災証明にあたっての1次調査はあくまで「外観調査」であるため、住宅の外から浸水高を推計する。その結果、浸水高が「床上1・8メートル以上」で「全壊」、「床上1メートル以上、1・8メートル未満」で「大規模半壊」、「床上1メートル未満」だと「半壊」として分類される(床下浸水は「一部損壊」)。外観調査での「浸水高主義」であるため、実際には室内の畳が泥まみれでとても生活出来る状態で無いとしても「半壊」として認定されるとは限らないという。福島県罹災証明交付支援チームの担当者は次のように説明する。
「外観調査なので、必ずしも床上まで浸水していると確認出来るとは限らないので、実際に室内の畳などが浸水していたとしても1次調査では判定されない可能性はあります。床上まで浸水している事が『半壊』の条件ですから、被災者の方が抱くイメージと実際の判定が乖離する事はあると思います」
被災地が広範囲で被災棟数が多いため、住民と日時の調整をして詳細に調査をしてては、ますます罹災証明書の交付に時間がかかる。その結果、外観からの〝スピード判定〟で「半壊」以上の認定を得られずに「民間借上げ住宅」の利用対象から漏れてしまう被災者がいるとすれば、まさに本末転倒だ。

水害被災者が福島県の「民間借上げ住宅制度」を利用するには、まず県(実際の事務手続きは各市町村)にお伺いを立てる必要がある。その上で罹災証明書を添えて正式に申し込み、県、市町村、貸主との「四者契約」が完了した後でないと入居出来ない。しかも、受付開始後に自力で貸主と契約した被災者は対象外。果たして「被災者ファースト」の制度なのだろうか
【救済されぬ受付開始後の自己契約】
制度の問題点はまだある。
10月下旬から各市町村で受付が始まったが、受付開始前に被災者が自力で物件を探して契約まで済ませた場合には遡って制度の対象となるが、受付開始後に自己契約した場合には「自らの資力をもって住居を確保することができた」とみなされて、制度を利用出来ないのだ。
この点について、福島県借上げ住宅チームの担当者は、「市町村が窓口を開設するまでの間は借上げ住宅を利用したくても出来なかったという状況になるので、窓口開設の前日までにやむを得ず自己契約したものに関しては救済させていただくしかないのかなという判断です」と説明する。福島県が10月23日に発表した「令和元年台風第19号に伴う災害に係る福島県借上げ住宅実施要綱」第9条3項に次のような一文があり、これが根拠となっているという。
「令和元年10月12日以降、本実施要綱施行後、市町村において受付を開始する時までの間に、第3条の入居対象者が、既に別途契約して民間賃貸住宅に入居している場合においても、第4条及び第5条の要件を満たす場合には、本事業の適用にあたり個別協議とする」
担当者は「情報はオープンにしていますし、不動産屋さんもわかっていると思います」と話すが、受付開始後の自己契約を対象に含めない理由を質すと歯切れが悪くなった。「県の方でそういう考え方に立ったという事でして…。確かにご意見としては分かりますが、なかなか変更するというのも難しくて…」。弱者に冷たい内堀県政の一端が垣間見える。
被災者と実際に接している市町村の担当者も筆者と同じ疑問を抱いている。ある自治体の担当者が明かした。
「実は、受け付け開始後の自己契約も対象に含めるよう県に相談や要望をしましたが、県の答えは『NO』でした。実際に受付開始後に自分で契約まで済ませてしまった被災者はいるんです。住まいが見つからない、親類の家にいつまでも身を寄せられないとやむにやまれず自力で契約した被災者は実際にいるんです。でも、そういう方々は支援からこぼれてしまうんです」
政党「れいわ新選組」の山本太郎代表は今月16日、郡山駅前で行った街頭演説後の囲み取材で、水害被災者に対する国や福島県の対応を「お粗末」と表現した。「民間借上げ住宅制度」も、お粗末な被災者支援の1つのようだ。
(了)

【手続き終了まで入居出来ぬ「原則」】
福島県借上げ住宅チームのまとめでは、今月22日現在、県全体で1518件の申請(事前相談を含む)を受け付けているものの、審査が終わり、適用決定に至ったのは411件にとどまっているという。県が把握している市町村別の受付数は、いわき市が最も多く1090件。次いで郡山市232件、本宮市137件、伊達市29件の順になっているが、依然として1000世帯を上回る被災者が手続きを待っている状態だ。正式な申請には罹災証明書が必須で、発行の遅れが手続きが滞っている最大の理由だという。
福島県借上げ住宅チームの担当者は「数字上は確かに1518件だが、受け付けた被災者全員が最終的にこの制度を利用するわけではありません。それに、遅れていた罹災証明の交付数もここにきて伸びてきています(21日現在で県全体の交付率は70・4%、最も低い郡山市で58・7%)。県としても、罹災証明書の交付を早めるために市町村に応援職員を派遣するなど努力してきました。ここにきてようやく効果を上げてきています。12月に入る頃には、待機している被災者も減るのではないでしょうか」と話す。
しかし、待っている被災者にとってはこの制度は優しくない。正式に申請して審査が通り、福島県、市町村、被災者、貸主(大家や不動産業者)との間での四者契約が結ばれた後でないと、希望する物件に入居出来ない「原則」があるのだ。審査を待つ被災者は被災後、きちんと仮住まいを確保出来ているのか。避難所に身を寄せているのか親類の家に避難しているのかなど、県も市町村も物理的に把握する事など不可能。多くの被災者がアパートへなど民間賃貸住宅への入居を待っている事には変わりない。気温が日に日に下がる中、制度適用の決定を待つ被災者の住まいはどうなるのか。福島県の担当者は続けた。
「これは、あくまで貸主側の考え方次第ですし被災者と貸主との話し合いが必要ですが、借上げ制度の正式契約前でも該当物件に入居させてもらえるなど柔軟な対応をしてもらえる可能性はあると思います。基本的には罹災証明書が交付され、制度適用の決定がなされないと貸主も対応しにくいかもしれませんが…」
そもそも、この制度の適用を受けるまでにはいくつもの〝壁〟が存在するのだ。

水害で自宅が激しく損壊した被災者にとって、福島県の「民間借上げ住宅制度」は貴重な支援策の1つ。しかし、実際には門戸は狭く、ハードルも高い。決して「優しい支援策」にはなっていない
【「畳全滅」でもあり得る「対象外」】
この制度は、台風第19号で住まいが全壊などの被害を受けた被災者に対し、県が家賃を〝肩代わり〟する形で民間賃貸住宅を応急仮設住宅として借り上げて無償で提供する。家賃が無償になるのは原則として1年間。
①住居の全壊、全焼又は流出により居住する住宅がない②半壊(大規模半壊含む)であっても、水害により流入した土砂や流木等により住宅としての利用ができず、自らの住居に居住できない③自らの資力をもってしては、住居を確保することができない④災害救助法に基づく住宅応急修理制度を利用していない─などの要件を満たせば、県が月額6万円(5人以上の家族いがいる世帯では9万円)を上限に家賃を負担する。福島県外の民間賃貸住宅は対象とならない。
被災者に当面の住まいを確保してもらい、1年をめどに住まいを「再建」してもらうのが狙いだが、そもそも「半壊」以上の認定を受けられないと制度を利用出来ない。
福島県によると、21日現在の罹災証明書交付件数は2万2145件。このうち「半壊」が最も多く49・6%だが、次に多いのが「一部損壊」で26・6%。そして「大規模半壊」15.7%、「全壊」7・7%と続く。つまり、水害で住まいが浸水・損壊被害を受けた被災者の4分の1が対象から外れてしまう事になる。
しかも、罹災証明にあたっての1次調査はあくまで「外観調査」であるため、住宅の外から浸水高を推計する。その結果、浸水高が「床上1・8メートル以上」で「全壊」、「床上1メートル以上、1・8メートル未満」で「大規模半壊」、「床上1メートル未満」だと「半壊」として分類される(床下浸水は「一部損壊」)。外観調査での「浸水高主義」であるため、実際には室内の畳が泥まみれでとても生活出来る状態で無いとしても「半壊」として認定されるとは限らないという。福島県罹災証明交付支援チームの担当者は次のように説明する。
「外観調査なので、必ずしも床上まで浸水していると確認出来るとは限らないので、実際に室内の畳などが浸水していたとしても1次調査では判定されない可能性はあります。床上まで浸水している事が『半壊』の条件ですから、被災者の方が抱くイメージと実際の判定が乖離する事はあると思います」
被災地が広範囲で被災棟数が多いため、住民と日時の調整をして詳細に調査をしてては、ますます罹災証明書の交付に時間がかかる。その結果、外観からの〝スピード判定〟で「半壊」以上の認定を得られずに「民間借上げ住宅」の利用対象から漏れてしまう被災者がいるとすれば、まさに本末転倒だ。

水害被災者が福島県の「民間借上げ住宅制度」を利用するには、まず県(実際の事務手続きは各市町村)にお伺いを立てる必要がある。その上で罹災証明書を添えて正式に申し込み、県、市町村、貸主との「四者契約」が完了した後でないと入居出来ない。しかも、受付開始後に自力で貸主と契約した被災者は対象外。果たして「被災者ファースト」の制度なのだろうか
【救済されぬ受付開始後の自己契約】
制度の問題点はまだある。
10月下旬から各市町村で受付が始まったが、受付開始前に被災者が自力で物件を探して契約まで済ませた場合には遡って制度の対象となるが、受付開始後に自己契約した場合には「自らの資力をもって住居を確保することができた」とみなされて、制度を利用出来ないのだ。
この点について、福島県借上げ住宅チームの担当者は、「市町村が窓口を開設するまでの間は借上げ住宅を利用したくても出来なかったという状況になるので、窓口開設の前日までにやむを得ず自己契約したものに関しては救済させていただくしかないのかなという判断です」と説明する。福島県が10月23日に発表した「令和元年台風第19号に伴う災害に係る福島県借上げ住宅実施要綱」第9条3項に次のような一文があり、これが根拠となっているという。
「令和元年10月12日以降、本実施要綱施行後、市町村において受付を開始する時までの間に、第3条の入居対象者が、既に別途契約して民間賃貸住宅に入居している場合においても、第4条及び第5条の要件を満たす場合には、本事業の適用にあたり個別協議とする」
担当者は「情報はオープンにしていますし、不動産屋さんもわかっていると思います」と話すが、受付開始後の自己契約を対象に含めない理由を質すと歯切れが悪くなった。「県の方でそういう考え方に立ったという事でして…。確かにご意見としては分かりますが、なかなか変更するというのも難しくて…」。弱者に冷たい内堀県政の一端が垣間見える。
被災者と実際に接している市町村の担当者も筆者と同じ疑問を抱いている。ある自治体の担当者が明かした。
「実は、受け付け開始後の自己契約も対象に含めるよう県に相談や要望をしましたが、県の答えは『NO』でした。実際に受付開始後に自分で契約まで済ませてしまった被災者はいるんです。住まいが見つからない、親類の家にいつまでも身を寄せられないとやむにやまれず自力で契約した被災者は実際にいるんです。でも、そういう方々は支援からこぼれてしまうんです」
政党「れいわ新選組」の山本太郎代表は今月16日、郡山駅前で行った街頭演説後の囲み取材で、水害被災者に対する国や福島県の対応を「お粗末」と表現した。「民間借上げ住宅制度」も、お粗末な被災者支援の1つのようだ。
(了)
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