【原発事故と避難の権利】「新たな分断持ち込むな!」〝自主避難〟全否定した被告国の暴論に「群馬訴訟」原告らが怒りの抗議声明
- 2019/12/03
- 07:45
原発事故で群馬県内に避難した人々が国や東電と争っている「群馬訴訟」の控訴審(東京高裁)の原告が、改めて怒りの声をあげた。国が今年9月の口頭弁論期日で「(福島に暮らしている)住民の心情を害する」、「国土に対する不当な評価となる」などと避難指示区域外からの避難(いわゆる〝自主避難〟)を全否定する主張を準備書面で陳述した問題に関し、2日夕の記者会見で抗議声明を公表。怒りをこめて撤回を求めた。会見には、福島県内に暮らしながら裁判を続けている「生業訴訟」の中島孝原告団長も同席。在住者の立場から「避難の有無で分断するな」と声をあげた。

【「〝自主避難〟責める仲間いない」】
「ひと言だけ、すみません」
約1時間にわたって開かれた記者会見が終わろうとした時、「群馬訴訟」原告の1人、丹治杉江さん(福島県いわき市から群馬県前橋市に避難継続中)が心情を吐露した。
「避難元のいわき市の仲間たちは、私が避難した事を決して責めたりしません。逆に、群馬で暮らす事を応援してくれる人がたくさんいます。それなのに、国がこんな事を裁判という公の場で主張した事に憤りを感じています。群馬訴訟の原告たちはなかなか顔を出して主張する事が出来ないのですが、悔しさを抱えています」
「私が前橋地裁での一審判決で得た賠償金は18万円です。それでも『たくさんの賠償金をもらったんだろ?』という言葉を常に浴びます。こうして裁判を続けていると『まだ金が欲しいのか?』と言われます。顔と名前を公表して闘うのは本当につらいんです。もうやめてしまいたいです。原発事故から8年9カ月が経ちました。本当につらいです。いわき市の自宅を手放し、夫と2人で群馬県に〝自主避難〟をし、仲間たちと裁判を起こしました。私たちは、とても言葉では言い表せないくらい、つらい想いをたくさんしました」
そもそも、なぜ原発事故の被害者が司法の場で闘わなければ救済されないのか。なぜ正当な救済を求めているだけなのに周囲から責められなければならないのか。挙げ句、なぜ〝加害当事者〟である国に分断を加速させるような主張をされなければならないのか。丹治さんはこみ上げるものを押し殺すように、次のように言葉をつないだ。
「でもね、今回の国の主張を読んで、絶対に負けるわけにはいかない、黙るわけにはいかない。この裁判に負けてしまったら未来の子どもたちに申し訳が立たない。そして〝自主避難〟して声をあげられない仲間たちのためにも頑張らなければならないという想いに改めてなりました。8年9カ月間、原発事故で苦しんでいるのは〝自主避難者〟も避難指示区域内避難者も、避難をせずに福島県内で暮らしている人々も同じです。国や東電はきちんと事故の責任を取っていただきたい。時期や区域で一方的に線引きしないでいただきたい。そういう想いでいっぱいなんです」

記者会見で抗議声明を発表した丹治杉江さん(右)。左は「生業訴訟」の馬奈木厳太郎弁護士=福島県庁内の県政記者クラブ
【「心情害されたと思ってない」】
問題となっているのは、今年9月17日の第7回口頭弁論期日で被告国が陳述した第8準備書面。〝自主避難者〟について次のように厳しい表現で否定している。
「自主的避難等対象区域からの避難者について(中略)平成24年1月以降について避難継続の相当性を肯定し、損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当(中略)低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルのものではないにもかかわらず、平成24年1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない」
抗議声明で、丹治さんたちは「(福島県外への避難を選択しなかった)在住者の中で、あからさまに避難した者の選択を否定し、非難する人は決して多くはありません。多くの人たちは、避難した者の選択を尊重し、時に支援してくれています。さらには、在住者の中にも、自身や家族の放射線被ばくを危惧し、事故から8年以上たった今でも自分も避難すべきではないかとの葛藤を抱えている者も少なくないのが実情です」と反論。
「避難それ自体が『居住する住民の心情を害する』などときめつけることは、在住者の実情とも合致していません。他方、訴訟を提起した人は、避難せずに在住を継続した住民について、その選択の是非を問うものではなく、むしろ在住する選択もまた尊重されるべきであると主張するものです」などとして、撤回や裁判所の公正な判断を求めている。
会見に同席した中島孝さん(「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」原告団長、福島県相馬市)は「私は心情を害されたなんて全然思っていません。だって私だって息子を逃がそう、自分も逃げようと考えたわけですから。ただ、経営する鮮魚店を背負って逃げるわけにもいかなかった。それに、そんな事を言われると、われわれ福島県内に住んでいる者が避難者を追いこんでいるかのようになってしまう。そんな事思っていませんよ。心底、避難している人は大変だなあと考えているのですから。結局は、避難者と在住者とを分断させて、原発事故の問題をうやむやにしてしまう企みがあるのではないか、と思います。国も東電も、いまだ続いている被害に向き合う方向に転じて欲しい」と訴えた。

丹治さんたちが公表した抗議声明。「避難それ自体が『居住する住民の心情を害する』などときめつけることは、在住者の実情とも合致していません」などと撤回を求めている
【「中通りの人も声をあげている」】
「いわゆる〝自主避難者〟が裁判で賠償を求める事が、中通りなど『自主的避難等対象区域』に住んでいる方々の心情を害する事になるんだ、と国は言っている。ここには、中通りなどの人々はもう、静かにおとなしくしている、被害に対して声などあげていないという考え方が前提にあるはずです」
会見に同席した「生業訴訟」の馬奈木厳太郎弁護士も、国の主張を厳しく批判した。
「『生業訴訟』は4500人ほどの原告がいますが、避難者は600人です。福島県内に暮らしている人がかなりの割合を占めています。つまり、声をあげている人がたくさんいるのです。それなのに、国は声をあげていないと勝手に決めつけ、新たな分断を持ち込もうとしている。なぜそんな事をするのか。福島県内に暮らしている人が、もはやあきらめておとなしくしているというのは事実に反します。とんでもないです」
「『20mSv/年受忍論』に基づいて国は線引きをし、一方的に被害や賠償期間などを決めてきました。分断を乗り越えるために私たちは避難した人も福島県内に暮らす人も一緒に原告となって闘っていますが、今回の国の主張は決して他人事ではありません。いやむしろ、私たちこそが声をあげなければいけないと考えています。群馬だけの問題ではありません。全く事実に反するし、『書き過ぎ』以上のレベル。福島県内に暮らしている一人一人が、『あなたは国の主張に共感するのですか?』と問われているのだと思います」
〝復興五輪〟と称される東京五輪を来夏に控え、特に避難指示が出されなかった区域から避難している〝自主避難者〟の切り捨ては加速。住宅無償提供打ち切りや国家公務員宿舎からの追い出しに関する交渉の場でも、福島県の担当者は露骨に「避難した人の方が少ない」、「除染も終わり、中通りなどでは多くの人が普通に暮らしている」と口にして、〝自主避難〟の継続を否定してきた。
「群馬訴訟」の弁護団は11月5日の第8回口頭弁論期日で、国の主張を「看過できない暴論」として次のように反論した。
「滞在者と避難者の分断をはかるものであり、受けいれることは到底できません」
「『国土の汚染』をおこしたのはまさに国であり、その責任は国にあります。今回の主張は責任転嫁もはなはだしいことです」
「裁判所におかれては、このようなひらきなおりとも言うべき暴論にまどわされることなく、避難を余儀なくされた被災者の選択の合理性と損害の発生を明確に認めていただきたい」
(了)

【「〝自主避難〟責める仲間いない」】
「ひと言だけ、すみません」
約1時間にわたって開かれた記者会見が終わろうとした時、「群馬訴訟」原告の1人、丹治杉江さん(福島県いわき市から群馬県前橋市に避難継続中)が心情を吐露した。
「避難元のいわき市の仲間たちは、私が避難した事を決して責めたりしません。逆に、群馬で暮らす事を応援してくれる人がたくさんいます。それなのに、国がこんな事を裁判という公の場で主張した事に憤りを感じています。群馬訴訟の原告たちはなかなか顔を出して主張する事が出来ないのですが、悔しさを抱えています」
「私が前橋地裁での一審判決で得た賠償金は18万円です。それでも『たくさんの賠償金をもらったんだろ?』という言葉を常に浴びます。こうして裁判を続けていると『まだ金が欲しいのか?』と言われます。顔と名前を公表して闘うのは本当につらいんです。もうやめてしまいたいです。原発事故から8年9カ月が経ちました。本当につらいです。いわき市の自宅を手放し、夫と2人で群馬県に〝自主避難〟をし、仲間たちと裁判を起こしました。私たちは、とても言葉では言い表せないくらい、つらい想いをたくさんしました」
そもそも、なぜ原発事故の被害者が司法の場で闘わなければ救済されないのか。なぜ正当な救済を求めているだけなのに周囲から責められなければならないのか。挙げ句、なぜ〝加害当事者〟である国に分断を加速させるような主張をされなければならないのか。丹治さんはこみ上げるものを押し殺すように、次のように言葉をつないだ。
「でもね、今回の国の主張を読んで、絶対に負けるわけにはいかない、黙るわけにはいかない。この裁判に負けてしまったら未来の子どもたちに申し訳が立たない。そして〝自主避難〟して声をあげられない仲間たちのためにも頑張らなければならないという想いに改めてなりました。8年9カ月間、原発事故で苦しんでいるのは〝自主避難者〟も避難指示区域内避難者も、避難をせずに福島県内で暮らしている人々も同じです。国や東電はきちんと事故の責任を取っていただきたい。時期や区域で一方的に線引きしないでいただきたい。そういう想いでいっぱいなんです」

記者会見で抗議声明を発表した丹治杉江さん(右)。左は「生業訴訟」の馬奈木厳太郎弁護士=福島県庁内の県政記者クラブ
【「心情害されたと思ってない」】
問題となっているのは、今年9月17日の第7回口頭弁論期日で被告国が陳述した第8準備書面。〝自主避難者〟について次のように厳しい表現で否定している。
「自主的避難等対象区域からの避難者について(中略)平成24年1月以降について避難継続の相当性を肯定し、損害の発生を認めることは、自主的避難等対象区域での居住を継続した大多数の住民の存在という事実に照らして不当(中略)低線量被ばくは放射線による健康被害が懸念されるレベルのものではないにもかかわらず、平成24年1月以降の時期において居住に適さない危険な区域であるというに等しく、自主的避難等対象区域に居住する住民の心情を害し、ひいては我が国の国土に対する不当な評価となるものであって、容認できない」
抗議声明で、丹治さんたちは「(福島県外への避難を選択しなかった)在住者の中で、あからさまに避難した者の選択を否定し、非難する人は決して多くはありません。多くの人たちは、避難した者の選択を尊重し、時に支援してくれています。さらには、在住者の中にも、自身や家族の放射線被ばくを危惧し、事故から8年以上たった今でも自分も避難すべきではないかとの葛藤を抱えている者も少なくないのが実情です」と反論。
「避難それ自体が『居住する住民の心情を害する』などときめつけることは、在住者の実情とも合致していません。他方、訴訟を提起した人は、避難せずに在住を継続した住民について、その選択の是非を問うものではなく、むしろ在住する選択もまた尊重されるべきであると主張するものです」などとして、撤回や裁判所の公正な判断を求めている。
会見に同席した中島孝さん(「『生業を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟」原告団長、福島県相馬市)は「私は心情を害されたなんて全然思っていません。だって私だって息子を逃がそう、自分も逃げようと考えたわけですから。ただ、経営する鮮魚店を背負って逃げるわけにもいかなかった。それに、そんな事を言われると、われわれ福島県内に住んでいる者が避難者を追いこんでいるかのようになってしまう。そんな事思っていませんよ。心底、避難している人は大変だなあと考えているのですから。結局は、避難者と在住者とを分断させて、原発事故の問題をうやむやにしてしまう企みがあるのではないか、と思います。国も東電も、いまだ続いている被害に向き合う方向に転じて欲しい」と訴えた。

丹治さんたちが公表した抗議声明。「避難それ自体が『居住する住民の心情を害する』などときめつけることは、在住者の実情とも合致していません」などと撤回を求めている
【「中通りの人も声をあげている」】
「いわゆる〝自主避難者〟が裁判で賠償を求める事が、中通りなど『自主的避難等対象区域』に住んでいる方々の心情を害する事になるんだ、と国は言っている。ここには、中通りなどの人々はもう、静かにおとなしくしている、被害に対して声などあげていないという考え方が前提にあるはずです」
会見に同席した「生業訴訟」の馬奈木厳太郎弁護士も、国の主張を厳しく批判した。
「『生業訴訟』は4500人ほどの原告がいますが、避難者は600人です。福島県内に暮らしている人がかなりの割合を占めています。つまり、声をあげている人がたくさんいるのです。それなのに、国は声をあげていないと勝手に決めつけ、新たな分断を持ち込もうとしている。なぜそんな事をするのか。福島県内に暮らしている人が、もはやあきらめておとなしくしているというのは事実に反します。とんでもないです」
「『20mSv/年受忍論』に基づいて国は線引きをし、一方的に被害や賠償期間などを決めてきました。分断を乗り越えるために私たちは避難した人も福島県内に暮らす人も一緒に原告となって闘っていますが、今回の国の主張は決して他人事ではありません。いやむしろ、私たちこそが声をあげなければいけないと考えています。群馬だけの問題ではありません。全く事実に反するし、『書き過ぎ』以上のレベル。福島県内に暮らしている一人一人が、『あなたは国の主張に共感するのですか?』と問われているのだと思います」
〝復興五輪〟と称される東京五輪を来夏に控え、特に避難指示が出されなかった区域から避難している〝自主避難者〟の切り捨ては加速。住宅無償提供打ち切りや国家公務員宿舎からの追い出しに関する交渉の場でも、福島県の担当者は露骨に「避難した人の方が少ない」、「除染も終わり、中通りなどでは多くの人が普通に暮らしている」と口にして、〝自主避難〟の継続を否定してきた。
「群馬訴訟」の弁護団は11月5日の第8回口頭弁論期日で、国の主張を「看過できない暴論」として次のように反論した。
「滞在者と避難者の分断をはかるものであり、受けいれることは到底できません」
「『国土の汚染』をおこしたのはまさに国であり、その責任は国にあります。今回の主張は責任転嫁もはなはだしいことです」
「裁判所におかれては、このようなひらきなおりとも言うべき暴論にまどわされることなく、避難を余儀なくされた被災者の選択の合理性と損害の発生を明確に認めていただきたい」
(了)
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