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【イノベーション・コースト構想】乗ってみたらガラガラだった! 原発事故後の中通りと浜通りを結ぶ実証バスが運行終了。利用者〝ほぼゼロ〟も機構は「一定の成果得られた」

原発事故後の福島県・浜通りを復興させようと内堀雅雄知事も目玉施策に据えている「福島イノベーション・コースト構想」。中通りとの交通アクセスを改善させ交流人口の増加につなげようと今年3月から郡山市と富岡町の間で運行されていた実証バスが先月22日で終了した。関係者は「計画通りで打ち切りでは無い」、「一定の成果得られた」と説明するが、乗客はひとケタ続きでゼロの日も。筆者が実際に乗車した最終日もガラガラだった。〝車社会〟の福島。県議からは「見通しが甘い。本当に必要な実証事業だったのか」との厳しい声も出ている。
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【最終日初便の乗客は3人】
 バス乗り場は郡山駅西口のバスターミナルのはずだった。実証バス最終日となった11月22日。しかし、ターミナルには実証バスに関する表示は何も無い。心配になって案内所で確認すると「4番乗り場で間違いないですよ。今日で最後ですけどね」。本当にバスに乗れるのか不安を抱きながら待っていると確かにバスは来た。厳しい寒さで身体はすっかり冷え切っていた。実証バスに乗り込んだのは筆者も含めて3人だった。
 午前7時35分に郡山駅を出発したバスは、8時25分に田村郡三春町の「福島県環境創造センター」研究棟前のバス停に着いた。ここで働く男性が1人、バスを降りる。これまで通勤の足として利用していたという。乗車する人はいなかった。
 磐越道で浜通りへ向かう。途中、トイレ休憩のために差塩パーキングエリアに立ち寄った。この時点で乗客は2人に減っていたが、ドライバーは「乗客数?今日は多い方ですよ」と苦笑した。まるで不人気の観光バスのように、利用者は少なかったのだ。
 「お客さんが全くいない日も珍しくなかったですよ。経営的には大赤字です。高速道路の料金が往復で1万円。それに、会社に戻ってからガソリンを90リットルくらい入れますからね。少なくとも平均して10人は利用してくれないと採算は取れません。それでも運行しないわけにはいかないので空のバスを走らせましたが…。やはり料金が高いというのがネックなのではないでしょうか。富岡駅との往復だと4400円ですから。もう少し安かったり無料だったりしたら、お客さんは増えたかもしれませんね」
 「10・12水害」で甚大な被害を受けた福島交通は、茨城交通から車両を借り、表示だけ変えて実証バスを走らせ続けた。ETCを取り付けられないため、高速道路の料金は現金で支払った。2人の乗客を乗せたバスは広野インターチェンジで常磐道から一般道に下り、Jヴィレッジを右手に見ながら国道6号線を北上。楢葉町を通過し、富岡警察署や「さくらモールとみおか」のある交差点を左折して、終点の富岡駅前に向かった。2200円を支払って下車した。バスは休憩場所に向かった。

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3月8日から11月22日まで運行された実証バス。中通りの郡山駅と浜通りの富岡駅をつないだが、乗客ゼロの日もあるなど低調に終わった

【打ち切りではなく計画通り】
 公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構(以下、機構)によると、実証バスの運行は、「福島県中通りの中核都市から福島イノベーション・コースト構想に位置付けられた拠点施設までの移動について、東西アクセスの改善を図ることで地域産業の集積と交流人口の拡大等を推進するため、バスによる実証運行を行うことにより、その採算性、具現化に向けた課題の整理等」を目的として3月8日に始まった。
 11月22日が最終日だったが、利用者数が伸びない事による〝打ち切り〟ではなく、機構は「福島県と協議した上で、運行期間は3月8日から11月22日までという事で国土交通省の東北運輸局福島運輸支局に申請しています。当初からの計画通りです」と説明する。担当者は「利用者が多ければ延長もあり得たかもしれないですが、この人数では仕方ない。残念です」と苦笑した。
 平日のみ1日3往復運行され、郡山駅西口のバスターミナルから乗り、経由地は「福島県環境創造センター」1カ所だけ。あとは富岡駅前までノンストップ(磐越道・差塩パーキングエリアでのトイレ休憩あり)。料金は「環境創造センター」で降りると900円(約40分)。「富岡駅前」まで乗ると2200円だった(約2時間半)。公益法人福島イノベーション・コースト構想推進機構が実施主体となり、バスの運行は2往復を福島交通、1往復は新常磐交通が請け負った。
 「料金については現行の鉄道・高速バスと同等になるように設定しました」と機構・交流促進部長の渡邉賢一氏。仮にJR磐越東線でいわきまで行き、JR常磐線に乗り換えて富岡まで向かうと2310円。乗り継ぎのタイミングにもよるが、3時間前後かかる。
 富岡駅近くの駐車場には24時間使える日産の電気自動車が用意されていて、「カーシェアリングサービス実証事業」(はまモビ)の実証事業も今月15日まで併せて行われていた(浪江町ステーション、大熊町ステーションは継続中)。機構としては、実証バスで富岡まで移動した人がレンタカーで浜通りを移動してもらう狙いがあったが、こちらも利用は低調だったようだ。

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JR常磐線・富岡町駅近くには電気自動車が配置された。実証バスを降りた客がレンタカーに乗り換えて浜通りを移動する形を目指したが、こちらも利用は低迷。今月15日で終了した

【「見通し甘かった」指摘も】
 福島県は「『福島イノベ構想』周辺環境整備交通網形成事業」として、2018年度に1億3000万円、今年度は1億597万2000円を予算計上(半分は国の「福島再生加速化交付金」を充当)している。
 日本共産党福島県議会議員団の宮本しづえ県議は「福島は車社会。わざわざバスで行く人などいないだろう、と委員会でも指摘してきた。こういう結果になるのは初めから分かっていたはずで、見通しが甘かったと言わざるを得ない」と指摘する。
 この点について、機構・交流促進部長の渡邉賢一氏は、取材に対し「福島県中通りから浜通りのイノベ拠点への足を確保するため、県の委託に基づき実施したものです。今後の可能性を検討するための実証事業としては一定の成果を得られたと考えています」とメールで回答を寄せた。
 利用が伸び悩んだ理由については「料金、乗換、時間、ほかの手段との比較などの要素が複雑に影響すると考えられ、今後、原因を分析して施策に反映してまいりたい」と答えるにとどまった。運行ルートは実際にバス事業者が試走をし、県と協議の上決定したという。福島県は2年続けて1億円を超える予算を充てているが、事業費のうち、バス事業者への委託料が一番割合が多いという。
 福島県は来夏、双葉郡双葉町にアーカイブ拠点施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」をオープン。交流人口の増加を狙っているが、見通しは厳しそうだ。機構の渡邉部長は「双葉町に建設中の伝承館の入込(入館者数)と、この実証事業とは直接結びつかないと考えます。いずれにせよ、県の意向を踏まえ、浜通りの交流人口拡大の取り組みを続けていく予定です」と回答した。オープン前の来年3月には常磐線の全線開通が予定されており、確かに今回の結果だけで「伝承館」の集客は論じにくい。福島県は3月26日に「Jヴィレッジ」から始まる聖火リレーも起爆剤にした考えだが、浜通りの復興・再生の道は険しそうだ。



(了)
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鈴木博喜

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