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【105カ月目の福島はいま】答えない、はぐらかす…2019年最後の福島県知事定例会見でも貫いた「内堀話法」。原発事故被害者に〝寄り添うポーズ〟は今年も健在

イエスかノーか。記者の質問には一切、答えない。原発事故に伴う問題に関する考えを問われても一切、答えない─。福島県の内堀雅雄知事は今年も、記者クラブとの定例会見で〝内堀話法〟を存分に発揮。肝心な質問には何も答えないまま、原発事故被害者の切り捨てを進めた。口では「福島には光と影の両面ある」と言いながら、実際には「影」は封印して「光」にばかり言及している。来年は東京五輪の聖火リレーや野球・ソフトボール開催で「原発事故から立ち直った福島の姿」を世界に発信したい内堀知事。水害被害も含めて「影」はますます封じ込められていく。
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【何度尋ねても答えない内堀知事】
 12月23日午前10時から開かれた2019年最後の定例会見は、今風に言うと〝プチ炎上〟状態だった。いつもは予定調和を重視する県政記者クラブだが、この日は朝日新聞や河北新報の記者がそれを許さなかった。司会役の広報課職員が「時間の関係もありますから」と何とか質問を遮ろうとしたが、納得するまで尋ねるのは記者としては当然だ。口火を切ったのは朝日新聞の記者。2020年3月にJヴィレッジからスタートする聖火リレーのルート選定に関する質問だった。
 「このルートが『福島の今』を伝える手段として最適だと思いますか?知事の言う『影』とは今回のルートのどこにあるのでしょうか?」 
 しかし、内堀知事は用意した答えを棒読みするばかり。「東日本大震災からの復興のシンボルであるJヴィレッジをスタートし、復興に向けて挑戦を続ける福島の姿や魅力を広く発信することができるルートだと考えております」。これでは記者が納得しないのも当然だ。「『今の福島』を伝えるのに最適だと思いますか、あるいは知事のおっしゃっている『影』とはどこにあるのですかという質問だったのですけれども」と再質問した。
 内堀知事は「はい」と大きくうなずいたが、質問に正面から答えなかった。
 「今回の聖火リレールートの受け止め方、いろいろな御意見もあろうかと思いますが、市町村自身の想いも大切にしながら、決定させていただいております」
 賛否を明らかにしないのは内堀知事の常だ。それは、次の質問でも同じだった。
 「そもそもこのオリンピックについて、安倍首相は2013年9月に situation is under control つまり『原発はアンダーコントロールだ』という言葉を使ってオリンピックを誘致しました。福島県知事として今、原発は『アンダーコントロール』だと思いますか?」
 これにも的外れな答えに終始した。
 「福島第一原発の廃炉対策が福島の復興にとって極めて重要であります。私自身が毎年のように原発へ伺って、一年一年で進展した部分も見ておりますし、一方で御承知のとおり、燃料デブリの対応や汚染水対策など、まだまだ解決しきれていない、あるいは今後の展望が明確でない廃炉対策の部分が残っていると思います」
 記者は当然、こう続けた。
 「質問は『アンダーコントロール』と思うかどうかだったのですが」
 うんざりしたのだろうか。内堀知事はやはり得意のフレーズで質問を切り捨てた。
 「ただいま申し上げた通りでございます」
 記者は「『アンダーコントロール』だと思わない?」と畳み掛けたが、内堀知事は司会役の広報課職員の方に顔を向け、察した職員が次の質問に移した。まさに阿吽の呼吸だった。他社の記者は沈黙を貫いていた。

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定例会見でフラッシュを浴びる内堀知事。知事自身、光を浴びれば影が生じる。定例会見では「知事に就任して以降、常に福島県が抱えている『光と影』の両方を正確に発信することに意を砕いてきた」と述べたが、実際に発信されるのは「光」の部分ばかりだ=2019年12月23日、福島県庁で撮影

【「光」ばかりの聖火リレールート】
 「福島の光と影」は内堀知事の常套句だ。初当選後の2014年11月12日午後に開かれた会見で、「自主避難」という言葉も交えながら次のように述べている。
 「依然として、福島県は原発事故が収束したとは言えない状態です。避難地域が現実にあって、ふるさとに帰れない方がいる。あるいは自主避難という意味で、色々な御苦労をされている方もいる。そして、色々な産業の受けた傷が完全に癒え切らない。こういった影の部分と、それからプラスの部分では、この3年8カ月で福島県に色々な拠点が出来たり、あるいは産業の再生も一定程度は出来たり、あるいは、原発事故後、完璧ではありませんが、ある程度出来たところもあるとか、この『光と影』を両方を正確に知っていただく努力ということを、私自身したいと思っております」
 今年3月25日の会見でも「県内各地を聖火リレーで回っていただく中で、福島県の復興が進んだ『光』の部分と、一方で、『まだまだ難しい課題を抱えている』、『二度とこのような原発事故を起こしてはいけない』あるいは『自然災害への防災・減災を、日本はもとより世界各地でも取り組んでいかなければいけない』という情報発信ができれば」と語っている。
 今月23日の会見では、河北新報の記者が「私も聖火リレーのルートを見ると『光』だけで『影』はどこにも無いんじゃないか」、「『光と影』とか、どうしても抽象的な言葉がいつも多くなっていると思うが、『光』は何で、『影』は何なのか。このルートを通じて何を発信しているのか」などと質問したが、帰還率や風評に終始する答えだった。
 「避難指示が縮小したからといって解決したわけではなく、今でも福島県全面積の2・5%に当たるエリアが帰還困難区域等で、住民の皆さんが帰りたくても帰ることが出来ない…国内外で風評が残っていて、まだ福島産の農産物を手に取ることに躊躇される方がいる。福島第一原発の廃炉対策は非常に長期にわたり、そういう中で人口減少が急激に進んでいる。また、残念ながら台風19号等の大型の災害があった。こういったことを『影』の事例としてお話ししています」
 知事の言葉には〝自主避難〟の問題など無い。しかも、実際に決められた聖火リレーのルートからは『影』の部分など見えない。家屋解体が進み、帰還率も11月末現在で6%強にとどまっている浪江町は、福島ロボットテストフィールド浪江滑走路からスタートし、福島水素エネルギー研究フィールドでゴールする約600メートルがルートとして採用された。浪江町役場から徒歩で約1時間もかかるような〝異空間〟を走って世界の人々は浪江町の何を理解出来るのか。
 今月21日に東京国際フォーラムで行われた「ふくしま大交流フェスタ2019」。古田敦也氏とのトークショーで、内堀知事は「今の福島、まだもちろん課題はたくさんあるんですけど、一方で復興でここまで前に進んだよとメッセージと感謝を発信したい」と発言している。これだけでも、内堀知事が実際には「光」の発信を重視している事が良く分かる。

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来たるべき〝復興五輪〟に向け、原発事故の〝自主避難者〟は切り捨てられ、〝負の遺産〟は消されていく。「復興」はもちろん大事だが、これが本当に福島県民の求める「復興」だろうか?それを質す記者は少なく、問われても内堀知事は正面から答えない

【厳しい質問ぶつけぬ記者クラブ】
 県政記者クラブもまた、知事の答えがあいまいであっても厳しく問いただす事はほとんど無い。地元メディアの記者に至っては「知事の苦しい御立場も理解出来ますが」、「知事は日頃から風評払拭に尽力なさっていますが」などと持ち上げる始末。先の朝日新聞記者は初めて知事会見に参加したというが、予定調和に包まれた会見は異様に映ったようだ。冒頭にこんな質問をぶつけている。
 「事前に質問を提出してたんですか?今、なんかパッパと出てきましたけど。これは記者会見なんですか?質問は事前に決まっていたのでしょうか?」
 会見で内堀知事は、事前に用意していた紙を掲げた。そこには「再」と書かれていた。地元紙記者の〝アシスト質問〟に答えた「今年の漢字」だった。年内最後の定例会見でその年を表す漢字一文字を尋ねるのが県政記者クラブの「恒例」となっている。ちなみに、知事に就任した2014年以降、「挑」、「誇」、「創」、「共」と続き、昨年は「進」だった。そして今年は「再」。筆者も昨年、県広報課に「事前に記者クラブと打ち合わせをしているのではないか」と尋ねたが、答えは「打ち合わせなどしていない。質問通告も求めていない」だった。
 原発事故に伴う〝自主避難者〟への住宅無償提供が打ち切られても、国家公務員宿舎に入居する避難者を相手取って〝追い出し訴訟〟を起こす議案が県議会で可決されても、知事に厳しい質問をぶつけるのは一部の記者にすぎない。知事の外遊に地元紙記者が「同行取材」するのは恒例となっている。
 なお、筆者は複数回にわたって知事会見で質問をしたいと記者クラブに申し入れているが、いずれも答えは「NO」だった。「部屋の最後方で立って写真を撮影するなら構わない」と「オブザーバー参加」のみ許されている。幹事社によって表現は異なるが、地元紙の記者は筆者に対し「フリーランス記者に質問を認めたら記者クラブの存在意義が無くなる。あなたが知事会見で質問する事は未来永劫無い」と言い放った。
 たしかに知事の言動に疑問を抱いて質問をぶつける記者もいる。個人的に筆者の取材活動に理解を示す記者もいる。しかし、組織としてはフリーランスを排除する。〝内堀話法〟がそれに守られているのだとしたら、果たして「記者クラブの存在意義」とは何だろうか。



(了)
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鈴木博喜

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