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【106カ月目の飯舘村はいま】福島県の内堀知事が絶対に発信しない「放射能汚染」という名の「影」。国内外に「光」ばかり見せる聖火リレー、村民からも疑問の声

福島県の内堀雅雄知事が日頃、「福島県の『光と影』両方を発信したい」と話している聖火リレーまで2カ月余。3月27日には相馬郡飯舘村でもリレーされるが、ルートに選ばれたのは主要道路である県道12号線沿いのわずか1・2km。これでは「影」など発信出来ない。「光」ばかりを発信する聖火リレーに、村民からも疑問の声があがっている。そこで3日、聖火リレーのゴールである「いいたて村の道の駅までい館」から「村民の森あいの沢」までの約4kmを徒歩で往復した。手元の線量計は1μSv/hを上回った。内堀知事が絶対に発信しない村の「現実」がそこにはあった。
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【1μSv/h超の鳥獣保護区】
 きれいに舗装し直された道路にはしかし、車は1台も通らない。歩行者は筆者1人。左手には除染で生じた放射性廃棄物の仮置き場やため池が広がる。この時点で手元の線量計は0・4μSv/h前後。これでも、道の駅の一角に設置されたモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)の数値と比べると5倍だ。
 「葉山神社参道入口」と書かれた石柱があるので鳥居をくぐって少しだけ歩いてみると、一気に数値が上がった。手元の線量計は1・0μSv/hを上回った。原発事故から間もなく9年。これが、道の駅からわずか15分程度歩いた森で今なお続く放射能汚染の実態だった。
 車道に戻り、林道沿いに「あいの沢」を目指す。原発事故の13年前に開設された林道。線量計の数値が最も上がったのが林道の半ばだった。皮肉にも「林道をきれいにしましょう」と書かれた看板の前で空間線量は1・7μSv/hに達した。村役場の設置した看板は「さわやかな林道はあなたのマナーから」と呼びかけている。しかし、豊かな森を激しく汚したのはドライバーが投げ捨てる空き缶でもごみでもなく東電の福島第一原発から放出された放射性物質だった。しかし、菅野典雄村長は事故後も「東電さん」と呼び、同社の「マナー」を問う事はしない。
 周辺の森からの放射線が飛び交っているのだろう。道路はアスファルトできれいに舗装されているが、手元の線量計は0・7~0・8μSv/hを推移している。この森は鳥獣保護区。野生動物を守るため狩猟や開発が禁じられているが、看板の前でも手元の線量計は1・0μSv/hを上回った。保護区は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に基づいて指定されるが、この森の鳥も獣もずっと被曝を強いられている。
 原発事故の被害者は人間だけでは無いという事を改めて突きつけられた。森も野生動物も、自らの意思と関係無く、無用な被曝を強いられ続けているのだ。

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3月の聖火リレーのゴールである「いいたて村の道の駅までい館」に設置されたモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)は0・083μSv/h。しかし、県道12号線から離れるにつれて手元の線量計の数値は上昇。林道の途中で1・0μSv/hを上回った。これも飯舘村の現実だが、世界には発信されない

【「見せかけの復興演じるだけ」】
 東京五輪・パラリンピック組織委員会が12月17日に詳細な聖火リレーのルートを発表した。飯舘村は2日目の3月27日、「交流センターふれ愛館」から「いいたて村の道の駅までい館」までの1・2kmを走ると決まった。フレコンバッグの山も見えず、「原発事故から立ち直った福島県の姿」を世界に発信するにはこれ以上に最適な区間は無い。
 ルートに選ばれた県道12号線沿いには原発事故後に交流センターや道の駅が建設され、福島市と南相馬市を結ぶバスも運行されている。見た目には交流人口も回復途上にあるように思える。筆者に「悪い事ばかり書く」と言い放つ菅野典雄村長も〝復興〟をアピール出来ると満足だろう。
 しかし、内堀知事が繰り返し口にしている「光と影両方の発信」には果たしてふさわしいと言えるルートだろうか。これには村民からも疑問の声があがっている。原発事故後から空間線量や農産物などの汚染を測り続け、周囲から「測定の鬼」と呼ばれている伊藤延由さんだ。ルートが発表された夜には、SNSに次のように投稿した。
 「復興五輪?。福島県内49・7kmを260人でまわります。有り体に言えば、あとは危険で走れませんと言っている?飯舘村では交流センターふれ愛館〜道の駅までい館。はい、箱物復興の象徴を見て頂きます」
 翌12月18日にはさっそく線量計を手に聖火リレーのルートを歩いている。「聖火リレーコースの線量率。道の駅を出て直ぐのコメリ跡の空間線量率、除染済みの場所です!」という文章と一緒に投稿された写真では、伊藤さんが手にした線量計が1・23μSv/hに達していた。聖火リレーのルートだからと言って安全では無かった。京都大学複合原子力科学研究所の今中哲二氏は以前、シンポジウムで筆者の質問に「聖火ランナーと一緒にリアルタイムの空間線量も表示して世界に発信したら良い」と話している。
 伊藤さんはさらにSNS上にこう綴った。
 「聖火リレースタート、ゴール地点の空間線量率は予想通り0・10〜0・12μSv/h程度でしたが、道路脇2・0〜3・0mでは0・60〜1・2μSv/h。箱物の見せかけの復興を演じるだけで汚染の実態は変わっていません。除染済みの場所でも1・0μSv/hを超えるのは手抜き除染の証し。村の至る所がこの状態だという事です」

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村の「現実」や「影」は伏せられたまま、県道12号線を聖火リレーのランナーが走る。道の駅にブロンズ像を置く事が「復興」なのか?今回の徒歩コースには、「ふるさともどるぞ!放射性物質除去するぞ!」と書かれた看板が設置されていた。村が発表した12月1日現在の帰還率は25%

【県道からは見えない「叫び」】
 首をかしげている村民は伊藤さんだけでは無い。
 60代の女性も取材に対し「交流館から道の駅までを走って何が伝わるのでしょうか。まだまだ原発事故は終わっていないのに…。県道12号線はかなり低くなったけど、ほんの少し入っただけで空間線量の数値が全然違います。私の自宅も0・3~0・5μSv/hくらいあります。中通りへの避難を続けていますが、戻ろうかどうしようか、まだ決心がつきません」と話した。
 道の駅から少し歩いた場所には「ふるさともどるぞ!放射性物質除去するぞ!」と叫んでいるような看板が設置されていた。「叫び」は県道12号線からは見えない。だがこれらの苦悩こそ、県知事や村長が世界に発信すべき現実では無いだろうか。
 林道の途中でスマホの電波が弱くなり、ついには圏外になった。足も痛くなってきたところで「村民の森あいの沢」に着いた。ここはキャンプ場になっており、ため池には橋が架けられ、黛まどかさんが選んだ俳句の句碑が設置されている。
 原発事故前には憩いの森だった場所にも例外なく放射性物質が降り注いだ。木製の遊歩道で手元の線量計は1・2μSv/hを上回った。ため池の反対側には「宿泊体験館きこり」があり、車であれば県道12号線には3分ほどで出られる場所だ。しかし、聖火リレーがいくら世界に発信されても、このような現実は伝わらない。
 来た道を再び戻り、道の駅に向かった。やはり車の往来も歩いている人もいない。村の発表では村内に1391人が暮らしているとされているが、実際に寝泊まりしている村民はもっと少ないと言われている。草陰から猫が飛び出してきた。少しこちらを凝視した後に走り去って行った。これが唯一の〝出会い〟だった。
 筆者が歩いたのは、飯舘村深谷の「道の駅」を出発し、「多目的交流広場」の工事現場を右手に見ながら県道12号線とは逆方向に直進。今度は「深谷地区復興拠点エリア太陽光発電所」を左手にして進み、フレコンバッグが積み上げられている村道から林道「市沢古今明線」に入って「村民の森あいの沢」まで向かう約4km。測定や撮影をしながらゆっくりと歩いたため往復で3時間ほどかかった。



(了)
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プロフィール

鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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