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【106カ月目の福島はいま】「原発事故を忘れないで」「済んだ話では無い」。色とりどりの絵手紙に込められた9年間の苦悩や葛藤

原発事故後の怒りや哀しみ、苦悩や葛藤を絵手紙として描き続けている「うつくしま絵手紙の会」。19日まで郡山市内で開かれた絵手紙展では、事故から間もなく9年を迎える現在の心境が綴られた絵手紙もあった。前向きな想いと漠然とした不安や哀しみが交錯する中で、作者たちは異口同音に「決して済んだ話では無い」と話す。夏の〝復興五輪〟を頂点として「原発事故から立ち直った姿」を世界中に発信しようと国も福島県も躍起になっているが、実際に福島に暮らす人々は「手放しで喜べない」、「事故を忘れないで」と胸の内を明かした。
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【「自分に言い訳しながら食べる」】
 二本松市に生まれ育ち、現在は川俣町で暮らす女性(69)は、絵手紙に「今はもう忘れて」と綴った。
 <原発事故のあと放射能の恐ろしさに、兄から野菜持っていきなと言われても何もいらないと断った。一生懸命に作ったのに。なのに今はもう忘れて車いっぱいに貰って来る。やっぱり取りたてはおいしいからと言い訳しながら>
 原発事故直後の危機感などすっかり「忘れた」のだろうか。展示された自身の絵手紙の前で女性に尋ねた。
 「いえいえ、忘れてなどいません。全然忘れてはいなくて、でも美味しいから食べたいという気持ちもあるし、一方であの時の気持ちよりは引いているというか…。もうすぐ9年ですしね。そういうのもあって、二本松産の野菜を兄からもらってくるんですよね。何て言ったら良いのかな、難しいね。忘れてはいないけれど、忘れようとしているという気持ちかな。年齢も年齢だから、だったら食べた方が良いかなっていう想いもあります」
 そもそも原発事故が無ければ、地場産の野菜を避ける避けないなど考える必要も無かった。自分の中の相反する気持ちに「言い訳」などする必要も無かった。女性は今後も、原発事故後の想いを描き続けるという。
 「『いつまでそんな事を気にしているの?』って言われちゃうから、あんまり口には出来ないし、いつまでも原発事故の事を考えていても疲れちゃうんだけどね。でも言い続けなければいけない事でもあります。全国にはまだ原発がたくさんあって、いつ同じような事故が起きるか分からないですから。ただ大人しくしているだけではいけない気もします」

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19日まで開かれた絵手紙展で披露された絵手紙のごく一部。発災から9年という歳月は福島で暮らす人々の心にも様々な変化をもたらしているが、作者たちは異口同音に「原発事故は終わった昔話では無い」と語った=JR郡山駅近くの「ビッグアイ」

【「復興は進んでいるのか?」】
 川俣町在住の女性(80)は「実りの秋に、ありがとう」と綴った。
 <原発事故後の秋は悲しかった。野菜を食べっかい?と云って持ってきてくれた友人。今は出来たよ食べっせ…と云って持ってきてくれる。実りの秋に、ありがとう>
 「当時は友人が収穫した野菜を届けてくれても、申し訳ないけどもらいませんでした。『買ってきたばかりでたくさんあるから』なんて言ってね。でも、今は頂いていますよ。検査した結果が分かっていますから。自宅は山木屋地区に近いですが、検査結果を見ると、うちの方も低くなったなと思います。ただ、収穫された場所によっては食べたくないなって想いはあるかな」
 では、女性にとって原発事故は「もはや済んだ話」なのだろうか。
 「原発事故は『終わった話』なんかではありません。孫たちは新潟県や会津若松市に避難していて昨春、高校進学を機に戻ってきましたが、特に食べ物には気を付けています。孫には地元の米は食べさせていません。別に原発事故の話をするのは嫌では無いですよ。事故で放射性物質が降ってきたのは事実ですから」 
 郡山市の女性(72)は「私らの年齢なら良いけれど、孫が遊びに来たりすると、遊ばせて良いものか食べさせて良いものか頭をよぎります。検査をしているから流通しているものは大丈夫だとは思いますが…。今年は聖火リレーが福島県(Jヴィレッジ)からスタートし、福島市では野球・ソフトボールの試合が行われますね。でも、手放しでは喜べない気持ちもあります。果たして復興が進んでいるのか、分からないですよね。原発事故を忘れられては困るという想いもあります」と話した。
 もちろん、原発事故や〝復興五輪〟に対する考え方は十人十色。絵手紙を楽しむ人々の間でも全く異なる。今回は「今年はオリンピック楽しみたい」と描かれた絵手紙もあった。福島の食べ物の美味しさを綴った絵手紙もある。様々な想いが交錯するのが今の福島だが、残念ながら行政や地元メディアは「前向き」な想いしか発信しない。

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こちらは2015年に描かれた絵手紙。原発事故後4年間の不安や苦悩が綴られていた

【「当事者だから描き続ける」】
 筆者が初めて絵手紙展を訪れたのは2015年9月だった。「うつくしま絵手紙の会」を主宰する安達アツ子さん(73)は、教え子たちには当時から一貫して原発事故後の心境を絵手紙に綴るよう背中を押してきた。今回の展示会にあたり、自身もキノコの絵とともに山の幸の現状を書いた。
 <台風たら、こんなきのこをニョキニョキと土に生えるように言ったようだけど、福島ではダメダメ食べられないのよ>
 「山のものは駄目ですよね。会津地方なら良いかもしれないけれど。つまり、土が駄目なんだと思いますよ。年々こういう話題を口にしにくくなっていますが、現実ですからね。そのうち、山の幸を食べる食文化が無くなってしまうのではないかとさえ思います。キノコ類や山菜類は何十年も駄目だっていうんですから」
 3月の聖火リレー、そして7月の東京五輪では「原発事故から立ち直った福島の姿」が世界中に発信される。一方で、例えば福島市ではコゴミやタケノコ、フキノトウ、タラノメ、ワラビ、コシアブラ、野生キノコ、露地栽培の原木シイタケが依然として出荷制限中だ。郡山市も「郡山市産の野生きのこは出荷できません!」、「無償配布なども“出荷”に当たります」として注意を呼び掛けている。もっと言えば「原子力緊急事態宣言」はいまだ解除されていない。
 「私たちは当事者だから、これからも伝えて行かなきゃいけないと思います。だからこういう取材も続けて欲しいし、私たちも描き続けます。確かに難しい問題で、描いたところで何が変わるわけでは無いけれど、月日とともに流してしまってはいけないんだと思うから」
 安達さんはこうも言った。
 「排気筒をはじめ、廃炉工事だってこれからどうなるか分からないですよ。原発事故は終わっていないんです」



(了)
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鈴木博喜

Author:鈴木博喜
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