【復興五輪と聖火リレー】そもそも初めから無かった「影」の発信~言行不一致の福島県・内堀知事。内部資料では「復興の追い風」、「復興の更なる加速化」
- 2020/02/12
- 00:27
定例会見でどれだけ問われても答えられるはずが無かった。初めからコンセプトに盛り込まれていないのだから─。来月26日に迫った聖火リレーのスタート。福島県の内堀雅雄知事は、日頃から「福島の『光』と『影』の両方を正確に発信したい」と口にするが、そもそも初めから「影の発信」など話し合われて来なかった事が分かった。〝復興五輪〟や聖火リレーで〝復興〟を加速しようと準備を進める一方、住宅提供の打ち切りなど原発事故被害者の切り捨てを進める内堀知事。しかし、それらは国内外に発信されない。知事の言行不一致ぶりを改めて指摘したい。

【「『光と影』を発信」?】
2018年8月24日午前に開かれた第1回「東京2020オリンピック聖火リレーふくしま実行委員会」。会議の冒頭、福島県の内堀雅雄知事は「聖火リレーの準備、実施に向けた検討を進めるにあたっての重要なポイント」として、「参加」と「発信」を挙げていた。
「オリンピックを迎える2020年は、震災からちょうど10年目の節目の年となります。まず、これまでの御支援に対する感謝の思いを発信したいと思います。あわせて、福島県の復興が着実に前進している姿、依然として様々な課題が山積している姿、こうした福島県の現状を正確に発信していく機会にしていきたいと考えております」
だが、昨年12月23日午前の定例会見。聖火リレーのルートについて、朝日新聞の記者から「知事は日頃、『福島の光も影も見てもらう』というような発言をしていますが、知事の言う『影』とは今回、どこにあるのでしょうか」と問われた内堀知事は、質問に正面から答えず、自ら「光と影」という表現を使いながらも次のようにはぐらかした。
「今回の聖火リレールートの受け止め、様々な御意見もあろうかと思いますが、市町村の思いも大切にしながら、決定させていただいております。私自身は知事として、就任して以降、これまで常に福島県が抱えている『光と影』の両方を正確に発信することに意を砕いてきました。今回の聖火リレーのグランドスタート、あるいは、今後、野球・ソフトボールの一部競技開催もございますが、そういった様々な機会にも、知事として、その両面を発信していきたいと考えております」
「福島県は今なお、明るい前に向いている部分と、まだまだ厳しい課題を抱えている部分もありますので、その両方を常に発信していく。この務めを果たしていきたいと考えております」


今月10日午前に開かれた第7回「2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業推進本部会議」で配布された資料。まるで戦時下のような〝前向き〟な表現が並ぶ
【「五輪を復興の追い風に」】
その日の会見では、河北新報の記者も「聖火リレーのルートを見ると、『光』だけで『影』はどこにもないのでは」、「『光』は何で、『影』は何で、このルートを通じて何を発信しているのか」と質した。
これに対し、内堀知事は「影」の一例として「避難指示が縮小したからといって解決したわけではなく、今でも福島県の2・5%に当たるエリアが帰還困難区域等で、住民の皆さんが帰りたくても帰ることが出来ない。さらに、避難指示が解除されて住民の方がある程度戻れるようになったエリアでも、例えば浪江町、富岡町は(帰還率が)1割程度あるいは1割を切っている状況」を挙げた。
しかし、それら「影」の部分が決して〝復興五輪〟や聖火リレーでは国内外に発信されるわけでは無い事が、同じ日の会見での内堀知事の言葉から伺える。
「福島県が抱える明るい前向きの部分と、一方で難しい課題については、私自身が、あるいは県庁として、様々な場面で両面を正確に発信する努力を続けてまいります」
「影」の発信は、いつの間にか「様々な場面」に変わっていた。しかし、実は内堀知事は初めから五輪や聖火リレーで福島県の抱える「影」を発信するつもりなど無かったのだった。それを端的に表している文書がある。2014年1月20日に第1回会議が開かれた「2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業推進本部」(以下、推進本部)の配布資料だ。2013年9月7日の第125次国際オリンピック委員会総会で東京開催が決まってから4カ月後。この時から既に、福島では「光の発信」への準備が始まっていた。
第1回会議で配られた「推進本部設置の趣旨」には、こう記されている。
「部局連携で、2020年オリンピック・パラリンピック関連事業を復興の追い風とし、復興の更なる加速化につなげていく」
「復興の追い風」と「復興の更なる加速化」は太字で印刷されていた。

「2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業推進本部」の第7回会議で、福島県の内堀知事は部長級職員を前に「『参加』と『発信』を大切にしながら、県民の皆さんの元気や希望につなげていきたい」と述べた。「影の発信」はどこへ行った?=2020年2月10日午前、福島県庁
【「本県の『今』を発信」】
知事や副知事、各部局の部長、局長級職員が出席する推進本部会議は、今月までに計7回開かれている。
設立から2年後の2016年2月8日の第2回会議では、「前に進むふくしまの『魅力』を全世界に伝え、共感の輪を広げながら、ふくしまの『誇り』を『未来』につなげよう!」とするアクションプランの基本コンセプト案が示された。
その後も、五輪を通じた「交流人口の拡大」や「福島県産品の大会食材・資材への活用」、「復興の加速化~新たな復興ステージへ向かう〝ふくしま〟」など、「光」の部分を強調する言葉が並び、「影の発信」など全く盛り込まれていない。そして、今月10日の第7回会議資料でも、県内聖火リレー(3月26~28日)に向けた取り組みについて「本県の『今』を発信」、「世界の注目を集める好機を活かした復興と魅力の発信」、「復興の加速化」などの文字が躍っている。
そもそも、初めから「影の発信」など無いのだから、定例会見でどれだけ問われても内堀知事がまともに答えられないのはある意味、当然なのだった。
推進本部の第7回会議で、内堀知事は用意した原稿に目をやりながらこう述べた。
「Jヴィレッジからスタートするオリンピック聖火リレーまで、あと45日となりました。『参加』と『発信』を大切にしながら、大会を契機にうまれた新たな交流を継承して、本県の未来を担う子どもたちをはじめ県民の皆さんの元気や希望につなげていきたいと考えております。いよいよ来月に迫った聖火リレーと東京オリンピック・パラリンピックの成功に向けて、多様な主体との共働により全庁一丸となって〝オール福島〟で取り組んでください」
残念ながら、原発事故被害者の救済など〝復興〟は道半ば。しかし、五輪や聖火リレーでは明るい、前向きな話題しか発信されない。内堀知事の言行不一致が今後も続く。
(了)

【「『光と影』を発信」?】
2018年8月24日午前に開かれた第1回「東京2020オリンピック聖火リレーふくしま実行委員会」。会議の冒頭、福島県の内堀雅雄知事は「聖火リレーの準備、実施に向けた検討を進めるにあたっての重要なポイント」として、「参加」と「発信」を挙げていた。
「オリンピックを迎える2020年は、震災からちょうど10年目の節目の年となります。まず、これまでの御支援に対する感謝の思いを発信したいと思います。あわせて、福島県の復興が着実に前進している姿、依然として様々な課題が山積している姿、こうした福島県の現状を正確に発信していく機会にしていきたいと考えております」
だが、昨年12月23日午前の定例会見。聖火リレーのルートについて、朝日新聞の記者から「知事は日頃、『福島の光も影も見てもらう』というような発言をしていますが、知事の言う『影』とは今回、どこにあるのでしょうか」と問われた内堀知事は、質問に正面から答えず、自ら「光と影」という表現を使いながらも次のようにはぐらかした。
「今回の聖火リレールートの受け止め、様々な御意見もあろうかと思いますが、市町村の思いも大切にしながら、決定させていただいております。私自身は知事として、就任して以降、これまで常に福島県が抱えている『光と影』の両方を正確に発信することに意を砕いてきました。今回の聖火リレーのグランドスタート、あるいは、今後、野球・ソフトボールの一部競技開催もございますが、そういった様々な機会にも、知事として、その両面を発信していきたいと考えております」
「福島県は今なお、明るい前に向いている部分と、まだまだ厳しい課題を抱えている部分もありますので、その両方を常に発信していく。この務めを果たしていきたいと考えております」


今月10日午前に開かれた第7回「2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業推進本部会議」で配布された資料。まるで戦時下のような〝前向き〟な表現が並ぶ
【「五輪を復興の追い風に」】
その日の会見では、河北新報の記者も「聖火リレーのルートを見ると、『光』だけで『影』はどこにもないのでは」、「『光』は何で、『影』は何で、このルートを通じて何を発信しているのか」と質した。
これに対し、内堀知事は「影」の一例として「避難指示が縮小したからといって解決したわけではなく、今でも福島県の2・5%に当たるエリアが帰還困難区域等で、住民の皆さんが帰りたくても帰ることが出来ない。さらに、避難指示が解除されて住民の方がある程度戻れるようになったエリアでも、例えば浪江町、富岡町は(帰還率が)1割程度あるいは1割を切っている状況」を挙げた。
しかし、それら「影」の部分が決して〝復興五輪〟や聖火リレーでは国内外に発信されるわけでは無い事が、同じ日の会見での内堀知事の言葉から伺える。
「福島県が抱える明るい前向きの部分と、一方で難しい課題については、私自身が、あるいは県庁として、様々な場面で両面を正確に発信する努力を続けてまいります」
「影」の発信は、いつの間にか「様々な場面」に変わっていた。しかし、実は内堀知事は初めから五輪や聖火リレーで福島県の抱える「影」を発信するつもりなど無かったのだった。それを端的に表している文書がある。2014年1月20日に第1回会議が開かれた「2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業推進本部」(以下、推進本部)の配布資料だ。2013年9月7日の第125次国際オリンピック委員会総会で東京開催が決まってから4カ月後。この時から既に、福島では「光の発信」への準備が始まっていた。
第1回会議で配られた「推進本部設置の趣旨」には、こう記されている。
「部局連携で、2020年オリンピック・パラリンピック関連事業を復興の追い風とし、復興の更なる加速化につなげていく」
「復興の追い風」と「復興の更なる加速化」は太字で印刷されていた。

「2020年東京オリンピック・パラリンピック関連事業推進本部」の第7回会議で、福島県の内堀知事は部長級職員を前に「『参加』と『発信』を大切にしながら、県民の皆さんの元気や希望につなげていきたい」と述べた。「影の発信」はどこへ行った?=2020年2月10日午前、福島県庁
【「本県の『今』を発信」】
知事や副知事、各部局の部長、局長級職員が出席する推進本部会議は、今月までに計7回開かれている。
設立から2年後の2016年2月8日の第2回会議では、「前に進むふくしまの『魅力』を全世界に伝え、共感の輪を広げながら、ふくしまの『誇り』を『未来』につなげよう!」とするアクションプランの基本コンセプト案が示された。
その後も、五輪を通じた「交流人口の拡大」や「福島県産品の大会食材・資材への活用」、「復興の加速化~新たな復興ステージへ向かう〝ふくしま〟」など、「光」の部分を強調する言葉が並び、「影の発信」など全く盛り込まれていない。そして、今月10日の第7回会議資料でも、県内聖火リレー(3月26~28日)に向けた取り組みについて「本県の『今』を発信」、「世界の注目を集める好機を活かした復興と魅力の発信」、「復興の加速化」などの文字が躍っている。
そもそも、初めから「影の発信」など無いのだから、定例会見でどれだけ問われても内堀知事がまともに答えられないのはある意味、当然なのだった。
推進本部の第7回会議で、内堀知事は用意した原稿に目をやりながらこう述べた。
「Jヴィレッジからスタートするオリンピック聖火リレーまで、あと45日となりました。『参加』と『発信』を大切にしながら、大会を契機にうまれた新たな交流を継承して、本県の未来を担う子どもたちをはじめ県民の皆さんの元気や希望につなげていきたいと考えております。いよいよ来月に迫った聖火リレーと東京オリンピック・パラリンピックの成功に向けて、多様な主体との共働により全庁一丸となって〝オール福島〟で取り組んでください」
残念ながら、原発事故被害者の救済など〝復興〟は道半ば。しかし、五輪や聖火リレーでは明るい、前向きな話題しか発信されない。内堀知事の言行不一致が今後も続く。
(了)
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