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【台風19号水害】伏せられる「662Bq/kg」。福島県の自主基準超で本宮市から新潟県五泉市に搬出できず。一方で「福島県内なら焼却OK」の矛盾も

昨秋の台風19号に伴う「10・12水害」で生じた大量の災害廃棄物。福島県本宮市の災害廃棄物は、1月27日から3週間にわたって一部が新潟県五泉市に運ばれ燃やされたが、「木くず」や「稲わら」は県の自主基準100Bq/kgを上回ったため搬出を断念されていた事が、福島県の情報公開制度で入手した文書で分かった。放射性物質の拡散が止められた形だが、県外処理出来ない災害廃棄物は福島県内で燃やされる事になる。県外で燃やせないものが福島県内なら燃やせるという矛盾がまかり通っているうえに、そもそも測定結果が広く県民に周知されていないのだった。
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【協議中の数値は黒塗り】
 2月12日付で開示された文書は「県外搬出調整中の市町村における災害廃棄物の放射能測定結果一覧」。本宮市の2カ所(本宮市高木前田地区仮置き場、本宮運動公園「みんなの原っぱ」)に置かれている災害廃棄物について、空間線量率(μSv/h)と乾いていない状態での放射性物質濃度(Bq/kg)の測定結果が記されている。
 表には現在、福島県が県外処理するべく受け入れ自治体との話し合いを進めている別の災害廃棄物に関する測定結果も記載されている。しかし、「県及び、他の地方公共団体において協議中の情報であり、開示することにより、意思決定の中立性が不当に損なわれる恐れがある」との理由から、市町村名や試料採取日、測定結果などは黒塗りで伏せられている。
 一覧表によると、前田地区仮置き場の「畳」は最大10・0Bq/kg、「紙くず」は同23・7Bq/kgだったものの、「木くず」は最大で662・4Bq/kgだった(採取日は2019年12月11日)。本宮運動公園でも「稲わら」が192Bq/kg(採取日は同年12月26日)で、福島県が県外搬出の際の自主基準としている「100Bq/kg」を上回った(いずれも、放射性セシウム134と137を合算した数値)。そのため、自主基準値に達しなかった本宮運動公園の「紙くず」と「木くず」だけが五泉市に運び出されている。福島県一般廃棄物課の担当者が廃棄物の山から複数採取した試料を「福島県環境創造センター」(三春町)に持ち込み、ゲルマニウム半導体検出器で測定したという。
 本宮市から新潟県五泉市のごみ焼却場へは、1日あたり10トンずつ、3週間で計150トンが運び出された。今後の家屋解体も考慮すると、本宮市では最終的に5万トンの災害廃棄物が生じる見通し。福島県全体では56万トンに達すると推計されている。

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福島県が開示した文書の一部。黄色く塗られている部分が100Bq/kgを上回った「木くず」と「稲わら」。これらは圏外には搬出されないが、福島県内では燃やされる。しかも、これらの測定結果も県のホームページなどで周知されていない

【「測る必要無いが念のため」】
 福島県一般廃棄物課の担当者によると、県外搬出する際の「目安」として「100Bq/kg」という基準を自主的に設けているという。
 「東日本大震災以降、他県も100Bq/kgを県外搬出の目安としていると聞いています。原子炉等規制法に基づくクリアランスレベルも参考にしていますが、あくまで『基準』というよりも『目安』です」と県の担当者。そして、こう続けた。
 「本来は災害に伴って出た〝生活ごみ〟ですので、日ごろ県内で燃やされている物と何ら変わりません。今回は県外搬出にあたって入念的に測ったというわけです。県外に持ち出すからといって測る必要は無いのかもしれませんね。ただ、搬出する側として自主的に測っているのです」
 その結果、汚染された災害廃棄物は本宮市内にとどまったが、いずれは福島県内の焼却炉で燃やされる。原発事故後の福島県民は、焼却による無用な被曝リスクまで負わされなければならないのか。その点について、福島県の担当者は「法制度的に言えば指定廃棄物の制度があって、8000Bq/kgという基準があります。1000Bq/kgであっても、通常の廃棄物として処理出来るわけです。そのように法制度は整っています。決して県民をないがしろにしているわけではありません」と話す。しかし、県外に持ち出せない汚染廃棄物を県内で燃やすのは事実で、矛盾の説明にはなっていない。
 しかも、測定結果は今回のように公開を請求しないと開示されない。福島県民には伏せられたままだ。なぜ積極的に情報公開して説明を尽くさないのか。
 「元々、受け入れ自治体への情報提供として測っているものです。ですので広く公表するというよりは、先方に求められれば提供するというのが趣旨。測定結果を見て、先方が受け入れられないと判断すれば、それは尊重させていただきます」
 黒塗りで開示された部分についても「調整過程なので黒塗りにした、と受け止めていただければ良いと思います。受け入れ自治体の住民から反対の声が上がったら困るという理由ではありません。地元住民の方々への説明がなされる前に、知り得ていない情報が出てしまう可能性もあります」と福島県の担当者は話す。将来の開示については「あくまでも今の時点では公に出来ない情報という事であって、今後、改めて情報公開請求されれば、開示するか否かも含めて検討したい」と含みを残した。

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福島県内のごみ焼却施設では、原発事故に伴う放射性廃棄物も「8000Bq/kg以下であれば法体系上、問題無い」として燃やされ続けている。果たして「焼却」は適切な処理方法なのか。今回の県外搬出断念問題では、改めてその点を考える必要がある

【「燃やすなんて論外だ」】
 測定などを通じて原発事故後の福島をウォッチし続けている「NPO法人市民放射能監視センター・ちくりん舎」副理事長の青木一政さんは「台風や豪雨による洪水、土砂崩れなどで生じる災害廃棄物の問題は注目されていませんが、とても重要です。災害廃棄物とはいえ除染ごみと同じです。(従来のリサイクル基準である)100Bq/kg以上のものは放射能汚染物として厳格に管理すべきです。100Bq以下としても燃やすなんて論外です」と福島県の対応を批判している。
 「土壌をはじめあらゆるものがセシウムなど放射能に汚染されています。被災した方々にとっては目の前の災害廃棄物を何とかして欲しいという切実な気持ちは良く分かります。でも、廃棄物に含まれる放射能や他の有害物質についてきちんと測って処理することは二次被害を防ぐためにどうしても必要と考えます」
 青木さんはなぜ、焼却処理に反対しているのか。次のように説明する。
 「原発事故後の環境省の汚染廃棄物処理方針はそもそも、『濃度に関係なく燃えるものは燃やせ』です。燃やすことにより、飛灰(煙に含まれるばいじん)の放射性セシウム濃度は100倍以上濃縮されます。8000Bq/kgであれば80万Bq/kgと極めて高濃度になります。環境省は『バグフィルタで99・9%回収される』と言いますが、粒径数ミクロン以下のものはフィルタをすり抜けて周辺に拡散します。しかし、環境省は煙となって拡散するものは配慮していません。大気中に漏れ出した放射性微粒子は、人が吸い込むと肺の奥に沈着してなかなか排泄されません。長期的にはがんなどを引き起こす可能性があります。だから危険なのです」
 測定結果が公表されていない点についても「行政が問題になりそうだと考える情報を公開しない傾向があることが問題です。情報公開請求を受けて開示するという動きは問題のある対応だと思います。〝のり弁〟状態で開示するのも大問題です」と厳しく指摘している。
 「原発事故後の日本は社会全体の感覚がマヒしてしまい、放射能ごみのばら撒きを何とも感じなくなってしまっています。コロナウイルスがこれだけ話題になっていますが、放射能ごみばら撒き問題も、本質的にはそれと同等なのです」
 青木さんの指摘は私たちにも向けられている。



(了)
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鈴木博喜

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