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【帰還困難区域】「出来る出来ないじゃない。とにかくやるんだ」と今村復興相。あるのは玉砕覚悟の精神論のみ。帰還促進のため部分除染へ

避難指示が出ている地域の中でも特に汚染が酷い「帰還困難区域」に対する政府方針がまとまったことを受け、今村雅弘復興相や高木陽介経産副大臣らが1日、福島県庁を訪れ、内堀雅雄知事と会談。政府方針を改めて説明した。帰還困難区域に「復興拠点」(エリア)を設けて除染を行い、居住可能な状態にして避難指示を部分解除する。最終的には長い年月をかけて帰還困難区域全体の避難指示解除につなげたい考えだが、果たして高濃度汚染地域を除染して居住可能な状態にすることなど可能なのか。論理的説明はなく、あるのは玉砕覚悟の精神論のみ。「とにかく住民を戻す」。放射線防護など二の次の帰還促進策がさらに加速する。


【「とにかく住民を戻す」の決意表明】
 今村雅弘復興大臣の言葉が、すべてを物語っていた。
 「出来る出来ないじゃないんです。とにかくやるんだ、ということです」
 JR福島駅にほど近い復興庁の「福島復興局」。会議後に開かれた、ぶら下がり会見で、私は今村大臣に質問した。「そもそも、これだけ放射能汚染が酷い帰還困難区域を除染して、人が住めるようにすることなんて出来るのでしょうか」。その答えが冒頭の言葉だった。そこには理路整然とした言葉は無い。あるのは玉砕覚悟の精神論のみ。これではまるで、勝つ見込みの無い戦に竹やりで挑むようなものだ。
 福島県庁に常駐する記者クラブの記者たちは誰もこれを問わない。質問は手続き論や財政支援の中身に終始する。
 しかし、同じ帰還困難区域でも場所によって差はあるものの、依然として10μSv/hをはるかに超えるような汚染が点在しているのも現実。しかも基準となるのは空間線量ばかりで、詳細な土壌調査は実施されていない。中通りの生活空間を例えば0.6μSv/hから0.2μSv/hに下げようというのとは訳が違う。
 大手メディアは「除染が出来る」ことを前提に「たとえ長い年月を要するとしても、将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除する」という政府の〝決意〟を報じているが、住民の間にも「もう戻れない。国に土地を買い上げて欲しい」という声が少なくないのだ。「土地をすべて買い上げて、新しい土地での生活再建ができるようにしてほしいよ。俺たちが何をしたって言うんだ。浪江に戻した、という実績だけとりあえず作って、俺たちが死ぬのを待っているんじゃないか?」(2014年11月30日号より)。これに政府はどう答えるのだろうか。答えることなど出来るのか。
 しかし、それでは国や福島県、地元市町村の言う「復興」は果たされない。住民が〝かつて放射能に汚染された土地〟に戻ってこそ、世界に福島復興をアピール出来る。今村大臣の言葉は、私には「とにかく住民を戻すんだ」という決意表明のように聞こえた。


福島県福島市の「福島復興局」でぶら下がり会見に応じた今村復興大臣。「(帰還困難区域の除染は)出来る出来ないじゃない。やるんだ」と力強く語ったが…

【復興拠点整備し、5年で居住可能に?】
 福島県のホームページから「帰還困難区域」の定義を引用しよう。
 「事故後6年間を経過してもなお、空間線量率から推定された年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある地域(2012年3月時点での推定年間積算線量が50mSv超の地域)」
 爆発事故のあった福島第一原発に近い方から大熊町や双葉町、富岡町、浪江町、葛尾村、南相馬市、飯舘村の一部地域がこれに該当する。帰還困難区域はバリケードで立ち入りが制限され、警備員が自治体の発行する許可証をチェックする。大熊、双葉、浪江の各町は、帰還困難区域の占める割合が高い。
 今回、示された政府方針では、これら帰還困難区域の中で〝比較的〟放射線量の低いエリアを「復興拠点」として除染などを行い、5年を目途に人が住める状態にまでしようというのだ。「除染とインフラ整備を一体的かつ効率的に行う」、「国が責任を持って前に進める」。政府方針には勇ましい文言が並ぶ。
 具体的な「復興拠点」については、各市町村が福島県と協議しながら計画をつくり、国の認定を受けることになる。ただ「復興拠点」とは具体的にどのようなものをイメージしているのか。ある双葉郡の自治体職員も「これから検討に入るのでまだはっきりとは分からない」と困惑気味。福島県の幹部も「果たして国と各市町村の考え方が同じなのか分からない。市町村ごとに考え方も違うだろう」と本音を漏らす。復興庁は今後、当該市町村を訪れて直接、政府方針を説明するが、帰還困難区域以外の「居住制限区域」、「避難指示解除準備区域」の避難指示解除ですら、住民からの反発が相次いだ。住民の被曝回避を優先しない「帰還政策」に、さらなる反発が予想される。
 飯舘村民への取材でも、これまで何度も「政治家や官僚は、まず村に住んでから判断して欲しい」という声を耳にした。本当に「帰還困難区域」の除染など可能なのか。精神論ではなく論理的な説明が求められる。


政府方針の説明のために福島県庁を訪れた今村雅弘復興大臣や高木陽介経産副大臣らに、内堀雅雄知事(右)は財源措置や確実な除染などを要望。国にも福島県にも「住民を戻さない」という選択肢は無い

【「人が戻って来る足がかりにしたい」】
 福島県庁を訪れた今村復興相らと内堀雅雄知事らとの会談は冒頭のみ報道陣に公開された。政府方針の中身を説明した高木陽介経産副大臣は「地元の皆さんとよく議論する」、「国と福島県が同じ方向を向くことが大事」と語気を強めた。一方の内堀知事も「こうして来ていただいて、被災地域に直接、向き合う姿勢が感じられる」、「地元市町村の要望を十分に踏まえていただき感謝している」などと持ち上げたうえで「各市町村がまとめる計画を最大限尊重すること」や「確実に除染を行うこと」など4項目を要望。今村復興相も前向きな姿勢を示した。
 内堀知事は会談後のぶら下がり会見で「国が最後まで責任を持って」と強調したが、国が何に対してどう責任を持つのか不明。今村復興相は、ぶら下がり会見で「現場に寄り添っていく」、「ステップバイステップでしっかりやっていく」、「これからいろんな話が各市町村から出てくると思うが、柔軟に対応して出来るだけのことはしたい」と話したが、本音はこれだった。「人が戻って来る足がかりにしたい」。
 住民を戻して「福島復興」を世界にアピールしたい国。自治体存続のために住民流出を防ぎたい福島県や地元市町村。両者の思惑が一致した「帰還促進策」に、とうとう帰還困難区域も加わる。そこには住民を少しでも放射線の線源から遠ざけるという発想は無い。
 内堀知事は会見で「イノベーション・コースト構想」(福島・国際研究産業都市構想)への想いを強く語った。福島県によれば「福島浜通りを中心とする地域の地域経済の復興のため、オリンピック・パラリンピックが開催され、世界がこの地域の再生に注目する機会となる2020年を当面の目標に、廃炉の研究拠点、ロボットの研究・実証拠点などの新たな研究・産業拠点を整備することで、世界に誇れる新技術や新産業を創出し、イノベーションによる産業基盤の再構築を目指すとともに、これらを通じて、帰還する住民に加え、新たな住民のコミュニティへの参画も進めることにより、地域の歴史や文化も継承しながら、魅力あふれる地域再生を大胆に実現していくことを目指す」構想らしい。要は公共事業なのだ。
 住民の命を最優先しない「復興」が、また一歩、加速することになる。


(了)
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鈴木博喜

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