【復興五輪と聖火リレー】原発事故の被害者たちがJヴィレッジや県営あづま球場で怒りの声。〝もう1つの聖火リレー〟で訴えた「福島はオリンピックどごでねぇ」
- 2020/03/02
- 02:47
「福島は〝復興五輪〟どころじゃない」と原発事故の被害者たちが怒りの声をあげた。2月29日と3月1日の2日間、聖火リレーの出発地である「Jヴィレッジ」(双葉郡楢葉町)と野球・ソフトボールの試合が行われる「県営あづま球場」(福島市)に原発事故被害を訴える避難者や県内居住者、支援者たちが集まり、〝復興五輪〟に名を借りた〝被害隠し〟に疑問を呈した。華やかな祭典の陰でいまだ汚染は続き、避難者の住宅支援は打ち切られる。当事者の声は、無邪気に五輪を楽しみにしている私たちにも向けられている。

【「五輪の何が復興?」】
暖冬とはいえ肌寒い浜通り。国道6号線沿いの歩道で様々なプラカードが掲げられた。
「聖火リレーコースにもホットスポットあり」、「帰れない避難者 約5万人」、「福島はオリンピックどごでねぇ」…。
日本語だけでなく、英語や中国語、韓国語などにも翻訳され、聖火リレーの出発点となる「Jヴィレッジ」周辺を歩いた。歩道沿いには、安倍晋三首相の名を冠した桜も植えられている。今月26日に聖火リレーが始まり、7月には〝復興五輪〟が本番を迎える。原発事故から9年。Jヴィレッジ周辺は〝復興五輪〟どころでは無いという想いがあふれた。南相馬市の女性がまず、マイクを握った。
「『オリンピックどごでねぇ』というのが一番の想いです。オリンピックの何が復興につながるのか、分かりません。それどころか、オリンピックが終わったら原発事故の被害者は無い事にされてしまうのではないか、本当に苦しんでいる人が見えなくなってしまうのではないか。日本全国、世界中にそういう想いを伝えられたら良いなと思って自分の意思で参加しました」
大熊町から茨城県内に避難中の男性は、双葉病院に入院していた父親を2011年6月に亡くした。何カ所も転院させられた末に逝った父もまた、原発事故の犠牲者だった。
「安倍首相は『子どもの命が大事』と言いますが、オリンピックは強行しようとしている。命よりオリンピックが大事なのでしょうか。それは私は許せません」
男性が手にしたプラカードには、「アベのウソから始まった不幸五輪」と書かれていた。「何が『アンダーコントロール』なのか。汚染水を海に流したら大変な事になります。なぜ原発敷地内を聖火リレーしないのか。建屋の前を走れば良いのに。聖火リレー当日は、盛り上げるためにわざわざバスを用意して大熊町民を動員すると聞いています。そんなところに金を使うのなら、避難している町民の生活のために使って欲しいですよ」





「福島はオリンピックどころじゃない!」。聖火リレーの出発地である「Jヴィレッジ」周辺を歩いた原発事故被害者たちは、様々な表現で〝復興五輪〟への想いをぶつけた=2月29日撮影
【「なぜ今、五輪なのか?」】
誤解していけないのは、五輪そのものを否定しているわけでは無いという事だ。今なお帰還困難区域に指定されている双葉郡浪江町津島地区の女性の言葉が、それを端的に表している。女性は県営あづま球場(福島市)の前でこう話した。
「今回の新型コロナウイルス問題で記者会見をした安倍首相は『政府は子どもたちを守る』と言いました。でも、原発事故後の津島が高濃度に汚染されているのを国も東電も知っていたのに、住民には知らせませんでした。何で原発事故では子どもの命を大切にせず、ウイルスでは子どもを守るために休校にするのでしょうか。この差は何なのでしょうか。確かに選手は楽しみにしているでしょう。でも、今じゃ無くても良いじゃないですか。4年後でも8年後でもオリンピックはなくなりません。なぜ今なのか。私たちは大会そのものに反対しているのではありません。今の時期にやるべきでは無いでしょう、原発事故や他の災害も落ち着いてからやっても遅くは無いのではないですかと言いたいのです。そこは誤解の無いように伝えたいです」
川俣町山木屋地区で暮らす男性も「私たちの地区が聖火リレーのルートになりました。復興拠点商業施設『とんやの郷』から山木屋中学校までの約800メートルです。当日は沿道に2000から3000人を集める構想だそうです。しかし、確かに宅地除染はされましたが、山菜採りなど生活の場としての里山は除染されていません。それが現状です。何一つ原発事故問題は解決していないのに、とにかくオリンピック優先。納得出来る状態ではありません」と話した。
福島県の内堀雅雄知事は、事あるごとに「福島の光と影の両方を発信する」と言っている。しかし、現実には「影」は発信されない。地元紙も「光」の発信に終始している。だからこそ、当事者は声をあげる。その声は、福島県外で五輪を楽しみにしている私たちにも向けられている。





原発事故被害者たちは大会の妨害をしたいわけでは無い。なぜ今なのか。なぜ復興と結びつけるのかという疑問。五輪を境に被害隠しをされてなるものかという想いを訴えたいのだ=3月1日撮影
【「事故被害と向き合え」】
「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務める村田弘さん(原告団長、南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)は、2日間とも参加して〝復興五輪〟に疑問の声をあげた。
Jヴィレッジ前では「人間だけでなく、動物や自然も原発事故で奪われたものの大きさは大変なものだと思います。そういう事実に全く向き合わずにフタをしてしまおう、ごまかしてしまおうという動きについては、私たちは『誰せいでこうなったんだ』と責任を追及し続けなければいけません。五輪が終わった後に、『本当の被害』が表面化するのだと思います。みんなで手をつないで、一つずつ克服していく事こそが、本当の復興です。命の続く限り頑張って行きます」と語った。
県営あづま球場では「福島県が先頭に立って避難者の追い出しを進めているのが現実です。人間を無視し、形ばかりで世界に『復興した』などと嘘をついてはいけないと思います。事故に正直に向き合って、1人も路頭に迷わせず1人も追い込まないのが復興です」と想いを口にした。
やはり両日ともに参加した「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)共同代表の武藤類子さん(福島県田村郡三春町)も、球場前で「選手や聖火ランナーに選ばれた中学生など、確かにオリンピックを楽しみにしている人はいると思います。それでもなお、私たちがこういう運動をやらなければいけないのには意味があります。汚染水、排気筒解体、汚染土壌再利用、避難者の住まいなど、様々な問題が解決しないまま『復興した』と世界に伝えるために行われるオリンピックなどとんでもないのです。福島はまだ、本当に意味での復興などしていません。私たちはオリンピックどころではありません」と改めて訴えた。
聖火リレーの露払いをするようにまず4日、双葉町で避難指示が部分解除される。
(了)

【「五輪の何が復興?」】
暖冬とはいえ肌寒い浜通り。国道6号線沿いの歩道で様々なプラカードが掲げられた。
「聖火リレーコースにもホットスポットあり」、「帰れない避難者 約5万人」、「福島はオリンピックどごでねぇ」…。
日本語だけでなく、英語や中国語、韓国語などにも翻訳され、聖火リレーの出発点となる「Jヴィレッジ」周辺を歩いた。歩道沿いには、安倍晋三首相の名を冠した桜も植えられている。今月26日に聖火リレーが始まり、7月には〝復興五輪〟が本番を迎える。原発事故から9年。Jヴィレッジ周辺は〝復興五輪〟どころでは無いという想いがあふれた。南相馬市の女性がまず、マイクを握った。
「『オリンピックどごでねぇ』というのが一番の想いです。オリンピックの何が復興につながるのか、分かりません。それどころか、オリンピックが終わったら原発事故の被害者は無い事にされてしまうのではないか、本当に苦しんでいる人が見えなくなってしまうのではないか。日本全国、世界中にそういう想いを伝えられたら良いなと思って自分の意思で参加しました」
大熊町から茨城県内に避難中の男性は、双葉病院に入院していた父親を2011年6月に亡くした。何カ所も転院させられた末に逝った父もまた、原発事故の犠牲者だった。
「安倍首相は『子どもの命が大事』と言いますが、オリンピックは強行しようとしている。命よりオリンピックが大事なのでしょうか。それは私は許せません」
男性が手にしたプラカードには、「アベのウソから始まった不幸五輪」と書かれていた。「何が『アンダーコントロール』なのか。汚染水を海に流したら大変な事になります。なぜ原発敷地内を聖火リレーしないのか。建屋の前を走れば良いのに。聖火リレー当日は、盛り上げるためにわざわざバスを用意して大熊町民を動員すると聞いています。そんなところに金を使うのなら、避難している町民の生活のために使って欲しいですよ」





「福島はオリンピックどころじゃない!」。聖火リレーの出発地である「Jヴィレッジ」周辺を歩いた原発事故被害者たちは、様々な表現で〝復興五輪〟への想いをぶつけた=2月29日撮影
【「なぜ今、五輪なのか?」】
誤解していけないのは、五輪そのものを否定しているわけでは無いという事だ。今なお帰還困難区域に指定されている双葉郡浪江町津島地区の女性の言葉が、それを端的に表している。女性は県営あづま球場(福島市)の前でこう話した。
「今回の新型コロナウイルス問題で記者会見をした安倍首相は『政府は子どもたちを守る』と言いました。でも、原発事故後の津島が高濃度に汚染されているのを国も東電も知っていたのに、住民には知らせませんでした。何で原発事故では子どもの命を大切にせず、ウイルスでは子どもを守るために休校にするのでしょうか。この差は何なのでしょうか。確かに選手は楽しみにしているでしょう。でも、今じゃ無くても良いじゃないですか。4年後でも8年後でもオリンピックはなくなりません。なぜ今なのか。私たちは大会そのものに反対しているのではありません。今の時期にやるべきでは無いでしょう、原発事故や他の災害も落ち着いてからやっても遅くは無いのではないですかと言いたいのです。そこは誤解の無いように伝えたいです」
川俣町山木屋地区で暮らす男性も「私たちの地区が聖火リレーのルートになりました。復興拠点商業施設『とんやの郷』から山木屋中学校までの約800メートルです。当日は沿道に2000から3000人を集める構想だそうです。しかし、確かに宅地除染はされましたが、山菜採りなど生活の場としての里山は除染されていません。それが現状です。何一つ原発事故問題は解決していないのに、とにかくオリンピック優先。納得出来る状態ではありません」と話した。
福島県の内堀雅雄知事は、事あるごとに「福島の光と影の両方を発信する」と言っている。しかし、現実には「影」は発信されない。地元紙も「光」の発信に終始している。だからこそ、当事者は声をあげる。その声は、福島県外で五輪を楽しみにしている私たちにも向けられている。





原発事故被害者たちは大会の妨害をしたいわけでは無い。なぜ今なのか。なぜ復興と結びつけるのかという疑問。五輪を境に被害隠しをされてなるものかという想いを訴えたいのだ=3月1日撮影
【「事故被害と向き合え」】
「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務める村田弘さん(原告団長、南相馬市小高区から神奈川県横浜市に避難継続中)は、2日間とも参加して〝復興五輪〟に疑問の声をあげた。
Jヴィレッジ前では「人間だけでなく、動物や自然も原発事故で奪われたものの大きさは大変なものだと思います。そういう事実に全く向き合わずにフタをしてしまおう、ごまかしてしまおうという動きについては、私たちは『誰せいでこうなったんだ』と責任を追及し続けなければいけません。五輪が終わった後に、『本当の被害』が表面化するのだと思います。みんなで手をつないで、一つずつ克服していく事こそが、本当の復興です。命の続く限り頑張って行きます」と語った。
県営あづま球場では「福島県が先頭に立って避難者の追い出しを進めているのが現実です。人間を無視し、形ばかりで世界に『復興した』などと嘘をついてはいけないと思います。事故に正直に向き合って、1人も路頭に迷わせず1人も追い込まないのが復興です」と想いを口にした。
やはり両日ともに参加した「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)共同代表の武藤類子さん(福島県田村郡三春町)も、球場前で「選手や聖火ランナーに選ばれた中学生など、確かにオリンピックを楽しみにしている人はいると思います。それでもなお、私たちがこういう運動をやらなければいけないのには意味があります。汚染水、排気筒解体、汚染土壌再利用、避難者の住まいなど、様々な問題が解決しないまま『復興した』と世界に伝えるために行われるオリンピックなどとんでもないのです。福島はまだ、本当に意味での復興などしていません。私たちはオリンピックどころではありません」と改めて訴えた。
聖火リレーの露払いをするようにまず4日、双葉町で避難指示が部分解除される。
(了)
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