【子ども脱被ばく裁判】「言葉足らずの講演だった」。9年後の〝ミスター100mSv〟が法廷で語った今さらながらの「釈明」と「お詫び」。甲状腺ガン「多発」は強く否定
- 2020/03/05
- 06:42
「言葉足らずが誤解を招いたのであれば謝る」。9年後の〝釈明〟に法廷がどよめいた─。「子ども脱被ばく裁判」の第26回口頭弁論が4日午後、福島県福島市の福島地裁203号法廷(遠藤東路裁判長)で開かれた。福島県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」として福島県内各地で〝安全安心講演会〟を行った山下俊一氏が出廷。当時の発言の誤りを一部認め、「誤解を招いたのであれば申し訳ない」などと述べた。多くの人が信じた〝世界的権威〟の9年後の釈明。パニックを鎮めるために説明を省いていた事も分かり、原告たちからは改めて怒りの声があがった。

【ニコニコ発言「緊張解くため」】
原発事故から丸9年。福島県立医大が「チェルノブイリ原発事故の被ばく研究において世界的第一人者」と絶賛する男が法廷の真ん中に座っていた。あの時、福島県内を隈なく巡り、子や孫の被曝を心配する人々に向かって「安全」、「安心」を説いた〝専門家〟は、当時の講演がいかにいい加減な表現だったかを今さらながら一部認め、しかし一方では、自身の正当性を明確に主張した。あの日、この男の言葉を信じて疑わなかった人々にこそ、聴いて欲しかった9年後の「言い訳」。約3時間に及んだ尋問は、とてもニコニコと受け入れられるようなものでは無かった。
「ニコニコ」。これは山下氏の代名詞と言っても良い。2011年3月21日に福島県福島市で開かれた講演会で、こう語ったのだ。
「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験で分かっています」
この発言の趣旨について、主尋問で福島県の代理人弁護士から問われた山下氏は「非常に緊張や不安、怒りが蔓延した中でのお話でした」と振り返り、聴衆の緊張をやわらげる意図があったと語った。あれは〝ユーモア〟だったと言うのか。原告代理人の井戸謙一弁護士が反対尋問で改めて質すと、山下氏は「緊張を解くという意図だった」と答えた。
井戸弁護士は、「聴いていた人たちは当時、放射能について真剣に心配していたのだから、こういう発言をすれば『自分たちはクヨクヨに属するのか』、『自分たちには放射能の影響が来るのか』と脅迫、愚弄されたと受け止められるとは考えなかったのか」と井戸弁護士が重ねて質問した。山下氏は「不快な想いをさせた方には誠に申し訳ない」と詫びた。山下氏は法廷で「誤解を招いたのであれば」、「そう思わせたのであれば」という趣旨の発言を繰り返した。まるで政治家の下手な言い訳のようだった。
「100mSv以下の発がんリスクは証明されていないのであればリスクを否定出来ないのだから、被曝は出来る限り避けた方が良いのではないか」という井戸弁護士の問いには、山下氏も「はい。そう思います」と明確に答えた。しかし実際には当時、福島市での講演で子どもの外遊びを奨励し、「マスクはやめましょう」とまで発言している。井戸弁護士は「故意に被曝させる意図だったのか」と質したが「そういう意図は全く無い。子どもを部屋に閉じ込めて制限する事に対して外に出ても大丈夫だという話をした。過剰に被曝させる事は良くないが、リスクとベネフィットのバランスを考えた」と答えた。


福島県立医大が2011年5月に発行した「山下俊一先生が答える 放射線Q&A」にも「少しずつの被曝ならリスクははるかに少ない」、「セシウムは水道水には出て来ない」と明記されている。山下氏は原告代理人弁護士たちからの尋問に「誤解を招いたのであれば申し訳ない」と釈明した
【「水道水に出ない」は誤り】
「低線量被曝に関する報告書には、『疫学研究などを考慮すると、放射線量とガンリスクとの間に低線量で比例関係があると支持する傾向が強い』とある。こういう『放射線と健康に関する正しい知識』が事故直後の講演で語られていないのは、意図的に省いたのではないか」と質したのは田辺保雄弁護士。山下氏は「確かに事故直後には県民に説明していないが、単純明快に説明した。意図的に省いた事は無い。意図的と言われても困る。端的にお話をした」と反論した。
原発事故被災県に「専門家」がやって来て、「素人」である県民に「単純明快」に講演をした。それがどれだけミスリードを招いたかの反省は無い。
崔信義弁護士は、山下氏が当時の講演で水道水について「放射性セシウムはフィルターで取り除かれてゼロになる」と発言していた事について取り上げた。福島県立医大が2011年5月に発行した「山下俊一先生が答える 放射線Q&A」でも「セシウムについては、浄水場でろ過される際に吸着されるので、水道水には出てきません。ヨウ素については、水道水に出てきてしまいます」と記載されている。
「厚労省は2011年3月19日に、地方公共団体や水道事業者などに対し『200Bq/kgを超える水道水は飲用を控えるよう広報して欲しい』と依頼している。規制をするという事は、水道水に放射性セシウムが混じる可能性があるという事ではないのか。県民の皆さんの前で間違いを話したのではないか」と崔弁護士が質すと、山下氏は「ゼロでは無かったという事実を認めるのであればそうです。間違いだったという事になるかもしれません」と誤りを認めた。
「緊急時で詳細について説明するゆとりが無かった」とも釈明した山下氏。しかし、当時の動画を観ると、時にジョークを交えながら被曝リスクへの不安を払拭する講演を行っていた。今さら「ゆとりが無かった」など通用しない。
柳原敏夫弁護士や光前幸一弁護士は「小児甲状腺ガンの多発」について取り上げたが、山下氏は「多発」という表現には猛反発。「多発では無い。当初からスクリーニング効果だと主張している」、「『多発』という言葉は間違い」、「『多発』という言葉自体が不適切」と何度も否定した。


山下氏の発言を聴こうと、福島県内外から多くの人が駆け付けた。山下氏が今さら当時の誤りを認めても、当時の行動は変えられない。あの時なぜ、被曝リスクをきちんと話してくれなかったのか。改めて怒りの声があがった=福島地方裁判所
【「覆水盆に返らず」の真意は?】
国の指定代理人が追加尋問でフォローすると、山下氏は「放射能に対する強い不安を出来るだけ早く払しょくする事がきわめて重要だと考えていた。(講演会の聴衆は)パニックに近い、きわめて不安定な状態だった。また、スライドなどを準備する時間が無かった」と改めて釈明。そして、再びこう語った。
「今日指摘されて分かったが、私の言葉足らず、舌足らずが大きな誤解を招いた事は本当に申し訳ない」
一方で、最後にこんな言葉も発している。
「長崎の原爆被爆者、チェルノブイリ事故の被災者に接した経験を福島に活かすというのは運命的だと感じた。福島県民に一番伝えたかった事は『覆水盆に返らず』という事だった」
つまり、起きてしまった原発事故についていつまでも不安や不満を口にするな、という事だったのだろうか。それとも、取り返しのつかない大事故だと認識していて嘘をついていたのか。
閉廷後の報告集会で、原告の男性は「講演会に行った人は、いかに危険を避けるかという話を聴きに行ったはず。ところが彼は、危険は無いという話をした。最初からかみ合っていなかった。聴いた人の多くは『取り越し苦労だった』と安心して帰宅していた。その意味で山下氏の講演は本当に影響があった。彼は科学者では無く、安全を語りに来ていたというのが改めて分かった。あれを信じた人は立つ瀬が無いと思う。私たちは、彼にどうけじめをつけさせるかという事を考えなければいけない」と振り返った。
女性原告は「怒りしか無い」と涙をにじませた。「法廷で山下氏の顔を見たら、腹立たしくて腹立たしくて…。私の母も『ニコニコ発言』を信じていた。最後に『覆水盆に返らず』と言っていたが、本当に悔しい。避難したくても出来ない人、避難先で苦労している人がいるという事を改めて胸に刻んだ。この裁判に負けたくない」。
次回期日は7月28日13時半。結審する予定。なお、この日の法廷には普段より多くの職員が〝守衛〟として入り、傍聴席を監視した。何度も「撮影や録音は禁じられている」と注意し、「誤解を招くのでスマホはカバンに入れて欲しい」と促すほどだった。記者クラブ用に記者席が4席確保されたが、3席は空席だった。
(了)

【ニコニコ発言「緊張解くため」】
原発事故から丸9年。福島県立医大が「チェルノブイリ原発事故の被ばく研究において世界的第一人者」と絶賛する男が法廷の真ん中に座っていた。あの時、福島県内を隈なく巡り、子や孫の被曝を心配する人々に向かって「安全」、「安心」を説いた〝専門家〟は、当時の講演がいかにいい加減な表現だったかを今さらながら一部認め、しかし一方では、自身の正当性を明確に主張した。あの日、この男の言葉を信じて疑わなかった人々にこそ、聴いて欲しかった9年後の「言い訳」。約3時間に及んだ尋問は、とてもニコニコと受け入れられるようなものでは無かった。
「ニコニコ」。これは山下氏の代名詞と言っても良い。2011年3月21日に福島県福島市で開かれた講演会で、こう語ったのだ。
「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます。これは明確な動物実験で分かっています」
この発言の趣旨について、主尋問で福島県の代理人弁護士から問われた山下氏は「非常に緊張や不安、怒りが蔓延した中でのお話でした」と振り返り、聴衆の緊張をやわらげる意図があったと語った。あれは〝ユーモア〟だったと言うのか。原告代理人の井戸謙一弁護士が反対尋問で改めて質すと、山下氏は「緊張を解くという意図だった」と答えた。
井戸弁護士は、「聴いていた人たちは当時、放射能について真剣に心配していたのだから、こういう発言をすれば『自分たちはクヨクヨに属するのか』、『自分たちには放射能の影響が来るのか』と脅迫、愚弄されたと受け止められるとは考えなかったのか」と井戸弁護士が重ねて質問した。山下氏は「不快な想いをさせた方には誠に申し訳ない」と詫びた。山下氏は法廷で「誤解を招いたのであれば」、「そう思わせたのであれば」という趣旨の発言を繰り返した。まるで政治家の下手な言い訳のようだった。
「100mSv以下の発がんリスクは証明されていないのであればリスクを否定出来ないのだから、被曝は出来る限り避けた方が良いのではないか」という井戸弁護士の問いには、山下氏も「はい。そう思います」と明確に答えた。しかし実際には当時、福島市での講演で子どもの外遊びを奨励し、「マスクはやめましょう」とまで発言している。井戸弁護士は「故意に被曝させる意図だったのか」と質したが「そういう意図は全く無い。子どもを部屋に閉じ込めて制限する事に対して外に出ても大丈夫だという話をした。過剰に被曝させる事は良くないが、リスクとベネフィットのバランスを考えた」と答えた。


福島県立医大が2011年5月に発行した「山下俊一先生が答える 放射線Q&A」にも「少しずつの被曝ならリスクははるかに少ない」、「セシウムは水道水には出て来ない」と明記されている。山下氏は原告代理人弁護士たちからの尋問に「誤解を招いたのであれば申し訳ない」と釈明した
【「水道水に出ない」は誤り】
「低線量被曝に関する報告書には、『疫学研究などを考慮すると、放射線量とガンリスクとの間に低線量で比例関係があると支持する傾向が強い』とある。こういう『放射線と健康に関する正しい知識』が事故直後の講演で語られていないのは、意図的に省いたのではないか」と質したのは田辺保雄弁護士。山下氏は「確かに事故直後には県民に説明していないが、単純明快に説明した。意図的に省いた事は無い。意図的と言われても困る。端的にお話をした」と反論した。
原発事故被災県に「専門家」がやって来て、「素人」である県民に「単純明快」に講演をした。それがどれだけミスリードを招いたかの反省は無い。
崔信義弁護士は、山下氏が当時の講演で水道水について「放射性セシウムはフィルターで取り除かれてゼロになる」と発言していた事について取り上げた。福島県立医大が2011年5月に発行した「山下俊一先生が答える 放射線Q&A」でも「セシウムについては、浄水場でろ過される際に吸着されるので、水道水には出てきません。ヨウ素については、水道水に出てきてしまいます」と記載されている。
「厚労省は2011年3月19日に、地方公共団体や水道事業者などに対し『200Bq/kgを超える水道水は飲用を控えるよう広報して欲しい』と依頼している。規制をするという事は、水道水に放射性セシウムが混じる可能性があるという事ではないのか。県民の皆さんの前で間違いを話したのではないか」と崔弁護士が質すと、山下氏は「ゼロでは無かったという事実を認めるのであればそうです。間違いだったという事になるかもしれません」と誤りを認めた。
「緊急時で詳細について説明するゆとりが無かった」とも釈明した山下氏。しかし、当時の動画を観ると、時にジョークを交えながら被曝リスクへの不安を払拭する講演を行っていた。今さら「ゆとりが無かった」など通用しない。
柳原敏夫弁護士や光前幸一弁護士は「小児甲状腺ガンの多発」について取り上げたが、山下氏は「多発」という表現には猛反発。「多発では無い。当初からスクリーニング効果だと主張している」、「『多発』という言葉は間違い」、「『多発』という言葉自体が不適切」と何度も否定した。


山下氏の発言を聴こうと、福島県内外から多くの人が駆け付けた。山下氏が今さら当時の誤りを認めても、当時の行動は変えられない。あの時なぜ、被曝リスクをきちんと話してくれなかったのか。改めて怒りの声があがった=福島地方裁判所
【「覆水盆に返らず」の真意は?】
国の指定代理人が追加尋問でフォローすると、山下氏は「放射能に対する強い不安を出来るだけ早く払しょくする事がきわめて重要だと考えていた。(講演会の聴衆は)パニックに近い、きわめて不安定な状態だった。また、スライドなどを準備する時間が無かった」と改めて釈明。そして、再びこう語った。
「今日指摘されて分かったが、私の言葉足らず、舌足らずが大きな誤解を招いた事は本当に申し訳ない」
一方で、最後にこんな言葉も発している。
「長崎の原爆被爆者、チェルノブイリ事故の被災者に接した経験を福島に活かすというのは運命的だと感じた。福島県民に一番伝えたかった事は『覆水盆に返らず』という事だった」
つまり、起きてしまった原発事故についていつまでも不安や不満を口にするな、という事だったのだろうか。それとも、取り返しのつかない大事故だと認識していて嘘をついていたのか。
閉廷後の報告集会で、原告の男性は「講演会に行った人は、いかに危険を避けるかという話を聴きに行ったはず。ところが彼は、危険は無いという話をした。最初からかみ合っていなかった。聴いた人の多くは『取り越し苦労だった』と安心して帰宅していた。その意味で山下氏の講演は本当に影響があった。彼は科学者では無く、安全を語りに来ていたというのが改めて分かった。あれを信じた人は立つ瀬が無いと思う。私たちは、彼にどうけじめをつけさせるかという事を考えなければいけない」と振り返った。
女性原告は「怒りしか無い」と涙をにじませた。「法廷で山下氏の顔を見たら、腹立たしくて腹立たしくて…。私の母も『ニコニコ発言』を信じていた。最後に『覆水盆に返らず』と言っていたが、本当に悔しい。避難したくても出来ない人、避難先で苦労している人がいるという事を改めて胸に刻んだ。この裁判に負けたくない」。
次回期日は7月28日13時半。結審する予定。なお、この日の法廷には普段より多くの職員が〝守衛〟として入り、傍聴席を監視した。何度も「撮影や録音は禁じられている」と注意し、「誤解を招くのでスマホはカバンに入れて欲しい」と促すほどだった。記者クラブ用に記者席が4席確保されたが、3席は空席だった。
(了)
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